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一般的に「キャッシュアウト」という言葉は、企業のお金が外部に流出するという意味を持ちます。ただし、M&Aなどの場面では「少数株主の締め出し」を指すことが多いです。
特に近年では、完全子会社化や事業承継の一環としてキャッシュアウトが実行されるケースが増えており、経営上の重要な意思決定として注目されています。
本記事では、キャッシュアウトの意味や目的、実務で用いられる手法、メリット・デメリット、国内事例などを分かりやすく解説します。
目次
まず、キャッシュアウトの基本的な知識について解説します。
キャッシュアウトという言葉には二つの異なる意味があります。
一つは会計・財務の分野で使われる「現金の流出」、もう一つは会社法上の文脈で用いられる「少数株主の締め出し」です。
会計や財務の分野で使われるキャッシュアウトとは、企業の現金が外部に支出されることを意味します。例えば、設備投資や仕入代金の支払い、借入金の返済などが該当します。
キャッシュフローの計算においては「キャッシュイン(現金の流入)」と対になる概念であり、企業の財務状態や資金繰りを把握する上で重要な指標です。
手元のお金が不足して直近の支払いができない状態を指す「資金ショート」と混同されがちですが、意味が違うので注意しましょう。
会社法におけるキャッシュアウトとは、現金を対価として少数株主を会社から排除する手続きを意味します。これは「スクイーズアウト」とも呼ばれ、企業が完全子会社化を進める際に行われることがあります。
全ての株式を取得することで経営の一元化が図られ、意思決定の迅速化や株主対応コストの削減といった効果が期待されます。対象となる株主の同意が不要な点も特徴です。
本記事ではこの意味のキャッシュアウトに焦点を当てて解説していきます。
キャッシュフローは、企業における資金の流れ全体を示す概念です。営業活動・投資活動・財務活動の三つの視点から、資金がどこから入り、どこへ出ていったかを明らかにします。
一方、キャッシュアウトはその中でも「外部への資金の支出」に限定した概念です。つまり、キャッシュフローが資金移動の全体像を表すのに対し、キャッシュアウトは支出面の一部に当たります。
近年では、金融以外の分野でも「キャッシュアウト」という用語が使われています。
例えば、小売店などで現金を引き出す「キャッシュアウトサービス」がその例です。これは買い物のついでにレジなどで現金を受け取れる仕組みで、銀行ATMが少ない地域などで特に重宝されています。
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キャッシュアウトは、経営上のさまざまな障害を取り除く手法として活用されています。キャッシュアウトが実行される代表的なケースは次のとおりです。
それぞれについて解説します。
M&Aを通じて事業承継や子会社化を進める際、買収側企業は100%の株式取得(完全子会社)を目指すケースも多いです。
これは、少数株主による反対で株主総会の承認が得られない場合、取引が停滞または中止になる可能性があるためです。特に、戦略的な再編や迅速な経営統合を図りたい場面では、少数株主の排除が重要です。
このような場合にキャッシュアウトが用いられ、少数株主に現金を交付して強制的に株式を取得し、経営の一本化を図ります。
オーナー社長の死去などにより、株式が複数の相続人に分散するケースでは、経営に無関係な人物が株主となることで、意思決定の妨げになる可能性があります。
中には経営に干渉しようとする相続人や、株主総会に非協力的な相続人も現れ、経営の安定性に悪影響を及ぼすことがあります。
また、株式の所在が不明確になったり、連絡が取れなくなったりすることも少なくありません。こうした株主を整理し、株式を経営側に集中させるため、キャッシュアウトの手法が実行されることがあります。
かつて会社設立において発起人7名が必要とされた時代の名残で、経営に関与しない名義人が株主として株式を保有しているケースがあります。名義だけを貸しているに過ぎないため、株主の所在が不明になっていることも少なくありません。このような場合、意思決定が停滞するリスクや、株主総会の開催自体が困難になる可能性があります。
所在不明株主に対する除権決定などの手続きもありますが、時間や労力がかかる上、交渉が成立しないことも少なくありません。
そこで、近年はキャッシュアウトによって所在不明株主の同意なく株式を取得し、現金で対価を供託するケースが実務で多く見られます。
旧経営陣が従業員のモチベーション向上や、取引先との関係強化を目的として株式を持たせていた場合、少数であっても経営に影響を及ぼすリスクが生じます。特に経営体制の刷新や事業承継の場面では、外部の株主による経営参加や反対行動が障害となることがあります。
また、従業員や取引先の退職・取引終了後も株式が残り続けると、意思決定の一貫性が損なわれる恐れがあります。こうした状況を回避し、経営の一体性を保つために、キャッシュアウトによる整理が行われます。
キャッシュアウトは、上場廃止を目的とする場面でも用いられます。経営資源の集中や迅速な意思決定を図るために、株式の非公開化を選択する企業が増加しています。
特に、前述の完全子会社化やMBO(経営陣による自社買収)などのケースでは、株式併合や株式等売渡請求などのキャッシュアウト手法が活用されます。
キャッシュアウトには次のようなさまざまなメリットがあります。
それぞれについて解説します。
キャッシュアウトにより、少数株主を排除して株式を特定の主体に集中させることで、株主の利害対立や調整負担を大幅に削減できます。
その結果、取締役会や株主総会での意思決定がスピーディーになり、経営方針の転換、新規事業の開始、大規模な投資などを迅速に実行可能です。
特に、競争が激化するVUCA時代では、遅れのない判断と行動が企業価値を左右します。迅速で柔軟な経営体制の確立は、持続的成長を支える上でも重要な利点です。
上場企業は短期的な業績や株価変動にさらされがちで、投資家からのプレッシャーが強く、長期的戦略を遂行しづらい局面があります。
キャッシュアウトによって企業が非上場化されれば、経営陣は株主の短期的利益に縛られず、中長期的な視点に基づくビジョンを実行しやすくなります。
研究開発への投資、ブランド構築、サステナビリティ経営など、将来に向けた戦略を腰を据えて実行できる体制が整います。
少数株主の存在は、株主代表訴訟などの法的リスクを伴います。経営方針への異議や経営陣への不信が訴訟に発展すると、企業は金銭的損失だけでなく社会的信用の低下も招きかねません。
キャッシュアウトにより支配株主以外の株主が排除されれば、こうしたリスクは大幅に軽減されます。経営陣は不要な訴訟リスクに煩わされることなく、本来の事業運営に集中できます。
完全子会社化により、親会社が子会社の全株式を取得すれば、グループ通算制度の適用対象になります。この制度により、グループ内の赤字企業と黒字企業間で損益通算が可能となり、法人税の納付額を抑えられます。
また、グループ内再編に伴う資産移転や合併においても税務上の簡略措置が利用でき、企業グループ全体の税務効率が向上します。
企業が持続的に成長していくためには、経営権の移譲やグループ再編などの場面でスムーズな株主構成の整理が欠かせません。特に創業者の高齢化による事業承継や、M&Aを前提とした組織再編では、少数株主が障害となることがあります。
キャッシュアウトを通じて特定の株主に株式を集中させることで、意思決定の明確化と手続きの迅速化が実現し、後継者や新経営陣へのスムーズなバトンタッチが可能です。
キャッシュアウトは、上場廃止による経営負担の軽減にも大きく寄与します。
上場を維持するには、四半期ごとの開示やIR対応、コンプライアンス順守など、多大なコストと人員を要します。非上場化により、これらの義務から解放され、経営資源を本業に集中させられます。
また、株主構成の簡素化により、株主総会通知の発送や議決権の管理、配当手続きといった煩雑な事務負担も削減されます。特に少数株主が多い場合、その対応コストは無視できず、キャッシュアウトによる整理は中小企業にとって有効な選択肢です。
キャッシュアウトには、次のようなデメリットが存在します。
それぞれについて解説します。
キャッシュアウトの実施には、会社法に定められた手続きに従い、慎重にステップを踏む必要があります。例えば、基準日公告、株主総会の特別決議、招集通知、開示資料の整備などが求められます。
株式等売渡請求のような比較的迅速な手法でも最短20日はかかり、その他の手法では2カ月近く要する場合もあります。また、少数株主対応や対価算定の検討、社内外の調整など、実務面での準備も膨大であり、結果として経営の負荷も無視できません。M&Aなどの他のスケジュールと並行する場合は、十分な余裕を持った対応が不可欠です。
キャッシュアウトを実行するには、会社法上の厳格な要件を満たす必要があります。
例えば、株式等売渡請求は「特別支配株主」(議決権の90%以上を保有)でなければ実行できません。90%未満の株式しか保有していない場合には、まず株式公開買い付け(TOB)等で議決権比率を引き上げる必要があり、その段階で資金や時間を要します。
また、全部取得条項付種類株式や株式併合を用いる方法もありますが、いずれも定款変更や株主総会の特別決議を要するなど、柔軟な実行は難しく、法的知識と実務の両面での支援体制が求められます。
キャッシュアウトでは、少数株主の持株を適正価格で買い取る必要があります。企業価値が高ければ高いほど、支払対価の総額も大きくなります。加えて、株主数が多い場合にはその負担は膨大なものとなります。
しかも、株式の評価は第三者による算定を要し、適正性を欠くと訴訟リスクに直結するため、通常は市場価格や資産価値などを基にした十分な金額が必要とされます。
未上場企業であっても、純資産ベースの評価が用いられるケースでは、思わぬ高額支出となることもあり、事前の資金調達計画が不可欠です。
キャッシュアウトは、少数株主の意思にかかわらず株式を強制的に取得するため、納得を得られない場合にはトラブルに発展する可能性があります。
典型的なトラブルとしては、株式買取価格を不服とする株主から「価格決定の申立て」や「株主総会決議取消しの訴え」などが提起されるケースです。さらに、手続きの瑕疵(かし)があれば、差止請求や役員責任追及訴訟に至るリスクもあります。
これらのリスクを回避するには、対価の適正性を担保しつつ、丁寧な説明や文書による合意形成、外部専門家による支援が必要です。
キャッシュアウトの実行は、社内関係者だけでなく、顧客・取引先・金融機関など社外関係者にも影響を与える可能性があります。特に上場廃止を伴う場合には、社会的注目を集めるため、説明責任や透明性の確保が重要です。
また、手続きや対価算定が不透明であると、企業イメージの低下につながる恐れがあります。法令順守やガバナンス体制の整備が不十分なまま進めると、企業価値の毀損(きそん)や後継施策への支障を招きかねないため、慎重な姿勢が求められます。
キャッシュアウト実行の際に用いられる主な株式取得手法は、次のとおりです。
それぞれについて解説します。
なお、これらを円滑に実行するための事前措置として活用される株式公開買い付け(TOB)についても併せて解説します。
全部取得条項付種類株式とは、株主総会の特別決議によって対象となる株式を全て取得できる種類株式のことです。
キャッシュアウトにおいては、まず定款変更によって会社を「種類株式発行会社」に移行し、既存の普通株式を全部取得条項付種類株式に変更する必要があります。これは株主総会の特別決議によって行われます。
その後、会社は全ての種類株式を取得し、対価として現金や株式などを交付します。キャッシュアウトを目的とする場合には、取得対価を現金とし、株式比率を調整することで少数株主の持株が残らないように設計されます。
この手法は株主総会での特別決議が必要であるものの、手続きが法的に整備されており、計画的なキャッシュアウトの実行に適しています。
株式併合とは、複数の株式を一定の割合で一つにまとめる手法です。
例えば10株を1株に併合する場合、持ち株が10株未満の株主は1株未満となり、その端数は失効し、会社が現金で買い取ります。この仕組みを利用し、少数株主の持ち株が1株未満となるよう併合比率を設定することで、キャッシュアウトが可能です。
なお、株式併合には株主総会の特別決議(3分の2以上の賛成)が必要です。比較的簡便な方法であることから、2014年の会社法改正による株式等売渡請求の導入以前は広く用いられていました。
株式等売渡請求は、議決権の90%以上を保有する特別支配株主が、他の全株主に対し、自身への株式売渡を請求できる制度です。2014年の会社法改正により導入され、迅速かつ強制力を伴うキャッシュアウト手法として注目されています。
手続きとしては、特別支配株主が売渡請求の意向を通知し、対象会社がこれを承認することで効力が発生します。株主総会決議は不要であり、取締役会での承認のみで進行可能なため、従来の手法に比べて実行がスムーズです。少数株主に拒否権はなく、裁判所の手続きを経ずに株式取得が完了するため、M&Aや完全子会社化におけるキャッシュアウトの標準的な手段となっています。
株式交換とは、子会社の株式を親会社の株式と交換し、親会社が完全親会社となる手法です。
これを応用してキャッシュアウトの手段として用いることがあります。まず、子会社の全株式を親会社株式と交換します。その後、親会社が株式併合などを行って少数株主の保有比率を1株未満にし、株主資格を失わせた上で現金を支払います。また、株式交換時に現金対価を支払う方式(現金交付型)を用いることも可能です。
この方法は2段階の手続きを要するためやや複雑ですが、組織再編に伴ってスムーズに少数株主を整理したい場合に有効です。親会社による全体最適の観点から、グループ内再編や統合効果の最大化にもつながる柔軟な手法です。
株式公開買い付け(TOB)とは、上場企業の株式を対象に、一定の価格と期間を提示して不特定多数の株主から株式を買い取る手法です。
キャッシュアウトの場面では、議決権の取得割合を高めることで、その後に実施する株式併合や株式等売渡請求などの手続きを円滑に進めるために用いられることが一般的です。
なお、TOBの実施には情報開示義務や手続きの厳格なルールが伴い、事前の戦略立案が重要です。
キャッシュアウトの実務上の手順について、実施例の多い株式併合を例として解説します。
株式併合を行う場合の手順は次のとおりです。
それぞれの工程を分かりやすく解説します。
株式併合を実施するには、まず取締役会を開催し、株主総会を招集する決議を行う必要があります。取締役会では、株式併合の目的や併合比率、効力発生日、株主総会の日時・場所などが決定されます。
会社法では、取締役会の開催通知は原則1週間前までに発出し、議事録の作成と署名(または記名押印)が求められます。併合によって少数株主の持株が端数となり消滅するため、透明性の高い手続きと事前準備が必要不可欠です。
また、後の株主説明に備え、併合の経済的合理性や企業価値への影響についても社内でしっかり検討しておくことが求められます。
取締役会で株式併合が決議された後は、会社法182条の2および関連規則に基づき、株主に情報開示するための資料を本店に備え置く必要があります。
この資料には、株式併合の目的・内容・比率・効力発生日に加え、最終事業年度の財務諸表や併合の合理性に関する説明書などが含まれます。
株式併合の情報開示の備置期間は、株主総会の2週間前または招集通知日(いずれか早い方)から、効力発生日の6カ月後までとされており、閲覧請求があった際は速やかに応じる義務があります。
株主総会を実施するには、定款の定めがない限り、少なくとも総会開催の2週間前までに招集通知を発送する必要があります。
通知には、株主総会の日時・場所・目的事項(例:株式併合の件)に加え、併合の理由や併合比率、効力発生日、少数株主への対応方針、反対株主の買取請求手続きなど、株主が判断するために必要な情報を明記します。
なお、通知文には、議決権行使書や委任状を同封することが一般的で、電子提供制度に対応する場合は、別途インターネットでの情報提供も行います。
株式併合を正式に承認するためには、株主総会において特別決議を得る必要があります。会社法では、議決権を持つ株主の過半数が出席し、そのうちの3分の2以上の賛成が必要とされています(会社法309条2項4号、180条2項)。
総会では、併合の目的や合理性、株主への影響、少数株主の取り扱いについて詳細な説明が行われ、反対株主には買取請求権が認められることも明示されます。議事内容は法定の記載事項を含む議事録として作成し、取締役や監査役が署名または記名押印します。
株式併合の効力発生日が近づくと、会社は全ての株主に対して個別通知を行う義務があります。
この通知は、併合の概要・効力発生日・併合比率・買取請求の方法などを記載した文書で、株式併合の効力発生日の20日前までに送付されなければなりません(会社法181条1項、182条の4第3項)。株主が誤解なく対応できるよう、平易で具体的な表現で構成することが望まれます。
また、反対株主が株式の買取請求を行うには、株主総会で反対の意思を表明し、所定期間内に請求手続きを行う必要があります。
株主総会での承認と必要な通知を経て、定められた効力発生日に株式併合が発効します。この日をもって、株主の保有株式は新たな比率に応じて換算され、端株(1株未満)については会社が一括して買取るなどの処理が行われます。
端株買取については、公正な価格設定と通知が求められ、反対株主の買取請求への対応も並行して進められます。
効力発生と同時に少数株主が排除されることで実質的に親会社のみが株主となり、キャッシュアウトが完了します。
株式併合が効力を発した後、会社は関連書類を引き続き本店に備え置く義務があります(会社法182条の6)。
備置期間は、効力発生日から6カ月間であり、株主や利害関係者が閲覧を希望した際には速やかに応じなければなりません。備え置く資料には、株式併合の実施内容や併合の根拠となる説明書、反対株主からの買取請求の状況などが含まれます。
この事後開示は、手続きの公正性と透明性を担保するものであり、万が一の紛争や訴訟リスクに備える意味でも重要です。また、金融商品取引法上の開示義務がある場合は、適切なタイミングでのIR対応も求められます。
キャッシュアウトが実施された事例を背景や目的とともに紹介します。また、買付価格を巡って裁判となったケースも併せて紹介します。
2024年2月、KDDIと三菱商事はローソンと資本業務提携を締結しました。両社は共同でローソンの非公開化に向けたTOB(株式公開買付け)を実施し、同年4月に買付けが成立しました。
その後、7月の臨時株主総会で株式併合と定款変更が可決され、発行済株式が2株のみ(KDDIと三菱商事がそれぞれ保有)となるキャッシュアウトが実行されました。その後上場廃止が完了し、8月にはKDDIと三菱商事がそれぞれ50%ずつを出資する体制が整いました。
この提携により、両社はローソンを通じてリアルとデジタルの連携を強化し、経済圏拡大や生活インフラの高度化を図る方針です。
2024年6月、永谷園ホールディングスは創業家と投資ファンドの丸の内キャピタルによるマネジメント・バイアウト(MBO)を実施し、TOBおよび株式併合によるキャッシュアウトを経て上場を廃止しました。
長期的な視点に基づく経営体制の確立と、意思決定の迅速化を目的としています。キャッシュアウトにより少数株主を整理し、非公開化された後は、さらなるブランド強化と新規事業展開が進められています。
2022年、新潟県本土と佐渡島を結ぶ定期航路を運航する佐渡汽船は、みちのりホールディングス傘下に入るとともに上場を廃止しました。株式併合により27万株を1株に統合し、端株を1株30円で買い取るキャッシュアウトを実施しました。
当時の株価202円に比して大幅なディスカウントでしたが、債務超過や再建状況が考慮されました。公共交通再編の中で実行されたこの事例は、株主保護と経営合理化の両立に課題を残しつつも、迅速な支配権移行を果たしました。
2020年、ソフトバンクと韓国ネイバーは、共同出資会社を通じてLINEの非公開化を進め、Zホールディングスとの経営統合を目指しました。全株取得を狙ったTOBは一部少数株主の応募が得られず不成立となったため、同年9月の臨時株主総会で約2,900万株を1株に併合する株式併合を決議し、少数株主をキャッシュアウトしました。
その結果、LINE株は2020年12月に上場廃止となり、2021年3月にはZホールディングスとの経営統合が完了しました。
新電力事業を展開していたエナリスは、過去の不適切会計による経営不安が続いていました。KDDIは2016年に「auでんき」を展開するに当たり、電力需給管理を担うパートナーとしてエナリスと提携しました。
経営安定化の必要性から、2018年に電源開発(Jパワー)と共同でTOBを実施し、議決権の3分の2を取得した上で株式併合によるキャッシュアウトを行い、子会社化を実現しました。
KDDIは電力分野を「au経済圏」の一角と位置付けており、本件は通信とエネルギーの融合を図る中核的な戦略の一環といえます。
2015年、米投資ファンドのベインキャピタルは、買収目的会社BCJ-22を通じて雪国まいたけに対してTOBを実施し、全株取得後にキャッシュアウトを行いました。背景には、2013年に発覚した不適切会計や、創業者退任後も続いた経営陣の対立があり、混乱の収束と非公開化による経営再建を図る目的がありました。
買収後は財務体質の改善や事業の選択と集中が進められ、2020年には再上場を果たしました。再上場はベインによるバイアウト案件としても注目され、マイタケに特化した戦略の下で西日本や海外市場の開拓も進められています。
パイオニアは、カーエレクトロニクス事業の不振や構造改革費用の増加により、財務状況が急速に悪化していました。資金調達の必要性が高まる中、2018年に香港の再生ファンドであるベアリング・プライベート・エクイティ・アジア(BPEA)から出資を受け入れ、経営再建を図る体制に移行しました。
その後、BPEAは支配株主として2019年に株式併合を実施し、少数株主の排除によるキャッシュアウトを行いました。これによりパイオニアは完全子会社となり、同年3月には上場廃止が完了しました。
業績悪化と粉飾決算により経営危機に陥ったカネボウは、2004年に産業再生機構の支援を受け、2005年に上場を廃止しました。上場廃止直前の株価は360円でしたが、再生ファンドが1株162円でTOBを実施し、これに応じなかった一部少数株主は2006年に株式併合によるキャッシュアウトで排除されました。
その後、公正な買収価格を巡る裁判が行われ、東京地裁は1株360円が適正と判断しました。しかし、東京高裁はこれを変更し、1株162円が妥当とする判断を示しました。最終的に最高裁もこの判断を支持し、買収価格は1株162円で確定しました。
カネボウ化粧品はその後、花王に売却されて完全子会社となりましたが、企業文化の違いや製品トラブルが重なり、花王の業績に負担を与える結果となりました。
モバイルコンテンツ事業を展開するサイバードホールディングスは、2007年にTOBによるMBOが行われ、投資会社の子会社であるCJホールディングス傘下に入りました。翌2008年には全部取得条項付種類株式を活用してキャッシュアウトが実施され、上場廃止に至っています。
しかし、買付価格が低すぎるとして株主から提訴され、東京地裁は価格の適正性を認めたものの、東京高裁ではプレミア価格の上乗せを求める判断が示されました。この結果、当初より高い価格での買付が行われました。
最後に、キャッシュアウトに関するよくある質問とその回答を紹介します。
少数株主の排除には、キャッシュアウト以外にも、任意の株式買取交渉があります。個別に交渉し、株主の同意を得て株式を買い取る方法であり、トラブルが起こりにくい反面、全ての株主が応じるとは限らず、時間やコストがかかる点が難点です。
そのため、円滑かつ確実に少数株主を排除できるキャッシュアウトの仕組みを活用するケースが多いです。
非上場企業においてキャッシュアウトを実施する場合、まずは任意交渉によって株式を買い取る方法が検討されます。ただし、感情的な対立や価格面で合意が得られない場合には、強制的な手続きに移行する必要があります。
取得対価を金銭とする手法としては、「特別支配株主による株式等売渡請求」「株式併合」「全部取得条項付種類株式」の三つが代表的です。特に、株式併合は平成26年の会社法改正によって反対株主に対する買取請求制度が整備されたことから、実務での活用が進んでいます。
ただし、特別支配株主制度は原則として議決権の90%以上を単独で保有する必要があるため、非上場企業では導入が難しいでしょう。
キャッシュアウト・マージャーとは、吸収合併の一形態で、消滅会社の株主に対し、株式ではなく現金のみを対価として交付する合併手法です。2006年の会社法改正により合法化され、「交付金合併」とも呼ばれます。
これにより、存続会社の株主構成を維持したまま、消滅会社の少数株主を排除できます。ただし、この形式は税務上の「適格合併」の要件を満たさないため、法人税などの負担が発生する場合があります。
近年のキャッシュアウト制度に関する改正は、企業による少数株主の整理を後押ししています。2014年の会社法改正では、特別支配株主による株式等売渡請求制度が創設され、発行済株式の90%以上を保有する株主が、他の株主に株式の売却を請求できる仕組みが整いました。
さらに2017年には、株式併合や株式交換など各手法における課税関係が整理され、課税のばらつきが是正されたことで、実務上の使いやすさが向上しました。
また、2025年には経済産業省の研究会が株式売渡請求の要件を緩和し、キャッシュアウトを迅速かつ簡易に進めることを含む提言をしており、企業統治や再編の円滑化に資する制度として注目を集めています。
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