株式持ち合いの現状と解消の背景を探る

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株式持ち合いは解消の動きが活発になっています。株式持ち合いとは複数の企業がお互いの株式を保有することで、信頼できる企業に株式を購入してもらうことで第三者から経営権を守り、事業を安定させることができます。

本記事では株式持ち合いの目的やメリットデメリット、解消の理由や議決権について解説します。

株式の持ち合いとは何か

株式の持ち合いとは、企業の経営を安定させるために複数の企業がお互いの株式を保有しあうことを指します。お互いがお互いの安定株主になることで、第三者による敵対的買収から企業を守ることができたり、企業間の関係性強化などができたりと経営を安定させることができます。

株式の持ち合いを行う場合はお互いの経営権を維持した比率で行われることがほとんどです。また、株式の持ち合いは2社間で行われることが一般的ですが、3社間で行われる場合もあります。これを「循環的相互保有」または「三角持ち合い」といいます。

株主持ち合いの定義と特徴

株式持ち合いとは複数の会社がお互いの株式を持ち合うことであり、その目的は様々です。

  1. 経営の安定を図る
  2. 安定株主の確保
  3. 企業間の繋がりの強化
  4. 敵対的買収の防衛

広義では、M&Aの手法の一つとして捉える場合もあります。

お互いが株式を持ち合い、安定株主となることで企業の株価や業績の変動に左右されず、経営の安定を図ることができます。

また、企業のグループ間や企業同士のつながり強化ができる点も特徴です。

さらに、株式が外部に流出するリスクを減らせるため、敵対的買収からのお互いを守ることができることも株式持ち合いのメリットの一つです。

安定株主とは

安定株主とは業績や市場の株価に関係なく長期的に株式を保有する株主のことです。これまでは企業の経営者や従業員、金融機関や取引先が安定株主となることが一般的でしたが、近年では個人投資家が安定株主となるケースも増えています。安定株式は日本特有の構造といわれています。

相互保有株式

株式持ち合いにより企業同士がお互いに所有している持ち合い株式を相互保有株式といいます。

資本参加・業務提携との違い

株式持ち合いと混合しやすい言葉に資本参加と業務提携があります。それぞれの違いについてみていきましょう。

株式持ち合いと資本参加の違い

資本参加とは企業間の関係性強化や資金援助を目的に株式を取得することです。株式持ち合いは経営安定のためにお互いが株式を保有しあうのに対し、資本参加は資金援助が目的のため一方の企業が相手企業の株式を購入し、支援する形になります。

株式の持ち合いも資本参加も相手企業の経営権を支配しない範囲で株式を保有し、独立性を考慮することが基本です。

株式持ち合いと業務提携の違い

業務提携とは、複数の企業が資金やノウハウなどのリソースを持ち寄り、協力して課題解決を行う経営施策を指します。業務提携の場合、お互いの株式の所有は関係ありません。

従業員持株会とは

従業員持株会とは、従業員に対し、自社の株式の購入をサポートする制度です。なお、この制度は福利厚生の一つとして行われ、加入は従業員の任意とされています。また、取締役などの経営陣は加入することができません。

運用の際にはインサイダー取引や議決権比率に注意が必要です。

なお、従業員からすれば給与から引かれて購入する形になります。

メリットとしては給与から株式購入の資金が引かれるため、資金を用意する手間がかからないことや投資の銘柄を選ぶなどもなく手軽に資産形成ができます。配当金も受け取ることができます。

企業側からすれば、社内の従業員が株式を保有することで安定株主の比率を高めることができ、経営を安定させることができます。

また、持株会を導入することで将来的に事業承継する際に相続財産となる株式を減らすことも可能です。

株式持ち合いと持株会社の違い

株式持ち合いとはお互いの経営を守るために行われる手法ですが、混合されがちな言葉として持株会社があります。

持株会社とは、ホールディングカンパニーとも呼ばれ、他の企業を傘下に入れるなど支配、管理することを目的に株式を保有する会社を指します。

持株会社はその形態によって3種類あり、他の企業を傘下に入れることを目的としている「純粋持株会社」、自社の事業を行いながら他の企業を傘下に入れる活動も行う「事業持株会社」、銀行や証券会社など金融機関の株式を所有し、金融事業を統括することを目的とした「金融持株会社」に分けられます。

純粋持株会社企業を傘下に入れることを目的とする
事業持株会社自社の事業も行いながら企業を傘下に入れることを目的とする
金融持株会社金融事業の統括を目的とする

持株会社を設立する方法

持株会社の設立方法は主に3つあります。

  • 抜け殻方式
  • 株式移転方式
  • 株式交換方式

それぞれの違いについて見ていきます。

抜け殻方式

抜け殻方式とは、自社の子会社を設立し、既存事業を子会社に譲渡して自社を持株会社に移行させる方法です。

株式移転方式

株式移転方式とは、親会社を設立し、株式を親会社に移動させて持株会社を設立する方法です。

株式交換方式

株式交換方式とは、既存の2つの会社の株式を交換し、1社を完全親会社、もう1社を完全子会社にする方法です。

持株会社のメリット

持株会社は複数の企業を子会社にすることにより、幅広い事業に参入できることやグループ会社として買収しやすくなるといったメリットがあります。

株主総会での議決権の制限

株式の持ち合いを行う上で忘れてはならないのが、議決権がどう扱われるかということです。議決権とは企業の経営を決める株主総会での決議の投票権利です。

通常は1株につき1つの議決権を保有し、企業の発行済株式数の何割を保有するかで行使できる権利が異なります。

しかし、相互保有株式が多い場合は議決権の制限が会社法により定められています。会社法308条では、お互いの株式の1/4以上を保有している場合、相手企業の株主総会での議決権を行使することができません。

その理由としては、株式持ち合いを行っている企業はお互いの経営に関して口を出すことが少ないことや相手企業を通して、自社の経営陣が議決権を行使する恐れもあり、公平な決議ができなくなる可能性があるためです。

株式持ち合いの歴史的背景

株式持ち合いはいつ頃始まったのかというと、その歴史は第二次世界大戦後の財閥解体や外資参入による買収防衛対策がきっかけとされています。こうした背景から取引先や金融機関など企業間での株式の持ち合いが急増しました。

しかし、バブル崩壊後、業績悪化により株価が下落。その後は様々な理由により株式持ち合いを見直す企業が増加し、現在は株式持ち合い解消の動きが進んでいます。

戦後から高度経済成長期までの展開

第二次世界大戦後、GHQによる財閥解体の施策により、株式の所有形態が大きく変わりだします。

戦前は財閥本社が傘下の企業の株式を保有し、財閥本社の株式を財閥家族が保有するというピラミッド構造になっていました。

しかし、戦後の財閥解体や政府の所有する株式が放出されるようになり、従業員をはじめとした個人が株式を所有するようになります。1949年の個人の持株比率は69.1%でした。

しかし、1949年をピークに個人の持株比率は下がり、金融機関や法人の持株比率が上昇していきます。

その背景には、株価下落時に個人による売却が行われ、株式の買い占めが行いやすくなったためです。

株式の買い占めに対抗する措置としてグループ企業で株式を持ち合う相互持合いが進展していきました。

1955年以降、金融機関と法人の持株比率は安定している一方で、投資信託の持株比率が上昇します。しかし、1963年のケネディ・ショックなどによる株式市場の下落により、日本共同証券と日本証券保有組合によって株式の買い入れが実施されます。

その後、日本共同証券と日本証券保有組合の株式が銀行や生命保険会社などの金融機関や関連会社に売却されます。

1967年以降、資本の自由化により、外資による国内の企業買収が危惧されたことも株式の持ち合いにつながったと考えられます。

1985年、時価発行による増資が認められ、銀行による公募融資が活発に行われました。新規に発行される株式の安定化のため、銀行と法人の株式の持ち合いが強化されたと推察できます。

バブル期とその後の変化

しかし、バブル崩壊の1991年以降、金融機関の持株比率は低下、複数の企業と株式の持ち合いを行っていた状態から少数相手と株式を持ち合う形へと変化していきました。また、1994年度は持ち合い株なしの企業比率は7.1%だったのに対し、2009年度は38.9%と増加していることから株式の持ち合いは解消の動きが進んでいることがわかります。

参考:株式会社大和総研「株式持ち合いの変遷と展望」

株式持ち合いのメリット

株式の持ち合いには以下のようなメリットがあります。

  • 経営の安定化
  • 敵対的買収の防止
  • 企業間の関係性強化

経営の安定化

株式会社では経営権を持つのは株主であり、保有する株式の比率によって行使できる権利が変わります。持株比率によっては独立性が保てなくなることもあるため、株式の持ち合いを行う場合、友好関係にある企業との間で行われることが多く、お互いの経営方針に理解があることがほとんどです。

そのため、お互いに経営に干渉しないことが暗黙の了解となっており、安定株主を確保し経営権を守りながら経営を行うことができます。

敵対的買収の防止

敵対的買収とは、買い手企業が対象企業の取締役会の同意を得ずに、買収を行うことをいいます。敵対的買収の反対が友好的買収であり、国内のM&Aによる事業承継は友好的買収が一般的です。その理由は敵対的買収の成功率が低いことやリスクが大きい点があげられます。

敵対的買収をされると、経営方針が大きく変更される可能性が高いため、買収防衛策の導入は企業にとって放置できない課題となります。

株式の持ち合いは安定株主の持株比率を上げることで敵対的買収から企業を守る一つの手段となります。

企業間の関係性強化

株式の持ち合いは企業のグループ間で行われる場合もあります。グループ会社同士で実施することでグループ規模の拡大や企業間の関係性の強化、取引関係の強化や経営の効率アップなどが期待できます。

株式持ち合いのデメリット

メリットがあるように思える株式の持ち合いですが、一方でデメリットも存在します。株式を持ち合うことでのデメリットには以下があります。

  • 少数株主の意向が反映されにくい
  • 株主による監視機能が低下する
  • 資本効率の低下や株価暴落のリスク

少数株主の意向が反映されにくい

相互保有株主を持つ企業の持分比率が高くなることで、持株の少ない少数株主の意見が反映されにくくなります。株式総会は会社の経営を株主で決める場ですが、少数株主の意見が反映されなくなれば、株式総会の本来のあり方と相違が生まれます。事業を成長させるための意見が採用されなくなる、競争力が低下するなどのリスクがあります。

株主による監視機能が低下する

株式会社は株式総会で会社の経営が決められます。会社を経営する上で重要な取締役や監査役の選任も株式総会で決議され、経営を適切に行っているかを監視する役割もあります。株式持ち合い企業の持株比率が高くなることで、少数株主の意見が通りにくくなるだけでなく、監視機能も失ってしまう恐れがあります。

監査機能の低下により、経営が適正に行われなくなる可能性もあります。

資本効率の低下や株価暴落のリスク

株式の持ち合いのデメリットには資金が適正に使われないという懸念点もあります。通常であれば事業成長のための人材育成や設備投資などに使われるはずの資金が、お互いの株式を購入に使われることになるため、事業に活用する資金の減少によって資金効率の低下が起こる可能性があります。

資金効率が低下すれば投資家による出資も少なくなるため、企業価値の低下や株価の低迷・暴落の恐れがあります。

コーポレートガバナンスの課題

株式の持ち合いはコーポレートガバナンスにおいても課題の1つとなります。

コーポレートガバナンスとは、組織における不正や不祥事を未然に防ぎ、企業が健全な経営を行えるように監視や統制を行う仕組みのことです。

株式の持ち合いでは、株式を持つ企業がモノ言わぬ株主となり、企業の経営を向上させるという本来の株主総会の機能が果たせなくなることが懸念されています。

株式持ち合いの解消の背景と現状

株式持ち合いの現状をみると、2024年の自社株買いは16兆8149円と前年比の7割増であり、3年連続で過去最高になったことが発表されました。

自社株買いとは企業が自社株式を市場から買い戻すことを指し、自社株買いが増えた理由として東京証券取引所や海外の投資家による指摘や要請により、株主還元の動きが活発になったためと考えられます。

自社株を買い戻すことにより、市場に出回る株式が減り、1株あたりの配分が増えるため、株主への利益の還元にもつながります。

株式の持ち合いに関しては、海外投資家からは海外企業と比較した資本効率化や収益性の低さ、経営陣の規律の低下、経営の不透明性などから公正な取引が阻害されると問題視されていました。

また、2022年にはプライム市場に上場する条件に流通株式の割合が発行株の35%以上であることが規定されたことも株式持ち合い解消の流れに進んだと考えられます。

しかし、大和アセットマネジメント株式会社の資料「株式持ち合いの解消と企業価値」では、日本の上場企業における安定株主の持株比率の推移は銀行、生命保険会社、損保を含んだ場合は大きく減少しているのに対し、事業会社のみの持株比率は横ばい傾向であることがわかります。

相互保有株の売却をためらう理由としては

「本業が不振なときなどに売却して利益を確保する手段が欲しい」

「喫緊の投資先がないので、配当収入が得られる株式を保有し続けたほうがいい」

「相手先に売却の許可を得る交渉がストレスである」

「安定株主を確保し続けたい」

といった声があがっています。

特に損保業界では保有株式を2030年までにゼロにする方針で動いており、今後も株式持ち合いの解消の動きは加速していくと考えられます。

株式持ち合いの解消理由

株式持ち合い解消の動きが出ている理由としては以下の4点があげられます。

  • 資金繰りの悪化
  • 会計基準の変更
  • 企業統治指針の改訂
  • 海外の投資家からの批判

資金繰りの悪化

バブル崩壊により景気が悪化し、業績が低迷する企業が増えました。その結果資金繰りに困窮し、持ち合い株式を売却せざるを得なくなり、もちかい株式の解消の動きが起こりました。

会計基準の変更

また、会計基準の変更も株式持ち合いの解消が進んだ理由の一つです。金融ビッグバンという金融制度の改革により、持ち合い株式は取得原価ではなく時価評価となり、バランスシートに計上されることになりました。これにより、持ち合い株式の損益が自己資本に影響が出たため、自己資本比率を重視する金融機関を中心に解消の動きが出ました。

企業統治指針の改訂

上場企業の企業経営を統治することをコーポレートガバナンスといい、企業が健全に経営を行っているかを監視、統制します。この企業統治のガイドラインが2015年6月に金融庁と東京証券取引所によって制定されました。このガイドライン(コーポレートガバナンス・コード)の中で上場企業が株式の持ち合いをする場合には合理的な理由を説明することが義務づけられました。これにより、ハードルが高まったことも解消の理由として考えられます。

海外の投資家からの批判

海外の投資家からは資本の空洞化や株主総会の機能不全、非効率な取引設置などといった反応が増えたこともあげられます。

海外展開を進めている企業にとっては海外投資家の動向や評価は気になるところです。そのため海外からの株式持ち合いに対する批判が強まれば解消の動きが出るのも納得です。

株式持ち合いを解消する方法

株式の持ち合いを解消するにあたってお互いの合意が必要です。

具体的な解消方法は2つあります。

  • 第三者への株式の売却
  • 他社が保有する自社株の購入

第三者への株式の売却

解消の合意を得たら、自社が保有する相手企業の株式の売却先を決めます。

その際の売却価格はお互いに納得した価格を決め、短期間で売却することが必要です。

他社が保有する自社株の購入

もうひとつが、相手企業が保有する自社の株式を買い取る方法です。

自社株の買い取り方法は2つあり、ひとつは市場で売却してもらい買い戻す方法、もう一つは市場を通さずに直接交渉で買い取る方法(相対取引)です。市場を通さずに買い取る場合は株主総会の特別決議の承認が必要です。

一般的に株式の持ち合いを解消する際は自社株買いの方法が利用されます。

まとめ

経営を安定させるために行われていた株式持ち合いですが、資金効率の低下や株主総会の弱体化など海外投資家からの指摘などにより、多くの企業が解消へと動き始めています。

自社株を買い戻すことにより、株主への利益還元が大きくなる、ROEの向上やPERの低下による企業価値の上昇などが起こるため、株式持ち合いの解消の動きや自社株買いの動きはさらに活発になることでしょう。

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