事業の譲渡とは?手続き・税金・株式譲渡との違いを専門家が解説

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会社全体を売るわけではないが、一部の事業だけ手放したい――そんなときに活用されるのが「事業譲渡(=事業の譲渡)」という手法です。

事業譲渡は、特定の資産や人材、契約関係などを含めて一部の事業を第三者に売却・移転するM&Aの手法のひとつであり、中小企業の再編や撤退、成長資金の確保など多様な目的で活用されています

一方で、株式譲渡との違いや手続きの複雑さ、税務上の注意点など、専門的な要素も多く、正しい理解と準備が欠かせません。

本記事では、事業の譲渡の基本的な仕組みからメリット・デメリット、株式譲渡との違い、成功させるための実務ポイントまで、M&Aの専門家がわかりやすく解説します。

事業の譲渡とは?

事業譲渡とは、会社の一部である事業単位を第三者に売却・移転することを意味します。

ここで言う「事業」とは、商品・サービス・取引先・従業員・設備・知的財産などを含んだ、独立した収益活動の単位を指します。

この手法では、会社そのもの(法人格)は残したまま、必要な事業だけを選択して譲渡することができます。そのため、経営資源の選択と集中を図る場面や、赤字事業の切り離し、特定の事業だけをM&Aで売却したいときなどに活用されるのです。

どんな場面で活用されるか?

事業譲渡が用いられる主なシーンは以下の通りです。

  • 不採算事業・周辺事業の撤退(経営資源の集中)
  • スタートアップなどが特定事業だけを売却し資金化
  • 事業承継の一環として、後継者が引き継ぐ事業を限定する
  • グループ会社間での事業再編・組織再構築

「会社は残すが、事業は移す」という柔軟な戦略として、実務上はさまざまなM&Aの現場で使われています。

株式譲渡との違い

株式譲渡が「会社のオーナーそのものを変える」のに対し、事業譲渡は「会社の一部を切り出して売る」という性質があります。

比較項目事業譲渡株式譲渡
対象一部事業単位(資産・契約)株主権(会社そのもの)
法人格維持される継続される(株主が変わる)
従業員・契約原則、移転に同意が必要原則、自動的に承継
許認可原則、再取得が必要引き継がれる(変更手続きあり)
活用場面事業の切り出し・撤退経営権の移転・事業承継全般

どちらを選ぶかは、譲渡の目的・対象・リスク・スピード感などを踏まえた戦略的判断が重要になります。

事業譲渡のメリットとデメリット

事業譲渡は、会社の一部事業を選択的に移転できる柔軟なM&A手法である一方で、契約・手続き・税務上のハードルも少なくありません
ここでは、譲渡する側(売主)・譲り受ける側(買主)それぞれの視点から、メリットとデメリットを整理してご紹介します。

譲渡する側(売主)のメリット・デメリット

■メリット

  • 不採算事業の切り離しが可能
    収益性の低い事業を譲渡することで、経営資源を本業に集中させることができます。選択と集中による企業体質の改善に有効です。
  • 一部の事業のみを売却して資金化できる
    会社全体を売らずに、特定の事業だけを現金化できるため、経営の独立性を維持しながら資金調達が可能です。
  • 整理・撤退よりも高い価値で売却できる可能性
    赤字事業でも、買い手にとっては魅力的な資産や顧客基盤を含むことがあり、廃業するよりも良い条件で譲渡できる場合があります。

■デメリット

  • 契約・従業員・許認可の“個別承継”が必要
     株式譲渡と異なり、契約・資産・従業員などを一つひとつ個別に移転する必要があります。相手方や従業員の同意が得られなければ承継できず、移行手続きが煩雑になりがちです。
  • 譲渡益に対する課税負担が発生
    事業譲渡により得た利益には法人税が課されます。また、資産の譲渡には消費税の課税対象となるケースもあるため、税務面での計画が不可欠です。

譲り受ける側(買主)のメリット・デメリット

■メリット

  • 必要な資産・機能だけを取得できる
    不必要な負債やリスクを伴わずに、成長に必要な事業だけをピンポイントで取得可能。特に、新規市場参入やシナジー獲得を狙う際に有効です。
  • 将来的な経営リスクを限定できる
    法人格ごと買収する株式譲渡に比べ、不要な訴訟リスクや簿外債務などを回避しやすい点も安心材料です。

■デメリット

  • 契約や従業員の“引き継ぎ”に手間がかかる
    契約や雇用契約は原則として自動では承継されず、再締結や個別同意が必要です。従業員の理解や交渉のプロセスも含め、移行コストが高くなりがちです。
  • のれん・評価額の妥当性の判断が難しい
    事業譲渡の場合、「のれん(営業権)」を含めた価格交渉になることが多く、買収対象の評価が不透明になりやすいのも課題です。

このように、事業譲渡には柔軟性とリスク分散性という利点がある一方で、手続きの煩雑さと税務面の注意点が伴います。

事業譲渡の手続きの流れと実務ポイント

事業譲渡は、会社の一部を切り出して第三者に譲るという性質上、慎重なプロセス設計とステークホルダー対応が不可欠です。

ここでは、事業譲渡における一般的な流れと、実務上の重要ポイントについて解説します。

基本的なステップ(意向表明→基本合意→DD→契約→クロージング)

事業譲渡の標準的な手続きの流れは以下の通りです。

1.意向表明(LOI)・交渉開始
売主・買主間で事業譲渡に向けた初期的な意思確認を行います。条件が整えば、基本合意書(MOU)を締結します。

2.デューデリジェンス(DD)の実施
買主側が対象事業の法務・財務・税務・労務などを詳細に調査。リスクや正確な企業価値を把握する工程です。

3.事業譲渡契約書の締結
譲渡対象の資産・契約・従業員・知財などを明記した契約書を作成・締結します。

4.ステークホルダー対応・承継準備
取引先、従業員、許認可を管理する行政機関など、関係者との同意・再契約を進めます。

5.クロージング(譲渡実行)
条件を満たした上で譲渡代金の決済・資産引渡し・契約切替を実行し、取引が完了します。

契約に含めるべき内容(対象資産・契約・従業員の移転など)

事業譲渡契約書には、何を誰がどの条件で譲渡・引き継ぐのかを明確に記載する必要があります。具体的には以下の内容が盛り込まれることが一般的です。

  • 対象となる資産(設備・在庫・店舗など)
  • 承継対象の契約(販売契約、リース、知的財産など)
  • 引き継ぐ従業員の範囲と労働条件
  • 譲渡価額と支払い条件
  • 表明保証、誓約条項、解除条件

特に、“契約や人が自動で引き継がれない”のが株式譲渡との大きな違いであるため、何をどう引き継ぐのか明文化することが極めて重要です。

ステークホルダーへの対応(従業員・取引先・許認可等)

事業譲渡では、関係者への丁寧な説明・同意取得も重要なフェーズです。

  • 従業員:従業員が譲渡先企業に転籍する場合は、一般的に個別同意が必要となるため、早めの説明と納得感の醸成がカギになります。
  • 取引先・顧客:契約名義が変わるため、事前に同意や新契約を締結する必要があります。
  • 許認可・登録:業種によっては、営業許可や届出を再取得・変更する必要があります。

“スムーズな承継”は法的な手続きだけでなく、関係者の心理的納得を含めた設計が求められるのです。

事業譲渡に関する税金と会計処理

事業譲渡は、法人同士の売買契約として成立するため、売主・買主それぞれに税務・会計上のインパクトが生じます。
譲渡益課税や消費税、のれんの処理など、後のキャッシュフローや決算に影響する要素も多く、事前に税理士やM&Aアドバイザーと連携して設計することが重要です。

売り手側の税務処理(法人税・消費税・譲渡益課税)

売主にとって、事業譲渡によって得た対価(売却金額)は、法人の収益(益金)として課税対象になります。

  • 資産や事業を譲渡したことにより生じた利益 → 法人税の課税対象
  • 固定資産などの帳簿価格と譲渡価格の差が利益として認識される

さらに、譲渡対象に含まれる資産の多くは消費税の課税対象となる点にも注意が必要です。

課税対象消費税
商品・在庫・設備・備品などの資産課税される
土地・株式・有価証券など非課税
のれん(営業権)課税される

売主としては、譲渡益の計上時期・課税対象の内訳・消費税の納付額など、実行前に必ずシミュレーションを行いましょう。

買い手側の税務処理(のれん、資産計上など)

買い手側は、取得した資産や契約を帳簿に計上することになります。

このとき、譲渡価格が純資産を上回る部分は、「のれん(営業権)」として資産計上され、5年間で均等償却されます。

■例:

  • 購入価格:1億円
  • 純資産(取得資産の簿価合計):8,000万円
  • のれん:2,000万円(5年間で毎年400万円償却)

また、取得した資産に対しては、減価償却などの通常の会計処理を行う必要があります。

譲渡価格の配分(有形資産と無形資産、のれんの切り分け)は、税務調査で問題になりやすいため、専門家による評価が重要です。

税務リスクと節税対策の考え方

事業譲渡における代表的な税務リスクは以下の通りです。

  • 売主:譲渡益の過小申告、消費税の過少計上
  • 買主:のれんの過大計上、不適切な資産分類による税務否認
  • 双方共通:取引価格が第三者間取引として妥当かどうか(移転価格税制など)

このようなリスクを回避し、かつ節税効果を高めるためには、次の対策が有効です。

  • 税理士や会計士と連携し、スキーム段階から税務視点を組み込む
  • 譲渡対象資産の評価書や根拠資料を整備しておく
  • 適正な価格配分と償却計画を立て、税務調査にも対応できる体制を整える

このように、事業譲渡には単なる売買だけでなく、税務・会計の深い理解と慎重な対応が求められるのです。

事業譲渡が選ばれるケースと留意点

事業譲渡は、企業の一部だけを切り出して移転できるという特徴から、経営戦略上の柔軟な選択肢として重宝されています。
一方で、他の手法にはない注意点や制約もあるため、導入前には適切な判断が求められます。ここでは、事業譲渡が選ばれる代表的なケースと、実務上の留意点を解説します。

部分的な事業切り出し・選択と集中

企業が複数の事業を抱えている場合、「選択と集中」を実行するために、本業から外れる周辺事業を事業譲渡によって売却するケースが多く見られます。

これにより、資金調達をしつつ、経営資源を収益性の高い事業へ集約できるメリットがあります。また、スタートアップなどが特定のサービス・プロダクトだけを事業譲渡し、大手企業へ売却する事例も増えています。

自社の成長ステージや事業構造の見直しに応じて、スピード感あるポートフォリオ再編が可能になります。

会社清算・破産回避・事業再生

会社全体の業績が悪化し清算を検討する場合でも、収益性の高い事業や資産を切り離して譲渡することで、雇用やブランドを残すことができます。

これは、いわゆる“第二会社方式”(優良事業を新会社へ移し、旧会社は整理)など、事業再生局面での活用が典型です。

会社全体を売るのではなく、“残すべき事業だけを守る”選択肢として、事業譲渡は極めて有効な戦略です。

事業譲渡の制約(包括承継不可、契約・許認可の再取得)

一方で、事業譲渡には以下のような制約・注意点があります。

  • 包括承継ができない:契約や権利義務、従業員の地位は原則として自動承継されず、個別の同意や再契約が必要です。
  • 許認可・届出がリセットされるケースがある:事業に必要な営業許可・登録などは、新たに取得し直す必要がある場合もあります。
  • 第三者の同意が必要な契約が多い:リース契約や代理店契約などでは、譲渡先の信用や審査状況によって承継が認められないことも

こうした事情から、スキーム設計やステークホルダー対応を怠ると、譲渡後に事業が機能しないリスクもあるため注意が必要です。

株式譲渡と事業譲渡の違いとは?

M&Aにおける代表的な手法として、「株式譲渡」と「事業譲渡」があります。

どちらも企業の所有や経営を他者に移すという点では共通していますが、対象・手続き・法的効果が大きく異なります。以下では、両者の違いをわかりやすく整理して見ていきましょう。

取得対象の違い(会社全体 vs 一部事業)

  • 株式譲渡:会社の「株主」を変更することで、法人全体をそのまま引き継ぐスキームです。会社の資産・契約・従業員などは変わらず、株主だけが交代します。
  • 事業譲渡:会社の一部である「事業単位」を個別に譲渡します。法人格は移らず、あくまで資産や権利義務の一部を切り出す方式です。

株式譲渡は“会社ごと”、事業譲渡は“事業だけ”を売るという明確な違いがあります。

従業員・契約・資産の承継方法の違い

項目株式譲渡事業譲渡
従業員自動的に引き継がれる個別に再雇用契約が必要
契約一般的に継続される取引先の同意が必要な場合が多い
許認可原則引き継がれる(変更届など)再取得が必要なことも多い
資産会社に帰属したまま譲渡対象ごとに移転登記・契約手続きが必要

事業譲渡では、“一つひとつの契約・人・モノ”を丁寧に引き継ぐ必要があるため、準備や調整に時間と労力がかかります

意思決定プロセス・手続きの違い

  • 株式譲渡は、株主間の契約で完結するため、原則として会社の承認は不要です(譲渡制限株式を除く)。
  • 一方、事業譲渡は会社法上の手続きが必要であり、譲渡会社が一定規模以上の場合には株主総会での特別決議が求められます(会社法第467条)。

つまり、事業譲渡はより公開性・説明責任が重視される手法であり、慎重な手続きを要します。

このように、株式譲渡と事業譲渡にはそれぞれ異なる特徴があり、目的や状況に応じて最適な手法を選ぶことがM&A成功の鍵となります。

事業譲渡を成功させるためのポイント

事業譲渡は、会社の一部を切り出して他者へ承継させるという繊細なスキームであるため、慎重な準備と専門的な対応が不可欠です。
売主・買主のどちらにとっても、法務・税務・人的対応を誤るとトラブルにつながる可能性があります。

ここでは、実務で押さえるべき成功のポイントを4つに分けて解説します。

売却スキームの整理と対象範囲の明確化

最初に行うべきは、「どの事業を・どこまで・誰に譲るのか」という全体像の整理です。

  • 譲渡対象の事業の範囲
  • 含める資産や契約の明細
  • 移転する従業員の選定
  • 売却後の残事業との関係やリスク整理

対象が曖昧なまま交渉に入ると、条件の食い違いやトラブルにつながりやすくなります。まずはスコープを“言語化”して共有することが基本です。

バリュエーションとデューデリジェンスの実施

事業譲渡では、対象事業の価値評価(バリュエーション)をもとに譲渡価格が設定されます。
この際、買主側ではデューデリジェンス(法務・財務・税務の調査)を行い、適正性・リスクをチェックします。

  • 売主:バリューの根拠となる実績や見通しを資料化
  • 買主:のれんやリスク要因を含めて価格交渉を検討

客観的な企業価値評価や、専門家によるリスク洗い出しが信頼性と交渉力の源となります。

契約書の設計・クロージング支援

事業譲渡契約書には、法的・実務的に重要な条項が多数含まれます

  • 対象資産・契約・知財の明記
  • 表明保証・誓約事項(瑕疵担保責任)
  • クロージング条件(従業員の同意取得、許認可更新など)
  • 売買代金の支払条件や調整方法

条項の設計を誤ると、クロージング後に「言った・言わない」の紛争に発展するリスクがあるため、M&Aに精通した専門家の関与が必須です。

M&A専門家に依頼するメリット

事業譲渡は、株式譲渡に比べて手続き・契約・ステークホルダー対応が複雑です。

そこで、M&A仲介やアドバイザーを活用することで、次のような支援を受けることができます。

  • 売却戦略・スキーム設計のアドバイス
  • 相手先候補との交渉・条件調整
  • 契約書レビューや法務・会計士との連携
  • クロージングまでの実行支援と進行管理

M&Aロイヤルアドバイザリーでは、中小企業・事業承継・再編支援に特化したプロフェッショナルが、最適な譲渡スキームをトータルで支援しています。

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事業譲渡は“部分的M&A”。戦略的判断が成功を左右する

事業譲渡は、会社の一部を戦略的に切り出し、第三者に移転するM&A手法です。

経営資源の集中、赤字事業の切り離し、グループ再編、事業承継など、幅広い経営課題への解決策として活用されています。

しかし一方で、株式譲渡と異なり、契約・従業員・許認可の承継には手続きや同意が必要となるなど、実務上の煩雑さと法務・税務の複雑性も伴う取引です。

正しい知識と段取り、そして何より目的に合ったスキーム選定が、事業譲渡を成功に導くカギになります。

■ポイントまとめ

  • 事業譲渡とは:会社の一部事業(資産・契約・人材など)を第三者に売却・承継するM&A手法。
  • 活用場面:経営資源の集中、撤退、再編、スタートアップの一部売却、再生型M&Aなど。
  • 株式譲渡との違い:包括承継ができず、契約・人材・許認可は個別対応が必要。
  • 手続きの流れ:意向確認→DD→契約→同意取得→クロージングという段階的プロセス。
  • 税務・会計処理:譲渡益・消費税・のれん償却など、専門家との連携が重要。
  • 成功のためのポイント:対象事業の明確化、バリュエーション、契約書設計、専門家支援の活用。

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