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キャッシュアウトとは、一般的には企業のお金が外部に流出することを指します。しかし、会社法で規定されるキャッシュアウトは「少数株主の締め出し」を意味します。特に近年では、事業承継やM&Aによる完全子会社化を目的とした株式取得の手段としてキャッシュアウトが実行されるケースが増えています。
キャッシュアウトは株主に影響を与えるため、適切に行わなければ訴訟のリスクもあり、実行の際には細心の注意が必要です。本記事では、キャッシュアウトの意味やメリット・デメリット、手続きの流れや注意点をわかりやすく解説します。また、国内で行われた事例についても紹介します。
目次
キャッシュアウトとは、本来は支出を表す言葉ですが、経営におけるキャッシュアウトとM&Aにおけるキャッシュアウトでは意味が大きく異なります。そのため、どちらの文脈で使われているのかを理解することが大切です。まずは、日常的な場面でよく使用されるキャッシュアウトと会社法におけるキャッシュアウトの違いについて解説します。
キャッシュアウトとは、一般的に「資金が外部に流れ出ること」を意味します。経営やビジネスの場面では、企業の資金の流れを「キャッシュフロー」と呼びます。キャッシュフローはキャッシュイン(資金の流入)とキャッシュアウト(資金の流出)で構成され、キャッシュアウトには設備投資や仕入代金の支払い、借入金の返済などが該当します。
また、近年では、「キャッシュアウトサービス」という言葉があります。これは小売店などの店舗や券売機で、デジットカードやQRコードを使って現金を引き出すことができる仕組みです。買い物のついでに現金を引き出せるため、消費者はATMを探す手間を省くことができるなどのメリットがあります。
一方、会社法におけるキャッシュアウトとは、株主が保有する株式を会社が現金で買い取ることで、当該株主を実質的に退出させる手続きを指します。少数株主を強制的に排除する方法を「スクイーズアウト」と呼び、会社法上のキャッシュアウトとスクイーズアウトはほぼ同義で用いられます。
キャッシュアウトは、分散している株式を集約する目的で活用され、特にM&Aや事業承継の場面で選択されます。キャッシュアウトにより、全ての株式を取得することで経営の一元化が図られ、意思決定の迅速化や株主対応コストの削減といった効果が期待されます。
また、これまでのキャッシュアウトでは、株主総会の承認が必要となるケースが多く、手続きに一定の時間や負担が伴うことがありました。しかし、2014年の会社法改正により、対象企業の90%以上の株式を保有する特別支配株主は、他の株主に対して株式等売渡請求を行えるようになりました。これにより、キャッシュアウトの手続きが簡易化され、企業は事業承継がより円滑に進めやすくなりました。
キャッシュアウトと混合されがちな用語に「資金ショート」があります。キャッシュアウトとは、資金の流出や少数株主を撤退させる手段を意味します。
一方、資金ショートとは、企業が日常的な運営に必要な資金を確保できず、現金が不足する状態を指します。資金ショートは、資金流出の増加や売上の低迷などが原因で発生し、放置すれば企業の継続に直結する重大な問題となります。そのため、早期発見と迅速な対応が求められます。
経営においては、キャッシュアウトは資金の流出であるのに対し、資金ショートは資金流出の結果、資金不足に陥った状態を指す点に違いがあります。
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キャッシュアウトの主な手法は次のとおりです。
それぞれの手法について解説します。
キャッシュアウトの方法の一つとして、全部取得条項付種類株式の活用があります。全部取得条項付種類株式とは、株主総会の特別決議によって対象となる株式を全て取得できる種類株式です。
全部取得条項付種類株式を発行するには、定款変更によって株式会社を「種類株式発行会社」に変える必要があります。その後、発行済みの普通株式を全部取得条項付種類株式に変更します。これらの手続きには株主総会の特別決議が求められます。
種類株式に変更後、会社は特別決議による承認によって、すべての種類株式を取得し、対価として現金または普通株式の交付を行います。現金を対価とすることで、企業はすべての株主をキャッシュアウトすることができます。
全部取得条項付種類株式を活用したキャッシュアウトの注意点として、特定の株主のみ現金を対価にするなどの指定はできません。そのため、少数株主のキャッシュアウトを目的とする場合には、対価を普通株式とし、少数株主の持つ株式が端数株になるように調整して、端数株を現金で買い取る形で設計されることがあります。
キャッシュアウトでは、株式併合が用いられることもあります。株式併合とは、複数の株式を一定の割合でまとめ、株数を減少させる方法です。たとえば10対1の株式併合を行うと、100株を保有していた株主の持ち株は10株になります。なお、10株未満の株主は併合後に1株未満となり、この端数株は通常、会社が現金で買い取ります。
この株式併合の仕組みを活用し、少数株主の保有株式が1株未満の端数となるよう併合比率を設計することで、キャッシュアウトが可能になります。なお、株式併合を行うには株主総会の特別決議(原則として3分の2以上の賛成)が必要です。
近年、キャッシュアウト手法として活用されている方法が株式等売渡請求です。
株式等売渡請求とは、議決権の90%以上を保有する特別支配株主が、他のすべての株主に対し、自身への株式の売り渡しを請求できる制度です。2014年の会社法改正により導入され、迅速かつ強制力を伴うキャッシュアウト手法として注目されています。
この方法では、特別支配株主が売渡請求の意向を通知し、対象会社がこれを承認することで株式を取得することが可能です。他の株主は拒否権がなく、株主総会の特別決議による承認も不要であることから、他のキャッシュアウト手法に比べて実行がスムーズです。
子会社の株主をキャッシュアウトする手法として、株式交換が活用されます。株式交換とは、買収した企業の株式のすべてを取得し、株式または現金を対価に支払う方法です。
例えば、A社がB社を完全子会社化したい場合、B社の株主であるCの株式を取得し、対価にB社の株式または現金を支払います。B社の株式を対価とした場合、CはA社の株主からB社の株主になります。その後、株式併合を行い、Cに譲渡した株式を1株未満になるように調整し、端数株をB社が買い取ることでキャッシュアウトします。
株式交換によるキャッシュアウトは、2段階の手続きを要するためやや複雑ですが、組織再編に伴ってスムーズに少数株主を整理したい場合に有効です。
キャッシュアウトを行い、少数株主を整理することで、企業はさまざまなメリットを享受できます。しかし、キャッシュアウトは注意すべき点もあり、これらのデメリットも理解し、適切な手続きを行う必要があります。
ここでは、キャッシュアウトのメリット・デメリットについて解説します。
キャッシュアウトのメリットとして次のことが挙げられます。
それぞれのメリットについて解説します。
キャッシュアウトの大きなメリットの一つは、意思決定を迅速化できる点です。少数株主が残っている場合、企業の重要な施策を進める際に、株主対応のための確認や調整が必要になることがあります。
例えば、資本政策や組織再編、株式に関する手続などでは、説明や協議のプロセスが増え、判断に時間がかかることがあります。キャッシュアウトによって株主構成を整理できれば、少数株主に配慮した対応の負担が減り、意思決定までの流れをスムーズにしやすくなります。
結果として、経営判断のスピードを高め、状況変化にも柔軟に対応しやすくなります。
キャッシュアウトのメリットには、コストの削減も挙げられます。株主が多ければ、株主対応に関する事務負担や専門家費用が増えやすくなります。例えば、説明資料の作成、問い合わせ対応、交渉のための時間や体制、法務・税務・弁護士等への相談といったコストが発生する可能性があります。
また、少数株主が絡むことで手続が複雑化し、関連する社内工数も増えることがあります。キャッシュアウトにより株主を整理できれば、こうした対応範囲が縮小し、間接コストを抑えられる効果が期待できます。
M&Aや事業承継の円滑化もキャッシュアウトの大きなメリットです。M&Aでは、買収後に経営方針や組織体制を統合していく必要がありますが、株主が分散した状態のままだと、方針決定や施策実行の調整が増え、PMI(統合プロセス)が進みにくくなることがあります。
事業承継でも、後継者へ経営権を移し、安定的に運営体制を固めることが重要ですが、少数株主が残っていると資本施策の実行に時間がかかる場合があります。キャッシュアウトによって株主を集約できれば、経営の一体性が高まり、買収後の統合や後継体制への移行を進めやすくなります。結果として、移行リスクを抑え、プロセス全体を安定させる効果が期待できます。
キャッシュアウトのデメリットには、次のようなことが挙げられます。
それぞれのデメリットについて解説します。
キャッシュアウトの実施には、会社法で定められた手続きを踏む必要があり、慎重な進行が求められます。例えば、基準日公告、株主総会の特別決議、招集通知、開示資料の整備など、一定のプロセスが必要になります。
また、株式等売渡請求のように比較的迅速な手法であっても、実行には最低20日かかり、他の手法では2か月以上の期間を要することもあります。さらに、キャッシュアウトは会社法上の要件を満たしている必要があります。例えば、株式等売渡請求では特別支配株主(議決権の90%以上の保有)であることが要件となるため、90%未満の場合には、TOB(株式公開買付)等で議決権比率を引き上げる工程が発生し、資金面・時間面の負担が増えます。
また、全部取得条項付種類株式や株式併合のような方法も、定款変更や株主総会の特別決議が必要となるため、柔軟かつ短期間での実行が難しくなります。このことから、キャッシュアウトを実行する際には、計画的な準備が重要になります。
キャッシュアウトでは、少数株主の持ち株を適正価格で買い取るため、対価として現金の準備が必要になります。一般に企業価値が高いほど支払総額も大きくなり、株主数が多いほど資金負担が一層増大します。特に、キャッシュアウトは短期間で実行されることが多いため、実施時点で必要な現金を確保できるかどうかが重要になります。
また、株式の評価には第三者による算定が求められ、金額の妥当性が欠けると訴訟リスクにも直結します。そのため、市場価格や資産価値などを踏まえた十分な金額を用意する必要があります。未上場企業の場合でも、純資産ベースの評価が用いられるケースでは、想定以上の高額な支出となる可能性があります。キャッシュアウトを実行する際には、事前の資金調達計画が不可欠になります。
キャッシュアウトは、少数株主の意思にかかわらず株式を強制的に取得する手続きであるため、納得を得られない場合にはトラブルに発展する可能性があります。特に対価の金額や手続きの進め方に不満がある場合、当事者間の対立が長期化するリスクがあります。
実務で起こりやすいトラブルとして、株式の買取価格を不服とする株主による「価格決定の申立て」や、「株主総会決議取消しの訴え」などが挙げられます。さらに、会社法上の手続きに瑕疵があると判断されると、差止請求や役員責任追及訴訟に発展するおそれもあります。
こうしたリスクを回避するためには、対価の適正性を十分に担保し、丁寧な説明を行うことが大切です。加えて、外部専門家の支援を得ながら、手続きや価格評価の適法性を確保しておく必要があります。
キャッシュアウトが実施された事例を紹介します。
2024年2月、KDDIと三菱商事はローソンと資本業務提携を締結しました。両社は共同でローソンの非公開化に向けたTOB(株式公開買付)を実施し、同年4月に買付けが成立しました。
その後、7月の臨時株主総会で株式併合と定款変更が可決され、発行済株式が2株のみ(KDDIと三菱商事がそれぞれ保有)となるキャッシュアウトが実行されました。その後上場廃止が完了し、8月にはKDDIと三菱商事がそれぞれ50%ずつを出資する体制が整いました。
この提携により、両社はローソンを通じてリアルとデジタルの連携を強化し、経済圏拡大や生活インフラの高度化を図る方針です。
参考:LAWSON「三菱商事・KDDI・ローソン、資本業務提携契約を締結」
2024年6月、永谷園ホールディングスは創業家と投資ファンドの丸の内キャピタルによるマネジメント・バイアウト(MBO)を実施し、TOBおよび株式併合によるキャッシュアウトを経て9月に上場を廃止しました。
長期的な視点に基づく経営体制の確立と、意思決定の迅速化を目的としています。キャッシュアウトにより少数株主を整理し、非公開化された後は、さらなるブランド強化と新規事業展開が進められています。
参考:株式会社永谷園ホールディングス「MBOの実施及び応募の推奨に関するお知らせ」
2022年、新潟県本土と佐渡島を結ぶ定期航路を運航する佐渡汽船は、みちのりホールディングス傘下に入るとともに上場を廃止しました。株式併合により27万株を1株に統合し、端株を1株30円で買い取るキャッシュアウトを実施しました。
当時の株価202円に比して大幅なディスカウントでしたが、債務超過や再建状況が考慮されました。公共交通再編の中で実行されたこの事例は、株主保護と経営合理化の両立に課題を残しつつも、迅速な支配権移行を果たしました。
さらに、2026年4月には10万株を1株とする株式併合が行われました。
2020年、ソフトバンクと韓国ネイバーは、共同出資会社を通じてLINEの非公開化を進め、Zホールディングスとの経営統合を目指しました。全株取得を狙ったTOBは一部少数株主の応募が得られずすべての株式を取得できなかったため、同年12月の臨時株主総会で約2,900万株を1株に併合する株式併合を決議し、少数株主をキャッシュアウトしました。
その結果、LINE株は上場廃止となり、2021年3月にはZホールディングスとの経営統合が完了しました。
参考:日本経済新聞「LINEが臨時株主総会 統合へ株式併合案可決」
新電力事業を展開していたエナリスは、過去の不適切会計による経営不安が続いていました。KDDIは2016年に「auでんき」を展開するに当たり、電力需給管理を担うパートナーとしてエナリスと提携しました。
経営安定化の必要性から、2018年に電源開発(Jパワー)と共同でTOBを実施し、議決権の3分の2を取得した上で株式併合によるキャッシュアウトを行い、子会社化を実現しました。KDDIは電力分野を「au経済圏」の一角と位置付けており、本件は通信とエネルギーの融合を図る中核的な戦略の一環といえます。
参考:KDDI株式会社「株式会社エナリス株券等(証券コード 6079)に対する公開買付けの開始に関するお知らせ 」
2015年、米投資ファンドのベインキャピタルは、買収目的会社BCJ-22を通じて雪国まいたけに対してTOBを実施し、全株取得後にキャッシュアウトを行いました。背景には、2013年に発覚した不適切会計や、創業者退任後も続いた経営陣の対立があり、混乱の収束と非公開化による経営再建を図る目的がありました。
買収後は財務体質の改善や事業の選択と集中が進められ、2020年には再上場を果たしました。再上場はベインによるバイアウト案件としても注目され、2025年には社名を「ユキグニファクトリー株式会社」に変更。プレミアムきのこ総合メーカーへと多角化戦略を進め、国内事業の強化だけでなく海外に向けたグローバル展開も目指しています。
参考:日本経済新聞「雪国まいたけ、脱・創業家へ切り札 経営陣と銀行団」
パイオニアは、カーエレクトロニクス事業の不振や構造改革費用の増加により、財務状況が急速に悪化していました。資金調達の必要性が高まる中、2018年に香港の再生ファンドであるベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)から出資を受け入れ、経営再建を図る体制に移行しました。
その後、BPEAは支配株主として2019年に株式併合を実施し、少数株主の排除によるキャッシュアウトを行いました。これによりパイオニアは完全子会社となり、同年3月には上場廃止が完了しました。
参考:経済産業省「外部知見を取り入れた再生プランによる急速な立ち上がり」
モバイルコンテンツ事業を展開するサイバードホールディングスは、2007年にTOBによるMBOが行われ、投資会社の子会社であるCJホールディングス傘下に入りました。翌2008年には全部取得条項付種類株式を活用してキャッシュアウトが実施され、上場廃止に至っています。
しかし、買付価格が低すぎるとして株主から提訴され、東京地裁は価格の適正性を認めたものの、東京高裁ではプレミア価格の上乗せを求める判断が示されました。この結果、当初より高い価格での買付が行われました。
参考:ロングリーチグループ「サイバードホールディングスに対する公開買付け成立」
キャッシュアウトとは、経営では資金の流出、会社法では少数株主を退出させる手法です。会社法におけるキャッシュアウトはスクイーズアウトとも呼ばれ、M&Aや事業承継の場面で用いられることがあります。
会社法の改正によって、キャッシュアウトの手続きが簡略化された反面、適切な手続きを行わなければ、訴訟リスクや法的トラブルとなる可能性もあります。この記事を通して、キャッシュアウトのメリット・デメリットや手法の違いを理解し、実行の際には専門家の支援を受けながら適切に進めることが大切です。
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