着手金・中間金無料 完全成功報酬型
財務デューデリジェンスは、対象企業の財務内容に潜むリスクを洗い出し、企業買収の成否を左右します。しかし、具体的にどのような調査が行われるのか、どのタイミングで実施されるかなど、分かりづらい点も多いです。
本記事では、財務デューデリジェンスの基本的な情報から流れ、確認項目などを詳しく解説します。
目次
まず、財務デューデリジェンスが何を意味するのかを解説します。
デューデリジェンスは英語「Due Diligence」が語源で、「適正評価」や「精査」を意味します。「DD」と略される場合もあります。
デューデリジェンスは、M&Aや投資をする際に、対象企業の価値やリスクを詳細に調査・分析することを指す言葉です。
デューデリジェンスのうち財務デューデリジェンスは、財務諸表の信頼性や収益性、資産・負債の妥当性、キャッシュフローの健全性などを多角的に検証する重要な手続きです。
通常は、公認会計士や財務アドバイザーなどの専門家によって実施されます。
財務は、企業の経営成績や財政状態を外部に開示することを目的とした会計で、会計基準に基づいて行われます。税務は、課税所得を正しく算出して納税することを目的とした会計で、法人税法に基づいて処理されます。
税務デューデリジェンスは、対象企業の税務処理が適切に行われているかを調査・検証します。
具体的には、法人税や消費税、源泉所得税などの申告内容と実態の整合性を確認し、過少申告や未払税金、繰延税金資産の回収可能性といった論点を分析します。税務調査の指摘歴や、タックスプランニングの妥当性も評価対象です。
財務デューデリジェンスと税務デューデリジェンスは内容に被る部分があります。財務デューデリジェンスに税務デューデリジェンスが内包されている場合もあります。
M&Aにおいて財務デューデリジェンスを行う目的は次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
財務デューデリジェンスの最大の目的は、対象企業に内在する財務リスクを事前に把握し、取引後のトラブルを未然に防ぐことです。
財務デューデリジェンス(財務DD)では、対象企業の財務状況について、簿外債務や偶発債務、不正会計、粉飾決算の兆候を含むリスクを確認します。また、課税逃れや納税漏れなどの税務リスクも検証対象となります。さらに、収益性やキャッシュフローの安定性、資産の適正価値、負債構造、取引先リスクなど、多角的な観点から調査を行うことで、対象企業の財務の健全性を総合的に把握します。
これらのリスクが買収後に顕在化すれば、想定外の損失や訴訟問題に発展する可能性があるため、早期の発見と対策が不可欠です。 財務デューデリジェンスを通じてリスクの全体像を正確に把握できれば、意思決定を行うための根拠が得られます。
財務デューデリジェンスは、対象企業の財務情報を基に、企業価値を適切に評価するために実施されます。
財務実態に即した適正なバリュエーション(企業価値評価)は、M&Aの買収価格や出資額の妥当性を判断する材料です。
特に非上場企業では公開情報が限られるため、財務デューデリジェンスによる独自の評価が意思決定において極めて重要な役割を果たします。
財務デューデリジェンスで得られる情報は、買収後の意思決定やPMI(統合準備)を進める際の、重要な判断材料としても活用されます。
例えば、正常収益力の把握により将来の収益予測が可能となり、過去の設備投資や運転資本の構造を分析することで、今後必要となる資金計画や投資配分を具体化できます。
また、部門別の収益性やコスト構造も明らかになるため、買収後のシナジー効果を見込んだ経営戦略の策定や、統合スケジュールの設計に大きく貢献します。
財務デューデリジェンスのフローは次のとおりです。
それぞれを分かりやすく解説します。
財務デューデリジェンスの実施にあたっては、まず公認会計士や税理士、M&Aアドバイザーなど、財務・会計の専門知識と実務経験を持つ外部専門家への依頼が一般的です。
次に、財務デューデリジェンスを開始する前提として、まず買い手と売り手の間で秘密保持契約(NDA)を締結します。これは、財務諸表や税務申告書、契約書といった機密情報が外部に漏えいすることを防ぐための法的措置です。
NDAを結ぶことで、情報の取り扱いや調査の前提条件に関する双方の合意形成がなされ、財務デューデリジェンスを円滑に進めることができます。
NDAの締結後、買い手のM&Aアドバイザーは、財務デューデリジェンスに必要な資料を整理・リストアップし、売り手に対して正式に開示を依頼します。
提出が求められる主な資料は、過去数期分の財務諸表や税務申告書、月次試算表、売掛金・在庫の明細、借入契約書、リース契約書などです。
これらの資料は企業の実態や財務リスクを把握する上で極めて重要な根拠であるため、正確かつ網羅的な情報開示が求められます。
売り手から開示された資料を基に、公認会計士や財務アドバイザーが本格的な分析作業を行います。
財務諸表の整合性や収益・費用の傾向を確認するだけでなく、不自然な数値や説明のつかない取引が見つかった場合には、追加資料の提出を求めることがあります。
さらに、関係者へのヒアリングを通じて、その背景や根拠を詳しく確認していきます。ヒアリングの対象は、経理担当者にとどまらず、必要に応じて経営陣にも及びます。
また、在庫の実在性や資産の稼働状況を把握するために、現地訪問による棚卸資産や固定資産の実査が行われるケースも珍しくありません。
これらのプロセスを通じて、表面的な財務数値だけでは見えない、企業の実態を深く掘り下げていきます。
財務デューデリジェンスの結果は、「財務デューデリジェンス報告書」として取りまとめられ、財務上のリスクや重要な論点が整理されます。
この報告書により、財務状況の全体像とリスクの深刻度が可視化され、経営陣による買収判断や、価格交渉・契約条件の調整などに活用されます。
報告書の内容次第では、追加調査や条件変更の必要性が生じる場合もあり、M&Aの成否を左右する重要な成果物といえます。
財務デューデリジェンスの結果を受けて、買い手は売り手の企業価値の再評価を行い、買収価格や契約条件の見直しを検討します。
調査によって重大なリスクが判明した場合には、最終的に取引自体を中止する判断に至る可能性もあります。
財務デューデリジェンスは、M&Aの成否を左右する極めて重要なプロセスであり、取引の実行に向けた最終的な意思決定を支える根拠として機能します。
財務デューデリジェンスで実際に確認される項目や資料は次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
財務デューデリジェンスでは、対象企業の財務諸表が経営実態を正確に反映しているかどうかが確認されます。
使用される主な資料は、直近2〜5期分の貸借対照表、損益計算書、キャッシュフロー計算書です。これらを通じて、業績の推移や財務構造の変化が把握されます。
また、月次あるいは四半期の試算表と年次財務諸表との間に大きな乖離(かいり)がないか、整合性が保たれているかも評価の対象です。
財務諸表上には、適用されている会計方針や会計基準が記載されており、それが適切かつ継続的に運用されているかが確認されます。
加えて、売り上げの前倒し計上や費用の繰延といった特異な会計処理の有無も、財務諸表の記載内容から読み取られるべき重要な論点とされています。
売掛金および受取手形は、対象企業の資産の健全性や資金回収能力を評価する上で欠かせない項目です。
これらの債権に関しては、残高の推移と売り上げとの整合性を通じて、売上計上の妥当性や債権管理の実態が確認されます。
資料上には得意先別の回収サイトや回転期間が記載されており、滞留債権や長期の未回収債権の有無が把握可能です。
回収期間が他社平均に比べて著しく長い場合や、特定の得意先への債権集中が見られる場合は、将来的な貸倒リスクが示唆されます。
また、過去の貸倒実績や、貸倒引当金の計上状況も財務資料に明示されており、債権の評価が実態を反映しているかどうかを判断する上で重要な手がかりです。
これらの情報から、帳簿上の資産が実際にどの程度回収可能であるかが明らかになります。
棚卸資産は、在庫の適正性や資産性を評価するための重要な項目とされ、財務デューデリジェンスにおいて重点的に確認されます。
資料には在庫の種類や評価方法(先入先出法、総平均法など)が明記されており、会計方針が実態に即しているかどうかの判断材料として用いられます。
また、棚卸資産の月次残高の推移や回転期間のデータからは、過剰在庫や滞留在庫の有無、在庫管理の効率性が読み取れます。長期間動きのない在庫が存在している場合は、評価減の対象となる可能性があり、資産性の見直しが求められます。
さらに、在庫の年齢表や実地棚卸の実施状況を通じて、帳簿残高と現物との整合性も確認されます。
棚卸資産は資金を多く拘束する性質を持つため、過大な在庫水準が見られる場合には、資金効率やキャッシュフローへの影響も含めた総合的な評価が必要です。
有形固定資産は、過去の設備投資の実績や減価償却の妥当性を把握し、将来の資本的支出を見通す上で重要な資料のひとつです。
固定資産台帳などの資料には、資産ごとの取得時期や耐用年数、償却累計額が記載されており、それらの情報から適正な減価償却が実施されているかどうかが判断されます。
償却が不十分な場合、帳簿上の利益が実態より過大に計上されている可能性があるため、注意が必要です。
また、稼働していない遊休資産や、著しく老朽化した設備が計上されている場合には、資産性の見直しや今後の廃棄予定に関する情報も含めて評価の対象です。
設備の更新計画や新たな投資予定の有無は、関連資料や補足情報を通じて把握され、M&A後に発生し得るキャッシュアウトリスクとして整理されます。
事業外資産は、本業の収益獲得に直接関与しない資産であり、財務デューデリジェンスにおいては事業価値から切り離して評価される対象とされています。遊休不動産、余剰な現預金、投資有価証券、役員の私的利用が想定される資産などが該当し、財務諸表上では他の資産項目と混在して計上されているケースが多く見られます。
これらの資産は企業の本来的な事業価値には寄与しないため、別途評価され、買収価格の調整対象として取り扱われることが一般的です。なお、事業外資産の評価には市場価格や公正価値が用いられ、売却後の税務リスクも考慮される必要があります。
事業外資産の保有が多い場合には、時価評価の実施とともに、買収スキームや資金計画への反映が求められます。
財務資料上に明示されていない場合でも、経営者の個人的な事情により保有されているケースがあるため、補足資料や関連情報を通じて資産の性質を明確にする必要があります。
買掛金および支払手形は、対象企業の債務管理状況や資金繰りの実態を把握する上で重要な分析対象です。
財務資料には支払サイトや債務残高の推移が記載されており、これらの数値から債務水準の妥当性やキャッシュフローへの影響度が読み取れます。
仕入先別の支払条件や月次ベースの債務残高の増減推移に着目することで、支払遅延のリスクや不自然な債務増減の兆候を検出できます。
支払条件の変更履歴や債権者との交渉経緯なども関連資料に含まれている場合があり、今後の資金負担や取引条件の見通しを立てる上での判断材料です。
借入金に関する資料は、資金調達の構造や財務リスクの評価に直結する重要な情報源です。
契約書類や借入金一覧表には、金融機関ごとの借入残高や金利、返済条件、担保設定の有無といった基本情報が記載されています。これらの情報を基に、元本返済スケジュールや利払い負担を明確にします。
併せて、借り入れに付随する財務制限条項(コベナンツ)が設定されている場合は、その具体的な内容および順守状況の確認が必要です。
資料上で財務指標の悪化がコベナンツ違反に直結する可能性が示唆される場合には、追加の資金調達制限や契約解除といったリスクも想定されます。
さらに、金融機関との取引履歴や借換え実績などの情報からは、将来的な資金調達の柔軟性や、買収後の財務運営への影響度を評価する上での判断材料が得られます。
財務デューデリジェンスでは、財務諸表に計上されていない負債や、将来的に発生する可能性のある偶発債務についても確認が行われます。
代表的な対象としては、役員退職慰労金、債務保証、訴訟・損害賠償に関するリスク、未記載のリース契約などがあります。これらの情報は契約書や覚書、社内資料などに記載されているケースが多く見られます。
これらの負債は表面上の財務数値には反映されないものの、M&A後に実際の支払義務が発生する可能性があるため、買収価格の調整項目として極めて重要です。
資料に記載された支払い根拠や金額の算定基準を基に、妥当性の評価や、必要に応じた引当金の追加計上も検討されます。
訴訟案件に関する資料では、係争中の事案の内容、争点、請求金額などが確認され、これらの情報は買収判断への影響を見極めるための重要な評価材料です。
財務デューデリジェンスを実施する際に重要な点は次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
財務デューデリジェンスでは、対象企業の経営実態や財務状況に関する機密性の高い情報を数多く取り扱います。そのため、情報漏えいを防ぐための管理体制が極めて重要です。
調査開始前には、秘密保持契約(NDA)を締結し、調査関係者の範囲や情報の取扱ルールを明確に定めましょう。
加えて、アクセス権限の制御やデータの保存・送信方法の厳格化、閲覧履歴の管理など、運用面での対策も講じなければなりません。
仮に情報が外部に流出すれば、契約の破棄や損害賠償といった重大なリスクを招く可能性があるため、組織全体で慎重かつ厳格な対応が重要です。
財務デューデリジェンスでは、公認会計士や専門アドバイザーへの報酬に加え、資料収集・分析に伴う事務コストなど、一定の費用負担が発生します。
そのため、調査対象を無制限に広げるのではなく、重要性やリスクの高い領域に絞り込んだ調査設計が求められます。
取引規模や業種特有のリスク、対象企業の経営状況を踏まえ、優先順位の高い項目を明確に設定し、不要な分析や重複調査を回避することが重要です。
効率性と網羅性のバランスを見極めながら、限られた予算の中で成果を最大化しましょう。
M&Aにおける意思決定では、スピードと正確性の両立が求められます。財務デューデリジェンスも同様であり、調査期間が長引くと、対象企業の財務状況や経営環境が変化し、収集した情報の有効性が低下するリスクが高まります。
また、調査の長期化は、売り手との信頼関係や交渉スケジュールに悪影響を及ぼしかねません。こうしたリスクを回避するためにも、事前に調査の目的・優先順位・対象範囲を明確に定め、重要項目に絞って効率的に進めることが重要です。
効率化のためには、データルームなどの情報共有ツールの活用や専門家の協力を得ることが推奨されます。
財務デューデリジェンスの実施には、一定の調査費用が発生します。
費用の水準は、対象企業の規模や業種、調査範囲、依頼先の専門家(監査法人、FAS系コンサル、会計事務所など)によって異なりますが、中小企業のM&Aでは100万〜500万円程度となるケースが多く、上場企業や大規模案件では500万円を超えるケースもあります。
費用には、資料分析・ヒアリング・現地調査・報告書作成などにかかる工数が含まれています。さらに、税務・法務・人事など他分野のデューデリジェンスも同時に行う場合は、総額がさらに高額になる点に留意が必要です。
調査コストを適正に管理するためには、調査項目に優先順位を設け、リスクが高い領域に絞って実施することが推奨されます。
売り手として財務デューデリジェンスを受けるときのポイントは次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
財務デューデリジェンスを受ける際には、事前に社内での対応体制を整えておくことが重要です。
特に経理・財務部門は資料提出やヒアリング対応の中心となるため、専任の窓口担当を置き、関係部署との連携が取りやすい体制を構築しておく必要があります。
また、経営陣は調査の概要や目的を把握し、必要に応じて説明できる準備をしておきましょう。
調査中に情報の行き違いや確認作業で混乱が生じることを防ぐために、あらかじめ社内の役割分担やスケジュール管理を明確にし、円滑な対応ができる体制を整えておくことが重要です。
財務デューデリジェンスでは、財務諸表や月次試算表、借入明細、売掛・買掛金管理表、在庫リスト、固定資産台帳、契約書類など、多岐にわたる資料の提出が求められます。
調査を円滑に進めるためには、これらの資料を事前に最新版でそろえ、数値の整合性や記載内容の正確性を確認しておくことが重要です。
数字の不一致や説明の不備があると、追加の調査を招くだけでなく、買い手側に不信感を与え、交渉全体に悪影響を及ぼす可能性があります。
資料は可能な限り体系的に整理し、問い合わせに対して迅速に対応できる体制を整備しておくことで、調査はスムーズに進行します。
財務デューデリジェンスの対応において、リスクや問題点を意図的に隠すことは、後々大きな信頼の失墜につながる恐れがあります。
多少の課題がある場合でも、それを正直に開示し、その背景や今後の対応方針を明確に説明することが重要です。
透明性のある対応は、買い手に「信頼できる相手」という印象を与え、結果として取引条件の柔軟性や交渉の円滑化に良い影響をもたらします。
不都合な情報であっても誠実に説明する姿勢こそが、合意に至る上で欠かせない姿勢といえます。
財務デューデリジェンスに関するよくある質問とその回答を紹介します。
財務デューデリジェンスは法的に義務付けられているわけではありません。
しかし、M&Aや出資における意思決定においては、極めて重要なプロセスとされています。
特に非上場企業の場合、公的な開示資料が限られているため、財務内容や潜在的なリスクを第三者が独自に確認する手段として、財務デューデリジェンスの実施が強く推奨されます。
実施を省略した場合、簿外債務や粉飾決算などの重大な問題を見落とし、取引後に深刻なトラブルへ発展する可能性もあります。
取引規模や対象企業の状況に応じて、調査範囲や深度を柔軟に設計しつつも、原則として実施を前提に検討すべきです。
財務デューデリジェンスの実施期間は、一般的に2週間〜2か月程度が目安です。
ただし、実際の所要期間は、対象企業の規模や業種、開示資料の準備状況、調査の深度によって大きく左右されます。
例えば、資料の開示が滞る場合や、関係者とのヒアリング日程が調整困難な場合には、さらに時間を要することもあります。
財務デューデリジェンスは、M&Aプロセスの中で基本合意締結後から最終契約締結までの期間に実施されることが一般的です。
具体的には、意向表明書(LOI)や基本合意書(MOU)が交わされ、取引の大枠が合意された段階で、買い手が売り手のリスク評価や価格妥当性の確認を目的に着手します。
このタイミングであれば、取引条件の方向性がある程度固まっている一方で、まだ契約義務が発生していません。そのため、万一重大なリスクが判明した場合でも、条件の見直しや取引中止といった柔軟な対応が可能です。
財務デューデリジェンスを外部の専門家に依頼する最大のメリットは、専門的かつ客観的な視点から財務リスクを的確に把握できる点です。
公認会計士やFAS系コンサルタントは、会計・税務の実務に精通しており、財務諸表の整合性や異常値、簿外債務の有無などを論理的かつ網羅的に検証できます。
さらに、調査結果を報告書として体系的に整理してくれるため、意思決定資料としても有用です。
財務デューデリジェンスの結果によって、M&Aが中止に至るケースは決して珍しくありません。
簿外債務や偶発債務の存在、不適切な会計処理、粉飾決算の兆候、過剰な借り入れ、著しい収益性の悪化などが確認された場合です。
こうした問題が判明し、当初の想定と大きく乖離(かいり)していると判断された場合には、買い手は取引リスクを回避するため、M&Aの中止を決断することがあります。
取引規模が小さい場合や、事前に十分な情報収集がなされている場合には、フルスコープ(詳細型)デューデリジェンスではなく、限定的またはライト(簡易型)デューデリジェンスで対応できます。
例えば、主要な財務指標やリスク項目に絞ったレビューや、税務・法務デューデリジェンスと連携して最低限のポイントに限定した確認を行う形式などが挙げられます。
ただし、調査範囲を狭めることで見逃すリスクもあるため、省略する項目と残す項目の取捨選択は、経験豊富な専門家と相談の上で慎重に判断する必要があります。
M&Aでは、対象企業の全体像を多面的に評価する必要があります。
財務以外にもデューデリジェンスは、事業(ビジネス)デューデリジェンスと法務デューデリジェンス、その他税務や人事、ITなど、さまざまなデューデリジェンスが存在します。
最後に、M&Aで行われる次のデューデリジェンスについて解説します。
事業(ビジネス)デューデリジェンスとは、対象企業のビジネスモデルや競争力、顧客構成、業界内での立ち位置などを調査・評価することを指します。
調査対象には、ビジネスモデルの収益性や市場環境、競合状況、主要顧客・仕入先、プロダクトポートフォリオ、今後の成長戦略などが含まれます。
また、経営陣の意思決定力や企業文化など、定量化が難しい要素も重要です。
事業デューデリジェンスを通じて、対象企業の本質的な価値や統合後のシナジー可能性を見極め、将来的な経営リスクの低減に役立てます。
法務デューデリジェンスでは、対象企業が抱える法的リスクの有無や契約関係の整合性などを調査します。
主な対象は、取引契約や雇用契約、株主構成、訴訟・係争案件、知的財産権、許認可の状況などです。
不備や違法性が発覚した場合、買収後に損害賠償リスクや事業停止リスクを負う可能性があるため、特に慎重に確認する必要があります。
また、コンプライアンス体制の有無やガバナンス状況も評価対象となり、近年ではESGや反社チェックといった視点も重要です。
人事デューデリジェンスとは、対象企業の人材構成や労働環境、人事制度の実態を調査・分析することを指します。
従業員の年齢構成や勤続年数、報酬体系、退職給付制度、労働契約、労使関係の状況などが主な調査対象です。
M&A後の統合(PMI)を円滑に進めるには、人的リスクの把握が欠かせません。
例えば、過剰な人件費や未払いの残業代、退職金債務、労働争議などが潜在的な問題として存在するケースもあります。
これらのリスクは、将来的なコスト負担や従業員の離反につながる可能性があるため、買収判断において極めて重要な検討要素です。
ITデューデリジェンスとは、対象企業のITインフラや業務システム、情報セキュリティ体制などを調査・評価することです。
システムの老朽化や属人化された運用、外部ベンダーへの過度な依存、データ管理の不備といった問題があると、M&A後の事業統合や日常業務に深刻な影響を及ぼす可能性があります。
特に近年は、サイバーセキュリティ対策やDX(デジタル・トランスフォーメーション)への対応状況も重要な評価項目です。
ITデューデリジェンスによって、IT資産の有効性と将来的な投資・運用リスクを事前に把握することが、円滑な統合と経営判断に直結します。
知的財産デューデリジェンスでは、特許・商標・著作権・ノウハウなど、対象企業が保有する知的財産の権利状況や活用可能性を調査・評価します。
登録の有無や有効期限、第三者との係争リスク、ライセンス契約の内容などが確認項目です。
特に技術系企業やブランド力の強い企業では、知的財産が企業価値に大きな影響を与えるため、戦略的に重要な調査領域とされます。
また、知財の管理体制や社内の権利帰属の明確化も、M&A後のトラブル防止をするために重要です。
環境デューデリジェンスとは、対象企業の事業活動が環境関連法規に適合しているかを調査することです。
具体的には、工場や事業所の土壌汚染、大気・水質汚染、有害廃棄物の処理状況、過去の行政指導や罰則歴などを調査します。
特に製造業や不動産関連企業では、見過ごされた環境リスクが買収後に重大な損失につながることもあるため、早期に把握する必要があります。
また、法的な問題だけでなく、環境保全への対応方針やESG評価への影響も確認事項です。
ESGデューデリジェンスでは、対象企業の環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の観点からリスクと持続可能性を評価します。
温室効果ガス排出量や再エネ導入状況、ダイバーシティの実践度、社内ガバナンス体制、コンプライアンスの履行状況などが主な対象です。
近年では投資家や上場審査においてESGへの取り組みが重視されており、企業の長期的な成長性や社会的信頼を判断する上でも重要な評価領域といえます。
ESGデューデリジェンスによって、単なる財務指標だけでなく、企業の持つ価値観や中長期のリスク耐性が可視化されます。
不動産デューデリジェンスでは、対象企業が保有または使用している不動産の法的・経済的リスクを調査します。
所有権や賃貸借契約の内容、抵当権の有無、用途地域や建築制限、修繕履歴、耐震性などが主な確認事項です。
不動産の評価額が企業価値に大きく影響を与える場合や、不動産が事業運営に直結しているケースでは特に重要視されます。
保険デューデリジェンスとは、対象企業が加入している各種保険契約の内容や補償範囲、保険料の適正性を確認し、事業継続上のリスクに備えるための調査です。
火災保険や賠償責任保険、役員保険、サイバー保険など、事業特性に応じた保険が適切に整備されているかを検証します。
また、保険金の支払実績や今後の更新・見直しの必要性も評価対象です。
保険の未加入や補償不足が判明した場合、M&A後に重大な損失リスクを抱える可能性があるため、保険デューデリジェンスは企業防衛の観点からも欠かせないプロセスといえます。
財務デューデリジェンス(財務DD)は、企業買収や合併を行う際に欠かせない重要なプロセスです。企業の財務状態を詳しく調査し、潜在的なリスクや問題点を明らかにすることで、買収後の不測の事態を避けることができます。このプロセスを通じて、投資判断の根拠を強化し、より良い決断を下すための材料を得ることができます。
この記事を通じて、財務DDの基本から具体的な流れや費用、注意事項を理解していただけたかと思います。M&Aや経営に関するお悩みはM&Aロイヤルアドバイザリーへご相談ください。
CONTACT
当社は完全成功報酬ですので、
ご相談は無料です。
M&Aが最善の選択である場合のみ
ご提案させていただきますので、
お気軽にご連絡ください。