善管注意義務とは?取締役の責任範囲や違反事例をわかりやすく解説

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善管注意義務とは、業務を担う立場の人に対して求められる「通常期待される注意を尽くす義務」のことです。特に会社の取締役は、会社法上、経営判断や監督、内部統制の整備などについて重い責任を負います。では、どのような場合に善管注意義務違反となり、損害賠償責任が発生するのでしょうか。

本記事では、善管注意義務の意味をわかりやすく整理したうえで、民法・会社法との関係、取締役の責任範囲、違反事例、実務上の対策まで解説します。

善管注意義務とは?民法・会社法上の意味をわかりやすく解説

善管注意義務とは、一定の立場にある人が、その立場にふさわしい注意を払って業務や事務を行うべき義務を指します。法律用語なので難しく感じられますが、要するに「その仕事を任された人として、通常期待されるレベルの注意を尽くす義務」と捉えるとわかりやすいでしょう。 この義務は民法上の委任・準委任などの関係で広く問題になるほか、会社経営では会社法に基づいて取締役の責任を考えるうえでも重要です。ここでは、善管注意義務の基本的な意味から、民法・会社法での位置づけ、さらに混同されやすい忠実義務との違いを解説します。

善管注意義務の基本的な意味

善管注意義務とは、「善良な管理者の注意義務」の略称です。 ここでいう「善良」とは、人格が優れているという意味ではなく、その立場にある人に通常求められる水準の注意を払う、という意味です。

例えば、他人から財産の管理や業務の遂行を任された人には、単に自分なりに対応すればよいのではなく、その分野や立場に応じた相応の注意が求められます。会社の取締役であれば、経営に関する重要な判断を行う立場にあるため、一般の従業員よりも高いレベルの注意義務を負うことになります。

わかりやすく言えば、善管注意義務とは、「その役割を担う人なら当然払うべき注意を尽くす義務」 です。単なる不注意だけでなく、必要な情報収集を怠ったり、確認を十分に行わずに重要な判断をしたりした場合にも、善管注意義務違反が問題になることがあります。

民法における善管注意義務

民法では、委任や準委任など、他人から一定の事務を任された人に対して善管注意義務が課されます。代表的なのは、委任契約における受任者です。民法644条は、受任者が委任事務を処理するにあたり、「善良な管理者の注意をもって委任事務を処理する義務を負う」ことを定めています。受任者は、委任された事務を処理するにあたり、自己のこと以上に慎重である必要まではありませんが、その立場に通常期待される注意をもって対応しなければなりません。

例えば、専門知識を持つ人が業務を受任した場合には、一般人よりも高い専門的な注意が求められる可能性があります。医師や弁護士、税理士などの専門職が典型で、業務の内容に応じた適切な判断や対応を怠れば、善管注意義務違反と評価されることがあります。また、賃貸借や寄託、財産管理などでも、管理者としてどの程度の注意を払うべきかが問題になる場面があります。

このように民法上の善管注意義務は、会社経営に限らず、「他人から任された事務や財産を適切に扱うべき関係」に広く関わる概念です。

会社法における役員・取締役の善管注意義務

会社法では、取締役をはじめとする役員は会社から経営を任される立場にあるため、会社に対して善管注意義務を負います。会社法330条では、取締役と会社の関係を委任に関する規定に従うものとし、これにより取締役には民法644条の善管注意義務が及びます。さらに、取締役がその任務を怠って会社に損害を与えた場合は、会社に対して損害賠償責任を負います(会社法423条)。 

取締役は会社の重要な意思決定を行い、業務執行を担い、必要に応じて他の取締役や使用人を監督する役割も負っています。そのため、一般的な受任者よりも、会社の利益や企業価値に配慮した慎重な対応が求められます。具体的には、取締役には、重要な経営判断に先立って必要な情報を収集・分析すること、法令や定款に反しないよう業務を執行すること、他の取締役や従業員の不正を見逃さないよう監督することなどが求められます。十分な調査を行わずに投資や大型契約を決めた場合には、善管注意義務違反が問題になることがあります。

もっとも、会社法上の善管注意義務は、単に「失敗してはいけない」という意味ではありません。経営には一定のリスクが伴うため、結果が悪かったというだけで直ちに違反になるわけではなく、「判断時点で合理的な検討を尽くしていたか」が重要になります。

忠実義務と善管注意義務の違い

善管注意義務と並んで取締役の義務としてよく挙げられるのが、忠実義務です。両者は密接に関係していますが、意味は同じではありません。まず、善管注意義務は、取締役と会社の関係が委任に関する規定に従うとされることから(会社法330条)、「善良な管理者の注意」をもって職務を行う義務があります(民法644条)。これに対し、忠実義務は、会社法355条で「取締役は、法令及び定款並びに株主総会の決議を遵守し、株式会社のため忠実にその職務を行わなければならない」と明文で定められています。

つまり、善管注意義務は注意深く適切に職務を行う義務、忠実義務は会社の利益のために誠実に行動する義務です。 例えば、十分な情報収集をしないまま重要な投資判断をした場合は、主に善管注意義務違反が問題になります。一方で、自分や第三者の利益を優先して会社に不利益な取引を行った場合は、忠実義務違反が中心になります。

ただし、実務上は両者が重なる場面も少なくありません。利益相反取引を適切な手続きなく行った場合には、会社への忠実さを欠くだけでなく、取締役として払うべき注意も尽くしていないとして、善管注意義務違反と忠実義務違反の双方が問題となることがあります。

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    善管注意義務が課される主な場面

    善管注意義務は、特定の役割や職務を遂行する際に、高度な注意や配慮が求められる場面で適用されます。具体的には以下のような状況が挙げられます。

    取締役など会社経営に関わる立場

    会社の取締役は、経営判断や業務執行、従業員の監督など重要な役割を担うため、会社法上、善管注意義務が強く求められます。十分な情報収集をせずに意思決定したり、不正を見逃したりすると、善管注意義務違反として責任を問われる可能性があります。監査役や執行役員なども、その立場や職務内容に応じて高度な注意義務を負います。

    受任者・専門職(医師、弁護士など)

    民法上、委任や準委任に基づいて業務を引き受けた受任者には、善管注意義務が課されます。特に医師や弁護士、公認会計士などの専門職は、高度な知識や経験を前提に業務を行うため、一般人よりも高い水準の注意が求められます。必要な説明や確認を怠った場合には、契約上の責任や損害賠償の問題に発展することがあります。

    賃貸借契約や一般契約における管理者

    善管注意義務は、会社経営や専門職に限らず、賃貸借契約や各種契約に基づいて物件や財産を管理する場面でも問題になります。例えば、建物や設備の管理を任された人が必要な点検や保全を怠れば、管理者としての注意義務違反が問われることがあります。契約内容や立場に応じて、どの程度の注意を尽くすべきかが判断されます。

    取締役に求められる善管注意義務

    取締役の善管注意義務は、単に自ら業務を行う場面だけでなく、経営判断や監督、社内体制の整備など幅広い領域に及びます。ここでは、取締役に特に重要とされる責任について解説します。

    経営判断における注意義務

    取締役は、投資や資金調達、新規事業の開始など、会社の将来に影響を与える重要な意思決定を行います。そのため、判断に先立って必要な情報を収集し、リスクや代替案を十分に検討することが求められます。結果として損失が生じたとしても、判断時点で合理的な検討を尽くしていれば直ちに違反とはなりませんが、調査不足や検討不足があれば善管注意義務違反と判断される可能性があります。

    他の取締役や従業員への監督義務

    取締役には、自ら業務を行うだけでなく、他の取締役や従業員の職務執行を監督する責任もあります。不正会計や法令違反、ハラスメントなどの問題を見逃し、適切な対応を取らなかった場合には、直接関与していなくても責任を問われることがあります。特に経営陣は、組織全体を見渡して異常を察知し、是正する姿勢が求められます。

    内部統制システムの整備と運用

    取締役には、不正やミスを防ぐための内部統制システムを整備し、実際に機能させる役割があります。例えば、承認フローの明確化、権限分掌、内部監査、通報制度の整備などがこれにあたります。制度が形だけで実効性を欠いている場合には、問題発生時に取締役の善管注意義務違反が問われる可能性があります。

    法令違反や不正を防ぐ管理責任

    取締役は、会社が法令や定款に従って適正に運営されるよう管理する責任を負います。コンプライアンス意識が低いまま放置したり、重大なリスクを認識しながら対策を講じなかったりすると、管理責任の不履行とみなされる場合があります。企業不祥事では、実行者だけでなく、管理・監督を担う取締役の責任が問題になるケースも少なくありません。

    善管注意義務違反と判断される行為

    善管注意義務に違反すると判断されるのは、どのような場合なのでしょうか。主に以下のような行為が挙げられます。

    • 法令や定款、社内ルールの違反
    • 情報収集が不十分なまま経営判断をする
    • 監督義務を怠り不正や違法行為を見逃す
    • 利益相反取引の必要手続きを怠る
    • 内部統制システムを整備しない、または機能させない
    • リスク管理や安全配慮を怠り第三者に損害を与える

    それぞれについて、解説します。

    法令や定款、社内ルールの違反

    善管注意義務違反の典型例としてまず挙げられるのが、法令や定款、社内規程に反する業務執行です。取締役は、会社法や各種業法、社内規程を踏まえて適正に職務を行う立場にあるため、これらに明確に反する行為は違反と判断されやすいといえます。 

    例えば、粉飾決算の容認、不適切会計、承認ルールを無視した支出や契約などは、実務でも問題になりやすい場面です。裁判においても、法令違反や定款違反を伴う業務執行は、取締役の責任を基礎づける重要な事情とされる可能性があります。

    情報収集が不十分なまま経営判断をする

    必要な情報を集めないまま重要な意思決定を行うことも、善管注意義務違反につながります。取締役には、投資やM&A(企業の合併買収)、新規事業の開始などにあたって、収益性やリスクを十分に検討したうえで判断することが求められます。 

    例えば、十分な調査をしないまま買収を決めたり、根拠の乏しい事業計画を前提に多額の投資を行ったりするケースです。結果の成否そのものではなく、判断時点で必要な情報収集や検討を尽くしていたかが問題となります。

    監督義務を怠り不正や違法行為を見逃す

    取締役は、自ら業務を行うだけでなく、他の取締役や従業員の職務執行を監督する義務も負います。そのため、不正会計や横領、ハラスメントなどの違法行為を把握できたのに放置した場合、善管注意義務違反と評価されることがあります。

    典型的なのは、部門や子会社で不正が繰り返されていたのに、十分な調査や是正措置を取らなかったケースです。取締役が不正に直接関与していなくても、監督義務違反が争点となることがあります。

    利益相反取引の必要手続きを怠る

    取締役が会社と利害の対立する取引を行う場合には、通常より慎重な対応が必要です。にもかかわらず、取締役会の承認や適切な開示など、必要な手続きを踏まずに取引を進めると、善管注意義務違反や忠実義務違反の問題が生じます。

    例えば、取締役が自分の関係会社との間で会社に不利な条件の契約を締結するケースです。こうした利益相反取引は、会社法上も厳格な手続が求められており、実務でも責任追及につながりやすい論点です。

    内部統制システムを整備しない、または機能させない

    善管注意義務は、個別の判断や行為だけでなく、不正やミスを防ぐための社内体制づくりにも及びます。内部統制システムを整備していない、または制度があっても実際には機能していない場合、取締役の責任が問われることがあります。

    例えば、内部監査が形骸化していたり、通報制度があっても不正の早期発見につながっていなかったりするケースです。実際の企業不祥事でも、内部統制の不備が取締役の善管注意義務違反と結びつけて論じられることがあります。

    リスク管理や安全配慮を怠り第三者に損害を与える

    取締役には、会社内部だけでなく、顧客や取引先、利用者など第三者に損害を生じさせないようリスクを管理する責任もあります。安全対策や情報管理、事故防止策が不十分だった結果、第三者に被害が発生すれば、善管注意義務違反が問題となる可能性があります。

    例えば、製品事故を防ぐ体制が整っていなかったケースや、情報漏えい対策が不十分だったケースがこれにあたります。こうした場面では、会社に対する責任だけでなく、第三者への損害賠償が争点になることもあります。

    善管注意義務違反の判断ポイント

    善管注意義務違反にあたるかどうかは、単に損失を出したなどの結果だけで決まるわけではありません。企業の取締役であれば、意思決定の前にどの程度の調査や検討を行い、その判断が当時の状況に照らして合理的だったかが重要になります。違反か否かの判断する主なポイントとして、以下が挙げられます。

    結果が悪いだけでは直ちに善管注意義務違反にならない

    企業経営には常にリスクが伴うため、最終的に損失が生じたとしても、それだけで善管注意義務違反を問われるわけではありません。これは、取締役の経営判断には一定の裁量が認められるという「経営判断の原則」の考え方とも関係しています。十分な情報に基づき、会社の利益を考えて合理的に判断していたのであれば、結果が悪くても直ちに責任を問われるわけではありません。

    判断時点で必要な調査・検討を尽くしていたか

    重要な経営判断を行う前に、必要な資料を集め、リスクや代替案を検討することが求められます。十分な情報収集や分析を行わずに意思決定した場合は、結果にかかわらず善管注意義務違反と評価される可能性があります。M&Aでは、対象会社の財務状況や簿外債務、契約関係、法務・労務上のリスクなどについて、適切にデューデリジェンスを行っていたかが重要な判断材料になります。限られた情報だけで買収価格や条件を決めたり、専門家の助言を得ないまま取引を進めたりした場合には、調査・検討が不十分だったとして責任を問われることがあります。

    取締役として合理的な意思決定だったか

    判断の合理性は、その時点で得られた情報や会社の状況を前提に検討されます。M&Aにおいては、デューデリジェンスの結果や買収価格の妥当性、シナジーの見込みなどを踏まえて判断していたかが重視されます。たとえ後から見て不適切な結果になったとしても、当時の事情に照らして相応の根拠があり、通常の取締役として合理的な判断だったと言えるのなら、責任を問われにくくなります。

    善管注意義務違反に関する事例

    善管注意義務は具体的にどのような経営判断や監督不備、情報開示のあり方において問題になるのでしょうか。取締役の善管注意義務違反に関する代表的な事例を紹介します。

    MBOにおける善管注意義務に関する事例

    レックス・ホールディングス事件判決は、取締役の善管注意義務違反が問われた事例です。創業者が関与するMBOで、株主が公開買付けにより株式を手放したことについて、後の価格決定手続でより高い価格が認定されたため、買付価格の妥当性や取締役らの責任が争われました(東京地判平成23年2月18日、東京高判平成25年4月17日)。

    裁判所は、MBOでは利益相反や情報の非対称性が生じやすいことから、取締役には善管注意義務の一環として、公正な価値移転や適切な情報開示に配慮することが求められると示しました。もっとも、控訴審は、買付価格が不当に低かったとしても、取締役の判断過程に著しい不合理があったとはいえないとしています。この事例は、MBOでは買収価格の結果だけでなく、取締役がどのような過程で判断し、どのように情報開示を行ったかが善管注意義務違反の判断で重視されることを示しています。

    善管注意義務に違反した場合の責任

    善管注意義務に違反した場合の責任は、委任や準委任に基づいて事務を処理する受任者や、専門職、契約上の管理者などに生じます。会社経営を担う取締役については、会社法に基づく責任追及のルールが明確に定められており、一般の契約関係よりも重い法的責任が問題になりやすい点が特徴です。ここでは、一般的な民法上の責任を押さえたうえで、取締役に関する会社法上の責任もあわせて見ていきます。

    依頼者・契約相手に対する損害賠償責任

    善管注意義務に違反して本人や契約相手に損害を与えた場合、まず問題となるのが損害賠償責任です。民法415条1項は、債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者がこれによって生じた損害の賠償を請求できると定めています。 このため、委任契約や準委任契約に基づく受任者、専門職、各種契約上の管理者などが善管注意義務に違反した場合には、債務不履行として損害賠償責任を負う可能性があります。例えば、専門職が必要な確認を怠って依頼者に損害を与えた場合や、管理者が財産管理を適切に行わず損害を生じさせた場合が典型です。

    なお、取締役が会社に損害を与えた場合には、こうした民法上の一般的な責任とは別に、会社法に基づく責任として整理されます。

    第三者に対する損害賠償責任

    善管注意義務違反による責任は、契約当事者間だけでなく、第三者に対して問題となることもあります。一般に、契約関係がない第三者に損害を与えた場合には、民法709条の不法行為責任(故意または過失による損害賠償責任)が問題となります。例えば、建物や設備の管理を怠った結果、利用者や近隣住民に損害を与えた場合などが典型です。

    また、企業の取締役や他の役員については、会社法429条1項に「役員等がその職務を行うについて悪意又は重大な過失があったときは、当該役員等は、これによって第三者に生じた損害を賠償する責任を負う」 とされており、会社外の取引先や株主、投資家などへの責任が生じる場合があります。

    任務懈怠責任と会社法上の責任追及

    取締役などの会社役員の善管注意義務違反は、会社法上は任務懈怠(にんむけたい)として位置づけられます。 会社法330条では、 「株式会社と役員及び会計監査人との関係は、委任に関する規定に従う」 と定めており、これにより取締役と会社の関係には民法644条の善管注意義務が及びます。

    そのうえで、会社法423条1項で「取締役、会計参与、監査役、執行役又は会計監査人は、その任務を怠ったときは、株式会社に対し、これによって生じた損害を賠償する責任を負う」 と定められています。つまり、取締役が必要な注意を尽くさずに職務を行い、会社に損害を与えた場合には、善管注意義務違反が「任務を怠ったとき」にあたるものとして、会社法上の責任追及を受ける可能性があります。

    また、会社法355条では取締役への忠実義務も課しているため、実務では、善管注意義務違反だけでなく、忠実義務違反もあわせて問題となることがあります。

    株主代表訴訟などに発展する可能性

    善管注意義務違反による責任追及は、一般の契約関係では、原則として本人や相手方が損害賠償請求を行う形になります。これに対し、取締役などの役員の責任は、会社が請求するだけでなく、会社が動かない場合に株主が追及することもあります。 会社法847条1項は、一定の株主が会社に対して役員等の責任を追及する訴えを提起するよう請求できることを定めており、これが株主代表訴訟の出発点になります。そのため、取締役の善管注意義務違反は、社内の問題にとどまらず、株主との紛争や企業統治上の問題に発展することがあります。一般の受任者や管理者にも損害賠償責任は生じますが、取締役については、会社法に基づく責任追及の仕組みがより整備されている点が大きな違いです。

    善管注意義務違反を防ぐためのポイント

    善管注意義務違反を防ぐには、結果だけでなく、意思決定の過程や社内管理の体制を整えておくことが重要です。特に企業の取締役は、日々の判断や監督のあり方が後に責任追及の対象となるため、普段から適切な対応を積み重ねておく必要があります。

    重要な意思決定では情報収集と議事録を徹底する

    新規事業への参入や大型投資、M&Aなどの重要な判断では、事前に必要な資料を集め、リスクや代替案を十分に検討することが欠かせません。あわせて、どのような情報に基づいて判断したのかを議事録や社内文書に残しておくことで、後に意思決定の合理性を説明しやすくなります。結果が悪くても、判断過程が適切だったことを示せれば、善管注意義務違反のリスクを抑えられます。

    取締役会で実質的な審議を行う

    取締役会を形式的に開催するだけでは不十分です。提出資料の内容を精査し、疑問点があれば説明を求め、必要に応じて反対意見や条件付き承認も検討するなど、実質的な審議を行うことが重要です。特に取締役は、他の役員の提案をそのまま追認するのではなく、自らの立場で内容を確認し、判断に参加する姿勢が求められます。

    利益相反取引は適切な承認手続きを踏む

    取締役や役員個人、またはその関係会社が取引相手となる場合は、利益相反の問題が生じやすくなります。このような取引では、法令や社内規程に従って事前承認や情報開示を適切に行い、会社に不利益が生じないよう慎重に手続きを進める必要があります。手続を省略したり、利害関係を隠したまま進めたりすると、善管注意義務違反や忠実義務違反に発展しやすくなります。

    法務・会計の専門家に相談する

    法的リスクや会計処理の妥当性が問題となる場面では、弁護士や公認会計士、税理士などの専門家に相談することが有効です。取締役がすべてを独力で判断しようとすると、見落としや判断ミスが生じるおそれがあります。専門家の意見を踏まえて意思決定を行うことは、適切な検討を尽くしたことの裏付けにもなります。

    内部統制とコンプライアンス体制を整備する

    善管注意義務違反を防ぐには、個々の取締役の注意だけでなく、組織として不正やミスを防げる仕組みを整えることも重要です。たとえば、権限分掌、内部監査、通報制度、研修体制などを整備し、法令遵守が徹底される環境をつくることが求められます。内部統制とコンプライアンス体制が機能していれば、不祥事の予防だけでなく、問題発生時の早期発見・是正にもつながります。

    善管注意義務に関してよくある質問

    企業の代表者や取締役の善管注意義務についての疑問と回答を紹介します。

    中小企業のM&Aではどのような場合に善管注意義務が問題になりますか?

    中小企業のM&Aでは、対象会社の財務状況や簿外債務、契約関係、法務・労務リスクなどについて、十分なデューデリジェンスを行わないまま取引を進めた場合に、善管注意義務が問題になりやすくなります。特に、限られた情報だけで価格や契約条件を決めたり、必要に応じて弁護士や会計士などの専門家に相談せず判断したりすると、後に損失が生じた際に責任を問われる可能性があります。

    取締役が経営判断に失敗したら善管注意義務違反の責任を負いますか?

    いいえ、経営判断に失敗しただけで直ちに責任を負うわけではありません。善管注意義務違反があるかどうかは、結果ではなく、判断時点で必要な情報収集や検討を尽くしていたか、その判断が合理的だったかによって判断されます。十分な調査と適切な手続きを経たうえでの判断であれば、結果的に損失が出ても善管注意義務違反にはならないことがあります。また、「経営判断の原則」により、判断の前提事実の認識に不注意な誤りがなく、かつ決定に著しい不合理がなければ、責任は問われないとされています。

    社外取締役にも善管注意義務はありますか?

    はい、社外取締役にも善管注意義務はあります。社内の業務執行を直接担当していなくても、取締役として重要な意思決定に参加し、必要に応じて説明を求めたり、監督機能を果たしたりする責任があります。そのため、明らかな問題を見過ごしたり、十分な確認をしないまま議案を承認したりすると、責任を問われる可能性があります。

    まとめ

    善管注意義務とは、立場や職務に応じて通常期待される注意を尽くす義務のことです。民法では受任者一般に適用され、会社法では取締役の責任を考えるうえで重要なルールとなります。特に取締役は、経営判断、監督、内部統制の整備など幅広い場面で善管注意義務を負っており、違反があれば会社や第三者に対する損害賠償責任を問われる可能性があります。

    会社経営において結果が悪かったからといって、直ちに善管注意義務違反になるわけではありません。重要なのは、判断時点で必要な情報収集や検討を尽くしていたか、合理的な意思決定が行われていたかという点です。

    善管注意義務違反を防ぐには、重要な意思決定の記録を残し、取締役会で実質的な審議を行い、必要に応じて専門家の助言を得ることが大切です。善管注意義務の考え方を理解し、日頃から適切な判断と管理体制を整えておくことが、企業経営におけるリスク低減につながります。

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