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公募増資とは、企業が新たに株式を発行し、不特定多数の投資家から資金を調達する方法です。事業拡大や設備投資、財務体質の改善などを目的に実施され、上場企業の代表的な資金調達手法の一つとして活用されています。
本記事では、公募増資の仕組みやPOとの関係、第三者割当増資や銀行融資など他の資金調達方法との違いをわかりやすく解説します。また、企業や株主にとってのメリット・デメリット、公募増資の実施手順についても詳しく紹介します。
さらに、投資家が公募増資の株式を購入する方法や実際の事例、よくある疑問まで幅広く解説します。公募増資の特徴や株価への影響を正しく理解し、企業分析や投資判断に役立てましょう。
目次
まず、公募増資に関する基本的な知識について紹介します。
公募増資とは、企業が新たな株式を発行し、不特定多数の投資家に取得を呼びかけて資金を調達する方法です。設備投資などに必要な資金を広く集められる他、株主層の拡大や株式の流通量を増やせるメリットがあります。
公募増資では、発行価格は通常、時価に近い水準で、やや割安に設定されます。これは、新たに投資家を募りながらも、既存株主の利益への影響をできるだけ抑えるよう配慮するためです。
一方で、公募増資は市場環境によって株価への影響が異なります。相場が堅調な局面では需給悪化への懸念は小さいものの、取引が低調な局面では株式数の増加が意識され、需給悪化への懸念から株価が下落する場合があります。
PO(公募・売出)とは、既上場企業が投資家に株式を取得してもらうための手法です。新たに発行する株式を販売する「公募(Public)」と、既に発行済みの株式を売却する「売出(Offering)」を合わせた言葉です。
公募とは、不特定多数の投資家に対して新たに発行する株式の取得を勧誘することであり、公募増資はこの公募によって新株を発行し、企業が資金を調達する方法です。設備投資などの資金確保に活用されます。
一方、売出は既存株主が保有株式を市場へ供給する仕組みで、企業には新たな資金は入りません。このように、POは公募増資を含む広い概念であり、公募と売出の違いを理解することが重要です。
公募増資と第三者割当増資は、いずれも新たな株式を発行して資金を調達する方法ですが、株式を引き受ける相手が異なります。公募増資は不特定多数の投資家を対象とするのに対し、第三者割当増資は取引先や金融機関、役職員など特定の相手に割り当てます。
第三者割当増資は、資金調達に加えて、取引先との関係強化や業務提携、事業承継などを目的として実施されることがあります。特定の相手に新株を割り当てられるため、戦略的な資本提携を進めやすい点が特徴です。
一方、公募増資は幅広い投資家から資金を集めやすい反面、株主構成が変化しやすい側面があります。これに対し、第三者割当増資は割当先を企業が選定できるため、経営権への影響を管理しながら資金調達や企業価値向上を図りやすい方法といえます。
公募増資と株主割当増資は、どちらも新たな株式を発行して資金を調達する方法ですが、新株を引き受ける対象が異なります。公募増資は不特定多数の投資家を対象とする一方、株主割当増資は既存の株主に対して新株を引き受ける権利を与える方法です。
株主割当増資では、既存株主が保有する株式数に応じて、有償で新株を取得できます。そのため、現在の株主が優先的に出資でき、持株比率を維持しやすい特徴があります。一方、公募増資は新たな投資家から幅広く資金を集められる反面、既存株主の持株比率が低下する可能性があります。
このように、両者は資金調達の方法だけでなく、株主構成や経営への影響にも違いがあります。
公募増資の他に次の二つの資金調達方法があります。
それぞれについて詳細に説明します。
公募増資と銀行融資は、いずれも企業が資金を調達する方法ですが、資金の性質が異なります。公募増資は新株を発行して投資家から出資を受ける方法であるのに対し、融資は金融機関から資金を借り入れる方法です。
公募増資で調達した資金には原則として返済義務がありませんが、新株の発行により既存株主の持株比率が低下する可能性があります。一方、銀行融資では株主構成は変わりませんが、借入金の返済と利息の支払いが必要です。
そのため、成長資金を幅広い投資家から調達したい場合は公募増資が適しており、経営権への影響を抑えながら必要な資金を確保したい場合は銀行融資が選ばれることがあります。企業は資金使途や財務状況に応じて適切な方法の選択が重要です。
融資と投資の違いについては以下の記事で解説しています。
公募増資と社債発行は、いずれも投資家から資金を調達する方法ですが、資金の性質が大きく異なります。公募増資は新株を発行して資本金を増やす方法であるのに対し、社債発行は投資家から資金を借り入れる負債による資金調達です。
公募増資で取得した株式の保有者は株主となり、企業の所有者として議決権などの権利を持ちます。一方、社債を購入した投資家は債権者であり、企業に対して元本や利息の支払いを受ける権利を有します。
また、公募増資では調達した資金に返済義務はありませんが、社債には満期時の元本返済と利息の支払いが必要です。そのため、両者は資金調達後の財務負担や経営への影響が異なるため、目的に応じて使い分けることが重要です。
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公募増資のメリットは、次のとおりです。
それぞれを詳しく説明します。
公募増資の最大のメリットは、大規模な資金を返済義務なく調達できることです。不特定多数の投資家から幅広く出資を受けられるため、銀行融資だけでは賄いにくい多額の資金を一度に確保できる可能性があります。特に上場企業にとっては、大型の資金調達を実現しやすい代表的な手法の一つです。
また、公募増資で調達した資金は自己資本となるため、借入金のように元本の返済や利息の支払いは発生しません。そのため、将来的な返済負担を気にすることなく、中長期的な成長戦略を進めやすい点も特徴です。
調達した資金は、新工場の建設や生産設備の新設・更新、研究開発への投資、M&Aによる事業領域の拡大、新規市場への進出などに活用できます。返済期限に左右されず、企業価値の向上につながる成長投資へ計画的に資金を配分できることは、公募増資ならではのメリットといえます。
財務基盤を強化できる点も公募増資のメリットです。調達した資金は貸借対照表上で自己資本として計上されるため、借入金に依存せず資本を充実させることができます。その結果、自己資本比率が向上し、企業の財務体質や経営の安定性が高まります。
また、調達した資金を銀行借入などの返済に充てれば、有利子負債を削減し、利息負担を軽減できる場合があります。借入依存度が低下することで、景気悪化や業績変動があった場合でも資金繰りが悪化しにくくなり、経営の柔軟性を高められます。
さらに、財務内容が改善することで、金融機関や取引先、投資家からの信用力が向上し、新たな資金調達や事業提携などを有利に進められる可能性もあります。
投資家層を広げられることも公募増資のメリットです。不特定多数の投資家を対象に新株を発行するため、新たな株主を獲得しやすくなり、株主構成の多様化が期待できます。
個人投資家だけでなく、年金基金や投資信託などを運用する機関投資家が株主となる場合もあり、安定した株主基盤を構築しやすくなることがあります。また、発行済株式数や市場で流通する株式数が増えることで株式の流動性が高まり、売買が活発になる可能性もあります。
このように、株式市場での認知度や注目度が高まることで、企業の知名度向上や将来的な資金調達のしやすさにつながることも、公募増資のメリットの一つです。
逆に、公募増資には次のデメリットもあります。
それぞれについて詳細に説明します。
公募増資のデメリットの一つは、株式の希薄化によって既存株主へ影響が生じることです。株式の希薄化とは、新たな株式の発行によって発行済株式総数が増加し、既存株主の持株比率や1株当たりの価値が相対的に低下する現象をいいます。
公募増資では新株を発行するため、既存株主の保有株式数が変わらなくても、全体に占める持株比率や議決権割合は相対的に低下します。また、企業の利益や純資産が同じであれば、発行済株式数の増加によって1株当たりの利益(EPS)や1株当たり純資産(BPS)も相対的に低下します。
こうした株式の希薄化が意識されることで、需給の悪化や投資家心理の影響から、短期的に株価が下落する場合もあります。
公募増資のデメリットの一つは、株主対応の負担が増えることです。公募増資によって新たな株主が増えると、企業はより多くの株主に対して配当金や株主優待などの株主還元を行う必要があり、株主還元にかかる総額が増加する場合があります。
特に、1株当たりの配当額を維持する方針を採用している企業では、発行済株式数の増加に伴って配当総額も増加します。利益の増加が配当負担の増加に追いつかなければ、利益剰余金が減少し、将来の設備投資や研究開発に充てられる資金が制約される可能性があります。
また、株主数の増加に伴って株主総会やIR活動を通じた説明責任も大きくなります。さらに、大口の機関投資家やアクティビスト株主が新たな株主となった場合には、経営戦略や資本政策などについて提言や改善要求を受ける可能性もあります。
そのため、公募増資を実施する際は、事業への投資と株主還元のバランスを保つとともに、株主との適切な対話を行うことが重要です。
資本金の増加によって中小企業向けの税制優遇を受けられなくなる可能性がある点もデメリットです。資金調達によって財務基盤を強化できる一方で、資本金の増加に伴い税負担が重くなるケースもあるため、事前に影響を確認することが重要です。
例えば、資本金が原則1億円を超えると、中小企業向けの法人税の軽減税率や少額減価償却資産の特例、交際費の定額控除、設備投資に関する税額控除・特別償却など、さまざまな税制優遇措置の対象外となる場合があります。その結果、法人税などの負担が増加する可能性があります。
さらに、資本金が1億円を超えると、事業税の外形標準課税の対象となることがあります。外形標準課税では所得だけでなく資本金や付加価値額なども課税対象となるため、赤字であっても事業税を負担しなければならない場合がある点にも注意が必要です。
公募増資を実施するには次の手順を踏みます。
それぞれについて詳細に説明します。
公募増資を実施する際は、まず募集事項を決定するための決議を行います。公開会社では、原則として取締役会の決議によって、新たに発行する株式数や払込金額、払込期日などの募集事項を決定します。これが公募増資の最初の手続きです。
一方、非公開会社では、原則として株主総会の特別決議によって募集事項を決定します。ただし、定款に定めがある場合は、取締役や取締役会へ募集事項の決定を委任できるケースもあります。
また、市場価格より著しく低い価格で特定の相手に新株を発行する「有利発行」を行う場合は、取締役が株主総会でその必要性や理由を説明し、株主の承認を得なければなりません。これにより、既存株主の利益を保護する仕組みが設けられています。
公募増資では、取締役会などで募集事項を決定した後、有価証券届出書を管轄の財務局へ提出します。金融商品取引法では、一定の条件を満たす募集を行う場合に、この届出書の提出が義務付けられています。投資家へ適切な情報を開示するための重要な手続きです。
有価証券届出書には、発行する株式の募集条件や資金使途の他、企業の事業内容、経営状況、財務諸表など、投資判断に必要な情報を詳細に記載します。これにより、投資家は企業の状況を把握した上で投資の可否を判断できます。
提出された有価証券届出書は、原則として受理日から中15日を経て効力が発生します。効力発生日以降は、投資家に対して正式に募集を行うことができ、公募増資の手続きが次の段階へ進みます。
公募増資では、有価証券届出書の提出後に公募条件を決定します。公募条件には、新たに発行する株式を投資家が取得する際の払込金額や申込期間などが含まれます。払込金額は、投資家が株式を取得するために支払う1株当たりの対価です。
払込金額の決定方法には、ブックビルディング方式と競争入札方式があります。現在の日本では、仮条件を投資家に提示し、需要を調査した上で最終的な価格を決めるブックビルディング方式が一般的に用いられています。
公募条件が決定した後は、企業がプレスリリースなどを通じて速やかに投資家へ開示します。これにより、投資家は払込金額や募集内容を確認し、株式の取得を申し込むかどうかを判断できるようになります。
公募条件が決定した後は、株式の引受申込者に対して、募集事項の内容を通知または公告します。特に、払込金額や払込期日などは、投資家が出資を行う上で重要な情報であるため、明確に伝える必要があります。
株式の引受人は、定められた払込期日までに、割り当てられた株式に対する払込金額の全額を支払います。期日までに払込みが行われない場合、その引受人は株主となる権利を失うため、手続き上の期限管理が重要です。
公募増資で払込みが完了し、増資の効力が発生した後は、法務局で変更登記手続きを行います。新株の発行に伴って発行済株式総数や資本金の額が変更されるため、会社法に基づき登記事項を更新する必要があります。
変更登記の申請期限は、原則として増資の効力発生日から2週間以内です。期限内に手続きを完了させることで、会社の登記情報が最新の内容に更新され、公募増資に関する法的手続きが適切に進められます。
また、登記申請に加えて、新たな株主構成を反映した株主名簿の更新も必要です。資本金や発行可能株式総数に変更が生じた場合は、定款の内容についても現状に合わせて修正し、会社情報を適切に管理することが求められます。
投資家が公募増資の株を購入するには次の手順を踏みます。
それぞれについて詳細に説明します。
公募増資の株式を購入するには、まず証券会社で口座を開設し、ブックビルディングへ参加します。ブックビルディングとは、投資家から購入希望株数や価格を募り、その需要を基に公募価格を決定する仕組みです。参加する前には、目論見書の内容を十分に確認することが重要です。なお、公募増資の募集方法や購入手続きは、証券会社によって異なる場合があります。
ブックビルディングは、証券会社のウェブサイトやアプリから申し込むことが一般的です。申込期間中であれば、購入希望内容の訂正や取消しが可能ですが、受付期限を過ぎると変更できません。また、多くの証券会社では、電子交付された目論見書の閲覧・承諾が申し込みの条件となっています。
ブックビルディングへの参加は購入を希望する意思を示す手続きであり、申し込みを行っただけで株式を購入できるわけではありません。募集株数を上回る申し込みがあった場合は抽選が行われ、当選した投資家のみが公募価格で株式を購入できます。
ブックビルディング期間が終了すると、公募増資の発行価格(公募価格)が決定されます。発行価格は、投資家から集まった需要状況を基に算定されるため、企業価値や市場環境を反映した価格となります。購入を希望する投資家は、まず決定した発行価格を確認することが重要です。
発行価格の決定日は、ブックビルディング期間中のいずれかの日に設定されており、証券会社の取引画面や公募・売り出情報ページなどで確認できます。併せて、最終的な募集条件や購入申込期間なども公表されるため、目論見書の内容と併せて確認しておくと安心です。
発行価格が決定した後は、その価格で購入するかどうかを最終判断します。購入を希望する場合は、証券会社が定める期間内に購入申し込みを行い、必要な手続きを完了させる必要があります。期限を過ぎると購入できないため、日程を事前に確認しておくことが大切です。
発行価格が決定したら、証券会社を通じて購入申し込みを行います。公募増資では、購入希望者が募集株数を上回ることが多いため、申し込みを行った後に抽選が実施されます。抽選に参加するには、購入代金に相当する資金をあらかじめ口座へ入金する必要があります。ただし、一部の証券会社では事前入金が不要なこともあります。
抽選は証券会社が定める日時に実施され、申込内容が有効であり、必要な買付余力が確保されている投資家が対象となります。口座残高が不足していたり、抽選前に資金を出金したりすると、抽選の対象外となる場合があるため注意が必要です。
抽選の結果、当選した投資家は公募価格で株式を購入できます。一方、落選した場合は購入できず、補欠当選となるケースもあります。購入申し込みを行う際は、申込期限や必要資金、証券会社ごとのルールを事前に確認しておくことが大切です。
購入申し込み後は、証券会社が抽選を実施し、当選・補欠当選・落選の結果が公表されます。抽選結果は、証券会社の取引画面や専用ページで確認することが一般的です。募集株数を上回る申し込みがあった場合は抽選となるため、購入申し込みを行っても必ず株式を取得できるわけではありません。
当選または補欠当選した場合は、購入期限内に購入するか辞退するかの意思表示を行う必要があります。購入を希望する場合は、目論見書の内容を改めて確認した上で手続きを進めます。なお、期限までに意思表示を行わない場合は、当選していても購入する権利を失うため注意が必要です。
購入意思を示した当選者は、公募価格で株式を取得できます。一方、補欠当選者は、当選者の辞退などによって繰上当選となった場合に限り購入できます。約定後は株式が証券口座へ反映されるため、最終的な購入結果や保有状況を確認して取引を完了します。
公募増資の実施事例として、次の企業があります。
それぞれについて詳細に説明します。
日本航空(JAL)は2020年、新型コロナウイルス感染拡大によって世界的に航空需要が急減し、旅客収入が大きく落ち込んだことを受け、公募増資を実施しました。調達額は最大約1,680億円に上り、コロナ禍における国内企業の大型資金調達として大きな注目を集めました。
当時の航空業界は、感染拡大防止のための渡航制限や外出自粛の影響を受け、国内線・国際線共に利用者数が大幅に減少していました。JALも厳しい経営環境に直面しており、事業継続に必要な資金の確保と、需要回復後を見据えた成長投資の両立が課題となっていました。
調達した資金のうち約1,000億円は、燃費性能や環境性能に優れた航空機の導入や、LCC事業への投資などに充てられました。また、残りの資金は借入金や社債などの有利子負債の返済にも活用され、財務基盤の強化にも役立てられています。
この事例は、公募増資を単なる資金繰り対策ではなく、財務体質の改善と将来の成長投資を同時に実現するための手段として活用した代表例といえます。
参考:日本経済新聞「JAL、1600億円公募増資 コロナ後見据え投資へ」
東芝は2009年、世界的な金融危機によって企業を取り巻く経営環境が悪化する中、公募増資を実施しました。景気後退による資金調達環境の変化に対応するとともに、自己資本を充実させて財務基盤を強化し、将来の成長分野への投資を継続することが目的でした。
当時は世界的な景気低迷の影響で設備投資や企業収益が落ち込み、多くの企業が財務基盤の強化を課題としていました。東芝も厳しい経営環境の中で、競争力を維持するためには成長分野への投資を継続する必要がありました。
調達した資金は、NAND型フラッシュメモリをはじめとする半導体事業や社会インフラ事業への設備投資、研究開発などに活用されました。また、有利子負債の削減にも充てられ、財務体質の改善にも役立てられています。
この事例は、景気後退局面であっても、公募増資を活用して財務基盤を強化しながら将来の成長投資を継続した代表例として知られています。
参考:株式会社東芝
住友ファーマは2026年4月に、公募増資により最大約1,164億円を調達すると発表しました。調達した資金は、新薬開発などの成長投資と財務基盤の強化に活用する方針です。また、既存借入金の借り換えを目的として、総額1,500億円規模のブリッジローン契約も締結し、財務体質の改善を進めました。
公募増資で調達した資金は、抗がん剤をはじめとする新薬開発の他、神経・感染症領域や再生医療分野への研究開発投資に充てられます。さらに、有利子負債の返済にも活用することで、成長投資を継続しながら財務負担の軽減を図る計画です。
住友ファーマは、海外企業との提携や買収によって借入金が増加し、財務基盤の強化が課題となっていました。今回の公募増資では、親会社に依存しない資金調達体制の構築も進め、研究開発を継続できる経営基盤の確立と、中長期的な企業価値の向上を目指している点が特徴です。
参考:日本経済新聞「住友ファーマ、公募増資で最大1164億円調達 つなぎ融資1500億円も」
日本電子は2021年、公募増資などにより最大約173億円を調達すると発表しました。同社は、半導体の電子回路の原版となるフォトマスクに微細なパターンを描く電子ビーム描画装置を手掛けており、半導体需要の拡大を見据えた資金調達として実施されました。
調達した資金は、電子ビーム描画装置の生産能力を高めるための設備投資や、競争力を強化するための研究開発に充てられる予定です。半導体関連市場の成長に対応するため、生産体制の整備と技術開発を同時に進める狙いがあります。
また、提携関係にあるニコンは保有する日本電子株式の一部を売却しましたが、電子顕微鏡の販売や分析技術の共同開発などの協力関係は維持するとしています。この事例は、公募増資を活用して成長分野への投資資金を確保した代表例です。
参考:日本経済新聞「日本電子が公募増資、提携のニコンは保有株一部売却」
JR西日本は2021年、新型コロナウイルス感染拡大による鉄道利用者の減少で業績が大きく悪化したことを受け、公募増資などにより最大約2,786億円を調達すると発表しました。JRグループとしては、1987年の国鉄民営化後初となる公募増資であり、財務基盤の立て直しを目的とした大型の資金調達として注目を集めました。
調達した資金は、大阪駅西側エリアの再開発や、新幹線車両の導入、鉄道運行の効率化につながるセンサーやネットワーク検査機器などへの設備投資に充てられる予定です。また、長期借入金などの返済にも活用し、自己資本の充実と財務体質の改善を進める方針が示されました。
当時は、新型コロナ禍の長期化によって旅客需要の回復が想定より遅れ、自己資本比率も大きく低下していました。この事例は、公募増資によって財務基盤を強化するとともに、将来の成長投資を継続するための資金を確保した代表例といえます。
参考:日本経済新聞「JR西日本、公募増資など最大2786億円調達 グループ初」
三井不動産は2014年、公募増資などにより最大約3,245億円を調達すると発表しました。同社が公募増資を実施するのは1982年以来約32年ぶりで、財務基盤の補強ではなく、中長期的な成長投資を目的とした資金調達として実施された点が特徴です。
調達した資金は、東京・日本橋地区をはじめとする都心部のオフィスや商業施設の再開発事業に充てられる計画です。国内不動産市場の回復や再開発需要の拡大を背景に、新たな不動産開発を積極的に進め、将来の収益基盤を強化することを目指しました。
この事例は、公募増資を活用して大型の再開発プロジェクトへ投資し、企業価値の向上を図った代表例です。借入金だけに依存せず返済義務のない資金を調達することで、成長投資を進めながら将来的な利益拡大を目指した戦略的な資金調達といえます。
参考:日本経済新聞「成長投資へ公募増資 三井不動産、32年ぶり3000億円」
ゼンショーホールディングスは2023年、公募増資と第三者割当増資により最大約500億円を調達すると発表しました。同社が公募増資を実施するのは2014年以来約9年ぶりで、国内外での事業拡大を目的とした成長資金の確保として実施されました。
調達した資金は、国内外の外食チェーンを対象としたM&Aに活用する方針です。具体的な買収先は未定でしたが、マルチブランド戦略の推進や調達・物流体制の強化を図ることで、グループ全体の競争力向上を目指しました。M&Aが実施されなかった場合は、借入金の返済に充てる計画も示されています。
ゼンショーHDは、「すき家」をはじめ、「ココス」「なか卯」「ジョリーパスタ」など数多くのブランドをM&Aによって拡大してきました。近年もロッテリアや海外のすしチェーンを買収しており、公募増資による資金調達を活用して、国内外でさらなる事業拡大と企業価値の向上を目指した代表的な事例です。
参考:日本経済新聞「ゼンショーHD 公募増資など最大500億円調達 M&Aに」
ANAホールディングスは2020年、新型コロナウイルス感染拡大による航空需要の急減を受け、公募増資などにより最大約3,052億円を調達しました。大幅な業績悪化で自己資本比率が低下する中、財務基盤を強化し、将来の事業継続に必要な資金を確保することを目的とした大型の資金調達でした。
調達した資金のうち約2,000億円は、燃費性能に優れた航空機の購入や既存機の客室改修などの設備投資に充てられました。残りの資金は有利子負債の返済に活用し、借入金の圧縮と財務体質の改善を進めることで、経営の安定化を図る方針が示されました。
この事例は、公募増資を活用して財務基盤の立て直しと将来の成長投資を両立した代表例です。コロナ禍という厳しい経営環境の中でも、設備投資を継続しながら自己資本を充実させ、中長期的な企業価値の向上を目指した資金調達として注目されました。
参考:日本経済新聞「ANAの増資調達、最大3052億円に 発行価格を決定」
ソニーは2015年、公募増資と新株予約権付社債(CB)の発行により、最大約4,400億円を調達すると発表しました。同社が公募増資を実施するのは約26年ぶりで、経営再建を進めた後、将来の成長に向けた投資資金を確保することを目的とした大型の資金調達でした。
調達した資金は、世界トップクラスのシェアを持つ画像センサー事業を中心に、生産能力の増強や研究開発へ重点的に投資されました。スマートフォン向け画像センサーの需要拡大を見据え、デバイス事業の競争力をさらに高めるとともに、将来の収益基盤を強化する戦略が示されました。
この事例は、公募増資を財務再建ではなく、成長投資のために活用した代表例です。自己資本の充実によって財務体質を強化しながら、成長分野へ積極的に投資することで、中長期的な企業価値の向上を目指した資金調達として注目されました。
参考:日本経済新聞「ソニー、成長に軸足 公募増資など4400億円調達」
楽天グループは2023年、公募増資と第三者割当増資により最大約2,942億円を調達しました。携帯電話事業への投資負担が重くなり、財務体質の改善が急務となる中、負債を増やさずに資金を確保することを目的とした大型の資金調達でした。
調達した資金は、基地局整備など携帯事業への投融資に加え、社債償還などの財務改善にも充てられました。楽天は携帯事業の投資を社債や借入で賄ってきたため、今後の償還負担が大きく、自己資本を厚くする必要がありました。
一方、公募増資と第三者割当増資により発行済株式数は大きく増加し、既存株主にとっては株式の希薄化が懸念されました。この事例は、成長事業への投資継続と財務基盤の立て直しを同時に進めるため、公募増資が活用された代表例です。
参考:日本経済新聞「楽天Gの増資、発行価格566円 調達額は最大2942億円」
最後に、公募増資に関するよくある質問とその回答を紹介します。
公募増資は、企業が新株を発行して資金を調達する方法であり、黒字か赤字かによって実施の可否が決まる制度ではありません。そのため、赤字企業であっても、必要な手続きを経て公募増資を行うことができます。
実際には、財務基盤の強化や有利子負債の削減、事業再建、設備投資や研究開発などの成長投資を目的として、公募増資を実施する企業もあります。
ただし、公募増資を実施できることと、投資家から十分な資金を集められることは別です。投資家は、現在の業績だけでなく、資金調達の目的や資金使途、今後の事業計画や収益改善の見込みなどを総合的に判断して投資の可否を決めます。
公募増資では新株が発行されるため、発行済株式総数が増加し、既存株主の1株当たりの利益や議決権の割合が相対的に低下します(株式の希薄化)。これにより、短期的には株価が下落するリスクがあり、既存株主にとってマイナスの側面があるのは事実です。
一方で、公募増資によって調達した資金を設備投資や研究開発、M&Aなどへ有効に活用できれば、将来的な業績や企業価値の向上につながり、結果として株価の上昇が期待できる場合もあります。そのため、公募増資が株主にとって必ずしもマイナスとはいえず、資金の使い道や将来の成長性を含めて総合的に判断することが大切です。
公募増資では、有価証券届出書に調達資金の使途を具体的に記載することが義務付けられています。設備投資や運転資金、借入金の返済、M&Aなどの用途ごとに、使途の内容や金額だけでなく、支出予定時期についても明確に開示しなければなりません。
また、主幹事証券会社は、発行会社に対して資金使途や支出予定時期を発表資料や有価証券届出書へ具体的に記載するよう求めています。これは、投資家が資金の活用計画を把握し、適切な投資判断を行えるようにするためです。
そのため、有価証券届出書では、支出予定時期を「未定」や「無期限」と記載することは認められていません。具体的な年月や一定期間を示すなど、できる限り具体的に開示し、調達資金の使途について透明性を確保することが求められます。
公募増資へ申し込む前には、目論見書の内容を確認することが重要です。
目論見書とは、公募増資で発行される株式の募集条件や企業の事業内容、財務状況、リスク要因、調達資金の使途など、投資判断に必要な情報を記載した書類です。金融商品取引法では、公募を行う際に原則として目論見書を投資家へ交付(電子交付を含む)することが求められています。
また、多くの証券会社では、電子交付された目論見書の閲覧・承諾を、公募増資への申し込みやブックビルディング参加の条件としています。具体的な手続きは証券会社によって異なるため、事前に確認しておきましょう。
公募増資では、一般的にブックビルディング(需要申告)期間中であれば、申し込み内容の訂正や取消しができる場合があります。この段階では、購入希望株数や申し込み内容を変更できるケースもあります。
一方、公募価格が決定した後に購入意思表示を行った場合は、原則としてキャンセルできないケースが一般的です。これは、購入意思表示を基に証券会社が株式の割り当てや受渡しの手続きを進めるためです。
また、申し込みの取消しや変更が可能な期間、手続きの方法は証券会社によって異なります。公募増資へ申し込む際は、ブックビルディング期間や購入意思表示の期限などを事前に確認し、各証券会社の取り扱いルールに従って手続きを進めることが大切です。
公募増資は一度発表されても、必ず実施されるとは限りません。市場環境の悪化や株価の大幅な下落などにより、予定していた条件で十分な資金調達が難しいと判断された場合や、公募増資の実施が既存株主の利益を損なうと判断された場合には、中止されることがあります。
例えば、シャープは2018年に予定していた最大約2,162億円の公募増資を中止しました。米中貿易摩擦などを背景に世界的な株式市場が不安定となり、株価も下落したことから、公募増資を実施する環境として適切ではないと判断したためです。同社は、既存株主を含むステークホルダー全体の利益を総合的に考慮した結果、中止を決定しました。
当初は、調達した資金を優先株式の取得・消却や研究開発への投資などに充てる予定でしたが、市場環境を踏まえて実施を見送りました。このように、公募増資は企業の資金需要だけでなく、市場環境や株価の動向、想定どおりの資金を調達できるかどうかなども踏まえ、最終的な実施が判断されます。
公募増資を行うと、新たに発行した株式の払込金が企業へ入るため、理論上は調達した資金の分だけ企業価値が増加し、時価総額も増えると考えられます。一方で、新株発行により発行済株式数が増えるため、1株当たりの価値は希薄化する可能性があります。
実際の時価総額は、「株価×発行済株式数」で決まります。そのため、公募増資後に株価が大きく下落すれば、発行済株式数が増えても時価総額が期待どおり増えない、あるいは減少する場合もあります。市場は資金使途や将来の成長性を踏まえて企業価値を評価します。
そのため、公募増資を実施したからといって、時価総額が必ず増えるとは限りません。調達資金を設備投資や研究開発、M&Aなどへ効果的に活用し、将来の収益力や企業価値を高められるかどうかが、時価総額の変化を左右する重要な要因となります。
公募増資では、新株の発行による株式の希薄化や需給悪化への懸念から、株価が下落することがあります。しかし、株価は市場全体の動向や投資家心理など、企業だけではコントロールできない要因にも左右されるため、公募増資を実施したからといって必ず大幅な株価下落につながるわけではありません。
企業ができる対策としては、増資を行う目的や調達資金の使途を具体的に説明し、増資によってどのような成長や収益拡大を目指すのかを明確に示すことが挙げられます。また、業績や市場環境を踏まえて実施時期を慎重に判断することで、既存株主への影響を抑えられる場合もあります。
さらに、公募増資の実施後も、資金の活用状況や事業の進捗(しんちょく)を継続的に開示し、株主や投資家との対話を重ねることは、市場からの信頼を高める上で重要です。こうした情報開示を積み重ねることで、公募増資の目的や成長戦略について理解を得やすくなり、中長期的な企業価値の向上が期待できます。
公募増資は企業が新たな資金を調達するための有効な手段ですが、その実施には慎重な判断が求められます。企業としては資金調達と引き換えに株式の希薄化や株価への影響を考慮する必要があります。一方、投資家にとっては株価の動向を見極めることが重要です。
公募増資を理解することで、企業の財務戦略や市場の動向をより深く知ることができるでしょう。企業は最適な資金調達方法を見つけるために、公募増資だけでなく、他の方法との比較検討が不可欠です。状況に合わせた適切な選択を行いましょう。
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