事業買収とは?企業買収との違いやメリット、注意点を徹底解説

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事業買収とは、企業または個人が他社の事業を買い取る行為を指します。買収には事業買収と企業買収があり、どちらも他社の保有する経営資源を活用することで短期間かつ低コストで事業拡大や新規事業の参入を狙うことができます。しかし、事業買収には企業買収とは異なるリスクや注意点があり、理解せずに手続きを進めると思わぬ損失を被る可能性もあります。

本記事では、事業買収とは何か、目的から企業買収やM&Aとの違い、メリット・デメリット、手続きの流れや注意点についてわかりやすく解説します。また、従業員や社員への影響、事例も併せて紹介しますので、自社の事業拡大の参考にしてください。

事業買収とは

事業買収とは、他社の事業を取得するM&A手法です。M&Aとは、合併と買収を表す用語であり、そのスキームには事業譲渡や株式譲渡、会社分割などがあります。事業買収と事業譲渡は同じ意味合いで使われることもありますが、事業譲渡は会社や事業を買収する際のスキームの一種という位置づけになります。

事業買収により、他社の人材・顧客・設備・技術・ノウハウなどを獲得することで、買い手はより効率的な経営を目指すことができます。また、売り手は不採算事業を現金化することができ、新規事業への資金として活用することが可能になります。

事業買収と似た言葉には、企業買収・事業売却・M&Aなどがあります。ここでは、事業買収の目的と混合しやすい用語との違いについてわかりやすく解説します。

事業買収の目的

買い手が事業買収を行う目的は企業によって様々ですが、共通している点は経営資源の確保によるコスト削減や利益の向上にあります。事業買収の主な目的として以下が挙げられます。

  • 成長速度の最大化
  • 新規事業参入・多角化によるリスク分散
  • 技術・人材・ブランドの獲得
  • 競合排除・バリューチェーン補完 

それぞれの目的について紹介します。

成長速度の最大化 

買い手が他社の事業を買収する目的のひとつに、自社の成長速度の最大化があります。買い手は売り手の顧客基盤や設備、販売網を取り込むことで、短期間で既存事業の市場シェアを拡大し、売上を向上させることが期待できます。特に関連事業を買収すれば、生産から流通までを一体化でき、経営効率の最適化にもつながります。このように、事業買収による他社の経営資源の獲得は、単独で成長を目指すよりもスピード感を持った事業の成長に寄与します。

ただし、成長速度を加速させるには、買収相手の選定が極めて重要です。また、提案時に自社都合だけを押し付けると、売り手の反発を招き、買収が難航するリスクがあります。事業買収では、自社と買収企業の相乗効果を具体的に検討し、交渉の場では売り手の希望や意見を丁寧に聴取して条件を協議・修正する柔軟性が大切です。

新規事業参入・多角化によるリスク分散 

事業買収の目的には、リスク分散も挙げられます。既存事業の拡大だけでなく、新規事業へ参入して多角的な事業経営を目指す際にも、事業買収は有効な手段です。自社が特定分野に特化している場合、その分野だけに依存すると、景気変動や市場の縮小時に大きく影響を受けるリスクが高まります。

他社の事業を買収して新規市場へ進出することで、単一事業のリスクを分散できます。これにより、特定分野の市場が縮小したり経営状況が悪化した場合でも、安定した収益を確保しやすくなり、従業員の雇用維持や企業の存続が可能となります。必要な事業だけを取得する形の事業買収は、リスクを分散しながら経営を安定させる方法として効果的です。

技術・人材・ブランドの獲得 

事業買収は、他社にしかない技術・人材・ブランドを獲得することを目的として行われることもあります。他社の既存事業を買収することで、売り手の資産だけでなく、独自の技術やブランド、専門人材を自社に取り込むことが可能です。特有のノウハウや優秀な人材を獲得できれば、サービスや商品の開発期間を短縮するとともに、競合他社に対する競争力を高めることが期待できます。

特に、技術やブランド獲得を目的とした事業買収を進める際には、売り手の技術やブランドを維持・活用できる人材の確保が不可欠です。長年技術を磨き、ブランドの提供を担ってきた従業員を適切に待遇することで、買収後も高品質なサービス・商品を安定して提供できる体制を維持できます。

競合排除・バリューチェーン補完 

競合他社に対して優位に立つためにも事業買収が行われます。自社が限定的な地域で事業を展開している場合、単独で他地域へ進出して市場シェアを拡大することが難しい場合があります。そのような場合に、他地域で展開している同業種や関連性の高い業種を買収することで、短期間で事業を展開させ、市場シェアを広げられる可能性が高まります。

競合する企業を取り込めば、シェア拡大に加えて価格競争の緩和が期待でき、利益の安定化にもつながりやすくなります。さらに、買収を通じて自社の競争優位性が弱い分野を補完することも可能です。自社と競合他社を比較した場合に不足している資源や能力を、事業買収により埋めることができます。

事業買収と企業買収の違い

事業買収と混合されやすい用語に「企業買収」があります。事業買収と企業買収では、買収の範囲が異なります。事業買収は、他社の事業の一部または全部を取得するのに対し、企業買収は、株式や資産を取得してその企業を支配下に置く手法です。買収後、売り手企業は買い手企業の子会社などとして事業を存続します。企業買収でも、買い手は既存事業を強化したり、新規事業へ参入したりすることが容易になります。

ただし、企業買収は会社全体を取得するため、事業買収と比べて買収費用が高額になる可能性があります。さらに、経営統合には時間がかかり、統合プロセスが長期化するリスクも想定されます。また、企業買収では特定の事業だけを取得するわけではないため、不要な事業や資産、負債を引き継ぐ可能性もあります。事業買収は不要な資産を極力排除し、必要な事業や資産を取得できる手法として重宝されています。

事業買収と事業売却の違い

事業買収と事業売却の違いは、売り手視点か買い手視点かの違いです。事業売却は売り手が事業を買い手に譲渡する取引、事業買収は買い手が売り手の事業を取得する取引です。

そのため、第三者の視点から見ると、事業買収と事業売却は同義で扱われることが多いです。ただし、実際の手続きや準備、提出書類は買い手と売り手で異なるため、双方が適切に対応することが重要です。事業買収および事業売却では、買い手と売り手の双方が必要な準備を整え、条件を調整しながら協力して取引を進めることが求められます。

事業買収とM&Aとの違い

事業買収とM&Aの違いは目的と対象範囲にあります。事業買収は特定の事業や企業の一部を購入することを指します。一方、M&Aは合併と買収の総称です。合併は2つ以上の企業が統合し、他社に吸収されるか新たな法人を形成するプロセスであり、買収は一方の企業が他方の企業の経営権または事業を取得することを指します。

つまり、事業買収も企業買収もM&Aに含まれます。特定の事業を取得する事業買収を事業譲渡、経営権を取得する企業買収を株式譲渡と表すケースもありますが、事業買収で株式譲渡が使われる場合もあります。事業譲渡も株式譲渡もM&Aを実現するための方法の一つとして覚えておくと良いでしょう。

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    事業買収の方法

    事業買収とは他社の事業を買い取るM&A手法です。事業買収の方法には、主に「事業譲渡」と「株式譲渡」があります。

    • 事業譲渡:売り手企業が所有する事業の全部または一部を買い手企業に譲渡する
    • 株式譲渡:売り手企業の株式を一定割合、買い手企業が取得する

    事業買収の方法として、他に会社分割などが検討されることもあります。

    ここでは、事業買収の代表スキームである事業譲渡と株式譲渡について解説します。

    事業譲渡(事業譲受)

    事業譲渡(事業譲受)とは、特定の事業やその一部を他の企業が取得する方法です。事業譲渡では、譲渡対象となる事業の資産や負債、人材、契約などを個別に特定し、他社に移転します。事業譲渡は、特定の事業にフォーカスして効率的に資産を再配置することができる点が特徴です。

    買い手は事業譲渡を選択することで、特定の資産や技術、顧客基盤を迅速に獲得できるメリットがあります。また、売り手は非中核事業を手放すことで経営資源を集中させ、主要事業の強化を図ることができます。

    しかし、事業譲渡には注意点もあります。譲渡対象となる資産や負債を明確にしないと、後々トラブルの原因となる可能性があります。また、従業員や取引先との関係性が変わることで、事業の継続性に影響を及ぼすことも考慮しなければなりません。

    従業員の雇用契約がそのまま引き継がれるわけではないため、労働条件の再交渉が必要になる場合があります。事業譲渡を成功させるためには、事前の綿密な計画と関係者との十分なコミュニケーションが不可欠です。

    株式譲渡(株式譲受)

    株式譲渡(株式譲受)とは、売り手企業の株式を取得することで、その企業の経営権を獲得する手法です。株式譲渡は、企業のオーナーシップを直接移転するための効率的な手段として多くのM&Aで採用されています。

    株式譲渡のメリットは、買収後も企業の法人格がそのまま維持されることです。これにより、契約やライセンス、取引関係などが通常通り継続されるため、業務の円滑な引き継ぎが可能となります。また、株式譲渡は、企業の資産や負債、従業員などを一括で引き継ぐことができるため、包括的な買収が求められる場合に適しています。

    しかし、譲渡対象企業の全てのリスクをも引き継ぐという側面もあり、事前の慎重なデューデリジェンスが欠かせません。

    事業譲渡と株式譲渡の違いを表にまとめると以下のとおりです。

    観点事業譲渡(事業譲受)株式譲渡(株式譲受)
    取引主体法人株式
    買収目的他社の事業を取得する他社の経営権を取得する
    主なメリット対象事業だけを選択的に取得できる特定事業の資産だけでなく、契約や権利、負債も包括的に引き継ぐ
    主なデメリット雇用契約や許認可など個別で再契約が必要な場合がある不要な資産や負債を引き継ぐリスクがあり、買収費用が高額になりやすい

    事業譲渡を行えば、自社の事業強化が図れるだけでなく、必要な資産や契約を選択して取得することが可能です。一方、株式譲渡では、売り手企業の財産、契約関係、負債を包括的に引き継ぎます。どちらの方法を選択するかは目的や状況に応じて異なるため、それぞれの方法の特徴を理解し、自社の状況に応じた判断が求められます。

    事業買収による買い手のメリット

    事業買収のメリットは多岐にわたります。ここでは、事業買収による買い手のメリットを紹介します。事業買収の主なメリットとして、次の3つが挙げられます。

    • 既存事業の相乗効果で売上・利益を伸ばせる
    • ノウハウ・顧客基盤・従業員を獲得できる
    • コストや時間を大幅に削減できる

    それぞれのメリットについて解説していきます。

    既存事業の相乗効果で売上・利益を伸ばせる 

    事業買収のメリットとして、既存事業とのシナジー効果が挙げられます。自社が展開する事業と関連性の高い事業を買収することで、既存事業の拡大を図り、売上と利益の成長を促進します。買収先の資産や顧客、技術、販路を自社の事業と組み合わせることで、クロスセルやアップセルの機会が拡大し、市場シェアの獲得スピードを速められます。

    買収先の顧客層が自社の製品やサービスと相性が良い場合、既存顧客への新規商材の提案が自然と増え、獲得コストを抑えつつ売上を伸ばしやすくなります。加えて、共通部品の活用や生産・流通の統合により、原価削減や物流の最適化が進み、利益率の改善も期待できます。

    ただし、相乗効果を最大化するには、事前のデューデリジェンスで実現可能なシナジーを定量化し、統合時の組織設計・ガバナンス・IT統合を具体的に描くことが不可欠です。適切な統合計画と、費用対効果の高いシナリオ設計が成功の鍵となります。

    ノウハウ・顧客基盤・従業員を獲得できる 

    事業買収を通じて、買収先が培ってきたノウハウや強固な顧客基盤、熟練した従業員を一体的に取り込むことが可能です。ノウハウの移転は新規開発のスピードを加速させ、品質やサービスの向上につながり、顧客満足と契約の安定化へと寄与します。

    顧客基盤の承継は販売チャネルの拡大や新規市場の開拓を促進し、短期的な売上増と長期的な収益性の確保に寄与します。一方で、承継を確実に成功させるには、組織カルチャーの統合と人材の適切な配置が重要です。

    買収後の教育・技術移転計画、報酬・評価制度の整合性、キーパーソンの確保を事前に設計することで、ノウハウの有効活用と従業員のモチベーション維持を両立できます。加えて、顧客データの移行・契約の継続性確保を丁寧に行うことが、離脱リスクの低減につながります。

    コストや時間を大幅に削減できる

    事業買収により、他社の資源を活用することで、コストを削減し、短期間で事業規模を拡大し市場シェアを獲得できる可能性があります。買収先の顧客基盤、流通チャネル、ブランド力、技術力を取り込むことで、ゼロからの立ち上げよりも迅速に収益を拡大できます。特に、買収先が自社の戦略と補完的な資源を持つ場合、統合後のシナジーを早期に実現しやすく、投資回収期間を短縮できるメリットがあります。

    一方で、スピード重視の取り組みは統合リスクを高める可能性がある点に留意が必要です。初期段階での統合計画・人材配置・IT統合・ガバナンスの設計を固め、現実的なKPIを設定することが、短期間での成長を安定させる鍵となります。適切なリスク管理とロードマップの作成が、迅速な成長を実現するうえで不可欠です。

    事業買収による買い手のデメリット

    事業買収にはメリットだけでなくデメリットも存在します。このデメリットを理解せずに手続きを進めると、思わぬリスクを抱える可能性があります。ここでは、事業買収による買い手のデメリットについて紹介します。

    • のれんの減損処理による業績悪化リスク
    • 人材流出・モチベーション低下リスク
    • 簿外債務・不用資産の引継ぎリスク
    • 重要契約の再取得リスク
    • 企業文化・プロセス統合の際のリスク 

    それぞれのデメリットについて解説します。

    のれんの減損処理による業績悪化リスク 

    のれんの減損処理により、自社の資金調達に悪影響が及んでしまい、経営状態の悪化を招くリスクに注意が必要です。買収するために使った投資額は買収した事業で回収します。しかし、買収した事業が赤字になり、将来の収益が期待できない場合は投資額を回収できなくなり、のれんは減損処理の対象となります。 

    例えば、8億円の事業買収を行ったにもかかわらず、将来3億円しか回収できそうにない場合、3億円の減損となってしまうのです。のれんの減損により資産は減り、純利益の減少だけでなく、株主への配当金も減少してしまいます。 

    人材流出・モチベーション低下リスク 

    売り手側の従業員の希望・都合を考慮せず、買収を決定すれば人材流出のリスクがあります。売り手側の従業員は、買収後の労働環境の変化に大きな不安を抱くことになります。

    また、買収後の待遇が以前より悪化していた場合、従業員の反感は高まりモチベーションの低下につながります。買収後の扱いに耐え切れず、大量の人材が離職する事態も想定されます。売り手側の役員だけではなく、従業員からの納得も得られるよう最大限の配慮が必要です。 

    買収に関する丁寧な説明の他、以前と同等以上の給与を約束する、買収後も慣れ親しんだ事業場で勤務させる等の措置も検討しましょう。 

    簿外債務・不要資産の引継ぎリスク 

    株式譲渡で買収を進めると、買い手が簿外債務・不要資産を引き継いでしまう可能性があります。株式譲渡は買収した企業を包括的に承継するため、自社にとって望まない負担を背負うリスクがあるのです。 

    簿外債務とは、企業の財務諸表に記載されていない負債(未納付の税金、未記載の取引債務等)です。 買収企業の簿外債務が発覚すると予期しない支出により、自社の財務状況が悪化してしまうおそれもあります。 

    また、買収した企業が抱えていた潜在的な負債を引き継いでしまうと、債権者から訴訟を起こされ、賠償金を支払う事態になるケースも想定されます。 

    重要契約の再取得リスク 

    許認可が必要となる事業を買収するときは、買収後に自社で再び許認可を取得しなければいけないケースがあります。 

    事業譲渡を行うと、売り手が有する免許・許認可は通常、買い手にそのまま移動することはできません。多くの場合、買い手が新たに免許や許認可を取得するか、名義変更の手続きを行う必要があります。また、買収した事業にかかわる取引先と、改めて契約の締結をし直す必要があります。

    一方で、株式譲渡による買収では、対象会社の法人格が存続するため、免許や許認可がそのまま引き継がれることが一般的です。ただし、いずれの場合も事前のデューデリジェンスで免許・許認可の状況を確認し、必要な手続きを計画的に進めることが大切です。

    企業文化・プロセス統合の際のリスク 

    売り手との統合の過程で、深刻なトラブルが発生する事態にも注意しましょう。買い手と売り手との間で社風・従業員への待遇・働き方等、企業文化に違いがある場合、買い手の企業文化を売り手側がスムーズに受け入れるとは限りません。売り手の企業文化を無視して統合すると、売り手側から大きな反発を受ける可能性が高いです。 

    買い手側が売り手の企業文化を尊重しつつ、慎重に統合プロセスを進めていかないと、シナジー効果は発揮できず、売り手側の従業員の大量離職を招くおそれがあります。 

    事業買収による売り手のメリット

    事業買収による売り手のメリットとして、主に次の4つが挙げられます。

    • 会社や従業員を守れる
    • 売却による資金調達ができる
    • 廃業コストがかからない

    それぞれのメリットについて解説していきましょう。 

    会社や従業員を守れる

    事業買収は、売り手である企業にとって、会社や従業員を守るための有効な手段となり得ます。まず、会社が維持・継続される点が大きなメリットです。経営者の高齢化が進む中で、適切な後継者が親族や従業員にいない場合、経営が黒字であっても企業の存続が危うくなります。

    そのような場合に事業買収は、売り手の事業承継の方法として選択されます。事業を他社に売却することで、新しい経営体制が整えられ、会社の存続が守られます。また、事業が継続されることにより、従業員の雇用も維持される確率が高まります。

    売却による資金調達ができる

    事業買収を通じて売り手が得るメリットの一つは、売却による資金調達が可能であることです。事業を売却することで、売り手はその資産を現金化し、大規模な資金を手にすることができます。

    売却資金は、様々な用途に活用できるため、売り手にとって重要な戦略的選択肢となります。例えば、新たな事業の立ち上げ、既存事業の拡大、または個人のライフスタイルの向上を図るための資金として利用することができます。

    廃業コストがかからない

    事業買収は、売り手にとって廃業に伴うコストを削減するメリットもあります。通常、事業を廃業する際には、従業員の解雇手続きや関連する法的費用、施設や設備の処分費用、さらには在庫の処理など、さまざまなコストが発生します。

    これらの廃業費用は、特に中小企業にとっては大きな負担となり得ます。事業買収を選択することで、廃業に伴うコストを回避できるだけでなく、事業をスムーズに引き継ぐことが可能です。

    事業買収による売り手のデメリット

    事業譲渡の売り手側のデメリットは次のとおりです。

    • 想定した価格で売れない可能性
    • 取引先や顧客離れの恐れ
    • 競業避止義務による制限

    それぞれのデメリットについて解説します。

    想定した価格で売れない可能性

    事業買収を検討する売り手にとって、大きな懸念の一つは、想定した価格で事業が売れない可能性です。事業の評価額は、市場動向や買い手の財務状況、業界のトレンドなど、様々な要因に左右されます。売り手が希望する価格が過大である場合、買い手は価格交渉を試みるか、場合によっては取引そのものを見送ることもあります。

    また、事業の価値を正確に評価するためには、適切なデューデリジェンスが必要ですが、これには時間と費用がかかります。さらに、売り手が市場での競争力を過信している場合、想定よりも低い価格での売却を余儀なくされるリスクが高まります。このような状況においては、売り手は柔軟な姿勢を持ち、価格交渉の段階で現実的な期待値を設定することが重要です。

    また、売却プロセスを通じて、事業の価値を最大限に引き出すための戦略を立てることが求められます。特に、事業の強みや将来性を明確に伝えることで、買い手に対して魅力的な提案を行うことが可能になります。売却価格の調整が必要な場合でも、事前に経営戦略や財務状況を見直すことで、売り手側の交渉力を高めることができる場合もあります。

    取引先や顧客離れの恐れ

    事業買収による売り手のデメリットとして、取引先や顧客離れの可能性が挙げられます。買収が行われると、経営方針や製品・サービスの提供方法が変わることがあります。この変化は、取引先や顧客に不安を与え、競合他社への乗り換えを促す要因となり得ます。特に、長く続いてきた信頼関係が急に変化することで、顧客は不安を感じやすく、他の選択肢を模索する可能性が高まります。

    また、買収後の組織再編や人員削減が行われた場合、取引先や顧客への対応が遅れたり、サービスの質が低下したりすることもあります。これにより、顧客満足度が低下し、結果として顧客離れが加速するリスクが生じます。さらに、取引先との契約内容が買収によって不利に変更される場合、取引先は関係を見直すことを検討するかもしれません。

    このような不確定要素が、売り手にとっては大きなデメリットとなります。従って、売り手は買収後の影響を慎重に評価し、取引先や顧客との関係維持をどのように図るかを計画することが重要です。

    競業避止義務による制限

    事業買収を行う際、売り手にとって注意すべきデメリットの一つが競業避止義務による制限です。競業避止義務とは、売り手が事業を譲渡した後、一定期間内に同一または類似の事業を開始したり、買い手の競争相手となるような行動を取ることを制限する契約条項です。この義務は、買い手が取得した事業の価値を維持し、売却後の市場競争を不公平にしないために設けられています。

    この制限によって、売り手は新たなビジネスチャンスを追求する自由が制約されることがあります。特に、自らが築き上げた業界での経験やネットワークを活かして新しい事業を開始したいと考えている場合には、大きなハードルとなります。また、競業避止義務の適用範囲や期間は契約によって異なり、これが売り手にとって予想以上に厳しい内容である場合、キャリアや収入の選択肢を狭める結果となる可能性があります。

    さらに、競業避止義務の範囲や内容が不明確であったり、交渉が不十分であると、後に法的紛争の原因となることも考えられます。したがって、売り手は事前にこの義務の内容を十分に理解し、必要に応じて専門家の助言を受けることが重要です。競業避止義務が適切に設定されていない場合、売り手にとって予期しない制限が発生し、将来的なビジネス活動における柔軟性が損なわれるリスクがあるため、慎重な対応が求められます。

    事業買収の手続きの流れ

    事業買収には複数のプロセスがあります。ここでは事業買収の一連の流れと主な手続きについてわかりやすく紹介します。 

    1. 買収ターゲット選定とアドバイザー起用 
    1. NDA締結・資料受領(IM) 
    1. 価格提示と基本合意(LOI/MOU) 
    1. デューデリジェンス(財務・税務・法務・人事・IT) 
    1. 取締役会・株主総会決議 
    1. 最終契約(SPA/APA)締結とクロージング 

    各プロセスについて解説していきます。 

    1.買収ターゲット選定とアドバイザー起用 

    自社の事業買収を行う目的(既存事業の強化や新規事業への参入等)について検討し、現在の事業経営の詳細な調査から始めましょう。調査で自社の課題を抽出すれば、課題を克服する最適な買収手法(事業譲渡か株式譲渡か)を選択できます。 

    事業買収に関する担当部署を構築し、買収を提案する企業の選定、自社の希望するM&Aスキーム・価格・条件等を決めていきます。ただし、自社がはじめて事業買収を行うならば、経営者も従業員も買収交渉や手続きに関して未経験のケースがほとんどです。 

    買収交渉や手続きをスムーズにトラブルなく進めるため、M&A仲介会社等からアドバイザーの起用も検討しましょう。

    2.NDA締結・資料受領(IM) 

    買収を提案した企業が交渉に応じたら、基本的に経営のトップ同士が売却内容・価格・条件等を調整していきます。交渉するときは次の契約を締結し、更に売り手から交渉の参考となる資料を取得します。 

    • 秘密保持契約(NDA):当事者が買収の交渉・手続きの過程で知り得た秘密を守る範囲や期間、違反した場合のペナルティ等を取り決める 
    • 企業概要書(IM):売り手が作成し買い手に提出する、企業名や住所・資本金・社員数、手がけている商品・サービスの内容、貸借対照表・損益計算書等の様々な情報をまとめた資料 

    買い手は売り手から受け取った企業概要書をよく確認し、自社の買収のニーズに合った会社か否かを判断する必要があります。ただし、企業概要書の内容は売り手がまとめた資料であり、会社の強みだけを強調し、都合の悪い部分は秘匿されている可能性もあるため、現段階で企業概要書を過度に信用するのは避けた方が良いです。 

    3.価格提示と基本合意(LOI/MOU) 

    秘密保持契約を締結し、企業概要書を取得したら、当事者は本格的な交渉を開始します。買い手が希望価格を含めた意向表明書の提出後、売り手が概ね納得したら基本合意に進みます。 

    • 意向表明書(LOI):買収スキーム・希望価格・以後の交渉スケジュール等に関する希望を記載した書類で、買い手が売り手に提示する 
    • 基本合意書(MOU):買い手・売り手双方が基本的な取引条件について合意したとき作成され、独占交渉権・秘密保持義務・デューデリジェンスの実施条件等を書面化する 

    なお、意向表明書は買い手側の一方的な意思表示を記載した書面です。交渉当事者は記載内容に拘束されず基本合意を目指し、柔軟に取引条件を調整できます。 

    4.デューデリジェンス(財務・税務・法務・人事・IT) 

    基本合意に至った後、買い手は「デューデリジェンス」を実施します。デューデリジェンスとは、売り手の価値や将来の収益性、リスク調査・分析を行う作業です。デューデリジェンスでは帳簿類・会計書類等、膨大な量の書類をチェックが必要です。本作業は、買い手側の担当者等が売り手の事業所に出向き調査する方法をとります。 

    調査は1つの視点だけでなく、主に財務・税務・法務・人事・ITという様々な視点から売り手を評価します。 

    • 財務:帳簿類・会計書類等の書類をチェック、責任者等へのヒアリング等を実施
    • 税務:税申告の正確性や納税状況等を確認する
    • 法務:定款や社内規定・許認可・法令遵守状況をはじめ、訴訟係属状況等のチェックを実施
    • 人事:就業規則、基幹人事制度、退職金・年金制度等をチェック、必要に応じ従業員等へヒアリング
    • IT:ITに関する書類やデータを確認し、セキュリティ等の課題を抽出 

    調査期間は中小企業の場合、1か月~2か月程度が目安といわれていますが、規模によって異なります。大企業の場合は3ヶ月以上かかることもあります。売り手の提示した書類等に疑義・不明点がある場合も、責任者へのヒアリングや更なる資料開示請求を行う必要があるため、長期化する可能性があります。 

    5.取締役会・株主総会決議 

    デューデリジェンスで事業買収の中止を要する深刻な問題が発覚しなければ、取締役会・株主総会決議に進みます。まず取締役会で、売り手と基本合意した買収条件・内容の承認を得なければいけません。取締役会を設置するときは、決議だけでなく議事録の作成も必要です。 

    また、売り手の事業全部を譲受するときは、買い手は株主総会を開催し、決議による承認を受けなければいけません。ただし、簡易事業譲受に該当する場合は株主総会を省略することが可能です。

    6.最終契約(APA/SPA)締結とクロージング 

    取締役会や株主総会の承認・決議を経たら、売り手との間で最終契約を締結します。最終契約に合意したら、事業譲渡の場合なら「事業譲渡契約書(APA)」、株式譲渡の場合なら「株式譲渡契約書(SPA)」を作成します。APA・SPAでは主に事業買収の内容・取引金額、補償条項、誓約事項等、取り決めた条件を明記しなければいけません。 

    APA・SPAで明記された取り決めは法的拘束力があり、契約当事者が契約に違反するとペナルティを受けるので注意しましょう。最終契約が締結された後、クロージングに向けた作業が進められていきます。具体的には許認可の取得や契約の移転手続き、PMI(買収後の経営統合作業)を行います。 

    事業買収の価格相場と算出方法

    事業の買収では、複数の評価手法を用いて買収価格を算出します。企業や事業価値の算定方法には、コストアプローチ、インカムアプローチ、マーケットアプローチがあります。実際には資産価値からデューデリジェンスの結果に基づいた交渉を行い、売り手と買い手の間で買収価格が決定されます。

    事業買収の価格相場

    事業買収の価格相場は、業種や規模、地域、買収の目的などによって大きく異なります。一般的には、事業の収益性や成長性、資産の価値、競争環境などが価格に影響を与えます。例えば、安定した収益を上げている事業や、成長が期待できる市場に属する事業は高い評価を受ける傾向があります。一方で、収益性が低い事業や市場が縮小している業界の場合、価格は低く抑えられることが多いです。

    また、事業買収の価格は、交渉によるものでもあるため、買い手と売り手の意向や交渉力によっても変動します。買収対象の企業が持つブランド力や技術力、顧客基盤も価格に反映される要素の一つです。さらに、買収のタイミングによっても価格は変わり得ます。経済状況や業界のトレンドが好調な時期には、買収価格が高騰するケースも見られます。

    価格相場を把握するためには、同業他社の買収事例を参考にしたり、専門家のアドバイスを受けることが有効です。最終的な価格は、これらの要素を総合的に考慮して決定されます。

    事業買収の価格算定の方法

    事業買収の価格算定方法は多岐に渡りますが、主に収益性や資産価値、市場状況などが考慮されます。まず、収益性に基づく算定方法としては「EBITDA倍率法」が一般的です。これは、企業の利払い前・税引前・減価償却前利益(EBITDA)に業界の平均倍率を掛けて価格を算出する手法です。EBITDAは企業の実際の収益力を示すため、買収後のキャッシュフローを見積もるのに広く活用されています。

    次に、資産価値に基づく方法として「純資産法」があります。これは、企業の総資産から負債を差し引いた純資産を基に価格を決定する方法で、特に資産が多い企業に適用されます。さらに、「DCF法」もよく用いられます。これは将来的なキャッシュフローを現在価値に割り引いて算出する方法で、将来の収益性を重視する買収において有効です。

    これらの方法を組み合わせることにより、より精緻な価格設定が可能です。各手法にはそれぞれの強みと制約があり、企業の特性や買収目的に応じて最適な方法を選択することが求められます。

    事業譲渡の簡易的な計算方法

    事業を譲渡・譲受する場合の簡易的な計算方法として「時価純資産法+のれん代(営業権)」があります。時価純資産法は、譲渡対象の資産の時価から負債の時価を控除して求められます。

    時価純資産の算出

    1. 会社会計を見直す
    2. 含み損益を確認し、税効果を検討
    3. 事業の時価純資産の算出

    のれん代の算出

    1. 会社会計を見直す
    2. 特別損益や支払利息などを省く
    3. 役員報酬を確認し修正する
    4. のれん代を算出する

    事業買収で発生する税金・のれん代

    事業買収を行うときは取引金額の支払いだけでなく、次のような税金の納付も必要となります。 

    • 事業譲渡の課税
    • 株式譲渡の課税
    • のれん代の会計処理 

    それぞれの課税内容について説明しましょう。 

    事業譲渡の課税 

    事業譲渡では、買い手側は買収で得た資産に対して、「消費税」「不動産取得税」「登録免許税」が課されます。次のような資産を獲得した場合にそれぞれ税金が課せられます。 

    • 消費税:有形固定資産(土地以外)や無形固定資産、営業権(のれん代)、棚卸資産等
    • 不動産取得税:取引対象に不動産が含まれているとき
    • 登録免許税:買収で得た不動産の登記を変更するとき 

    株式譲渡の課税 

    株式譲渡の場合、買い手側は基本的に税金を課せられません。ただし、時価より著しく低い金額を支払った場合、時価との差額は受贈益として買い手にも税金が発生し、個人には贈与税、法人には法人税が課される可能性があります。一方、時価より高い金額で株式譲渡を行うと、買い手企業は差額分を売り手に寄付したとみなされ、損益不算入のリスクが生じる可能性があります。

    のれん代の会計処理 

    事業買収で発生したのれんは買い手の資産となります。のれんとは譲り受けた資産の時価と実際に取得した価格の差額です。のれんには会計上ののれんと税務上ののれん(資産調整勘定)があり、会計上ののれんが生じた場合はのれんの仕訳処理が必要です。ただし、のれんを計上するかどうかはM&Aスキームによって異なり、株式譲渡による事業買収では、個別財務表にのれんを計上しません。

    事業譲渡による買収の場合はのれんが生じることがあります。その場合の仕訳処理を見ていきましょう。例えば、純資産額150万円(資産400万円・負債250万円)の売り手企業を180万円で買収した場合、30万円ののれんが生じ、下表のように仕訳をします。 

    借方 貸方 
    資産 400万円 負債 250万円 
    のれん 30万円 当座預金 180万円 

    また、税務上ののれん(資産調整勘定)についても株式譲渡では発生しません。一方、事業譲渡で税務上ののれんが認められた場合は原則として5年間で均等償却します。毎年一定額を損金算入できるため、節税メリットが得られます。例えば償却期間5年でのれん100万円の場合、毎年20万円を償却します。

    借方 貸方 
    のれん償却 20万円 のれん 20万円 

    なお、のれんの価値が大きく下がった場合は減損損失の処理を行う必要があります。ただし、減損損失が発生しても損金算入できるわけではないため、税負担は変わりません。

    事業買収を成功させるための注意点

    事業買収を行うときは次の点に十分注意して、交渉や手続きを進めていきましょう。事業買収を進めるときは、交渉当事者のどちらか一方が得をするのではなく、双方がWIN-WINの関係になるよう、互いに粘り強く交渉を進めていく必要があります。 

    事業買収の買い手側の注意点

    事業買収は、企業の成長戦略の一環として重要な選択肢です。しかし、成功させるためには多くの注意点を考慮する必要があります。買い手側の事業買収の注意点として以下が挙げられます。

    • 買収目的の明確化
      買収の目的を明確にし、その目的に沿った戦略を持ち続けることが必要です。長期的な視点での成功を目指すことで、買収の効果を最大化できます。
    • デューデリジェンスの実施
      買収対象となる事業の詳細な調査を行います。財務状況、法的リスク、契約関係、経営陣の能力評価を徹底的に確認することで、潜在的なリスクを未然に防ぎます。
    • 統合計画の策定
      買収後の組織文化の統合や業務プロセスの調整が必要です。シナジー効果を最大化するため、企業文化の違いを理解し、スムーズな移行を促進するコミュニケーション戦略を立てます。
    • 適正な買収価格の確認
      市場調査や専門家の助言を活用し、過剰な支払いを避けるために慎重な価格交渉を行います。買収資金の調達方法についても、キャッシュフローへの影響を考慮し、適切な資金計画を立てます。
    • ステークホルダーへの配慮
      買収後の従業員や関連ステークホルダーへの影響を考慮します。透明性あるコミュニケーションを心がけ、従業員の不安を軽減し、モチベーションを維持することが重要です。

    事業買収の売り手側の注意点

    事業買収は、企業の成長戦略において重要な手段の一つですが、売り手側にはいくつかの注意点があります。売り手は以下の注意点を踏まえ、売り手側は慎重かつ計画的に事業買収を進めることが求められます。

    • 事業の価値評価 
      事業の価値を正確に評価することは、買収価格を適切に設定するために不可欠です。資産や負債の状況、現在の収益性、将来の成長可能性を総合的に分析する必要があります。
    • 買収契約の条件理解 
      契約条件を詳細に理解することは、自社に不利益をもたらす条項を避けるために重要です。法的アドバイザーや税務の専門家を巻き込むことで、潜在的なリスクを最小限に抑えることができます。
    • 従業員の処遇 
      買収後の従業員の雇用条件や職場環境の変化を考慮し、適切なコミュニケーションを行うことが重要です。従業員の不安を和らげるための対策を講じることで、スムーズな移行を促します。
    • 情報の取り扱い 
      機密情報の漏洩を防ぐため、適切な情報管理体制を整えることは企業の信用を守る上で必須です。
    • 関係者への透明性の確保 
      買収プロセス全体を通して透明性を確保し、すべてのステークホルダーに誠実に対応することで、円滑な事業買収を実現できます。

    個人と法人の事業買収の違い

    個人が事業買収を検討する際には法人とは異なるポイントがあります。ここでは個人の事業買収の注意点について触れていきます。

    個人による事業買収とは

    個人による事業買収とは、法人ではなく個人が主体となって既存の事業を購入し、その資産を引き継ぐことを指します。企業の成長や多角化を目的とする法人の買収とは異なり、個人が独立して事業を運営したいと考える場合に選択されることが多いです。

    個人による事業買収の動機は様々で、自身のキャリアの新たなステージを切り開くためであったり、特定の業界や市場でのチャンスを活かすためであったりします。また、事業を一から立ち上げるよりも、既存の顧客基盤や運営体制を活用できるというメリットもあります。

    個人による事業買収は、購入後の経営にも大きな影響を及ぼします。個人が新たな経営者となることで、企業文化や業務プロセスの変革が求められる場合もあります。この過程で、従業員とのコミュニケーションや、既存のビジネスモデルの再評価が重要となります。個人のビジョンや経営スタイルが事業の成功に大きく影響するため、慎重な計画と実行が求められます。

    個人と法人の違い

    個人による事業買収と法人による事業買収では以下の点が異なります。

    • 資産と信用力の違い
      個人の場合、自己資金や金融機関からの融資が主な資金源となるため、事前にしっかりとした資金計画を立てることが重要です。これに対し、法人は既存の資産や信用力を活用して、より多くの資金を調達しやすいというメリットがあります。
    • 意思決定の違い
      買収プロセスにおける意思決定のスピードと柔軟性も異なります。個人の場合、意思決定が迅速である反面、専門知識や経験が不足していることが多く、外部の専門家やM&Aアドバイザーのサポートが不可欠です。法人は、専門的なM&Aチームを持つことが多く、綿密なデューデリジェンスを行った上で、組織的に意思決定を行うことができます。
    • 買収後の経営の違い
      個人が事業を買収した場合、自らが経営者として直接事業運営に携わるケースが多いです。このため、事業の特性や市場動向に対する深い理解が求められます。一方、法人は既存の経営リソースを活用して、買収した事業を統合し、効率的な運営を目指します。
    • 税務面での違い
      個人が事業を買収する際には、所得税や贈与税の影響を受けやすく、それに対する適切な対策が求められます。法人は税務面での優遇措置を受けやすく、買収後の利益を効率的に再投資することが可能です。このように、個人と法人の事業買収にはそれぞれ特有の特徴と課題があり、計画段階でこれらをしっかりと理解し、適切な戦略を立てることが成功の鍵となります。

    事業買収による社員や従業員への影響

    事業買収は経営戦略の一環として行われることが多いですが、その過程で社員や従業員に対してさまざまな影響を及ぼす可能性があります。まず、組織の変革に伴い、従業員は新しい企業文化や経営方針に適応する必要が出てきます。これにより、職場環境が大きく変わることがあり、従業員にとってはストレスや不安の要因となることがあります。

    また、買収後には再編成や業務プロセスの見直しが行われることが一般的です。このため、従業員の役割や責任が変更されることがあり、場合によっては配置転換やリストラが行われるリスクも存在します。特に、重複する部門や機能がある場合には、効率化を目的とした人員削減が検討されることがあります。

    さらに、買収元の企業が異なる給与体系や福利厚生を持っている場合、従業員の待遇が変わる可能性もあります。これが従業員のモチベーションや生産性に影響を及ぼすことも考えられます。そのため、企業は事業買収を進める際に、従業員の心理的な負担を軽減し、スムーズな統合を図るための施策を講じることが非常に重要です。

    事業買収の事例

    買い手の買収理由は既存事業の強化、新規事業への参入等があげられます。一方、売り手の買収に応じる理由も様々です。 

    ここでは事業買収の次の3つの事例を取り上げます。 

    • アパレルの会社が不動産賃貸会社を買収
    • 建築工事会社が同業者を買収
    • 受託開発ソフトウェア会社が同業者を買収 

    それぞれの買収に至った経緯を紹介しましょう。 

    事例①アパレルの会社が不動産賃貸会社を買収 

    買い手が新規事業へ参入するため、異業種の事業買収を行ったケースです。 

    • 買い手A社(アパレル業):[売上]100億円以上・[所在地]関東地方
    • 売り手B社(不動産賃貸業):[売上]2.5億円~5億円・[所在地]関東地方 

    アパレル業を営んでいるA社は、異業種である不動産業界への新規参入のため買収先を探していました。一方、事業の選択と集中を図りたかったB社は、自社の事業売却を検討していました。両社の利害が一致し、買収交渉を開始します。 

    事業買収に成功したA社は不動産業界へ新規参入を果たしました。 

    事例②建築工事会社が同業者を買収 

    買い手が既存事業の強化ため、同業種の事業買収を行ったケースです。 

    • 買い手A社(建築工事業):[売上]2.5億円~5億円・[所在地]関東地方
    • 売り手B社(建築工事業):[売上]2.5億円~5億円・[所在地]関東地方 

    建築工事業を営んでいるA社は、既存事業の強化のため買収先を探していました。一方、同じ関東地方で建築工事業を営んでいたB社は、後継者不在に悩み、自社の事業売却を検討していました。両社の利害が一致し、買収交渉が開始されます。 

    事業買収に成功したA社はB社の事業を承継し、新たな顧客そして経験豊かな従業員を獲得しました。 

    事例③受託開発ソフトウェア会社が同業者を買収 

    買い手が既存事業の強化および事業エリアの拡大を目指し、同業種の事業買収を行ったケースです。 

    • 買い手A社(受託開発ソフトウェア業):[売上]50億円~100億円・[所在地]関東地方
    • 売り手B社(受託開発ソフトウェア業):[売上]2.5億円~5億円・[所在地]近畿地方 

    受託開発ソフトウェア業を営んでいるA社は、既存事業の強化と近畿地方へ事業エリアを拡大するため、自社ニーズに合った買収先を探していました。一方、近畿地方で受託開発ソフトウェア業を営んでいたB社は、後継者不在に悩み、自社の事業売却を検討していました。利害が一致したA社とB社は買収交渉を開始します。 

    事業買収に成功したA社はB社の事業を承継し、B社のソフトウェア開発のノウハウ、近畿地方での顧客、優秀な人材を獲得しました。 

    まとめ

    事業買収を行えば既存事業の強化や、新規事業の参入が可能となり、自社の成長スピードが加速する可能性もあります。 一方で買い手である自社や売り手の経営状況を詳しく分析しなかったり、希望する買収スキームに合わない交渉先を選んだりすると、想定外のアクシデントの発生や、交渉決裂も想定されます。 

    事業買収は、買い手・売り手双方の将来に影響を与える経営判断となるため、早い段階で経験豊富な専門家からアドバイスやサポートを受けながら、情報収集および準備を進めていくことが大切です。M&Aや経営課題に関するご相談はM&Aロイヤルアドバイザリーにお気軽にお問い合わせください。

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