TOB(株式公開買い付け)とは?5つの目的と手続きの流れを解説 

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近年、企業買収や組織再編に関するニュースで「TOB」という言葉を目にする機会が増えています。TOB(株式公開買付け)は、企業の経営権取得を目的とした重要なM&A手法の一つで、中小企業の事業承継においても活用される場面が増えています。 

しかし、TOBの仕組みや目的、手続きの流れについて正確に理解している方は多くありません。友好的TOBと敵対的TOBの違い、他のM&A手法との使い分け、投資家にとってのメリット・デメリットなど、TOBを理解するためには幅広い知識が必要です。 

本記事では、TOBの基本概念から実際の活用方法まで、中小企業のM&Aを中心に詳しく解説します。TOBに関する正しい知識を身につけ、適切なM&A判断を行うための参考にしてください。 

TOBとは何か?基本概念と仕組みを解説

TOBは企業の経営権取得を目的とした買収手法の一つで、近年のM&A市場において重要な役割を果たしています。中小企業のM&Aでも活用される場面があるため、基本的な仕組みを理解しておくことが重要です。このセクションでは、TOBの定義から特徴、種類まで、基本的な概念を分かりやすく解説していきます。 

TOBの定義と正式名称 

TOBは「Take-Over Bid」の略称で、日本語では「株式公開買付け」と訳されます。これは、買付け価格や買付け期間、買付け予定数などの条件を公開し、不特定多数の株主から株式を買い付ける手法です。 

通常の株式取引とは異なり、買付者が金融庁の電子開示システム(EDINET)や日刊新聞紙などの公的媒体を通じて買付けの意思を表明し、株主に対して株式の売却を呼びかけます。特にEDINETによる電子公告が実務上、主要な情報開示手段となっています。買付価格は一般的に市場価格よりも高く設定されるため、株主にとって有利な売却機会となることが多いのが特徴です。TOBを実施する側を「公開買付者」、対象となる企業を「対象会社」と呼びます。 

証券取引所を通さない取引の特徴 

TOBの最大の特徴は、証券取引所を介さずに直接株式を取得する点にあります。通常の株式取引では証券取引所で売買が行われますが、TOBでは公開買付者が直接株主から株式を買い取ります。 

この仕組みにより、大量の株式を一度に取得しても市場価格への影響を抑えることができます。証券取引所での大量取引は株価の急激な変動を招く可能性がありますが、TOBではあらかじめ価格と期間を設定するため、計画的な買収が可能になります。また、買付価格が固定されているため、市場の変動リスクを回避できる点も重要な特徴です。中小企業のM&Aにおいても、この安定性は大きなメリットとなります。 

友好的TOBと敵対的TOBの基本的な違い 

TOBには、対象企業の経営陣との関係性により「友好的TOB」と「敵対的TOB」の2つの種類があります。それぞれの特徴と違いを理解することは、M&A戦略を考える上で重要です。 

友好的TOBは、対象企業の経営陣から事前に同意を得て実施されるTOBです。買収側と対象企業が良好な関係を維持しながら買収を進めるため、株主や従業員からの理解も得やすく、成功率が高いのが特徴です。日本で実施されるTOBの大部分がこの友好的TOBに該当します。 

一方、敵対的TOBは対象企業の経営陣の同意を得ずに実施されるTOBです。対象企業は買収防衛策を講じることが多く、成功率は友好的TOBと比較して低くなります。しかし、業績不振の企業の経営刷新や、停滞している企業価値の向上を目的として実施される場合があります。 

TOBと他のM&A手法との違いと使い分け

M&Aには様々な手法があり、それぞれに特徴と適用場面があります。TOBを効果的に活用するためには、他の手法との違いを理解し、状況に応じて適切な手法を選択することが重要です。ここでは、TOBと類似するMBO、LBO、IPOとの違いと使い分けについて詳しく解説します。 

TOBとMBOの違いと使い分け 

MBO(Management Buyout)は、企業の経営陣が自社の株式を買い取って経営権を獲得する手法です。TOBとMBOの主な違いは、買収の主体と対象企業の範囲にあります。 

TOBは第三者による有価証券報告書提出会社(上場企業及び一部の非上場企業を含む)の買収に用いられることが一般的ですが、MBOは経営陣による自社買収であり、上場・非上場を問わず実施可能です。中小企業の事業承継においては、後継者不在の課題を解決する手段としてMBOが活用されることが多くあります。 

使い分けのポイントとしては、外部からの買収による事業拡大や経営統合を目指す場合はTOBが適しており、現経営陣が継続して経営を行いながら株主構成を変更したい場合はMBOが適しています。また、TOBは市場価格にプレミアムを上乗せした価格設定が一般的ですが、MBO(特に上場企業の場合)においても、少数株主の利益保護の観点から、市場株価への適切なプレミアムの上乗せや、独立した第三者委員会による価格の妥当性評価などを通じて公正な価格設定が求められます。 

TOBとLBOの違いと使い分け 

LBO(Leveraged Buyout)は、買収対象企業の資産や将来の収益力を担保として資金を調達し、少ない自己資金で買収を実行する手法です。TOBが買収の実行方法を指すのに対し、LBOは資金調達の方法を指している点で違いがあります。 

TOBは証券取引所を通さない株式取得方法であり、一般に有価証券報告書提出会社(上場企業及び一部の非上場企業を含む)を対象とします。一方、LBOは資金調達手法のため、上場・非上場を問わず活用でき、中小企業の買収でも頻繁に使用されます。 

実際の使い分けでは、自己資金が十分にある場合や友好的な買収を進める場合はTOBが選択され、自己資金が限られているが対象企業に十分な資産価値がある場合はLBOが選択されます。また、TOBとLBOを組み合わせて、LBOによる資金調達でTOBを実施するケースもあります。この場合、効率的な資金活用と計画的な買収の両方のメリットを享受できます。 

TOBとIPOの違いと使い分け 

IPO(Initial Public Offering)は、未公開企業が新規に株式を公開し、証券取引所に上場する制度です。TOBとIPOは、株式の流動性という観点で対照的な性質を持っています。 

TOBは既に上場している企業の株式を市場外で買い取り、場合によっては上場廃止に向かわせる手法です。一方、IPOは非上場企業を上場させ、不特定多数の投資家が自由に売買できる状態にする手法です。 

使い分けの観点では、企業の成長段階と戦略によって選択が決まります。成長途上にある企業が資金調達と知名度向上を目指す場合はIPOが適しており、安定した収益基盤を持つ企業の経営権を取得して事業拡大を図る場合はTOBが適しています。中小企業においては、創業者の事業承継や後継者不在の解決手段としてTOBが活用される一方、事業拡大のための資金調達手段としてIPOが検討されることがあります。

TOBが実施される5つの主要目的

TOBが実施される背景には、明確な戦略的目的があります。会社法に基づく持株比率と権利の関係を理解することで、TOBの目的をより深く把握できます。主要な目的は以下の通りです。

  • 企業の経営権取得による子会社化  
  • 特別決議の否決権取得とグループ内企業再編
  • MBOによる非上場化  
  • 敵対的買収による経営刷新  
  • 事業統合によるシナジー効果の実現 

企業の経営権取得による子会社化 

TOBの最も基本的な目的は、対象企業の経営権を取得して子会社化することです。会社法では、企業の株式の50%超を保有することで株主総会の普通決議を単独で成立させることができ、実質的な経営権を握ることができます。 

経営権の取得により、買収企業は対象企業の経営方針や事業戦略を決定する権限を獲得します。これにより、グループ全体でのシナジー効果の創出や、効率的な経営資源の配分が可能になります。中小企業のM&Aにおいても、事業承継の手段として経営権の移転が重要な目的となることがあります。 

また、66.7%以上(3分の2以上)の株式を取得すれば、合併や事業譲渡などの重要事項を決定する特別決議も単独で成立させることができます。100%の株式を取得することで完全子会社化を実現し、より一体的な経営が可能になります。持株比率に応じた権利の段階的な取得が、TOBの戦略的価値を高めています。 

特別決議の否決権取得とグループ内企業再編 

TOBのもう一つの目的は、特別決議の否決権の取得です。株式の33.4%以上(3分の1超)を保有することで、株主総会の特別決議を単独で阻止する権利を獲得できます。 

この否決権は、対象企業の重要な経営判断に対する拒否権を意味します。合併、分割、解散、定款変更などの重要事項について、買収企業の同意なしには実行できなくなります。これにより、対象企業の経営に対する一定の影響力を確保できます。 

グループ内企業再編においては、この否決権が戦略的に活用されます。親会社が子会社の経営方針をコントロールしながら、必要に応じて組織再編を実施することが可能になります。中小企業グループにおいても、事業の統廃合や効率化を進める際に、この仕組みが有効に機能します。また、議決権の3%以上の保有により株主総会の招集権や経営資料の閲覧権も取得でき、企業経営の透明性向上にも寄与します。 

MBOによる非上場化と敵対的買収による経営刷新 

TOBは、MBOによる非上場化や敵対的買収による経営刷新を目的として実施されることもあります。MBOでは、現経営陣が自社株式を買い取ることで経営の自由度を高め、短期的な株価変動に左右されない長期的な戦略を実行できます。 

非上場化により、上場維持コストの削減や情報開示義務の軽減が実現できます。特に中小規模の上場企業では、上場維持に伴うコストと便益のバランスを考慮して、戦略的に非上場化を選択するケースが増えています。 

敵対的買収による経営刷新は、業績不振や経営の停滞に陥った企業に対して、外部から新たな経営陣を送り込むことで企業価値の向上を図る戦略です。この手法は、既存の経営陣の同意を得ずに実施されるため、対象企業からの抵抗を受ける可能性があり、企業文化や従業員の士気に悪影響を及ぼすリスクも伴います。

TOBのメリット

TOBは買い手企業と売り手企業・株主の双方にとってメリットのある取引手法です。特に計画的な買収実行と安定した取引条件の実現により、M&A全体の成功確率を高める効果があります。ここでは、それぞれの立場から見たTOBのメリットを詳しく解説します。 

買い手企業にとってのメリット 

買い手企業にとってのTOBの主なメリットは以下の通りです。 

  • 計画的で予測可能な買収の実行  
  • 株価変動リスクの回避  
  • 目標未達時のキャンセル可能性 

計画的で予測可能な買収を実行できることがTOBのメリットの一つです。証券取引所での通常の株式取得では、大量の売買注文により株価が想定外に上昇し、買収コストが膨らむリスクがあります。しかし、TOBではあらかじめ買付価格、買付期間、買付予定株式数を設定するため、買収にかかる費用と期間を事前に正確に見積もることができます。 

株価変動の影響を受けにくい点も重要なメリットです。市場での株式取得では、買収期間中の株価変動により想定外のコストが発生する可能性がありますが、TOBでは固定価格での取引となるため、市場環境の変化に左右されず安定した買収を実行できます。 

また、TOBには「不成立条項」を設けることができ、目標とする株式数に達しなかった場合は買収自体をキャンセルできます。これにより、中途半端な持株比率で買収が終了し、経営権を十分に行使できないリスクを回避できます。目標達成の見通しが立たない場合には早期に判断を下すことで、無駄なコストの発生を防ぐことが可能です。 

売り手企業・株主にとってのメリット 

売り手企業・株主にとっての主なメリットは以下の通りです。 

  • 市場価格に一般的にプレミアムが上乗せされた価格での売却
  • 友好的TOBによるM&Aシナジー効果の享受
  • 株式の流動性向上と確実な売却機会の提供 

市場価格よりも有利な条件で株式を売却できることが最大のメリットです。 

友好的TOBの場合は、M&Aによるシナジー効果を最大限に活用できる点もメリットです。買い手企業との良好な協力関係により、技術力の向上、販売網の拡大、コスト削減などの効果が期待できます。特に中小企業にとっては、大手企業の経営資源を活用することで事業規模の拡大や競争力の強化が実現できます。 

また、TOBの公表により株式の流動性が一時的に高まり、これまで売却機会が限られていた株主にとって良好な売却機会が提供されます。特に非流動的な株式を保有していた株主にとって、まとまった資金を確実に回収できる機会となります。企業価値が市場で適正に評価されていない場合には、TOBにより真の企業価値に近い価格での売却が可能になることもあります。 

市場価格にプレミアムが上乗せされる理由 

TOBにおいてプレミアムが設定される理由は、主に支配権の移転に対する対価と、株主の売却インセンティブの確保にあります。企業の経営権を取得することで得られる将来的な収益やシナジー効果を考慮すると、単純な市場価格以上の価値があると判断されるためです。 

プレミアムの水準は、業界特性、企業規模、財務状況、市場環境などにより決定されます。一般的には20~40%の範囲で設定されることが多く、競争入札の状況や緊急性によってはより高いプレミアムが提示される場合もあります。中小企業のM&Aでは、事業承継の緊急性や希少性を反映してプレミアムが決定されることがあります。 

また、プレミアムの設定により、より多くの株主がTOBに応じることが期待できます。市場価格と同水準では株主の売却意欲は限定的ですが、十分なプレミアムを提示することで目標とする株式数の確保が容易になります。この仕組みにより、買い手企業は確実な経営権取得を実現し、売り手株主は市場価格を上回る利益を享受できる、双方にとってメリットのある取引が成立します。 

TOBのデメリットと注意点

TOBには多くのメリットがある一方で、買い手企業と売り手企業・株主それぞれにとってのデメリットやリスクも存在します。TOBを検討する際は、これらのデメリットを十分に理解し、適切な対策を講じることが重要です。ここでは、各立場から見たデメリットと注意点を詳しく解説します。 

買い手企業にとってのデメリット 

買い手企業にとっての主なデメリットは以下の通りです。 

  • プレミアム設定により買収コストが増加  
  • 敵対的TOBの成功率の低さ  
  • 買収防衛策による想定外コストの発生  
  • 統合プロセスでのシナジー効果実現の困難さ 

TOBの大きなデメリットの一つが、プレミアム設定により買収コストが高額になることです。 

敵対的TOBの場合は、さらに高いリスクを伴います。対象企業が買収防衛策を発動し、ポイズンピルや第三者への株式譲渡などの対抗措置を講じる可能性があります。この結果、想定以上の時間とコストがかかり、最終的に買収が失敗に終わるリスクが高まります。国内の敵対的TOBの成功率は友好的TOBと比較して著しく低く、投下した資金を回収できない可能性があります。 

また、TOB実施後の統合プロセスにおいても課題が生じる可能性があります。特に敵対的買収の場合は、対象企業の従業員や経営陣からの協力を得ることが困難になり、期待していたシナジー効果を実現できない場合があります。中小企業のM&Aでは、人材の流出や企業文化の衝突により、買収効果が限定的になるリスクも考慮する必要があります。 

売り手企業・株主にとってのデメリット 

売り手企業・株主にとっての主なデメリットは以下の通りです。 

  • 経営権の喪失と経営方針の変更
  • TOB成立後の株価下落リスク  
  • 上場廃止によるスクイーズアウトの可能性  
  • 将来的な株価上昇機会の喪失 

売り手企業にとって最も深刻なデメリットは、経営権を失うことです。 

株主にとってのデメリットとして、TOB成立後の株価下落リスクがあります。TOB期間中は買付価格に向かって株価が上昇しますが、TOB成立後は通常の市場価格に戻る傾向があります。TOBに応じなかった株主は、プレミアムを享受できないまま株価下落の影響を受ける可能性があります。 

さらに、TOB成立後に上場廃止が実施される場合は、スクイーズアウトにより強制的に株式を売却させられることがあります。この場合、株主の意思に関わらずTOBの買付価格で株式を手放すことになり、将来的な株価上昇の恩恵を受ける機会を失います。流動性の確保が困難になり、投資戦略の見直しを余儀なくされることもあります。 

TOB失敗のリスク要因 

TOBが失敗に終わる主要なリスク要因は以下の通りです。 

  • 市場価格の想定外の変動による魅力度低下  
  • 対象企業による買収防衛策の発動  
  • ホワイトナイトの出現による競争激化  
  • 大株主による反対と合意形成の困難 

TOBの手続きの流れと法的規制

TOBは金融商品取引法に基づく厳格な手続きと規制の下で実施されます。透明性と公正性を確保するため、詳細な情報開示義務と期限が定められており、これらを遵守することが成功の前提となります。ここでは、TOBの具体的な手続きの流れと重要な法的規制について解説します。 

公開買付公告から意見表明報告書まで 

TOBの手続きは、公開買付者による公開買付公告から始まります。公告では買付価格、買付期間(20営業日以上60営業日以内)、買付予定株式数、買付の目的などを明記し、日本経済新聞などの全国紙に掲載します。同時に、公開買付届出書を内閣総理大臣に提出し、これらの情報は金融庁のEDINETで一般に公開されます。 

対象企業は公告から10営業日以内に意見表明報告書を提出する義務があります。この報告書では、TOBに対する賛成・反対・中立の意見を明確に表明し、その理由を詳述します。株主の判断材料として重要な役割を果たすため、慎重な検討が求められます。友好的TOBでは賛成意見が表明されることが多く、敵対的TOBでは反対意見が表明されるのが一般的です。 

公開買付期間中、株主は証券会社を通じてTOBへの応募手続きを行います。応募の撤回は買付期間中であれば可能ですが、買付者による撤回は原則として認められていません。ただし、対象企業の倒産や重大な災害など、やむを得ない事情がある場合は例外的に撤回が認められることがあります。期間終了後、買付者は結果を公告し、公開買付報告書を提出します。 

5%ルールと3分の1ルールの詳細 

TOBの実施には、保有株式比率に応じた厳格なルールが適用されます。なお、2024年5月に金融商品取引法が改正され(施行は公布後2年以内の政令で定める日)、TOB規制、特に株式保有比率に関するルールが大幅に見直されました。以下では、現行制度を中心に解説しつつ、改正法の主要な変更点についても触れます。 

5%ルールは、証券取引所外での取引により株式の保有比率が5%を超える場合にTOBの実施を義務付ける規制です。これは市場の透明性を確保し、株主の利益を保護することを目的としています。ただし、買付け等の相手方の総数が60日間に10名以下である場合には、この5%ルールは適用されません(いわゆる「10名以下除外」)。中小企業のM&Aでは、この免除規定が活用されることが多くあります。法改正後もこの5%ルールの基本的な枠組みは維持される見込みです。 

現行制度では、買い付け後の株式保有比率が3分の1(約33.3%)を超える場合にもTOBを義務付ける「3分の1ルール」が存在します。これは、市場外取引やToSTNeT取引などの特定売買が対象でした。この比率を超えると特別決議の否決権を取得できるため、経営への影響が大きいと判断されるためです。 

2024年5月に成立した改正金融商品取引法(施行は公布後2年以内の政令で定める日)により、このルールは大幅に変更されます。TOBが義務付けられる株式保有比率の閾値が、3分の1超から「30%超」に引き下げられます。さらに、これまで原則対象外であった証券取引所の立会内取引(市場内取引)も、買付後の株券等所有割合が30%超となる場合には、原則としてTOBの実施が義務付けられます。この改正は、諸外国の規制水準との整合性を図り、市場内での急速な株式買集めから少数株主を保護し、市場の透明性と公正性を高めることを目的としています。これらのルールに違反した場合は、課徴金や刑事罰の対象となる可能性があります。 

TOB成立の条件と不成立要因 

TOBの成立には、あらかじめ設定した最低買付株式数(下限)に応募株式数が達することが必要です。この下限は通常、経営権取得に必要な50%超や特別決議の否決権取得に必要な33.4%超に設定されます。下限に達しない場合、TOBは不成立となり、応募された株式の買付は行われません。 

TOBが不成立となる主な要因として、市場価格の急激な上昇があります。TOB期間中に株価が買付価格を上回った場合、株主がTOBよりも市場での売却を選択し、応募が集まらない可能性があります。また、対象企業による強力な買収防衛策の発動や、より魅力的な条件を提示する対抗買収者の出現も不成立要因となります。 

大株主の動向も成否を左右する重要な要素です。創業者一族や安定株主が大きな持株比率を有している場合、これらの株主がTOBに反対すれば成立は困難になります。中小企業では特に、少数の株主による影響が大きいため、事前の合意形成が重要になります。成立後は株式の決済が行われ、買付代金の支払いと株式の移転が完了します。不成立の場合は、応募された株式は株主に返還され、買付代金の支払いは発生しません。 

中小企業M&AにおけるTOBの活用と投資家の対処法

TOBは大企業だけでなく、中小企業のM&Aにおいても重要な役割を果たしています。また、投資家にとっては保有株式がTOB対象となった場合の適切な対処法を理解することが重要です。ここでは、中小企業でのTOB活用場面と投資家の対処法、そして実際の事例について詳しく解説します。 

中小企業でTOBが適用されるケースと他手法との使い分け 

TOBが適用される主なケースは上場企業の買収です。後継者不在の問題を抱える中小企業では、M&Aによる第三者への経営権移転が有効な解決策となります。特に、創業者が高齢化し、親族内に適切な後継者がいない場合に活用されることが多くあります。 

中小企業のTOBでは、株主構成が比較的単純で、創業者一族や役員が大きな持株比率を占めるケースが多いのが特徴です。このため、主要株主との事前合意が成功の鍵となります。また、従業員の雇用継続や取引先との関係維持など、地域経済への影響を考慮した友好的な買収が重視される傾向があります。 

他のM&A手法との使い分けでは、株式譲渡や事業譲渡と比較検討されることが多くあります。少数株主が存在し、全株主との個別交渉が困難な場合はTOBが選択され、株主が限定的で相対取引が可能な場合は株式譲渡が選択されます。事業の一部のみを対象とする場合は事業譲渡が適しており、企業全体の経営権移転を目指す場合は株式譲渡やTOBが有効です。 

保有株式がTOB対象になった場合の3つの選択肢 

投資家が保有する株式がTOB対象となった場合、以下の3つの主要な選択肢があります。 

  • TOBに応じて市場価格にプレミアムが上乗せされた価格で売却
  • TOBには応じずに市場で売却してタイミングを見計らった利益確保  
  • 株式を保有し続けて将来的な企業価値向上を期待 

それぞれの選択肢にはメリット・デメリットがあるため、慎重な検討が必要です。 

友好的TOBの代表的事例 

友好的TOBの代表的事例として、2024年のKDDIによるローソンへのTOBがあります。KDDIは三菱商事と共同でローソンを持分法適用会社とし、通信事業とコンビニエンスストア事業の連携による経済圏拡大を目指しました。ローソン側も事業シナジーを評価してTOBに賛成し、円滑な買収が実現しました。 

2024年のキリンホールディングスによるファンケルへのTOBも注目される事例です。ビール市場の縮小に直面するキリンが、成長市場である健康食品分野への本格参入を目的として実施しました。ファンケル側も大手企業との提携による事業拡大効果を期待し、友好的な買収となりました。 

これらの事例では、買収側と被買収側の戦略的な合致が友好的TOBの成功要因となっています。事業シナジーの明確化、従業員の処遇維持、既存事業の継続などが合意され、ステークホルダー全体にとってメリットのある取引として実現されました。 

敵対的TOBの代表的事例 

敵対的TOBの代表的事例として、2020年のコロワイドによる大戸屋ホールディングスへのTOBがあります。当初は友好的な買収を予定していましたが、大戸屋側の業績悪化と経営方針の相違により敵対的TOBに発展しました。最終的にTOBは成立し、コロワイドが経営権を取得して経営再建を進めています。 

2019年の伊藤忠商事によるデサントへのTOBも重要な事例です。長年の協業関係にあった両社でしたが、成長戦略を巡る対立が深まり、伊藤忠側が敵対的TOBに踏み切りました。国内大手上場企業同士の初めての敵対的TOBとして注目を集め、最終的にTOBが成立しました。 

これらの事例では、既存の経営陣との対立や業績不振が敵対的TOBの背景となっています。買収側は株主利益の最大化を目的として正当性を主張し、対象企業側は独立性の維持や企業価値の適正評価を求めて対抗しました。敵対的TOBでは、株主による最終的な判断が結果を左右する重要な要素となります。

まとめ|TOBを理解して適切なM&A判断を行おう

TOBは証券取引所を通さない株式取得により、計画的で安定した買収を実現できる重要なM&A手法です。友好的TOBと敵対的TOBの違いを理解し、自社の状況に応じて適切な選択をすることが重要です。TOBの成功には法的規制の遵守と専門家との連携が不可欠であり、適切に活用すれば企業価値向上の有効な手段となります。 M&Aや経営課題に関するお悩みはM&Aロイヤルアドバイザリーへご相談ください。

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