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黄金株とは、株主総会や取締役会の特定の決議事項に対して、拒否権を行使できる「拒否権付種類株式」の通称です。
重要な意思決定を止める力を持つことから、いわば「会社のブレーキ役」として事業承継時の経営監督や敵対的買収の防衛策として活用されています。
本記事では、黄金株の仕組みや発行方法、活用場面、メリット・デメリット、そして注意すべき法的ポイントまでを体系的に解説します。
目次
まず、黄金株に関する基本的な知識について解説します。
黄金株とは、正式には「拒否権付種類株式」と呼ばれる種類株式の一形態であり、会社法第108条1項8号に基づいて発行されます。
特定の決議事項について、その株式を保有する者の同意がなければ効力が発生しないという「拒否権」が付与されている点が最大の特徴です。
黄金株に付された拒否権は、対象となる議案について種類株主総会で同意しないことで行使されます。
会社は特定の重要事項について、通常の株主総会や取締役会の決議に加え、該当する種類株主のみで構成される「種類株主総会」の承認を要する旨を、定款で定められます。これにより、一定の事項については、通常の決議だけでは効力が生じず、種類株主総会でも可決されて初めて、正式な決定として効力を持つ仕組みです。
実務上は、取締役や代表取締役の選任や解任など、企業の根幹に関わる事項に対してこの制度が利用されます。
「黄金株」という名称は、英語の「Golden Share」 に由来しています。たった1株でも会社の重要な意思決定に拒否権を行使できる特別な力を持つことから、「金のように価値ある株式」という意味で比喩的に名付けられた通称です。
1980年代に英国政府が公営企業を民営化する際、国家が支配権を維持する手段として導入され、名称と仕組みが世界各国に広まりました。
黄金株と混同されがちな制度に「属人株」がありますが、両者は性質・効力共に異なる制度です。
黄金株は株式そのものに拒否権などの特別な権利が付されており、誰が保有しても効力は変わりません。一方、属人株は株主個人に基づく権利設計で、「株主Aに対する配当は〇〇円」といったような、株主ごとに権利を差別化できる仕組みです。
また、黄金株は定款に加えて登記も必要ですが、属人株は定款への記載のみで登記は不要です。ただし、属人株の設定には「特殊決議(総株主の半数かつ議決権の4分の3以上の賛成)」が必要で、黄金株より導入のハードルは高いです。
日本では、会社法により黄金株の発行が認められている一方、上場会社における活用には制約があります。
特に、東京証券取引所はかつて「株主平等の原則」に反するとして、黄金株を発行している企業の上場を原則認めていませんでした。しかしその後、特定目的の下での利用であれば例外的に認める方針に転換されました。
一般の企業においては非上場会社を中心に、事業承継対策や買収防衛策として利用されることがあります。
黄金株による拒否権発動は次のような場面で用いられています。
それぞれについて解説します。
黄金株を活用することで、取締役や代表取締役の選任・解任に対して拒否権の発動が可能です。
事業承継後、後継者によって取締役会構成が急激に変わることを防ぐ目的で、先代経営者が一時的に黄金株を保有するケースが見られます。
また、親族以外の取締役の選任や解任を制限することで、企業文化や経営方針の急激な変化を抑える意図でも利用されます。
取締役の報酬は通常、株主総会の決議によって決定されますが、黄金株を設定することで、この報酬決定に対しても拒否権を行使できます。
例えば、後継者や新たな経営陣が自身に過大な報酬を設定しようとした場合、黄金株の保有者がその決議をブロックすることで抑制が可能です。
特に中小企業においては、株式の大半を後継者に譲渡しても、経営の健全性を一定期間確保するために、報酬決定への関与を目的として黄金株を持つという使い方が実務上多く見られます。
事業譲渡や合併といった企業の根幹に関わる重要な組織再編行為も、黄金株による拒否権の対象として広く活用されています。これらの行為は、通常は株主総会の特別決議(議決権の3分の2以上)で可決されますが、黄金株が設定されていれば、種類株主総会で可決されない限り効力を発しません。
この拒否権は、突発的な経営判断や一部の経営陣による暴走を防ぐだけでなく、敵対的買収を目的とした合併や事業譲渡の提案をブロックする手段としても極めて有効です。買収側が大量の株式を取得して合併を進めようとしても、黄金株の拒否によって無効化が可能です。
企業グループの支配構造を安定的に維持するために、親会社が子会社の黄金株を保有するケースがあります。これにより、子会社の重大な経営判断(子会社自身の株式発行、重要人事、合併など)について、親会社の承認を義務付けられます。
これはグループガバナンスの強化策として有効であり、海外展開などで現地法人の独断的な意思決定を防ぐ仕組みとして活用されるケースがあります。
黄金株の拒否権は、役員人事やM&Aに限らず、その他の重大な企業行動に対しても設定可能です。主なものとして、次の行動が挙げられます。
いずれも経営に大きなインパクトを与える行為であり、黄金株の拒否権によって阻止できます。
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黄金株には次のようなメリットがあります。
それぞれについて解説します。
黄金株を発行する最大のメリットは、経営上の重要事項に対して強力な統制力を持てる点です。
黄金株は1株で定款に定めた議案について拒否権を行使できるため、通常の議決権割合とは無関係に経営判断を左右する力を持ちます。
経営者や創業者が自社の方針を維持したい場合に極めて有効な手段です。
黄金株の活用によって、後継者の成長を見守りつつ、必要に応じてブレーキをかけられ、スムーズかつ安全な承継を実現できます。
例えば、親族への承継において、後継者が未熟な段階で全ての経営権を譲ることにはリスクが伴います。そこで、普通株式は後継者に譲渡して経営権を移譲しつつ、先代経営者が黄金株を保有することでリスク対応が可能です。
重要な経営判断にのみ関与できる仕組みを構築すれば、リスクを抑えながら段階的な事業承継を進められます。
黄金株は、敵対的買収に対する有力な防衛手段の一つです。
たとえ買収者が株式の過半数や3分の2以上を取得し、形式的に経営権を握ったとしても、黄金株による拒否権があれば、代表者の解任や重要資産の売却といった経営方針の変更を阻止できます。
ただし、中小企業の多くは譲渡制限株式を採用しており、第三者による株式取得が制限されているため、敵対的買収への防衛策として黄金株を実際に活用する場面はほとんどありません。
また、現時点では日本の上場企業で黄金株を導入しているのはINPEX1社のみですが、2025年6月に日本製鉄が買収するUSスチールの黄金株を米政府に発行することが公表されています。
参考:朝日新聞
同族会社において、事業承継時に一族以外の親族や親族間で経営の方向性に対立が生じることは少なくありません。特定の親族が経営権を握った場合に、他の親族株主との利害が不一致となり、社内での対立や分裂を招くリスクもあります。
こうした局面に備えて黄金株を信頼できる第三者(社外顧問など)に持たせることで、客観的な視点から最終判断を下す仕組みが生まれ、経営の安定化を図れます。
黄金株には次のようなデメリットがあります。
それぞれについて解説します。
黄金株は強力な拒否権を備えるため、相続によって経営に不慣れな人物や、企業と敵対的な立場にある親族に渡ってしまうと、経営に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
例えば、先代経営者が急逝し、適切な遺言や生前対策が講じられていなかった場合、意図しない人物が黄金株を相続し、合理性を欠いた拒否権の行使によって企業の意思決定を妨げる恐れがあります。
黄金株の最大の機能である拒否権も、適切に運用されなければ企業の意思決定を阻害するリスクを伴います。
特に事業承継後に先代経営者が頻繁に拒否権を行使するような事態になると、後継者の経営判断が否定され、モチベーションの低下や経営の停滞を招きかねません。
黄金株は、たとえ1株であっても重要事項に対して絶大な拒否権を持つため、普通株主との間に不平等感を生むことがあります。
特に親族内で持株が均等な場合でも、黄金株を持つ者だけが経営方針に最終的な影響力を持つことに対し、他の株主が不満や不信感を抱く可能性があります。
黄金株を先代経営者や第三者が保有している場合、事業承継税制の適用対象から外れる可能性があります。
事業承継税制は、後継者が株式を相続または贈与された場合に、相続税や贈与税の納税を猶予・免除するものです。しかし、黄金株を後継者以外が保有していると「経営支配権が後継者に移っていない」と判断される可能性があります。
税制適用を希望する場合は、黄金株の転換や譲渡の時期に注意が必要です。
黄金株は定款で明示され、法務局への登記が必要です。そのため、登記簿を閲覧した第三者にも黄金株の存在とその内容が知られてしまいます。
日本では、黄金株に対して「ガバナンスがゆがんでいる」「先代の影響力が強すぎる」といった否定的な見方をされることがあり、金融機関や投資家から警戒される恐れがあります。
とりわけ、資金調達や業務提携の場面では、意思決定の独立性や承継体制に疑問を持たれ、信頼性に影響を及ぼす可能性も否定できません。
黄金株は次のいずれかの方法で発行できます。
それぞれの場合における発行手順を解説します。
株主総会を開催し、黄金株の内容(拒否権を付与する決議事項)、発行可能株式総数、黄金株の取り扱いなどを定款に明記します。
この定款変更には株主総会での特別決議(出席議決権の3分の2以上の賛成)が必要です。
対象となる既存株主(通常は経営者や信頼できる関係者)との間で、「自身の保有株式を黄金株として扱う」旨の合意書を締結します。
種類株式への変更にあたっては、同一種類の既存株式を持つ全ての株主からの同意が必要です(会社法第111条1項)。一般的には書面によって同意を取得します。
法務局に対して、次の情報を含めた登記申請を行います。
提出書類としては、株主総会議事録、合意書、株主全員の同意書などが必要です。
新規発行の場合も株主総会を開催し、黄金株を種類株式として発行する旨を定款に追加します。
黄金株に付与する拒否権の範囲や、発行総数なども明示します。
株主総会(公開会社なら取締役会)で、次の内容について募集事項を決議します。
決議内容に基づいて、引受予定者(通常は信頼できる個人や法人)に通知し、黄金株の引受申し込みを受け付けます。
申し込みを受けた引受人に株式を割り当て、期日までに払込を受けます。払込完了により、引受人は正式に黄金株主とされます。
黄金株の発行内容に基づき、次の変更登記を行います。
必要書類としては、定款変更を証する株主総会議事録、募集事項の決定通知、払込証明書などが挙げられます。
黄金株を発行する際に注意すべきポイントは次のとおりです。
それぞれについて解説します。
黄金株は非常に強力な拒否権を有するため、その保有者が誰かという点が経営の安定性を左右します。そのため、保有者の判断で自由に譲渡できる状態は極めてリスクが高く、経営陣や会社と敵対的な第三者に渡ると、意思決定に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
そのため、黄金株には必ず譲渡制限を付す場合がほとんどです。具体的には、株主が第三者へ譲渡する際に「会社の承認を要する」旨を定款で定めることで、信頼できる者以外への移転を未然に防げます。
黄金株に付与される拒否権は、経営における強力な制約力を持ちますが、無期限に効力を持たせると、経営の硬直化や承継の妨げとなるリスクがあります。特に、事業承継の局面では、先代経営者が黄金株を持ち続けることで、後継者の自律的な意思決定を妨げる可能性が生じます。
そのため、拒否権の有効期限を定めておくことが望ましいです。例えば、「発行から3年間」や「承継から5年以内」など期限を設ければ、一定期間は統制力を維持しつつ、将来的には完全な移譲が可能です。
なお、期限到来後の黄金株は、普通株への転換や会社の買い取りといった方法がとられます。ただし、これらの取り扱いは株式の発行条件や定款に依存するため、具体的な内容は各ケースによって異なることがあります。
黄金株の保有者が死亡した場合、その株式が相続されると、必ずしも経営方針に合致しない人物に強い拒否権が渡る可能性があります。とりわけ、経営に関与する意思や能力のない親族に相続された場合、会社の意思決定が停滞し、経営リスクが顕在化します。
こうした事態を防ぐために、保有者死亡時の処理方法をあらかじめ決めておきましょう。具体的には、定款に「保有者の死亡時には黄金株を普通株に転換する」または「会社が買い取る(取得条項付株式とする)」といった規定を盛り込むことで、黄金株の相続による混乱を未然に防げます。
種類株式とは、一般的に「株式」と呼ばれる普通株式とは異なり、特別な権利内容を付与された株式のことを指します。
会社法においては、株式に対して配当や議決権、譲渡制限などさまざまな条件を設定できるとされており、それに基づいて発行される株式が「種類株式」と呼ばれます。
なお、黄金株もこの種類株式の一種です。
種類株式の具体的な権利内容は、会社法第108条第1項により次の9項目が定められています。
それぞれについて分かりやすく解説します。
剰余金の配当に関する優劣を定めた種類株式です。例えば、配当を優先的に受け取れる「優先株式」、標準的な「普通株式」、後順位となる「劣後株式」などがあります。
この制度により、資金調達を有利に進めるとともに、出資者に対して安定的なリターンを提供できます。特に利益配分に差を設けたい場合に有効であり、企業の資本政策の柔軟性を高める手段といえます。
会社解散時に残った財産をどのように分配するかについて、株主間で優先順位を定める種類株式です。債務弁済後に残余財産を優先的に分配するか、あるいは後順位とするかを定められます。
優先株を発行することで、出資者に資本回収の安心感を与え、資金調達を促進する効果が期待されます。剰余金配当と並び、企業財務における重要な設計要素の一つです。
株主総会における議決権行使を制限する種類株式です。経営には関与せず、配当など経済的利益のみを重視する株主に向けて設計されます。
「無議決権株式」もこれに該当し、公開会社では発行に制限がありますが、非公開会社であれば柔軟な設計が可能です。経営権の集中を図りたい企業にとって有効な手段です。
株式の譲渡にあたって、会社の承認を必要とする制限を設けた種類株式です。経営権の防衛や、望ましくない第三者への株式の流出を防ぐ目的で活用されます。
特に、非上場企業や同族会社、スタートアップ企業などで広く利用されている制度です。
取得請求権(会社法108条1項5号)
株主が会社に対して自己の株式の買い取りを請求できる種類株式です。
株主から請求がなされた場合、会社は定められた対価にて株式を取得しなければなりません。この仕組みにより、株主にとっての投資回収の可能性が保証され、企業にとっては出資のハードルを下げる効果が期待されます。
株式の取得に関して、一定の事由(例:株式公開、所定日到来、株主死亡など)が生じた場合、会社が当該株式を強制的に取得できる種類株式です。
株主の同意なく取得できるため、経営上の柔軟な資本政策が可能です。取得の対価には金銭や他の株式を設定でき、株式構成の変更や株主の整理に有効です。
株主総会の特別決議により、会社が該当株式を全て強制的に取得できる種類株式です。
スクイーズ・アウト(少数株主の排除)や100%減資、敵対的買収防衛などに利用されます。取得にあたっては、株主に対する対価(現金や株式など)を明確に定める必要があります。
既に本記事で解説しているとおり、「黄金株」に該当する株式がこの拒否権付き種類株式です。特定の決議事項においては、株主総会や取締役会の決議だけでなく、当該種類株主総会での同意も必要です。
敵対的買収の防止や、重要な意思決定のコントロール手段として用いられ、1株のみで議案を否決できる強力な権限を持ちます。通常、リスク管理の観点から譲渡制限と併用されます。
取締役や監査役の選任権を、特定の種類株主に付与する株式です。この種類株式を通じて、特定の株主が役員人事に関与できます。
資本政策やベンチャーキャピタルによる投資などの場面で多用されており、公開会社や委員会設置会社ではこの権利を付与することができないため、非公開会社でのみ発行が可能です。
国内外における黄金株や議決権種類株式に関する事例をいくつか紹介します。
日本において黄金株が実際に導入されている唯一の上場企業が、株式会社INPEX(旧・国際石油開発帝石)です。
エネルギー資源の開発を担う国策企業である同社では、経済産業大臣が黄金株を1株保有しており、①取締役の選任・解任、②重要な資産の処分、③定款変更、④合併・株式交換・移転、⑤資本の額の減少、⑥会社の解散の6つの事項に対して拒否権が発動できます。
これは、エネルギー安全保障という国益を背景として認められたもので、東京証券取引所も例外的に上場を認めています。
日本製鉄が米国鉄鋼大手USスチールの買収を進める中、米政府が同社の黄金株を取得する案が浮上しています。
今回の買収では、国家安全保障を理由とした条件付き承認の一環として、米政府が一定の関与を維持する方向で調整が進められています。取締役会構成の承認権や、生産水準の維持などがその対象とされており、企業と政府の間で詳細な調整が続けられています。
日本製鉄は完全子会社化による経営支配を目指しており、両者の要請をすり合わせる手段として黄金株の活用が検討されています。トランプ大統領は「USスチールは米国企業であり続ける」と繰り返しており、今回のスキームは政治的配慮と経済合理性を両立させる妥協策とも受け止められています。
CYBERDYNE株式会社は、2014年3月に東証マザーズへ上場した際、日本で初めて議決権の強弱を設計した種類株式を保持したまま上場した企業として注目を集めました。創業者の山海嘉之氏が保有するB種類株式には、普通株式に比べて10倍の議決権が設定されています。
日本の会社法では、1株につき複数の議決権を付与する制度は明示的に認められていません。そのため、CYBERDYNEは単元株制度を活用し、普通株式の単元を100株、B種類株式の単元を10株とすることで、1単元当たりの議決権に実質的な差を設ける手法を採用しています。
このスキームは、東京証券取引所の制度整備を経て初めて認められた事例であり、創業者の支配権を維持しつつも株式上場を可能とした先進的なモデルとして評価されています。
1987年、英国政府は民営化された英国空港公団(BAA)に対し、企業買収や定款変更といった重要事項に対して拒否権を行使できる株式を発行しました。この株式は無期限で政府が保有し、国益や戦略的インフラの統制維持を目的とした制度設計でした。
この事例は、現在黄金株と呼ばれる制度の象徴的な先例として知られており、他の民営化企業にも同様のスキームが適用されました。
しかし、結果としてBAAの経営の自由裁量を制限する要因となり、EC条約に違反していると判断されたことから、黄金株は2003年に消却されました。
Meta(旧Facebook)は、創業者マーク・ザッカーバーグ氏が経営支配権を維持するために、デュアルクラス株式制度を採用しています。デュアルクラス株式とは、株式の種類ごとに議決権の数を変える仕組みで、創業者や特定株主が経営権を維持しやすくする構造です。
同社では、一般株主に1株1議決権のクラスA株を発行する一方で、ザッカーバーグ氏を含む限られた内部関係者には、1株10議決権のクラスB株が付与されています。ザッカーバーグ氏はこのクラスB株の約90%を保有しており、株式保有比率にかかわらず議決権の過半数を掌握しています。
この構造により、株価が下落したり株主からの反発があっても、ザッカーバーグ氏の意思で経営方針を継続できます。特にメタバースへの巨額投資に対して批判が強まる中でも、ザッカーバーグ氏の地位が揺らがないのは、この支配構造に起因しています。
Alphabet(旧Google)は、創業者が経営権を維持するために、クラスA・クラスB・クラスCという3種類の株式を発行しています。クラスB株は1株当たり10議決権を持ち、ラリー・ペイジ氏やセルゲイ・ブリン氏などの創業者や初期経営陣が保有しており、一般には非公開です。クラスA株(GOOGL)は1株1議決権、クラスC株(GOOG)は議決権なしで、いずれも一般投資家向けに公開されています。
2014年にこの構造が導入された背景には、創業者による支配権を保ちつつ、ストックオプションの発行や資金調達を円滑に行う意図がありました。
Snapchatを運営するSnap Inc.は、2017年にニューヨーク証券取引所へ上場した際、議決権のないクラスA株式のみを一般投資家向けに公開しました。このような構造での上場は米国では極めて異例であり、投資家保護の観点から大きな議論を呼びました。
一方で、創業者のエヴァン・シュピーゲル氏とロバート・マーフィー氏は、1株につき10議決権を持つクラスB株と、さらに強い議決権を持つクラスC株を保有することで、上場後も経営支配権を完全に維持する体制を構築しました。一般株主には議決権が与えられていないため、経営に対する直接的な関与はできません。
このような仕組みは、創業者の長期的なビジョンを重視する経営スタイルを可能にする一方で、株主権の制限という側面もあります。Snapは、MetaやAlphabetと並び、デュアルクラス株式構造を採用する企業の代表例とされています。
中国では、戦略的民間企業への影響力を確保する手段として、政府が「黄金株(特殊管理株式)」を取得するケースが広がっています。
代表的な事例として、2023年1月、中国政府系の事業体がアリババグループ傘下のデジタルメディア関連子会社2社(Youku Film and TelevisionおよびGuangzhou Lujiao)の株式をそれぞれ1%取得したことが確認されました。
この黄金株には、形式的な保有比率は小さいものの、取締役の指名権や重要経営事項に対する拒否権などが付与されており、実質的に政府が経営に関与できる構造となっています。これにより、中国政府は直接的な所有や経営統制を伴わずに、インターネットメディアやデータ関連産業への影響力を維持しています。
同様の手法は、TikTokを運営するバイトダンスや、ソーシャルメディアの微博(Weibo)、配車アプリの滴滴(DIDI)などにも広がっており、中国政府の民間テック企業に対する間接的なガバナンス強化の一環とされています。
最後に、黄金株に関するよくある質問とその回答を紹介します。
黄金株は、株主総会や取締役会の決議事項に対して拒否権を行使できる強力な権利を持っていますが、相続税評価においては普通株式と同様に扱われます。
国税庁の通達でも、「会社法第108条第1項第8号に掲げる拒否権付株式は、拒否権の有無を考慮せずに評価する」とされており、黄金株特有の権利内容は評価額に反映されません。
ただし、実務上は黄金株の設計次第で議決権の有無や配当の内容が異なる場合もあり、その場合は特定の算定方法が適用される可能性もあります。
黄金株の拒否権は、定款に基づいて有効に設定されている限り原則として有効ですが、一定の条件下では無効と判断される可能性があります。
例えば、定款に明記されていない事項について拒否権を行使した場合や、拒否権の対象範囲が不明確・曖昧である場合は、法的効力が否定されることがあります。
また、拒否権の乱用により会社の業務が著しく妨げられるような場合や、株主平等原則に著しく反するような乱用が認定されれば、公序良俗に反するとして無効とされる恐れもあります。
さらに、登記や定款変更の不備などの手続き違反があった場合も拒否権は法的に無効となるリスクがあります。
黄金株も他の種類株式と同様、定款変更および株主総会の特別決議により廃止可能です。
ただし、黄金株が拒否権を有する株式である場合、当該株主の同意を得るために種類株主総会の決議も必要となるため、実務上は保有者との協議が重要です。
また、発行時に「取得条項付き種類株式」として設計しておけば、一定の条件を満たすことで会社が強制的に株式を取得し、廃止に結び付けられます。将来的な経営体制やガバナンス構造の見直しを想定する場合には、こうした条項を事前に組み込んでおくことで、柔軟に対応しやすい環境を整えらえます。
発行後の廃止には法的手続きと慎重な対応が求められるため、制度設計段階から出口戦略を意識しておくことが望まれます。
黄金株は、上場企業では極めて限定的にしか発行されていないため、一般の個人投資家が警戒する必要はほとんどありません。
東京証券取引所も、株主平等の原則を重視しており、黄金株の新規発行を制限しています。そのため、現実的に個人投資家が黄金株に関わることはほとんどありません。
黄金株と持株会社による統制管理は、いずれも企業の経営権を特定の主体に集中させる手段ですが、設計や機能には明確な違いがあります。
持株会社は親会社が子会社の議決権株式を多数保有し、議決権ベースで経営をコントロールする構造です。つまり、黄金株1株で強力な効果を持つ「質による支配」とすれば、持株会社は「量による支配」といえます。黄金株は原則として非上場企業での使用が中心ですが、持株会社は上場・非上場を問わず幅広く活用されています。
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