事業再生ADRとは?メリット・デメリットや手続きを事例とともに紹介

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事業再生ADRは、経営危機に陥った企業が債権者と合意形成を図りながら事業を立て直すための手続きです。 裁判外紛争解決手続(裁判所を通さずに債権者と交渉する)を活用した私的整理の一種で、法的再生と私的再生の中間に位置する制度として注目されています。 債権者による無税償却(債権放棄分を損金として計上できる仕組み)が可能な点や商取引の継続ができる点で優れた特徴を持っています。 一方で、全債権者の同意が必要なため手続きが困難な側面もあり、中小企業にとっては高額な費用負担が課題となっています。 本記事では、事業再生ADRの仕組みからメリット・デメリット、実際の成功・失敗事例まで詳しく解説します。

事業再生ADRの基本概念と制度の位置づけ

事業再生ADRを理解するためには、まずADR(裁判外紛争解決手続)の基本概念から把握する必要があります。ADRは裁判を通さずに紛争を解決する仕組みで、第三者機関が関与することで中立性が確保される制度です。

ADR(裁判外紛争解決手続)の基礎知識

ADRは Alternative Dispute Resolution の略称で、あっせん・調停・仲裁などの手法を含む紛争解決制度です。 裁判所を通さない民間の紛争解決手続きとして、迅速性と柔軟性を重視した解決が可能になります 。事業再生の分野でも、この仕組みを活用することで債権者との合意形成を効率的に進められます。

事業再生実務家協会が運営する事業再生ADRは、経営危機に陥った企業の再生を目的とした専門的なADR制度です。第三者機関が仲介に入ることで、債権者と債務者の利害調整を公正に行う仕組みが整っています。

私的整理と法的再生の中間に位置する制度

事業再生ADRは、私的再生の柔軟性と法的再生の制度的信頼性を併せ持ち、両者の中間に位置づけられる制度です。従来の私的整理では債権者との個別交渉が中心でしたが、事業再生ADRでは第三者機関が関与することで交渉の透明性と公正性が確保されます。

また、法的再生では裁判所の監督下で手続きが進行するため時間がかかりますが、事業再生ADRでは比較的短期間での解決が期待できます。不成立となった場合でも、法的再生へのスムーズな移行が可能です。

主要な活用企業と実績

事業再生ADRは、これまでアイフル、エドウィン、曙ブレーキ工業などの大手企業で活用されています。年別の利用件数を見ると、2015年の3件から2019年の9件まで徐々に増加傾向にあり、制度の認知度と活用度が高まっています。

特に製造業や金融業での活用が目立っており、事業規模が大きく債権者が多数存在する企業での成功事例が蓄積されています。 ただし、中小企業での活用事例は限定的で、費用対効果の観点から慎重な検討が必要です。

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    事業再生ADRの特徴とメリット

    事業再生ADRには、他の事業再生手法にはない独特の特徴とメリットがあります。特に債権者にとっての税務上の優遇措置や、事業継続の観点から重要な利点が複数存在します。

    債権者による無税償却の実現

    事業再生ADRの最大の特徴は、債権者が債務免除を行なった際にその金額を損金算入できる点です。国税庁の通達に基づく実務により、債務免除益が損金算入されることで、債権者は税務上の優遇措置を受けられます。これは私的整理では必ずしも得られない制度的な利点です。

    債務免除分を損金算入できることで、債権者の債権放棄に対する心理的ハードルが下がり、合意形成が促進されます。特に金融機関にとっては、不良債権処理の際の税務負担を軽減できるため、積極的に債権放棄を検討することが可能になります。

    商取引の継続と風評リスクの回避

    法的再生とは異なり、事業再生ADRでは通常の商取引を維持しながら債権者との交渉を進められます。また、手続きの公表が不要なため、風評リスクを回避できる点も大きなメリットです。

    取引先との関係を維持しながら事業再生を進められるため、売上の急激な減少や取引停止といった二次的な影響を抑制できます特にBtoB事業を展開する企業にとって、この継続性は事業再生の成功に直結する重要な要素となります。

    融資環境の改善と優先弁済の仕組み

    事業再生ADRでは、優先弁済の仕組みによりつなぎ融資を受けやすい環境が整備されています。 ただし、実務上は限定的な活用に留まっているのが現状です。 手続き期間中に必要な運転資金の調達について、一定の配慮がなされている点は評価できます。

    新規融資については、金融機関の慎重な姿勢もあり、実際の融資実行には時間がかかる場合が多いです。そのため、事前の資金計画と既存取引銀行との十分な協議が重要になります。

    法的再生への円滑な移行システム

    事業再生ADRが不成立となった場合でも、法的再生へのスムーズな移行が可能な構造になっています。手続きの過程で作成した資料や債権者との協議内容を法的再生でも活用できるため、時間的ロスを最小限に抑えられます。

    事業再生ADRで合意に至らなかった場合の備えとして、この移行システムは企業の選択肢を広げる重要な機能を果たしています。実際に大和システムの事例では、事業再生ADRから法的再生への移行が行われました。

    事業再生ADRのデメリットと課題

    事業再生ADRには多くのメリットがある一方で、制度上の制約や実務上の課題も存在します。特に全債権者の同意が必要な点や高額な費用負担は、制度活用の大きな障壁となっています。

    全債権者の同意という高いハードル

    事業再生ADRの最大のデメリットは、全債権者の同意が必要な点です。1名でも反対があると手続きが不成立となるため、債権者が多数存在する企業では合意形成が極めて困難になります。法的再生では多数決による決議が可能ですが、事業再生ADRでは全員一致が前提となります。

    特に債権者の中に感情的な対立を抱える相手や、戦略的に反対する可能性のある競合他社が含まれる場合、合意形成は一層困難になります。事前の債権者との関係性や交渉力が成功の鍵を握ります。

    高額な手続き費用の負担

    事業再生ADRの手続きには、仲介費用として約1000万円から1億円規模の費用が必要です。この高額な費用負担は、特に中小企業にとって大きな障壁となっています。 事業再生実務家協会への申請料、専門家報酬、各種手続き費用を含めると、相当な金額になります。

    中小企業の場合、この費用負担が事業再生の効果を上回る可能性があり、費用対効果の慎重な検討が不可欠です。 債権免除額と手続き費用を比較し、経済的合理性を十分に検証する必要があります。

    柔軟性の制約と第三者関与の制限

    私的再生と比較すると、事業再生ADRでは第三者機関が関与するため、手続きの柔軟性に制約があります。具体的には、債権者との個別交渉や条件調整において、事業再生実務家の指導や合意形成のプロセスに基づく一定のルールが設けられることがあります。

    また、事業再生実務家協会の定める手続きに従う必要があるため、企業固有の事情に応じた柔軟な対応が難しい場合があります。標準化された手続きは効率性を高める一方で、個別の状況に適応する柔軟性が欠けることがあるため、これが課題となります。

    事業再生ADRの利用条件と手続きの流れ

    事業再生ADRを利用するためには、厳格な条件を満たす必要があります。また、手続きの流れも段階的に定められており、各段階での適切な対応が求められます。

    利用対象となる企業の条件

    事業再生ADRを利用できるのは、以下の全ての条件を満たす法人のみです。まず、自力での再生が困難であることが前提条件となります。これは、企業が自らの力だけでは再生が難しい状況を示しています。支援を受ければ再生の見込みがあり、かつ法的再生では重大な支障が生じる場合に限定されています

    さらに、破産よりも高い回収可能性があること、または債権者にとって有利な条件が提示できることと、実現可能な再生計画を立案できることが必要です。これらの条件は事業再生実務家協会により厳格に審査され、条件を満たさない場合は申請が受理されません。

    申請から決議までの4段階手続き

    事業再生ADRの手続きは、申請、計画策定、債権者会議、全会一致の4段階で構成されます。まず申請段階では、事業再生実務家協会に申請書と必要書類を提出します。

    手順内容期間目安
    申請事業再生実務家協会への申請書提出1-2週間
    計画策定債権者にとって合理的な再生計画案の作成1-2ヶ月
    債権者会議説明・協議・決議の3回の会議開催2-3ヶ月
    全会一致全債権者の同意取得(会議と並行で進行)

    計画策定段階では、破産より高い回収を前提とした合理的な再生計画案を作成します。この計画は債権者の利益を十分に考慮したものでなければなりません。また、債権者会議では、提案された再生計画について説明し、債権者との協議を通じて合意形成を目指します。

    債権者会議での合意形成プロセス

    債権者会議は説明・協議・決議の3回開催され、各回で段階的に合意形成を図ります。説明会議では再生計画の詳細が説明され、債権者がその内容を理解することを目的とします。協議会議では債権者からの質疑応答や条件調整が実施され、債権者の意見を反映させる重要なプロセスです。

    決議会議では最終的な合意形成を行い、全債権者の同意が得られた場合のみ手続きが成立します。この過程で、1名でも反対があれば「全会一致」を達成できないため、手続きは不成立となり、法的再生への移行を検討することになります。

    成功事例と失敗事例から学ぶ実践的知見

    事業再生ADRの実際の活用状況を理解するために、成功事例と失敗事例の分析が重要です。これらの事例から、制度活用の成功要因と失敗要因を明確にできます。

    曙ブレーキ工業の成功事例分析

    曙ブレーキ工業は2019年に事業再生ADRを活用し、約560億円の債務免除を実現しました。複数国での工場閉鎖による事業構造改革と200億円の融資により、事業再生に成功した代表的な事例です。

    成功の要因として、早期の経営判断、債権者との良好な関係維持、実現可能性の高い再生計画の策定が挙げられます。特に主要債権者である金融機関との信頼関係が、全債権者の合意形成に大きく寄与しました。

    田淵電機のスポンサー型再生成功

    田淵電機は2018年に事業再生ADRを活用し、49億円の債務免除と40億円の返済猶予を実現しました。スポンサー企業の支援を得た再建により、事業継続に成功した事例です。

    この事例では、事業価値の維持と新たな事業パートナーの確保が成功の鍵となりました。スポンサー企業との協力により、技術力の維持と市場での競争力確保を両立できました。

    大和システムの失敗事例と教訓

    大和システムは2010年に事業再生ADRを申請しましたが、スポンサー支援の打ち切りにより法的再生への移行を余儀なくされ、最終的に倒産・上場廃止となりました。

    失敗の要因として、スポンサー企業との条件調整不足、市場環境の急激な変化への対応不備、債権者との合意形成の困難が挙げられます。この事例は、外部環境の変化に対する柔軟性の重要性を示しています。

    中小企業オーナーが知っておくべき実務上の注意点

    中小企業が事業再生ADRを検討する際には、大企業とは異なる特有の課題と注意点があります。費用対効果や手続きの実現可能性について、現実的な判断が必要です。

    費用対効果の慎重な検討

    中小企業にとって1000万円以上の手続き費用は大きな負担となります。債権免除額と手続き費用を比較し、経済的合理性を十分に検証する必要があります。債権免除額が手続き費用を大幅に上回る場合のみ、事業再生ADRの活用を検討すべきです。

    また、手続き期間中の運転資金確保も重要な検討事項です。事業継続に必要な資金調達の見通しを立てた上で、手続きの開始を判断することが求められます。

    債権者との事前関係構築の重要性

    全債権者の同意が必要な事業再生ADRでは、日常的なステークホルダーマネジメントの質が成功の鍵となります。債権者との信頼関係を事前に構築しておくことで、合意形成の可能性を高められます。

    特に中小企業では、経営者の個人的な信頼関係が重要な要素となります。平時からの誠実な対応と透明性のある情報開示により、危機時の協力を得やすい環境を整備することが重要です。

    代替手段との比較検討

    事業再生ADRが唯一の選択肢ではないことを理解し、私的整理や法的再生との比較検討を行うことが必要です。企業の規模、債権者の構成、事業の特性に応じて、最適な手続きを選択することが重要です。

    中小企業の場合、私的整理による個別交渉や事業譲渡による解決が現実的な選択肢となる場合も多いです。M&Aによる事業承継も含めて、総合的な検討を行うことが求められます。

    まとめ

    事業再生ADRは、私的整理と法的再生の中間に位置する事業再生手法として、債権者による無税償却や商取引継続などの優れた特徴を持っています。曙ブレーキ工業や田淵電機などの成功事例により、その有効性が実証されています。

    一方で、全債権者の同意が必要な点や高額な手続き費用は大きな課題となっており、特に中小企業にとっては活用のハードルが高い制度です。事業再生を検討する際には、費用対効果を慎重に検証し、代替手段との比較検討を行うことが重要です。

    企業の事業再生や事業承継についてお悩みの場合は、専門的な知識と豊富な経験を持つアドバイザーに相談することで、最適な解決策を見つけることができます。

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