事業再生ADRとは?メリットや手続き、事例をわかりやすく解説

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事業再生ADR メリット・手続き・事例

事業再生ADRとは、経営危機に陥った企業が債権者と合意形成を図りながら事業を立て直すための手続きです。 事業再生ADRは私的整理の一種ですが、法的整理と私的整理の中間に位置する制度として注目されています。

本記事では、事業再生ADRの意味や利用できる企業の特徴、メリット・デメリットから、手続きの流れまでわかりやすく解説します。また、事業再生ADRと法的整理・私的整理との違い、活用事例もあわせて紹介しますので、企業再生を図る手段を選択する判断材料の一つとしてお役立てください。

事業再生ADRとは|意味や他の再生手法との違いをわかりやすく解説

事業再生ADRとは、過剰債務を抱えた企業の課題解決のために経済産業省が定めた制度です。制度を理解するために、まずは事業再生ADRの基本的な意味や注目される理由、現在の利用状況についてわかりやすく解説します。

事業再生ADRの意味

事業再生ADRとは、経済産業大臣の認定を受けた公正な第三者が債権者と債務者の間に入ることで、債務者の負担を軽減し、事業再生を促す制度です。この制度は「準則型私的整理」として、産業競争力強化法で規定されています。また、事業再生ADRは、裁判外紛争解決手続き(ADR)の一種として位置づけられています。

ADRとは、2007年に「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律(ADR法)」によって施行された手続きのことです。裁判所を通さずに、公正な第三者が当事者間の調整を行い、民間トラブルの解決を図ります。仲介に入る第三者は法務大臣の認証を受けたADR事業者です。

このADRの仕組みを事業再生に活用することで、経営難に陥った企業は法的整理や私的整理とは異なった方法で再建を目指すことができます。なお、事業再生ADRの仲介に入る第三者は、民間のADR事業者のうち、経済産業大臣による認定を受けた事業者であるため、事業再生に関する専門知識を保有しています。

事業再生ADRと法的整理・私的整理の違い

事業再生ADRが注目される理由は、法的整理と私的整理の両方のメリットをあわせ持つためです。

例えば、民事再生会社更生などの法的整理は裁判所の監督下で手続きが進行するため時間がかかります。また、社会的信用が低下するリスクも無視できません。法的整理を行うと、官報に掲載され、債権者以外の取引先や顧客にも知られる可能性があります。社会的信用の低下は再建後の事業の収益にも影響を与えるおそれがあります。また、私的整理の場合は、債権者の合意が必要となるため、交渉が難航する可能性があります。

一方、事業再生ADRは、第三者が関与することで交渉の透明性と公正性が確保されます。裁判所が関与するよりも比較的短期間で手続きが完了することが多く、官報に掲載されないため、当事者間で秘密裏に進めることが可能です。さらに、全ての債権者を対象にするわけではなく、主な債権者は金融機関となることが多いため、取引先との影響を抑えることができる点も事業再生ADRのメリットといえます。

事業再生ADR・法的整理・私的整理の比較表

比較項目事業再生ADR法的整理私的整理
難易度中程度。専門家の関与と債権者調整が必要高い。裁判所関与で要件・書類が多く複雑低〜中程度。ただし債権者調整力が必要
目安期間比較的短い。数か月程度が多い比較的長い。半年〜1年超になることもあるケースによる。短期でまとまる場合もあるが、長期化しやすい
対象範囲金融機関が中心で、合意できる範囲で調整債権者の多くが対象交渉できた債権者に絞って調整
債権者への個別の合意必要。対象となる債権者との合意形成が重要不要。裁判所手続きに基づき進む必要。債権者ごとの同意が前提
債務整理の強制力低い高い低い
秘匿性比較的高い。法的整理より外部への影響を抑えやすい低い。裁判所手続きのため公表性が高い高い。相対交渉のため非公開で進めやすい
会社の信用維持比較的維持しやすい影響が大きい比較的維持しやすいが、交渉決裂時には悪化することもある
再生計画の柔軟性比較的高い中程度。手続き上の制約がある高い。柔軟に設計しやすい
費用中程度。専門家報酬や第三者機関への調査費や委託費がかかる高い。弁護士費用や裁判所関連費用が大きい低〜中程度。ただし支援専門家を入れると増加する

事業再生ADRの利用件数

事業再生ADRの利用状況は、2025年3月時点で申請が102件、うち73件が債権者の合意を得て成立しています。年度別で見ると、2008年から2025年の各年度の申請件数は20件以下であることから、事業再生ADRは、他の再建手段と比べると、利用件数が少ないことが分かります。

利用が広がらない理由として、事業再生ADRは、民事再生や会社更生ほど認知度が高くないという点が挙げられます。また、制度を活用にするにあたっては、厳格な審査があり、事業再生計画の策定や財務資料の整備など、手間とコストがかかります。そのため、制度として有効であっても、実際に活用できる企業は限られます。

ただし、第三者が関与することで債権者からの合意を得やすいことから、金融機関との協議を通じて事業継続を目指す企業にとっては、有力な選択肢の一つとされています。

参考:経済産業省「事業再生ADR制度について」

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    事業再生ADRの対象企業と利用要件

    事業再生ADRは、どの企業でも使いやすい制度ではありません。裁判所を通さずに再建を進められる一方で、事業そのものに再生の余地があること、金融機関の支援を受けながら事業再生計画を実行できることが前提になります。

    ここでは、企業が事業再生ADRを利用するための要件と、事業再生ADRが向いている企業の特徴を解説します。

    事業再生ADRの利用条件

    事業再生ADRを利用するにあたって、産業競争力強化法では、以下の要件を満たすことが規定されています。

    • 過剰債務を主因として経営困難な状況に陥っており、自力による再生が困難であること。
    • 技術、ブランド、商圏、人材等の事業基盤があり、その事業に収益性や将来性がある等事業価値があり、重要な事業部門で営業利益を計上している等債権者の支援により再生の可能性があること。
    • 再生手続開始又は会社更生法もしくは金融機関等の更生手続の特例等に関する法律の規定による更生手続開始の申立てにより信用力が低下し、事業価値が著しく毀損される等、事業再生に支障が生じるおそれがあること。
    • 債権額の回収の見込みが、破産手続による債権額の回収の見込みよりも大きいこと等、債権者にとっても経済的合理性が期待できること。
    • 過剰設備又は遊休資産の処分、不採算部門の整理又は撤退等、債務者の自助努力を伴うものであること。
    • 実行可能性があること。
    • 債権者全員の合意を得られる見込みがあること。 

    参照:経済産業省関係産業競争力強化法施行規則第二十九条第二項の規定に基づき認証紛争解決事業者が手続実施者に確認を求める事項

    事業再生ADRが向いている企業

    事業再生ADRを検討する余地がある企業を3つの視点からまとめます。

    事業が継続可能か

    一つ目のポイントが、会社や事業を残す価値があるかという点です。事業再生ADRは清算を目的とした制度ではなく、事業を継続しながら債務の見直しを図る手続きです。そのため、足元の業績が厳しくても、技術、ブランド、顧客基盤、商圏、人材など、今後の収益につながる事業基盤が残っていることが重要になります。

    例えば、一時的な市場環境の悪化や過大な借入負担によって経営が苦しくなっていても、主力事業に競争力があり、事業そのものに将来性がある場合は、事業再生ADRを検討する余地があります。 反対に、主力事業そのものに需要がなくなっている場合や、事業価値を支える強みが乏しい場合は、債務を調整しても再建が難しくなります。

    そのため、単に赤字であるかどうかよりも、再生後に事業を続けられる土台があるかが判断のポイントになります。

    収益改善余地があるか

    二つ目のポイントは、再建後に利益を出せる見込みがあるかです。事業再生ADRでは、金融機関に返済条件の見直しや支援を求める以上、将来的にどのように収益を改善し、債務を返済していくのかを示さなければなりません。

    具体的には、不採算部門の整理、固定費の削減、原価率の改善、事業ポートフォリオの見直しなどにより、営業利益を回復できる余地があるかが問われます。 現時点では赤字でも、改善策によって黒字化が見込めるのであれば、再生計画の実現可能性は高まります。

    逆に、売上の回復見込みが乏しく、コスト削減を進めても利益が出ない場合は、金融機関との合意形成が難しくなります。事業再生ADRの要件でも、重要な事業部門で営業利益を計上しているなど、支援によって再生できる可能性があることが求められています。

    金融機関と交渉の余地があるか

    三つ目のポイントは、支援を受けるだけの計画の現実性があるかです。事業再生ADRでは、金融機関の理解と協力が不可欠です。 裁判所の強制力で進める手続きではないため、事業再生計画に納得してもらい、返済条件の変更や支援について合意を得る必要があります。

    そのため、事業再生ADRに向いているのは、金融機関と建設的な協議ができる企業です。 例えば、財務内容や再生計画をきちんと説明できること、業績悪化の原因と改善策が整理されていること、経営陣が再建に向けて主体的に動いていることなどは、交渉を進めるうえで大きな意味を持ちます。

    一方で、金融機関からの信頼を大きく失っている場合や、必要な資料を整えられない場合、あるいは再生計画の合理性を示せない場合には、合意形成は難しくなります。 特に事業再生ADRでは、手続実施者の意見や助言を踏まえながら、法令適合性、公正・妥当性、経済的合理性のある再生計画案の概要を策定できる見込みが求められます。

    事業再生ADRが向かないケース

    事業再生ADRは有力な選択肢ですが、すべての経営危機に適しているわけではありません。例えば、事業そのものに将来性が乏しく、債務を減らしても再建の見込みが立たない場合は、事業再生ADRには向きません。また、過剰債務が主因ではなく、事業モデル自体が崩れているようなケースでも、制度の前提と合わないことがあります。

    さらに、金融機関との協議が見込めない場合も難しいといえます。事業再生ADRは合意形成を前提とする以上、主要な金融機関が再建支援に応じる余地がなければ成立しにくいからです。資料不足や説明不足が大きい場合も同様で、計画の合理性を示せなければ手続きは前に進みません。

    事業再生ADRの対象企業要件に該当しない場合は他の再建手段を検討する必要があります。

    事業再生ADRのメリット

    事業再生ADRは、裁判所を通さずに債務の見直しや再生計画の調整を進められる点が大きなメリットです。民事再生や会社更生のような法的整理と比べると、柔軟に進めやすく、事業価値をできるだけ損なわずに再建を目指せる点が魅力といえます。

    事業再生ADRのメリットとして以下が挙げられます。

    • 短期間で手続きを進めやすい
    • 第三者機関が間に入る
    • 信用を維持しやすい
    • 金融機関から支援を受けやすい
    • 税務上のメリットがある場合もある

    それぞれの項目について解説します。

    短期間で手続きを進めやすい

    事業再生ADRの大きなメリットの一つが、法的整理に比べて手続きを比較的短期間で進めやすいことです。 民事再生や会社更生では、裁判所への申立てや手続上の対応に時間を要しやすく、再生計画の認可まで長期化することもあります。

    これに対し、事業再生ADRは裁判所を介さず、金融機関などの債権者との協議を中心に進むため、再生計画の内容や債権者との調整状況によって異なりますが、約3か月ほどで手続きを完了させることができます。

    この期間は債務者にとって無視できません。特に、経営悪化局面では、時間が長引くほど資金繰りや事業価値に悪影響が及びやすくなります。 そのため、迅速に再建方針を固めたい企業にとって、短期間で進めやすい点は大きなメリットになります。

    第三者機関が間に入る

    事業再生ADRでは、事業再生に関する知見を持つ第三者が手続きに関与します。 これにより、会社と金融機関だけで直接交渉する場合に比べて、手続の公正性や透明性を確保しやすくなります。

    企業が単独で債務の見直しを申し入れると、金融機関からは「自社に有利な案ではないか」「再生計画に客観性があるのか」といった疑念を持たれることがあります。その点、第三者機関が間に入ることで、事業再生計画の妥当性や手続の公平性を示しやすくなり、協議を進めやすくなります。

    また、当事者同士では感情的な対立や認識のずれが生じることもありますが、第三者が調整役として介入することで、利害調整がされやすいこともメリットです。 金融機関との合意形成が重要になる事業再生ADRでは、この第三者の関与が実務上大きな意味を持ちます。

    信用を維持しやすい

    事業再生ADRのメリットには、法的整理と比べて対外的な信用への影響を抑えやすい点も挙げられます。民事再生や会社更生のような法的整理は、手続きが開始すると官報に掲載されます。そのため、取引先や顧客、従業員に不安を与える可能性があります。

    これに対し、事業再生ADRは裁判所が関与する手続きではないため、法的整理ほど大きく公表されるわけではなく、事業継続への悪影響を相対的に抑えやすいことが特徴です。 その結果、仕入先との取引継続や顧客離れの防止、従業員の流出抑制などにつながる可能性があります。

    もちろん、再建過程でまったく外部に知られないとは限りません。 それでも、法的整理に比べれば、事業価値や信用を維持しながら再建を進めやすい点は、事業再生ADRの大きな強みです。

    金融機関から支援を受けやすい

    事業再生ADRは、金融機関との合意形成を前提にした制度であるため、再生計画に合理性があれば、金融機関から支援を受けやすいというメリットがあります。 ここでいう支援とは、返済条件の見直しだけでなく、債務のリスケジュールや追加支援、債権放棄などを含みます。

    法的整理では、金融機関との関係がどうしても対立的になりやすい場面がありますが、事業再生ADRでは、事業の継続と再建を前提に協議を進めるため、協調的な枠組みを作りやすいといえます。 特に、事業価値が残っており、再生後の収益改善が見込める企業であれば、金融機関にとっても支援する合理性があります。

    また、第三者が関与することで、金融機関にとっても再生計画の妥当性を判断しやすくなります。 そのため、民事再生などの任意交渉に比べて、支援を引き出しやすくなることがあります。

    税務上のメリットがある場合もある

    事業再生ADRでは、再生の内容によっては税務上のメリットが生じる場合があります。 例えば、債務免除債権放棄が行われる場面では、一定の要件を満たすことで、税負担の調整が可能になるケースがあります。債務免除を受けても、免除益が発生すれば企業にとっては大きな税負担となります。

    事業再生ADRの場合、事業再生計画が成立すれば、評価損の損金算入や期限切れ欠損の控除などの税制優遇を受けられることがあります。事業再生の局面では、会計上は再建できるように見えても、税務上の負担が重くなると、実際の再生が難しくなることがあります。そのため、税務面も含めて再生計画を組み立てやすくなる点は見逃せません。

    もっとも、税務上の取扱いは、再生スキームや債務処理の内容、当時の税制、個別企業の状況によって異なります。 そのため、実際に適用できるかどうかは、弁護士や公認会計士、税理士などの専門家に確認しながら進めることが重要です。

    事業再生ADRのデメリット

    事業再生ADRは、社会的信用への影響を抑えながら再建を目指せる点で有力な選択肢ですが、メリットばかりではありません。 裁判所を通さずに進められるため、手続きが比較的短期間で完了する点や再生計画に対する柔軟性はあるものの、その反面、当事者間の調整や準備にかかる負担は決して小さくありません。

    事業再生ADRのデメリットとして次の点が挙げらます。

    • 債権者全員の同意がないと成立しない
    • 利用できる企業に一定の条件がある
    • 高額の費用が必要となる

    それぞれの項目について解説します。

    債権者全員の同意がないと成立しない

    事業再生ADRの大きなデメリットは、最終的に債権者全員の同意が得られなければ成立しないことです。 計画案がどれだけよくできていても、主要な金融機関の理解を得られなければ手続きは成立せず、協議が進んでいたとしても、最終段階で合意形成に失敗すれば別の手段を検討せざるを得なくなります。

    それまでかけた時間やコストが無駄になるだけでなく、協議が不成立に終わった場合、資金繰りの悪化が進んでいれば、民事再生や破産など別の手続きを急いで選ばなければならないケースもあります。 そのため、事業再生ADRは柔軟な制度である一方、成立の可否が金融機関との合意に大きく左右されるという不確実性を抱えています。

    主要な債権者の間で意見が割れると、調整が一気に難しくなることもあります。こうした点はデメリットになりますが、事業再生ADRが合意形成を前提とする手続きである以上、避けて通れません。そのため、企業は債権者に対して、再生計画の合理性や将来の収益改善が見込めることを丁寧に説明する必要があります。

    利用できる企業に一定の条件がある

    事業再生ADRは、経営が厳しい企業であっても必ずしも利用できる手続きではありません。実務上も、そして制度上も、一定の要件を満たすことが前提になります。

    例えば、過剰債務を主因として経営困難に陥っていること、自力再建が難しいこと、事業そのものには収益性や将来性が残っていることなどが求められます。 言い換えれば、単に赤字であるとか、資金繰りが悪化しているだけでは足りず、債権者の支援を受ければ再建できる見込みがある企業でなければなりません。

    事業の継続可能性が乏しいケースや、法的整理でも大きな支障がないケースでは、事業再生ADRが適さないことがあります。

    高額の費用が必要となる

    事業再生ADRは、裁判所を使わない手続きですが、利用する際には、第三者機関による審査や事業再生計画の策定、財務分析、必要資料の整備などに多くの専門家が関わるため、一定の費用負担が生じます。例えば、第三者機関には、申請時の審査料として50万円(税別)が発生します。他にも、業務委託金や業務委託中間金、報酬金が設定されています。こららは債権者の数や借入額によって異なります。

    また、事業再生ADRは弁護士、公認会計士、税理士など、専門家の支援を受けながら進めることが一般的であり、依頼する場合は専門家への報酬も追加で発生します。加えて、社内で対応する人員や時間の負担も無視できません。

    さらに、事業再生ADRでは、売上や利益の推移、資金繰り、借入状況、担保の内容、事業計画など、会社の現状を開示し、現状分析だけでなく、今後どう改善していくのかを数字で示す必要があります。この作業は想像以上に負担が大きく、社内に十分な経理・財務体制が整っていない企業では、準備そのものが難航することもあります。

    事業再生ADRの手続きの流れ

    事業再生ADRは、裁判所を通さずに進める再生手続きですが、実際の進行は一定の手順に沿って行われます。任意交渉のように自由に進めるのではなく、申請準備から債権者との協議、再生計画案の調整、最終的な同意取得まで、段階を踏んで進めていきます。

    また、事業再生ADRでは、単に返済条件の見直しを求めるだけでは足りません。 金融機関に支援してもらう前提である以上、なぜ再建可能なのか、どのような計画で立て直すのか、債権者にとってどの程度の合理性があるのかを、順序立てて示していく必要があります。

    ここでは、事業再生ADRの一般的な流れを順番に見ていきます。

    1.申請前の準備

    事業再生ADRでは、申請前の準備が重要になります。具体的には、直近の財務状況、資金繰りの見通し、借入や担保の状況、事業ごとの採算、今後の改善策などを整理していきます。 そのうえで、どの事業を残し、どこを立て直し、どのように収益を改善していくのかといった再建の方向性を固める必要があります。

    その後、事業再生計画案の作成やデューデリジェンスを行います。この結果が、事業再生ADRの審査の結果にもつながるため、弁護士、公認会計士、税理士、再生支援の専門家などと連携しながら進めるのが一般的です。

    2.申請手続き

    準備が整ったら、事業再生ADRの正式な申請手続きに入ります。 この段階では、必要書類を提出し、手続きの対象となる企業として適切かどうかの審査を受けることになります。

    申請にあたっては、会社の財務内容や再建可能性、事業価値、再生計画案の概要などが重要な判断材料になります。 単に資金繰りが苦しいというだけでなく、過剰債務を抱えながらも、事業としては再建の見込みがあることを示さなければなりません。

    また、法的整理に進むと事業価値が大きく損なわれるおそれがあるかどうかも、制度上の重要なポイントです。 申請手続きは入口にすぎませんが、この段階で制度の趣旨に合った案件かどうかが見極められます。

    3.一時停止通知の発送

    申請後は、対象となる金融機関などの債権者に対して、企業と第三者機関の連名による一時停止通知が発送されます。 これは、協議が進んでいる間に、個別の回収行動や法的措置が先行しないよう、一定期間の協力を求めるためのものです。

    もし一部の金融機関だけが早期回収に動けば、他の債権者との公平が崩れるうえ、会社の資金繰りはさらに不安定になります。 そのため、再生計画の協議を進める前提として、まずは足並みをそろえることが重要になります。

    この一時停止の期間があることで、会社側は資金繰りの急激な悪化を防ぎながら、再生計画の検討や金融機関との調整に集中しやすくなります。

    4.債権者会議

    事業再生ADRでは、3回の債権者会議が行われます。原則として1回目の債権者会議は通知発送から2週間以内に行われます。1回目の債権者会議では、金融機関などの債権者に対して資産や負債の状況および再生計画案の概要を説明します。

    再生計画案に対し、債権者からの質問や意見が述べられます。例えば、収益改善の前提が甘いと判断されたり、資産売却の方針や返済計画の内容について再検討を求められたりすることがあります。企業は債権者と協議を重ねながら実現可能性の高い内容に修正していきます。

    さらに1回目の債権者会議では、議長や手続実施者の選任、次の債権者会議の開催日時も決定します。手続実施者は企業の再生計画案を調査し、調査報告書を作成します。2回目の債権者会議にて、最終的な再生計画案に対する調査報告書の内容が債権者に説明されます。

    3回目の債権者会議では、再生計画の決議が行われます。債権者は2回目の債権者会議で報告された調査結果をもとに賛成か反対かの投票を行います。

    5.同意取得と手続き成立

    決議で債権者全員の同意が得られれば、事業再生ADRは成立し、以後は再生計画に沿って返済条件の見直しや事業改善を進めていくことになります。 しかし、一人でも反対があった場合には不成立となり、企業は別の再生手段を検討することになります。

    事業再生ADRは、法的整理のように裁判所の強制力で進める手続きではないため、最終的には債権者との合意形成がすべてを左右します。債権者全員が同意できる実現可能性が高い計画案を作成できるかどうかが成否を左右するといえるでしょう。

    参考:事業再生ADR活用ガイドブック

    事業再生ADRの事例|実際に活用した企業を紹介

    ここでは、事業再生ADRを実際に活用した企業の事例を取り上げ、再建に至った経緯や成功要因をわかりやすく紹介します。

    曙ブレーキ工業の事例|事業再生ADRによる再建と構造改革

    曙ブレーキ工業は2019年、事業再生ADRを活用して私的整理を進め、金融機関の支援のもとで事業再建に取り組みました。国内外の拠点見直しや事業構造改革を進めるとともに、資金支援を受けながら再生計画を実行した事例として知られています。

    この事例で注目されるのは、経営の早期判断に加え、金融機関との継続的な対話を通じて再生計画への理解を得た点です。実現可能性の高い再建計画を示し、主要債権者との信頼関係を維持したことが、合意形成を進めるうえで重要な要素となりました。

    田淵電機の事例|スポンサー支援を受けた事業再生ADR

    田淵電機は2018年、事業再生ADRを活用し、スポンサーの支援を受けながら事業再建を進めました。債務負担の見直しに加え、返済条件の調整や資本面での支援を組み合わせることで、事業継続と再建の両立を図った事例です。

    この事例では、事業価値をできるだけ損なわずに再生を進めることと、スポンサー企業との連携によって再建の実効性を高めたことが大きなポイントです。外部支援を受けながら、技術や事業基盤を維持し、今後の競争力確保につなげた点が評価されています。

    事業再生ADRを成功させるポイント

    事業再生ADRは、企業に事業価値が残っていても、準備不足のまま進めれば、金融機関の理解を得られずに頓挫することがあります。反対に、早い段階で方針を整理し、必要な材料を揃えておけば、再建の可能性を大きく高めることができます。

    ここでは、事業再生ADRを活用する際に実務上押さえておきたいポイントを整理します。

    早めに専門家へ相談する

    事業再生ADRは、資金繰りが行き詰まってから検討するよりも、まだ打てる手が残っている段階で相談したほうが成功しやすい手続きです。 資金が尽きる直前では、金融機関との協議や再生計画の準備に必要な時間を確保しにくく、結果として選択肢が狭まってしまいます。

    実際には、業績悪化の原因分析、財務状況の整理、再生計画の骨子づくり、金融機関対応など、事業再生ADRに入る前にやるべきことが少なくありません。 こうした作業を社内だけで進めるのは難しいため、早い段階から弁護士、公認会計士、税理士、再生支援に詳しい専門家に相談することが重要です。

    専門家に早めに相談すれば、事業再生ADRが本当に適した手続きなのか、他の選択肢を取るべきかも含めて整理しやすくなります。 再建はスピードだけでなく、初動の質が結果を左右します。

    実現可能な再生計画を作る

    事業再生ADRでは、見栄えのよい計画よりも、実際に実行できる計画のほうがはるかに重要です。 金融機関は、将来の売上や利益の見込みだけでなく、その前提が妥当か、計画に無理がないかを厳しく見ています。

    例えば、売上増加を前提にするのであれば、その根拠が必要ですし、コスト削減を盛り込むのであれば、どこをどう削減するのかを具体的に示さなければなりません。 資産売却、不採算部門の見直し、人員配置の適正化なども含め、実行可能性を数字で説明できることが欠かせません。

    また、再生計画は会社側の希望を並べるものではなく、債権者にとっても合理的である必要があります。 破産させるよりも回収可能性が高いことを示せなければ、支援を得るのは難しくなります。 そのため、計画は楽観的に作るのではなく、現実的なラインで組み立てることが大切です。

    金融機関との交渉材料を整える

    事業再生ADRでは、金融機関を説得できるだけの材料が揃っているかどうかが極めて重要です。 どれほど再建への意欲があっても、説明に使う数字や資料が不十分では、支援を受けることはできません。

    具体的には、月次試算表、資金繰り表、借入や担保の一覧、事業別の採算状況、再建後の損益計画などを整理しておく必要があります。 さらに、なぜ経営が悪化したのか、その原因に対してどのような改善策を講じるのかを、整合的に説明できる状態にしておくことも重要です。

    金融機関が見ているのは、会社の苦しい状況そのものではなく、支援する合理性があるかです。 そのため、交渉材料を整えるとは、単に資料を集めることではなく、支援を受けるだけの説得力を準備することにほかなりません。

    M&Aや他の再建手段も選択肢に入れる

    事業再生ADRは企業再建の有力な制度ですが、事業や財務の状況によっては、M&Aや民事再生など、別の手段のほうが再建の可能性を高める場合もあります。

    例えば、スポンサー支援を受けたほうが事業価値を維持しやすいケースでは、M&Aを含めて他の方法を検討したほうが合理的です。 また、金融機関との任意の協議ではまとまりにくい場合には、法的整理を視野に入れたほうが現実的なこともあります。

    重要なのは、最初から事業再生ADRだけにこだわらないことです。 再建の目的は、あくまで会社や事業の価値をできるだけ高く残すことにあります。 そのためには、事業再生ADRを軸にしつつも、必要に応じて他の再建手段も含めて比較し、最も実効性の高い方法を選ぶ姿勢が欠かせません。

    まとめ

    事業再生ADRは、経営が厳しい企業にとって有効な再生手段の一つです。債権者と協力しながら事業を立て直すことで、法的手続きに比べてスムーズに再生を進めることが可能です。しかし、債権者全員の同意が必要であるため、事前の準備や交渉が欠かせません。このプロセスを成功させるためには、早めに専門家のアドバイスを受けることが重要です。

    また、実現可能な計画を立てることや、金融機関との良好な関係を築くことも重要です。これらのポイントを押さえることで、事業再生ADRを効果的に活用し、企業の再生を図ることができます。必要に応じて、他の再建手段と併用することも視野に入れ、最適な解決策を見つけていきましょう。

    M&Aロイヤルアドバイザリーでは、M&A事業承継に関するご相談を承っております。M&Aは、事業承継の手段としてだけでなく、企業の成長戦略としても活用されています。ただし、実行には時間がかかるため、早めの準備と計画が円滑な承継を左右します。今すぐの譲渡をご検討でない場合でも、将来的に第三者への承継を選択肢の一つとしてお考えの方は、ぜひお気軽にお問い合わせください。

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