M&Aの契約書とは?種類や記載項目、注意点をわかりやすく解説

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M&Aの契約書とは

M&Aで使用される契約書は1種類ではありません。M&Aでは、秘密保持契約書、基本合意書、最終契約書などさまざまな契約書を取り交わします。これらの書類は、売り手と買い手の双方を守り、取引を円滑に進める重要な役割を果たします。

M&A後のトラブルや将来的なリスクを回避し、企業を守るためにも合意条件や責任範囲を書面に正確に残すことが大切です。そこで、ここではM&Aで用いる契約書や必要書類についてわかりやすく解説します。それぞれの書類の目的や作成・締結時の注意点を理解し、リスクを最小限に抑え、安全な取引を進めましょう。

M&Aで用いる契約書の種類一覧

M&Aで使用する契約書は主に5つあります。M&Aは、実施の検討から専門家への依頼、候補先企業の選定・打診、交渉など複数の手順を踏んで進み、それぞれの段階で必要な契約書が締結されます。また、最終的な合意条件は最終契約書に盛り込まれますが、最終契約書はM&Aの手法によって、「株式譲渡契約書」「事業譲渡契約書」「合併契約書」などと呼ばれます。

M&Aで用いられる契約書の種類と使用場面を表にまとめます。また、M&Aでは契約書以外にもさまざまな書類が登場するため、代表的な書類についても簡単に紹介します。

【M&Aで用いる契約書】

M&Aで用いる契約書内容
アドバイザリー契約書M&A仲介会社やFAなどの専門家に業務を依頼する際に締結する契約書
秘密保持契約書(NDA)開示された秘密情報の漏えいを防ぐために締結する契約書
意向表明書(LOI)買い手が売り手に対して、買収の意向や希望条件を示す書面
基本合意書(MOU)取引の基本条件や今後の進め方について当事者間で合意した内容を確認する書面
最終契約書(DA)最終条件を定め、法的拘束力を持って締結する契約書

【M&Aで用いる必要書類】

M&Aで用いる必要書類内容
売り手の各種資料財務資料、事業資料、契約関係資料などの基礎情報
ロングリスト・ショートリスト候補企業を選定・絞り込みするための一覧
ノンネームシート企業名を伏せた状態で、事業内容や業績の概要をまとめた資料
企業概要書NDA締結後に開示される、企業の詳細情報をまとめた資料

【M&Aの手順と使用される契約書・必要書類】

M&Aの場面使用する契約書・必要書類
M&Aの検討・株価算定売り手の各種資料
仲介会社・専門家への依頼アドバイザリー契約書
候補先企業の選定・絞り込みロングリスト/ショートリスト/ノンネームシート
候補先企業への打診・検討秘密保持契約書/企業概要書
トップ面談・基本的な条件交渉意向表明書/基本合意書
デューデリジェンス売り手の各種資料
最終条件交渉デューデリジェンス結果資料
最終契約最終契約書(株式譲渡契約書・事業譲渡契約書など)

使用する契約書の種類や使用場面は、M&Aの案件や依頼する仲介会社によって異なることがあります。例えば、トップ面談後の書類は意向表明書のみ、または基本合意書のみといったケースです。状況によっては紹介した契約書や必要書類以外に追加書類が必要となる場合もあります。

次の章では、M&Aの各契約書の基本的な目的や記載項目、作成・締結時の注意点についてわかりやすく解説します。

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    M&Aの契約書➀ アドバイザリー契約書

    M&Aで登場する契約書の一つが「アドバイザリー契約書」です。M&Aは複雑なプロセスが多く、企業選定や交渉、契約手続きを進める際には、M&Aアドバイザリーや弁護士、会計士など外部の専門家に依頼することが一般的です。仲介会社や専門家との間で締結する契約書がアドバイザリー契約書です。

    案件にもよりますが、売り手はM&Aを決定した時点、買い手は対象企業が決定した時点で契約を結ぶケースが一般的です。アドバイザリー契約を締結することで、企業はM&A全般に関する業務支援を受けられます。

    ただし、どの範囲までを支援するかは業者によるため、アドバイザリー契約を締結する際には、契約書の内容をしっかりと確認するようにしましょう。

    アドバイザリー契約書の記載項目

    アドバイザリー契約書には主に以下の条項が記載されます。

    記載項目記載内容
    業務内容アドバイザリーの支援業務の範囲
    専任条項依頼者とアドバイザリーの専任の有無
    直接交渉の制限候補先企業との直接のやり取りを制限
    秘密保持義務機密情報の取り扱い範囲・期間
    有効期間契約の有効期間
    報酬等着手金・中間金・成功報酬などの金額・支払方法
    契約の解除解除条件と解除時の清算方法
    責任の範囲依頼者・アドバイザーの責任範囲および免責事項
    準拠法・管轄準拠法と紛争時の管轄裁判所
    誠実協議契約に定めのない事項の対応方針

    参照:中小企業庁「(参考資料7)各種契約書等サンプル」

    • 業務内容
      アドバイザリー契約書には、M&A仲介会社や専門家が企業に対してどのような支援を行うのか、業務内容や範囲を定めた条項が記載されます。アドバイザーは主に、候補先企業の紹介や情報提供、専門家とのスケジュール調整、条件交渉や契約に伴う支援などを行います。
    • 専任条項
      アドバイザリー契約の契約形態には「専任契約」と「非専任契約」があります。専任契約とは、売り手または買い手が1社の仲介会社と独占的に契約を結ぶ形態です。一方、非専任契約とは、複数の仲介会社と契約を結ぶことが可能な形態です。専任契約の場合は専任条項を記載します。
    • 直接交渉の制限
      アドバイザリー契約書には、依頼者が仲介会社を通さずに候補先企業と直接やりとりすることを禁止する条項も記載されます。ただし、範囲を限定しない場合、事業を妨げる可能性もあるため、対象となる相手や期間、例外(事前同意がある場合など)について適切に定める必要があります。
    • 秘密保持義務
      M&Aでは、企業は仲介会社に対してさまざまな情報を提供します。特に売り手は財務データなど機密情報を開示しますが、提供した情報が洩れた場合事業に弊害が生じます。アドバイザリー契約書には、情報が第三者に漏れることを防ぐために、目的外での使用や第三者への開示の禁止など、秘密保持の範囲や期間、例外事項について定めます。
    • 有効期間
      有効期間では、アドバイザリー契約がいつまで効力を持つかを定めます。契約期間は案件の内容や想定スケジュールによって異なりますが、一般的には6か月から1年程度で設定されることが多く、必要に応じて更新条項を設けることもあります。また、契約終了後も秘密保持義務や成功報酬に関する定めなど、一部の条項が存続する場合があるため、その点もあわせて確認しておきましょう。
    • 報酬等
      アドバイザリー契約書には、企業がM&A仲介会社や専門家に支払う報酬(着手金・中間金・成功報酬など)についても記載されます。近年は着手金や中間金を無料とし、成功報酬のみにしている仲介会社も増えています。なお、成功報酬の料金体系はレーマン方式が採用されることが一般的です。最低報酬額が設定していることもあるため、事前に確認しましょう。
    • 契約の解除
      アドバイザリー契約書には、契約後に解除できる条件や、解除した場合の清算方法も定めます。この条項により、契約が不当に一方的に終了されることを防ぎ、双方が必要な義務を適切に履行しながら、M&A手続きを進めることができます。
    • 責任の範囲
      契約書では、企業と仲介会社の責任範囲を明確にすることも大切です。企業側では、アドバイザリーを活用することによる成果は保証されないこと、自らの判断により手続きを進めることが記載されます。また、アドバイザリー側では、企業に対し善管注意義務を負う旨や利益相反の禁止などが規定されます。
    • 準拠法・管轄/誠実協議
      準拠法・管轄では、契約の準拠法(通常は日本法)や、紛争が生じた場合における管轄裁判所を明記します。誠実協議では、契約に定めのない事項について、当事者が誠実に協議し、解決を図ることが規定されます。

    仲介会社と契約する際の注意点

    アドバイザリー契約書を作成・締結する際は、いくつかの注意点があります。

    • 報酬体系の確認
      1つ目の注意点が報酬体系と計算方法の確認です。仲介会社の成功報酬の計算は、一般的にレーマン方式が採用されます。ただし、レーマン方式であっても基準となる金額は依頼する仲介会社によって異なります。どの金額を基準にするかで最終的な負担額が大きく変わることがあるため、契約の段階で明確にしておきましょう。
    • 業務範囲の確認
      次の注意点が業務範囲の確認です。M&Aにはさまざまな工程があり、アドバイザーのサポートの範囲は会社によって異なります。候補先の探索や打診、条件交渉の支援、資料作成の補助など、業務範囲が曖昧なままだと、後に追加費用が発生する可能性があります。予想外のコスト負担につながらないよう不明点があらかじめ確認しておくと安心です。
    • M&A不成立や契約解除時の確認
      さらに、M&Aが成立しなかった場合の費用、契約解除の条件、解除時の精算内容も明確にしておきましょう。非専任契約で複数のアドバイザーと契約する場合は、各アドバイザーの役割や責任範囲をあらかじめ整理しておくことが大切です。誰がどの業務を担うのかをはっきりさせないと、業務の重複や責任の押し付けにつながるおそれがあります。

    M&A仲介会社や専門家は企業にとって取引を支えるパートナー的な存在です。契約内容が不透明な場合、後のトラブルを招きかねません。契約を締結する際には契約書の内容を確認し、適切に条件が盛り込まれているか、不明点はないかを確認するようにしましょう。

    M&Aの契約書② 秘密保持契約書

    M&Aでは、秘密保持契約書(NDA)も重要な役割を果たします。M&Aでは、売り手の企業情報や財務データ、事業計画などの機密情報を扱います。そのため、外部への情報流出を防ぎ、情報を適切に管理するための制約を定める必要があります。

    M&Aの機密事項は企業データだけではありません。M&Aの交渉中であるという事実も重要な機密情報になります。外部に情報が漏れた場合、取引先や従業員に不要な混乱を招いたり、株価や経営に影響を与えるおそれがあります。

    特に上場企業が関与する案件や競合企業との交渉では、リスクが一段と高まります。秘密保持契約を締結することで、取得した情報の目的外利用や第三者への開示を防止できます。情報が漏れた場合には相手方に対して損害賠償を請求できるため、双方の情報管理意識が高まり、安全な取引を進めやすくなります。

    秘密保持契約書の記載項目

    秘密保持契約書には主に以下の条項が記載されます。

    記載項目記載内容
    秘密保持義務情報を第三者に開示しない義務、目的外利用の禁止、例外の定め
    損害賠償秘密保持義務違反があった場合の損害賠償の範囲や支払条件
    有効期間契約の有効期間
    準拠法・管轄契約の準拠法および紛争時の管轄裁判所
    誠実協議契約に定めのない事項について、当事者が誠実に協議し解決を図ること

    参照:中小企業庁「(参考資料7)各種契約書等サンプル」

    • 秘密保持義務
      秘密保持義務の条項は、提供された情報について、目的外での使用や、相手の承諾なく第三者へ開示することを禁止する条項です。また、開示前から公知であった情報、既に保有していた情報など、一定の情報は秘密保持義務の対象外となるため、対象範囲、例外、秘密保持期間が定められます。
    • 損害賠償
      秘密保持義務に違反し、相手が損害を被った場合の賠償責任を定めます。具体的に金額を定めるケースもあります。また、違反時の事後対応について明記される場合もあります。
    • 有効期間
      契約の有効期間を明記します。期間は案件により異なりますが、一般的には1~5年程度で設定されることが多いです。なお、契約終了後も一定期間、秘密保持義務が継続される場合があります(秘密保持期間)。

    秘密保持契約書の注意点

    秘密保持契約書を作成・締結する際は、まず「何を秘密情報として扱うのか」を定めることが重要です。M&Aでは、企業情報や財務データ、事業計画に加え、M&Aを実行予定であることが機密情報にあたることもあります。

    • 定義や利用目的を明確にする
      案件によって対象となる情報の範囲は異なるため、定義が曖昧なままでは後のトラブルにつながりかねません。開示された情報は、候補企業の検討や交渉以外の目的で利用できないよう、利用範囲を限定します。また、M&Aでは弁護士や公認会計士、税理士などの専門家に情報を共有することが前提となる場合もあり、共有が可能な範囲も確認しましょう。
    • 秘密保持期間を適切に設定する
      秘密保持義務の期間は、案件の内容に応じて適切に設定することが大切です。一定期間を定め、解約の申し出がなければ延長とするケースもあります。また、交渉終了後や契約終了後に、提供された資料やデータをどのように返還・破棄するのか、その方法まで定めておくと、情報管理の実効性が高まります。

    M&Aの契約書③ 意向表明書

    意向表明書(LOI)もM&Aで欠かせない書類の一つです。意向表明書とは、買い手が売り手に対して、M&Aを前向きに検討する意思を示す書面です。意向表明書は、トップ面談後の基本的な条件交渉が進んだ後、デューデリジェンスによる詳細な調査の前に提出されることが一般的です。

    意向表明書は、文字どおり「意向」の「表明」であり、必ずM&Aを成立することを約束するものではありません。そのため、意向表明書は基本的に法的拘束力を持ちません。しかし、独占交渉権や秘密保持など、一部の条項については法的拘束力を持たせることができます。

    独占交渉権を定めることで、売り手は他の買い手と並行して交渉したり、不当に交渉を打ち切ったりすることが制限されます。これにより、買い手はデューデリジェンスなどその後のM&A手続きを安心して進めることができます。

    意向表明書の記載項目

    意向表明書には主に以下の条項が記載されます。

    記載項目記載内容
    企業概要買い手の基本情報
    M&Aの目的M&Aを実行する理由
    M&Aスキーム株式譲渡・事業譲渡など、取引の進め方
    希望価格譲受価格(または希望レンジ)
    資金調達方法どのように資金を用意するか
    M&Aスケジュールクロージングまでの目安の進行時期
    M&A後の経営方針・事業計画譲受後の方針や重点施策
    役員・従業員の処遇経営体制や雇用の扱いに関する考え方
    デューデリジェンスの範囲調査する項目や領域
    独占交渉権一定期間、他社との交渉を制限する条項
    • 企業概要
      企業概要には、買い手の基本情報を記載します。会社名、所在地、事業内容、沿革、売上規模、従業員数などを簡潔にまとめるのが一般的です。必要に応じて、財務基盤や買収実績に触れることもあります。売り手にとっては、買い手の信用力や自社との親和性を判断する材料になります。
    • M&Aの目的
      M&Aの目的には、なぜこの取引を行うのかを記載します。例えば、販路拡大、事業領域の拡充、人材や技術の獲得、競争力の強化、事業承継への対応などが挙げられます。目的が明確であれば、売り手も取引後の方向性をイメージしやすくなり、その後の協議も進めやすくなります。
    • M&Aスキーム
      M&Aのスキームには、どの方法で取引を進める想定かを記載します。代表的な手法としては、株式譲渡、事業譲渡、会社分割、合併などがあります。必要に応じて、対価の支払方法や対象範囲に触れることもありますが、この段階ではあくまで想定であり、その後の協議や調査によって見直されることがあります。
    • 希望価格
      希望価格には、買い手が提示する買収価格や価格レンジを記載します。あわせて、価格算定の前提となる考え方を示すこともあります。例えば、直近の業績、収益力、純有利子負債の扱い、運転資本の調整などです。ただし、意向表明書に記載する価格は確定額ではなく、デューデリジェンスの結果を踏まえた交渉によって最終決定します。
    • M&Aスケジュール
      M&Aのスケジュールには、基本合意、デューデリジェンス、最終契約の締結、クロージングまでのおおまかな予定を記載します。日程を厳密に確定する段階ではありませんが、全体の見通しを共有することで、その後の準備を進めやすくなります。特に、デューデリジェンスや社内手続きに要する期間は、あらかじめ織り込んでおくことが重要です。
    • M&A後の経営方針・事業計画
      M&A後の経営方針・事業計画には、買収後にどのような方針で事業を運営していくのかを記載します。例えば、ブランドを維持するか、既存経営陣の関与をどう考えるか、営業体制や投資方針をどうするかといった内容です。意向表明書の段階では詳細な事業計画まで示さないこともありますが、売り手にとっては従業員や取引先への影響を考える際の判断材料になります。
    • 役員・従業員の処遇
      役員・従業員の処遇には、譲渡後の体制や処遇に関する基本方針を記載します。例えば、現経営陣の継続の有無、従業員の雇用継続方針、処遇に関する考え方などです。この段階で詳細条件まで確定していないことも多いため、基本方針の提示にとどまるのが一般的です。
    • デューデリジェンスの範囲
      デューデリジェンスの範囲では、何をどこまで調査するかを明記します。例えば、財務(会計・税務)、法務(契約・訴訟・許認可)、人事(雇用契約・労務)、ビジネス(顧客・競合・市場)、システムや情報セキュリティ、環境や不動産など、調査項目を示します。意向表明書の段階では「基本方針」や「想定範囲」を記載し、具体的な範囲はその後の協議で定めることが多いです。デューデリジェンスの結果により追加で調査することもあります。
    • 独占交渉権
      独占交渉権には、一定期間、売り手が他の候補先と交渉しないことを定めます。これにより、買い手はデューデリジェンスや社内検討に必要な時間を確保しやすくなります。ただし、独占交渉権は基本合意書で定めることも多く、意向表明書に必ずしも記載されるとは限りません。

    意向表明書の注意点

    意向表明書を作成・締結する際の注意点を紹介します。

    • 合意条件は変更となる可能性を考慮
      まずは意向表明書の位置づけや法的効力を明確にしておくことが重要です。合意した条件は、その後の協議や調査結果によって変更される可能性がある旨を明記します。特に、提示する買収条件やスキームはデューデリジェンスの結果を踏まえて決定されます。
    • 適切な期間設定
      独占交渉権の期間を設ける場合は、その期間を適切に設定し、有効期限もあわせて明確にしておくことが大切です。一般的には、排他的交渉期間は2〜6か月程度とされることが多いものの、案件の規模や進行状況によって調整が必要です。また、

    意向表明書は、買い手の真剣度や基本的な条件を伝える重要な書面である一方、法的拘束力を持たないなど最終契約書とは性質が異なるため、その役割と効力の範囲を明確にしたうえで作成する必要があります。

    M&Aの契約書④ 基本合意書(MOU)

    基本合意書(MOU)は、買い手と売り手の双方がM&A取引の基本的な条件に合意したことを示すものであり、M&Aの交渉フェーズで交わされる契約書です。基本合意書には、取引の基本条件、価格の範囲、意向表明、そして今後の交渉やデューデリジェンスの進行に関する合意事項が含まれます。これにより、当事者間で取引の大枠が共有され、具体的な交渉を効率的に進めるための基盤が築かれます。

    M&Aにおいては意向表明書もしくは基本合意書のどちらかのみを締結する場合もあります。

    基本合意書の記載項目

    基本合意書には主に以下の条項が記載されます。

    記載項目記載内容
    目的取引の目的や譲渡予定日、想定するM&Aの手法を定める項目
    対象資産譲渡の対象となる株式、事業、資産、負債などの範囲を定める項目
    個人保証の解除売主が負う個人保証の解除や引継ぎの方針を定める項目
    譲渡価額譲渡価格や価格算定の前提を示す項目
    デューデリジェンス買主による調査の実施方針や対象範囲を定める項目
    独占交渉権一定期間、売主が他の候補先と交渉しないことを定める項目
    善管注意義務最終契約まで売主が通常どおり適切に事業運営を行う義務を定める項目
    秘密保持義務交渉や開示資料で知り得た秘密情報の取扱いを定める項目
    法的拘束力どの条項に法的拘束力を持たせるかを明確にする項目
    有効期間基本合意書の効力が及ぶ期間を定める項目
    準拠法・管轄紛争時に適用する法律と管轄裁判所を定める項目
    誠実協議問題が生じた場合に当事者が誠実に協議することを定める項目

    参照:中小企業庁「(参考資料7)各種契約書等サンプル」

    • 対象資産
      対象資産は、今回のM&Aで何を引き継ぐのかを明確にする条項です。株式譲渡であれば譲渡対象となる株式数や持分割合、事業譲渡であれば対象となる事業、資産、負債、契約、知的財産などの範囲を整理します。この部分が曖昧だと、どこまでが譲渡対象なのかについて後に認識のずれが生じやすくなるため、基本合意の段階でも大枠を明らかにしておくことが重要です。
    • 個人保証の解除
      個人保証の解除は、オーナー経営者が金融機関に差し入れている個人保証を、M&A後にどのように扱うかを定める条項です。中小企業のM&Aでは、売り手が会社借入の個人保証を負っているケースが多く、譲渡後も保証が残れば、売却後もリスクが続くことになります。買い手による保証の引継ぎや、金融機関との協議を通じた解除の方針を早い段階で確認しておくことが大切です。
    • 譲渡価額
      譲渡価額は、対象会社や対象事業をいくらで譲渡するかを示す条項です。基本合意書の段階では確定額ではなく、現時点での想定価格や価格レンジを記載することが一般的です。最終的な価額は、デューデリジェンスの結果や最終交渉を踏まえて調整されることが多いため、その前提もあわせて明記しておく必要があります。
    • デューデリジェンス
      デューデリジェンスの項目には、買主が対象会社を調査する前提や進め方が定められます。調査の対象分野としては、財務、税務、法務、労務、事業などがあり、基本合意書では調査の実施予定や協力義務、資料開示の方法、スケジュールなどを定めるのが一般的です。デューデリジェンスは最終契約の前提となる重要な手続きであるため、双方の認識をそろえておく必要があります。
    • 独占交渉権
      独占交渉権は、一定期間、売り手が他の候補先と交渉しないことを定める条項です。買い手にとっては、デューデリジェンスや社内検討に時間と費用をかけるため、この条項は重要な意味を持ちます。一方で、売主にとっては交渉先を制限することになるため、独占の範囲や期間を過度に広げすぎないよう注意が必要です。一般には、独占交渉期間を定めたうえで、その間は誠実に交渉を進めることが求められます。
    • 善管注意義務
      善管注意義務は、最終契約やクロージングまでの間、売主が対象会社を通常どおり適切に運営することを求める条項です。正式には善良な管理者の注意義務といい、重要な資産の処分や多額の借入、新規契約の締結など、通常の事業運営を超える行為を勝手に行わないことが前提になります。買い手にとっては、基本合意後に会社の状況が大きく変わることを防ぐ意味があります。
    • 秘密保持義務
      秘密保持義務は、交渉やデューデリジェンスを通じて知り得た情報を外部に漏らさないことを定める条項です。M&Aでは、企業情報だけでなく、交渉の事実自体も機密性が高い情報にあたります。そのため、情報の利用目的や開示できる相手、交渉中止後の資料の返還・破棄なども含めて整理しておくことが重要です。別途秘密保持契約を締結している場合でも、基本合意書に改めて規定することがあります。
    • 法的拘束力
      法的拘束力は、基本合意書のどの条項に法的な拘束力を持たせるかを明確にするものです。基本合意書は基本的に法的拘束力を持ちません。しかし特定の条項、例えば、秘密保持義務、独占交渉権、費用負担、準拠法・管轄などの一部条項に限って拘束力を持たせることが多いです。この点が曖昧だと、後の交渉で紛争につながるおそれがあるため、どの条項が拘束力を有するのかは明確に定めておく必要があります。

    基本合意書の注意点​ 

    基本合意書を作成・締結する際の注意点を紹介します。

    • 合意条件変更の可能性
      基本合意書は意向表明書と同様に、現時点で合意できる条件を整理したうえで、デューデリジェンスの結果によって取引条件が見直される可能性を明記しておくことが大切です。例えば、譲渡価額は調査結果や最終交渉を踏まえて修正されることが多々あります。
    • 行動の制限を明確化
      また、基本合意からクロージングまでの間に、売り手が行うことができる行為と制限される行為を明確にしておくことも欠かせません。例えば、配当、重要資産の処分、多額の借入れ、新たな重要契約の締結など、会社の価値に影響を与える行為には一定の制限を設けるのが一般的です。さらに、従業員の処遇についても、雇用継続の方針や経営陣の処遇など、現時点で示せる範囲の方向性を共有しておくことで、その後の交渉を進めやすくなります。

    基本合意書は法的拘束力は限定的であるものの、M&Aの方向性を定める書類です。特に秘密保持義務や善管注意義務、独占交渉権は売り手と買い手の双方を守る重要な項目であり、事前の条項チェックは欠かせません。​ 

    M&Aの契約書⑤ 最終契約書(DA)

    M&Aで最終的な条件を定めた後に締結するのが最終契約書(DA)です。最終契約書は、M&A取引の全条件を詳細に規定した文書であり、強い法的拘束力を持ちます。最終契約書にはいくつかの種類があり、M&Aスキームによって、株式譲渡契約書、事業譲渡契約書、合併契約書のように名称が異なります。

    株式譲渡契約書・事業譲渡契約書の記載項目

    ここではM&Aの代表的なスキームである株式譲渡と事業譲渡の契約書を紹介します。

    【株式譲渡契約書】

    記載項目記載内容
    目的株式譲渡の条件や当事者の権利義務を定める項目
    クロージング日株式譲渡を実行する日を定める項目
    承継対象株式譲渡する株式数、株式の種類、持株比率などを定める項目
    支払条件譲渡価格、支払方法、支払時期、必要に応じた価格調整方法を定める項目
    クロージング日の手続き代金決済、株式の移転、株主名簿の書換え、役員変更など当日に必要な手続きを定める項目
    クロージングの前提条件取引実行の前提となる承認取得や重要事項の維持などを定める項目
    表明保証売り手・買い手が相手方に対して表明し保証する事実関係を定める項目
    クロージング後の手続き登記、関係先への通知、社内外の必要対応など取引実行後の手続きを定める項目
    契約の解除一定の場合に契約を解除できる条件や手続きを定める項目
    補償表明保証違反や契約違反があった場合の補償責任を定める項目
    秘密保持義務取引に関する情報の取扱いと秘密保持義務を定める項目
    第三者への公表取引内容を第三者に公表できる条件や方法を定める項目
    準拠法・管轄紛争時に適用する法律と管轄裁判所を定める項目
    誠実協議契約に定めのない事項や疑義が生じた場合の協議方法を定める項目

    【事業譲渡契約書】

    記載項目記載内容
    目的事業譲渡の条件や当事者の権利義務を定める項目
    クロージング日事業譲渡を実行する日を定める項目
    承継対象資産譲渡対象となる事業、資産、負債、契約、知的財産などの範囲を定める項目
    支払条件譲渡価格、支払方法、支払時期、必要に応じた価格調整方法を定める項目
    クロージングの前提条件承認取得、契約相手方の同意、許認可対応など取引実行の前提条件を定める項目
    表明保証売り手・買い手が相手方に対して表明し保証する事実関係を定める項目
    善管注意義務クロージングまで売主が対象事業を通常どおり適切に運営する義務を定める項目
    競業避止義務売主が一定期間、同一または類似事業を行わない義務を定める項目
    クロージング手続き資産・契約の移転、代金決済、引継ぎなど取引実行時の手続きを定める項目
    契約の解除一定の場合に契約を解除できる条件や手続きを定める項目
    補償表明保証違反や契約違反があった場合の補償責任を定める項目
    秘密保持義務取引に関する情報の取扱いと秘密保持義務を定める項目
    第三者への公表取引内容を第三者に公表できる条件や方法を定める項目
    準拠法・管轄紛争時に適用する法律と管轄裁判所を定める項目
    誠実協議契約に定めのない事項や疑義が生じた場合の協議方法を定める項目

    参照:中小企業庁「(参考資料7)各種契約書等サンプル」

    • クロージング前提条件
      クロージングの前提条件とは、最終契約を締結した後、実際に取引を完了させるために事前に満たしておくべき条件のことです。たとえば、取締役会や株主総会の承認、許認可の取得、重要な契約先からの同意取得、重大な悪化事由が発生していないことなどが挙げられます。これらの条件が満たされていない場合、買い手は予定どおりクロージングを行わない判断ができるため、取引の安全性を確保するうえで重要な条項です。
    • クロージング手続き
      クロージング手続きとは、クロージング日に当事者が実行する具体的な手続きのことです。株式譲渡であれば、譲渡代金の支払い、株式の移転、株主名簿の書換え、役員変更書類の受け渡しなどが含まれます。事業譲渡であれば、対象資産や契約の引継ぎ、譲渡代金の決済などが中心です。最終契約書では、誰が何をいつまでに行うのかを明確にしておくことで、取引当日の混乱や手続き漏れを防ぎます。
    • クロージング後の手続き
      クロージング後の手続きとは、取引完了後に必要となる各種対応を定める項目です。たとえば、役員変更登記、関係官庁への届出、取引先や金融機関への通知、社内規程や契約書類の引継ぎなどが挙げられます。クロージングをもってすべてが終わるわけではなく、その後の対応が不十分だと、経営や事業運営に支障が出ることがあります。そのため、取引後に誰がどの対応を担うのかを整理しておくことが大切です。
    • 表明保証
      表明保証とは、売り手や買い手が、契約時点やクロージング時点で一定の事実が真実かつ正確であると相手方に表明し、保証する条項です。売り手については、財務内容、法令遵守、重要契約、訴訟の有無、簿外債務の不存在などが代表例です。買い手についても、契約締結権限や資金手当てなどを表明することがあります。取引判断の前提となる重要事項を確認する意味があり、後に事実と異なることが判明した場合には補償問題につながります。
    • 補償
      補償とは、表明保証違反や契約違反によって相手方に損害が生じた場合に、その損害を負担する責任を定める条項です。たとえば、簿外債務が後から発覚した場合や、未払い税金が見つかった場合には、売り手が買い手に対して補償する形が典型です。最終契約書では、補償の対象、請求できる期間、上限額、免責金額なども定めることが一般的です。補償条項は、契約締結後のリスク配分を決める重要な項目です。
    • 善管注意義務
      善管注意義務とは、最終契約の締結からクロージングまでの間、売り手が対象会社や対象事業を通常どおり適切に管理・運営する義務をいいます。具体的には、重要な資産の処分、多額の借入れ、新たな重要契約の締結、通常の範囲を超える支出などを勝手に行わないことが求められます。買い手にとっては、契約締結後に会社の価値や前提条件が大きく変わることを防ぐ意味があり、取引の安定性を保つために重要な条項です。
    • 競業避止義務
      競業避止義務とは、売り手が譲渡後に一定期間、同一または類似の事業を行わないことを定める条項です。特に事業譲渡では、売り手が同じ事業を近接地域で再開すると、買い手が取得した事業価値が損なわれるおそれがあるため、重要性が高くなります。競業避止義務を定める場合は、対象となる事業の範囲、地域、期間を合理的な内容に設定することが重要です。過度に広い制限は有効性が問題となる場合もあります。
    • 第三者への公表
      第三者への公表とは、M&Aに関する事実や契約内容を、いつ、どの範囲で、どのように公表できるかを定める条項です。M&Aでは、取引先、従業員、金融機関、監督官庁、報道機関などへの対応が必要になることがありますが、公表のタイミングや内容を誤ると、交渉や事業運営に悪影響を及ぼす可能性があります。そのため、事前に相手方の承諾を要するのか、法令や上場規則に基づく開示はどう扱うのかを契約上整理しておくことが重要です。

    最終契約書の有効期間

    M&Aにおける最終契約書は、クロージングによって取引が完了した後も、すべての条項が同時に終了するわけではありません。特に表明保証、補償、秘密保持、競業避止義務などは、クロージング後も一定期間にわたって効力が続くのが一般的です。中でも重要なのが表明保証の有効期間で、実務上は1年から5年程度を目安に定めることが多く、対象会社の事業内容やリスクの大きさによって調整されます。

    さらに、税務や環境問題、労務問題など、後から発覚しやすく影響が長期に及ぶ事項については、一般の表明保証より長い6年から7年程度の期間を設けることもあります。一方で、故意の不正や詐欺的行為のように、当事者の信義に著しく反するケースについては、有効期間の制限を設けない、あるいは例外的に長期間請求できる形とすることもあります。

    最終契約書の有効期間は、売り手と買い手のリスク分担を左右する重要な要素であり、一律に決めるのではなく、対象会社の実態や想定されるリスクに応じて慎重に設定することが重要です。

    最終契約書の注意点

    最終契約書を作成・締結する際は、デューデリジェンスで判明したリスクを契約内容にきちんと反映させることが大切です。調査で簿外債務、未払い残業代、許認可の不備、重要契約上の制約などが見つかったにもかかわらず、契約に十分反映されていなければ、クロージング後に想定外の損失や紛争が生じるおそれがあります。

    表明保証については、何を対象に、いつの時点の事実を、どの期間まで保証するのかを明確にしておく必要があります。補償責任についても同様で、どのような場合に請求できるのか、責任の上限額や請求可能な期間を具体的に定めておかなければ、後の争点になりやすくなります。

    また、譲渡価格を後から調整する可能性がある場合には、その方法を曖昧にせず、基準日、対象項目、計算方法まで含めて詳細に定めることが大切です。税務上の取り扱いも見落とせないポイントで、株式譲渡か事業譲渡かによって課税関係は大きく異なるため、契約上の整理が不十分だと想定外の税負担が生じることがあります。

    さらに、重要な資産や契約については、何を引き継ぎ、何を引き継がないのかを具体的に定めておく必要があります。曖昧な契約書は当事者間に認識のずれが生じ、クロージング後のトラブルにつながりかねません。こうしたリスクを防ぐためにも、最終契約書は専門家によるリーガルチェックを受けたうえで、双方の理解に食い違いがないよう丁寧に作成することが重要です。

    まとめ|M&Aの契約書の違いを理解し、正しい取引を

    M&Aでは複数の契約書が登場します。契約書の目的や記載項目、注意点は契約書によって異なりますが、双方が合意した条件が適切に盛り込まれているか、不明点や認識のズレはないかを確認することが重要です。

    契約書を作成する際には、ひな形やテンプレートを活用するだけでなく、弁護士や仲介会社の助言を受けることをお勧めします。専門家のサポートにより、記載漏れや曖昧な表現を避けることができ、後のトラブルやリスクを最小限に抑えることが可能になります。

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