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事業再生とは、経営が悪化した企業が事業を立て直し、再び継続・成長できる状態に戻すことです。しかし、企業再生との違いや具体的な手法、注意点について詳しく理解している方は少ないかもしれません。事業再生には、民事再生や会社更生などの法的再生だけでなく、金融機関との協議によって進める私的再生や、再生型M&Aなどさまざまな手法があります。また、再建を成功させるためには、自社の状況に応じた方法を選択し、実現可能な事業再生計画を策定することが重要です。
本記事では、事業再生の基本的な仕組みや企業再生との違い、主な再生手法、事業再生の流れ、成功させるためのポイントまでわかりやすく解説します。
目次
まず、事業再生の基本的な情報を解説します。
事業再生とは、経営状況が悪化した企業が事業を継続できるよう、経営や財務の抜本的な見直しを行い、企業の立て直しを図る取り組みです。 売り上げの減少や資金繰りの悪化、過大な債務などにより経営が困難になった場合でも、適切な対策を講じることで事業の継続や収益力の回復を目指します。状況に応じてさまざまな再生手法が用いられますが、その目的はいずれも、倒産を回避しながら企業価値の回復と事業の再構築を図ることにあります。
企業再生とは、経営状況が悪化した企業の収益力や財務基盤を回復させ、会社全体の再建を目指す取り組みです。事業再生と企業再生には、法令上の明確な定義や区分があるわけではなく、実務では同じ意味で使われることも少なくありません。
一般的には、「事業再生」は収益性のある事業を維持・再構築しながら事業の継続を目指す取り組みを指し、「企業再生」は財務構造や組織体制、経営戦略を含めた会社全体の立て直しを指すことが多い傾向があります。ただし、実際の事業再生では、事業の見直しだけでなく財務改善や組織改革、経営体制の見直しまで行うケースも多くあります。そのため、両者は明確に区別できるものではなく、企業の状況や文脈に応じて使い分けられています。
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事業再生は、経営が厳しい状況にある企業であれば必ず実現できるというものではありません。事業再生できる主な条件は、次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
事業再生を進めるためには、再建後も利益やキャッシュフローを生み出せるコア事業があることが重要です。例えば、独自性のある製品・サービスや安定した顧客基盤、高い技術力、ブランド力など、継続的な収益につながる強みを持つ事業であれば、事業再生によって業績を回復できる可能性があります。
一方で、収益性や将来性のある事業が見込めない場合は、事業再生が難しくなることもあります。そのため、事業再生を検討する際は、再建後も事業を継続できるだけの収益基盤があるかを見極めることが重要です。
事業再生では、負債を整理するだけでなく、再建後も事業を継続できるだけの資金を確保できるかを見極める必要があります。負債の整理によって返済負担が軽減されれば、資金繰りの改善が期待できます。しかし、事業の収益性が低いままでは運転資金を十分に確保できず、一時的に経営状況が改善しても再び資金不足に陥る可能性があります。そのため、負債を圧縮することだけを目的とするのではなく、キャッシュフローの改善や中長期的な資金計画まで見据え、再建後も安定した事業運営を続けられるかを総合的に判断することが大切です。
事業再生の手法には、大きく「法的再生」と「私的再生」があります。法的再生では、民事再生や会社更生などの再建型手続きに加え、破産や特別清算などの清算型手続きも、事業譲渡や再生型M&Aと組み合わせることで事業の承継を図るケースがあります。企業の状況に応じて、適切な手法を選択することが重要です。
民事再生とは、民事再生法に基づき、経営が困難になった企業や個人事業主が、裁判所の監督の元で事業の再建を目指す法的手続きです。債権者の一定数の同意を得ながら再生計画を策定し、債務の減額や返済期限の見直しなどを行うことで、事業の継続と経営の立て直しを図ります。
民事再生法は、株式会社だけでなく、合同会社や合資会社、合名会社などの持分会社、さらに個人にも適用される法律です。そのため、中小企業や個人事業主が利用する代表的な事業再生手法として広く活用されています。また、会社更生とは異なり、原則として現在の経営陣がそのまま事業運営を続けられることも特徴です。再生計画は裁判所の認可と一定数の債権者の同意を得て進められるため、全ての債権者の同意を得る必要はありません。そのため、事業や雇用を維持しながら経営の立て直しを目指したい企業に適した手法といえます。
会社更生とは、会社更生法に基づき、経営不振に陥った株式会社の再建を目指す法的手続きです。裁判所が選任した更生管財人が経営や財産の管理を担い、債務の減額や返済条件の見直しなどを行いながら、企業の再建を進めます。利害関係者が多い企業でも再建を進められるよう、担保権や株主の権利についても一定の変更を行えるなど、民事再生より強力な再建手段といえます。
一方で、経営権や財産の管理処分権は更生管財人へ移るため、原則として現在の経営陣は退任します。また、多くの関係者との調整や複雑な手続きを伴うことから、時間や費用がかかる傾向があり、主に上場企業など社会的影響の大きい株式会社で利用されています。
特定調停とは、簡易裁判所が仲介役となり、債務者と債権者が返済方法などについて話し合い、合意による解決を目指す手続きです。調停委員会が双方の間に入り、返済条件の見直しや分割返済などについて調整を行います。民事再生や会社更生と比べて手続きが簡易で、費用を抑えながら進められる点が特徴です。また、裁判所が関与するため、公平な立場で話し合いを進めやすいメリットがあります。
一方で、特定調停は債権者との合意を前提とする手続きであり、民事再生のように多数決で再生計画を成立させることはできません。原則として当事者全員の合意が必要です。そのため、債権者の理解と協力を得られる見込みがある場合に適した手法といえます。
破産とは、破産法に基づいて会社の財産を換価し、債権者へ公平に配当した上で会社を清算する法的手続きです。会社は解散するため、事業を継続しながら経営を立て直すことはできません。一方で、破産手続きの中で事業譲渡を行い、収益性のある事業や従業員、取引先との関係を他社へ引き継ぐことで、事業そのものを存続させるケースがあります。このような手法は、事業再生の一つの選択肢として活用されることがあります。
また、破産は民事再生や会社更生と比べて手続き開始までの期間が短く、緊急性の高い案件でも迅速に対応しやすい点が特徴です。資金繰りが著しく悪化している場合や、時間の経過によって事業価値が大きく損なわれる恐れがある場合には、事業譲渡と組み合わせて活用されることもあります。
特別清算とは、会社法に基づき、解散した株式会社が利用できる清算手続きです。通常の清算では処理できない債務超過の恐れがある場合などに、裁判所の監督の元で会社の整理を進めます。破産と同様に会社を清算する手続きですが、手続きが比較的簡易で、費用を抑えながら進められる点が特徴です。また、破産と比べて社会的信用への影響を抑えられる場合があることから、一定の条件を満たす株式会社で利用されています。
一方で、特別清算は株式会社のみが利用できる制度であり、債権者や株主の同意を得る必要があります。そのため、関係者の協力が得られることが手続きを進めるための前提です。
再生型M&Aとは、M&Aを活用して事業の継続と企業価値の回復を目指す事業再生の手法です。M&Aとは、「Mergers and Acquisitions」の略称で、企業や事業の合併・買収を行うことです。近年では、事業の成長だけでなく、経営難に陥った企業の再建を目的として活用されるケースも増えています。
再生型M&Aではスポンサー企業による支援や事業譲渡などを通じて、収益性の高い事業を残しながら経営の立て直しを図ります。法的再生や私的再生と組み合わせて活用されることも多く、企業の状況に応じてさまざまな手法が選択されます。
企業再生方式とは、事業再生の対象となる会社の法人格を維持したまま、スポンサー企業から出資や経営支援を受けて再建を進める方法です。第三者割当増資や株式譲渡などによってスポンサー企業が経営に参画し、子会社化されるケースもあります。スポンサー企業から資金や経営ノウハウ、人材などの支援を受けられるため、財務体質や経営基盤の改善を図りやすい点が特徴です。
また、会社そのものを存続させるため、取引先との契約や従業員との雇用関係、ブランドや営業基盤を維持しながら再建を進めやすいメリットがあります。
事業譲渡方式とは、収益性のある事業の全部または一部を他社へ譲渡し、その対価を債務返済や事業再建に活用する方法です。譲渡する事業や資産、契約などを個別に選択できるため、不採算事業を残しつつ、収益性の高い事業だけを引き継ぐことも可能です。そのため、事業の選択と集中を図りながら再建を進めたい場合に活用されます。
一方で、契約や許認可、従業員との雇用契約などは原則として個別に承継手続きが必要となるため、関係者との調整や手続きに時間を要する場合があります。
会社分割方式とは、会社の事業に関する権利や義務を、他社または新たに設立する会社へ包括的に承継させる方法です。事業再生では、収益性の高い事業を切り出してスポンサー企業や新会社へ承継させ、事業の継続を図る目的で利用されることがあります。会社法に基づく組織再編の一つであり、事業に関する契約や資産、負債などを包括的に承継できることが特徴です。そのため、事業譲渡と比べて個別の契約手続きが少なく、事業を円滑に引き継ぎやすいメリットがあります。ただし、許認可については法令ごとに承継の可否が異なるため、事前の確認が必要です。
第二会社方式とは、収益性の高い事業や資産を新たに設立した会社や既存会社へ承継させ、旧会社を特別清算や破産などによって整理する事業再生の手法です。過大な債務を抱えた旧会社から、継続が見込まれる事業を切り離すことで、事業や雇用、取引関係を維持しながら再建を目指します。中小企業の事業再生でも活用されることがあり、スポンサー企業が新会社へ出資するケースもあります。
一方で、債権者の利益を不当に害する目的で資産を移転した場合には、法的な問題が生じる可能性があります。そのため、適正な事業価値の評価や債権者への十分な説明を行い、弁護士や公認会計士などの専門家の支援を受けながら進めることが重要です。
法的再生を利用する際の注意点は、次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
法的再生は裁判所を通じて行う手続きであるため、手続きが開始されると取引先や金融機関、顧客などに経営状況が知られる可能性があります。その結果、新規取引を控えられたり、融資条件の見直しを求められたりするなど、信用面で影響を受けることがあります。こうした影響を最小限に抑えるためには、再建計画や今後の方針を関係者へ丁寧に説明し、理解と協力を得ながら事業を継続していくことが大切です。
法的再生では、裁判所への申立てや再建計画の作成、債権者との調整など、多くの手続きが必要です。そのため、手続きが完了するまでには一定の期間を要し、弁護士などの専門家への報酬や裁判所へ納める費用なども発生します。事前に必要な期間や費用を把握し、資金計画を立てた上で手続きを進めることが重要です。また、早い段階で専門家へ相談することで、自社に適した再建方法を選択しやすくなります。
私的再生とは、裁判所による法的手続きを利用せず、債務者と債権者が話し合いを行いながら事業再生を目指す方法です。返済条件の見直しや再建計画の策定を通じて、事業の継続と経営改善を図ります。企業の規模や経営状況、債権者との関係などに応じて利用できる制度が異なり、目的に応じて適切な手法を選択することが重要です。
任意整理(純粋私的整理)とは、企業が金融機関などの債権者と個別に協議を行い、返済期限の延長(リスケジュール)や返済条件の変更などについて合意を目指す方法です。裁判所や公的機関を利用しないため、私的再生の中でも最も基本的な手法とされています。
主に、債権者の数が比較的少なく、金融機関との信頼関係が構築されている企業で利用されます。また、事業自体は継続可能であり、一時的な資金繰りの悪化などを改善することで経営の立て直しが見込める場合に選択されることが一般的です。実際の交渉では、弁護士や公認会計士、中小企業診断士などの専門家が関与し、再建計画を作成した上で金融機関との協議を進めます。
中小企業活性化協議会は、中小企業の経営改善や事業再生を支援する公的機関です。全国の都道府県に設置されており、中小企業基本法に定める中小企業を対象に相談を受け付けています。相談内容に応じて、専門家が経営状況や財務状況を分析し、経営改善計画や事業再生計画の策定を支援します。また、必要に応じて金融機関との調整を行い、再建計画の合意形成をサポートします。企業単独では金融機関との調整が難しい場合でも、中立的な立場から支援を受けられる点が特徴です。
「中小企業の事業再生等に関するガイドライン」は、2022年3月に公表された、中小企業向けの私的整理に関する指針です。中小企業が金融機関と協議しながら事業再生を進める際の基本的な考え方や手続きの流れが示されています。このガイドラインでは、債務者と金融機関が相互に協力しながら再建計画を策定し、公平性や透明性を確保しつつ事業再生を進めることが求められています。また、中小企業活性化協議会の対象外となる小規模事業者や個人事業主なども利用できる場合があります。
事業再生ADRは、「裁判外紛争解決手続の利用の促進に関する法律」に基づく事業再生制度です。経済産業大臣の認定を受けた第三者機関が中立的な立場で金融機関との協議を支援し、再建計画の合意形成を目指します。手続きでは、企業が作成した再建計画を基に金融機関との協議を進め、第三者機関が調整役となって意見の取りまとめを行います。現在、事業再生ADRの手続きの実施者は一般社団法人事業再生実務家協会(JATP)です。
主に、複数の金融機関から融資を受けている企業や、上場を維持しながら事業再生を進めたい企業などで活用されています。
地域経済活性化支援機構(REVIC)は、地域経済の活性化と事業再生を目的として設立された官民ファンドです。有用な経営資源を持ちながら過大な債務を抱える企業に対し、金融機関や地方公共団体などと連携しながら再建を支援しています。企業の状況に応じて、再建計画の策定支援、金融機関との調整、債権の買取りなどを行い、地域経済への影響も考慮しながら事業再生を進めます。
早期事業再生法(円滑な事業再生を図るための事業者の金融機関等に対する債務の調整の手続等に関する法律)は、2025年6月に成立し、2026年12月11日施行予定です。これは、倒産状態に至る前の事業者を対象に、経済産業大臣の指定を受けた第三者機関の関与の下で、金融機関等に対する債務を対象として、多数決と裁判所の認可により調整できる制度です。裁判所の関与があるため純粋な私的再生とは異なる一方、開始時の公示がないなど、通常の法的倒産手続とも異なる特徴があります。(参考:経済産業省「早期事業再生について」)
私的再生を利用する際の注意点は、次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
私的再生では、返済条件の変更や債務の減免などを行うために、対象となる債権者全員の合意を得ることが原則です。そのため、一部の債権者でも同意しなかった場合は、再建計画どおりに手続きを進められない可能性があります。
また、裁判所による監督がないため、再建計画の内容や債権者への対応が不透明であると、不信感を招き、合意形成がさらに難しくなることもあります。 特定の債権者だけを優遇していると受け取られないよう、公平性に配慮した再建計画を策定し、その根拠や実現可能性を丁寧に説明することが重要です。
担保権とは、融資の返済が滞った場合に、担保として設定された土地や建物、機械設備などを売却し、その代金から優先的に債権を回収できる権利です。私的再生は裁判所を利用しないため、法的再生のように担保権の実行を制限する効力はありません。そのため、担保権を有する金融機関などが担保権を実行した場合でも、それを法的に停止させることはできません。
担保権が実行されると、事業の継続に必要な資産を失い、再建計画に大きな影響を及ぼす可能性があります。そのため、私的再生では担保権者との十分な協議を行い、再建計画について理解と協力を得ながら手続きを進めることが重要です。
事業再生の一般的な流れは、次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
事業再生では、最初に会社の現状を正確に把握し、経営悪化の原因を特定することが重要です。資金繰りや借入金の状況、売り上げや利益の推移、事業ごとの収益性などを分析し、どこに問題があるのかを明らかにします。併せて、事業環境や組織体制、コスト構造なども確認し、経営課題を多角的に整理します。
原因が明確になり、自社だけで改善できる課題であれば、社内で改善策の実行が可能です。一方で、経営状態が深刻であったり、原因の特定や改善策の立案が難しかったりする場合は、早い段階から専門家へ相談することをおすすめします。
現状分析の結果、自社だけでの改善が難しいと判断した場合は、事業再生の専門家や金融機関へ相談します。資金繰りの一時的な悪化など、主な課題が資金面にある場合は、金融機関へ相談することで返済条件の見直しや追加融資などの支援を受けられる可能性があります。
一方で、慢性的な赤字や過剰債務、事業構造そのものの見直しが必要な場合は、事業再生に精通した専門家へ相談することが重要です。事業再生の専門家には、弁護士や公認会計士、税理士、経営コンサルタントなどがおり、それぞれの専門知識を生かしながら事業再生を支援します。相談する際は、財務状況や借入金の状況などを正確に伝えることが大切です。問題を隠したままでは適切な支援を受けられず、かえって再建が難しくなります。
専門家へ相談した後は、デューデリジェンス(DD)を実施します。デューデリジェンスとは、会社や事業の状況を詳細に調査・分析し、会社の価値やリスク、事業再生の可能性を客観的に評価する調査です。
事業再生では、財務デューデリジェンスだけでなく、事業や法務、税務、人事など多角的な視点から会社の状況を確認します。その結果を基に、収益改善の可能性や課題を整理し、再建計画の方向性を検討します。なお、M&Aにおけるデューデリジェンスは買収の可否を判断することが主な目的ですが、事業再生では再建の可能性を見極め、実現可能な再生計画を策定するために実施する点が異なります。
デューデリジェンスの結果を踏まえ、自社に適した事業再生の方法を決定します。事業の収益性や財務状況、資金繰り、債権者との関係などを総合的に判断し、実現可能性の高い方法を選択することが重要です。また、再建までに必要な期間や資金、ステークホルダーへの影響なども考慮しながら、専門家と協議して方針を決定します。
事業再生では、一つの手法だけで再建を進めるとは限りません。企業の状況によっては、複数の手法を組み合わせながら再建を進めるケースもあるため、柔軟な判断が求められます。
事業再生の方針が決まったら、具体的な施策や目標をまとめた事業再生計画書を作成します。事業再生計画書には、会社の現状分析や課題に加え、収益改善策、コスト削減策、実施スケジュール、数値目標、実行体制などを具体的に記載します。
この計画書は、社内で事業再生の方向性を共有するためだけでなく、金融機関やスポンサー、取引先などへ再建計画を説明する際の重要な資料です。そのため、実現可能性が高く、客観的な根拠に基づいた内容である必要があります。また、短期的な改善だけでなく、中長期的な成長も見据えた計画を策定することで、継続的な企業価値の向上につながります。
事業再生計画書を作成した後は、その内容を基に金融機関をはじめとするステークホルダーとの調整を進めます。 金融機関とは、返済条件の変更や返済猶予、債権放棄、追加融資など、再生計画の実現に必要な金融支援について協議します。また、再生手法や事業への影響によっては、株主やスポンサー、主要な取引先などとの調整が必要になる場合もあります。事業再生を円滑に進めるためには、必要な合意や協力を得た上で、再生計画を実行に移すことが重要です。
ステークホルダーとの合意形成が完了したら、事業再生計画を実行します。事業再生は計画を作成して終わりではなく、計画どおりに施策が実行されているかを継続的に確認し、必要に応じて改善を重ねていくことが重要です。売り上げや利益、資金繰りなどの目標を定期的に確認し、計画との差異を分析しながら施策を見直すことで、再建の成功につながります。
また、事業再生には数年単位の取り組みとなるケースも少なくありません。短期的な成果だけにとらわれず、中長期的な視点で経営改善を継続していくことが、持続的な企業成長につながります。
事業再生計画書は、単に再生に向けた施策をまとめるための書類ではありません。金融機関や取引先などの関係者に対して、事業再生の実現可能性を示し、理解や協力を得るための重要な資料です。ここでは、実効性の高い事業再生計画書を作成する際に押さえておきたいポイントを解説します。
事業再生計画書では、「売り上げを伸ばす」「利益を改善する」といった目標を掲げるだけでなく、その目標を達成できる根拠を示すことが重要です。例えば、市場動向や受注状況、既存顧客との取引実績、コスト削減の具体的な見込みなどを示すことで、計画の実現可能性を客観的に説明できます。
また、売り上げや利益の改善策については、受注件数や販売単価、原価率などの数値と結び付け、いつまでにどの程度の効果を見込むのかを明確にすることが大切です。根拠のない楽観的な見通しでは関係者の理解を得ることが難しいため、過去の実績や客観的なデータに基づいて説明しましょう。
事業再生では、全ての課題を同時に解決することは容易ではありません。そのため、どの施策から取り組むのか優先順位を明確にすることが大切です。例えば、資金繰りの改善を最優先とするのか、不採算事業の見直しを先に進めるのかによって、必要な経営資源や実施スケジュールは異なります。緊急性や収益改善への効果、実行の難易度などを踏まえて優先順位を整理する必要があります。 優先順位を明確にした上で、担当者や期限、必要な資金などを実行計画へ落とし込むことで、計画全体に一貫性を持たせられます。
事業再生は、必ずしも当初の計画どおりに進むとは限りません。市場環境の変化や売り上げの未達、原材料費の上昇、人材の確保が進まないことなど、さまざまなリスクが考えられます。そのため、計画書には想定されるリスクだけでなく、リスクが発生した場合の対応策も併せて記載することが重要です。例えば、売り上げが計画を下回った場合に追加のコスト削減を行うなど、具体的な代替策を準備しておきます。
さらに、どの程度の未達が生じた場合に対応策を実行するのか、判断基準をあらかじめ定めておくことで、状況の変化にも迅速に対応しやすくなります。こうした内容を示すことで、関係者に対して計画の実効性や管理体制を説明できます。
事業再生を成功させるためのポイントは、次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
事業再生では、経営危機を認識した時点で早期に行動を開始することが重要です。業績悪化が続いていても、「受注が増えれば回復する」「景気が改善すれば元に戻る」などと判断を先送りすると、その間にも資金は減少し続けます。資金繰りが限界に近づくと、金融機関から新たな支援を受けにくくなる他、私的再生や再生型M&Aなど選択できる再生手法も限られてしまいます。
十分な運転資金を確保できている段階であれば、事業の見直しや金融機関との協議、スポンサーの選定などを冷静に進める時間を確保できます。経営悪化の兆候が見えた段階で現状を分析し、必要に応じて専門家へ相談することが、事業再生の成功率を高めるポイントです。
事業再生では利益だけでなく、「いつ、いくらの現金が入ってきて、いつ支払いが発生するのか」を把握することが重要です。黒字であっても、手元資金が不足すれば仕入代金や給与、借入金の返済ができなくなり、事業を継続できなくなる可能性があります。そのため、売り上げや利益だけを見るのではなく、資金繰り表を活用して将来の資金の動きを継続的に管理することが欠かせません。
また、不要な設備投資や在庫の圧縮、遊休資産の売却などにより資金流出を抑えるとともに、利益率の高い商品の販売強化や価格の見直しなど、収益改善にも並行して取り組む必要があります。支出の削減だけでは事業は再生できないため、キャッシュを守りながら利益を生み出す仕組みを構築することが重要です。
事業再生では、全ての事業を維持しようとするのではなく、将来も収益を生み出せる事業へ経営資源を集中させることが重要です。不採算事業を抱えたままでは、人材や資金が分散し、収益性の高い事業への投資も難しくなります。そのため、事業ごとの売り上げや利益だけでなく、市場の成長性や競争優位性、自社の強みなども踏まえて、今後も継続すべき事業を判断する必要があります。
場合によっては、不採算事業から撤退したり、事業譲渡を行ったりする決断が必要になることもあります。短期的な感情や過去の成功体験にとらわれず、中長期的な視点で事業ポートフォリオを見直すことが、持続的な再建につながります。
事業再生では、金融機関や取引先、従業員など、多くの関係者の理解と協力が欠かせません。特に金融機関へ相談する際は、資金繰りや借り入れ状況、経営課題などを正確に開示し、実現可能な再建計画を示すことが重要です。経営状況を過度に良く見せたり、不利な情報を隠したりすると、信頼関係が損なわれ、必要な支援を受けにくくなる可能性があります。
また、従業員に対しても必要な範囲で事業再生の目的や方向性を共有することで、現場の協力を得られます。取引先や株主に対しても状況に応じた説明を行い、理解を得ながら再建を進めることで、事業再生を円滑に進めやすくなります。
事業再生計画は、内容が優れていても実行できなければ成果にはつながりません。事業再生では通常業務を続けながら経営改革も進める必要があるため、日々の業務を優先するうちに、再生施策が後回しになりがちです。そのため、事業再生を着実に進めるには、経営者だけに負担を集中させるのではなく、経営幹部や現場責任者を巻き込んだ実行体制を構築することが重要です。施策ごとに担当者や実施期限、目標を明確にし、「誰が・いつまでに・何を実行するのか」を具体的に整理することで、計画の実効性を高められます。
また、事業再生では計画どおりに進まないことも珍しくありません。資金繰りや売り上げ、利益などの重要な指標を定期的に確認し、計画と実績の差異が生じた場合は、その原因を分析した上で施策を見直すことが大切です。特に経営環境が大きく変化している局面では、計画を固定的に運用するのではなく、状況に応じて柔軟に修正しながら再建を進める姿勢が求められます。
さらに、必要に応じて事業再生の専門家や金融機関と定期的に進捗を共有することも有効です。第三者の客観的な視点を取り入れることで、課題を早期に把握しやすくなり、計画の実効性を維持しながら事業再生を進められます。
ここからは、事業再生の代表的な事例を紹介します。
日本航空(JAL)は、2009年に経営が悪化し、2010年1月に会社更生法の適用を申請しました。その後、企業再生支援機構(当時)の支援を受けながら事業再生を進めた、日本を代表する再建事例です。
再建では、不採算路線の見直しにより国際線を約4割、国内線を約3割縮小した他、貨物専用機事業から撤退しました。また、機材数や従業員数を見直すとともに、ホテル事業などの非中核事業を売却し、航空事業へ経営資源を集中させています。
財務面では、企業再生支援機構による3,500億円の出資や金融機関による5,215億円の債権放棄を受け、財務基盤を強化しました。さらに、グループ全体の経営管理体制や人材マネジメントも見直し、事業・財務・組織を一体的に改革しています。
こうした取り組みにより、日本航空は2012年9月に東京証券取引所へ再上場を果たしました。この事例は、事業の選択と集中に加え、財務改善と組織改革を同時に進めたことが、事業再生の成功につながった代表例といえます。 (出所:国土交通省「日本航空の再生について」)
シャープは、液晶テレビや太陽電池分野で世界をリードしていましたが、液晶事業への大規模投資や市場環境の変化に対応できず、経営危機に陥りました。2014年度には2,223億円の純損失を計上し、液晶事業や太陽電池事業への依存、事業構造の見直しの遅れなどが課題となりました。
その後、2016年に台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業と資本業務提携を締結し、本格的な経営再建を進めます。不採算事業の見直しや固定費の削減に加え、事業ポートフォリオの再編を実施し、ブランド事業やデバイス事業など収益性の高い分野へ経営資源を集中させました。また、生産体制の効率化や財務基盤の改善にも取り組み、収益構造の立て直しを図っています。
これらの改革により業績は改善し、2017年には東京証券取引所市場第一部へ復帰しました。シャープの事例は、コスト削減だけではなく、資本提携や事業構造の見直しを通じて競争力を回復し、企業価値の向上につなげた事業再生の代表例といえます。 (出所:シャープアニュアルレポート2018)
日産自動車は、業績悪化を受けて2025年に経営再建計画「Re」を公表し、現在も経営改革を進めています。同計画では、コスト構造の改善、市場戦略・商品戦略の再定義、パートナーシップの強化を柱として、収益力の回復を目指しています。
再建に向けた取り組みとして、固定費の削減や組織の効率化に加え、市場ニーズに合わせた商品戦略の見直しや新商品の投入を進めています。また、開発・生産体制の最適化や提携先との連携強化にも取り組み、競争力の回復を図っています。
「Re」は現在も進行中の経営再建計画であり、その成果については今後の進捗を見守る必要があります。一方で、財務改善だけでなく、事業構造の見直しや市場戦略の再構築を一体的に進める重要性を示す事例として注目されています。 (出所:日産自動車「経営再建計画 Re:Nissanについて」)
最後に、事業再生に関するよくある質問とその回答を紹介します。
経営改善と事業再生に法律上統一された明確な区分があるわけではありませんが、一般的には、経営状況の深刻さや取り組む施策の範囲に違いがあります。経営改善は、業務の効率化やコスト削減、価格の見直し、生産性の向上などを通じて、収益力や経営体質を改善する取り組みです。必要に応じて一部の事業や商品構成を見直す場合もありますが、現在の経営基盤を生かしながら改善を進めるケースが中心です。
一方、事業再生は、資金繰りの悪化や過剰債務などにより事業の継続が難しくなっている企業が、事業と財務の両面から抜本的な立て直しを図る取り組みです。不採算事業からの撤退、債務の返済条件の変更、スポンサーからの支援、事業譲渡などを組み合わせる場合もあります。つまり、経営改善は経営上の課題を改善して収益力を高める取り組みであり、事業再生は事業の継続が危ぶまれる状況で、事業・財務構造を含めた再建を目指す取り組みと考えるとわかりやすいでしょう。
事業再生に必要な期間は、企業の経営状況や選択する再生手法によって異なります。例えば、金融機関との協議を中心に進める私的再生は、法的手続きよりも比較的短期間で再建計画を策定・実行できるケースがあります。一方、民事再生や会社更生などの法的再生は、裁判所での手続きや債権者との調整が必要となるため、手続き開始から再生計画の認可まで数カ月以上かかることが一般的です。
また、事業再生は再生計画が認可・合意された時点で完了するわけではありません。計画に沿って収益改善や財務改善を進め、目標を達成するまでには数年単位の取り組みとなるケースも少なくありません。そのため、経営悪化に気付いた段階で早めに専門家や金融機関へ相談し、十分な時間を確保した上で事業再生に着手することが成功につながります。
事業再生を行うからといって、必ず従業員を解雇しなければならないわけではありません。
事業再生では、事業の継続と収益性の回復を目指してさまざまな施策を実施しますが、人員削減はその選択肢の一つに過ぎません。例えば、業務の効率化や不採算事業の見直し、役員報酬の減額、コスト削減などによって経営改善を図り、雇用を維持しながら再建を進めるケースもあります。
一方で、事業規模の縮小や事業再編に伴い、人員削減が避けられない場合もあります。しかし、経営上の理由による解雇(整理解雇)は、経営状況だけを理由に自由に行えるものではありません。解雇の必要性や人員削減を回避する努力、対象者の選定基準の合理性、十分な説明や協議などが求められ、解雇権の乱用と判断された場合は無効となる可能性があります。そのため、事業再生で人員削減を検討する際は、労働関係法令を順守するとともに、社会保険労務士や弁護士などの専門家へ相談しながら慎重に進めることが重要です。
債務超過であっても、事業再生ができる可能性はあります。債務超過とは、貸借対照表上で負債が資産を上回っている状態を指します。しかし、債務超過になったからといって、直ちに倒産や廃業が決まるわけではありません。事業そのものに収益力や将来性があり、実現可能な再生計画を策定できれば、金融機関や取引先の協力を得ながら事業を立て直せるケースもあります。また、返済条件の見直し(リスケジュール)や不採算事業の整理、コスト削減などを進めることで、財務状況の改善を目指すことも可能です。
一方で、債務超過の状態を放置すると資金繰りが悪化し、事業再生の選択肢が限られてしまう可能性があります。そのため、債務超過が判明した場合は、できるだけ早い段階で専門家へ相談し、現状を正確に把握した上で再生計画を検討することが重要です。
事業再生では、金融機関に返済条件の変更(リスケジュール)などの協力を求めることがあります。その際、金融機関は「事業再生計画どおりに進めた方が、現時点で会社を清算するよりも多くの債権を回収できるか」という経済合理性を重要な判断基準としています。そのため、事業再生計画では、売り上げや利益の目標だけでなく、その数値に至る根拠を具体的に示すことが重要です。例えば、売り上げの見込みやコスト削減策、資金繰り、返済原資などを具体的なデータに基づいて説明することで、計画の実現可能性を示しやすくなります。
また、金融機関は、会社を清算した場合に回収できる金額(清算価値)と、事業再生計画に基づいて返済を続けた場合の回収見込みを比較して判断します。そのため、実現可能で根拠のある事業再生計画を策定することが、金融機関の理解と協力を得るための重要なポイントです。
再生型M&Aでは、会社名が変わる場合もあれば、変わらない場合もあります。会社名が変わるかどうかは、採用される再生手法やスポンサー企業の方針によって異なります。例えば、スポンサー企業の子会社として企業再生を進める場合でも、これまでのブランドや知名度を生かすために会社名を維持するケースがあります。
一方で、事業譲渡や第二会社方式などでは、事業を新会社へ承継することがあるため、新たな会社名で事業を継続するケースもあります。また、企業イメージの刷新やブランド戦略の一環として、再生後に商号を変更することもあります。
このように、再生型M&Aでは会社名の変更が必須となるわけではなく、事業の継続性やブランド価値、再生方針などを踏まえて個別に判断されます。
取引先へ説明するタイミングは、事業再生の手法や企業の状況によって異なります。一般的には、事業継続に大きな影響を与える主要な取引先については、再生計画の方向性が固まった段階で、適切なタイミングに説明し、理解や協力を得ることが重要です。特に、継続的な仕入れや販売に関わる取引先との信頼関係は、事業再生を円滑に進める上で重要な要素です。
一方で、説明が早すぎると不安を与えたり、取引の縮小や停止につながったりする可能性もあります。そのため、金融機関や専門家と相談しながら、事業再生計画の内容や情報開示の範囲を整理した上で説明することが大切です。
また、法的再生では裁判所の手続きや公表のタイミングを踏まえて対応する必要があり、私的再生でも取引先との関係を維持しながら慎重に進めることが求められます。状況に応じて適切なタイミングで情報共有を行うことが、事業継続への理解や協力を得ることにつながります。
事業再生とは、困難な状況にある企業が未来に向けて新たな一歩を踏み出すための重要なプロセスです。経営状態が悪化したとき、適切な再生手法を選択し、計画的に立て直しを図ることで、新たな可能性を切り開くことができます。法的再生や私的再生、再生型M&Aなど、さまざまな方法があるため、自社の状況に最も適した手法を選ぶことが成功の鍵となります。
もし会社が事業再生を検討しているのであれば、まずは信頼できる専門家に相談することをお勧めします。専門家のサポートを受けることで、最適な戦略を策定し、事業再生を成功に導く可能性が高まります。早期の行動が未来を切り開く大きな一歩となりますので、今すぐ具体的な行動を始めてみてください。事業再生の成功が、あなたのビジネスの新たな成長へとつながることを願っています。
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