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表明保証はM&A契約において取引後にも関わる重要な項目です。
本記事では、表明保証の重要性とその具体的内容、違反時のリスク、表明保証保険のメリットと活用法、条項作成のポイント、日本における実務と裁判例、最新動向を解説します。
目次
表明保証(Representations and Warranties)とは、M&Aの最終契約の場面において、売主と買主の双方が表明した事実が真実かつ正確であることを保証するものです。
表明保証は「レップ」または「レプワラ」と略して呼ばれることもあります。
表明保証は当事者の提供した情報が事実であり、間違いないことを証明するものです。
表明保証を行う目的は潜在的なリスクを明らかにすることです。
売主と買主の合意後、買主は買収対象となる企業の経営状況を調査しますが、短期間ですべてを把握することが難しいため、売り手に事実が正しいことを証明してもらうことで将来的なリスクを回避したり、事業の経営戦略に役立てることができます。
表明保証はM&A契約において以下の役割があります。
買主は事業承継後に起こりうる不測の事態を回避するために、企業の財務状況や経営状況を把握するためのデューデリジェンス(買収監査)を実施します。
しかし、デューデリジェンスを実施したにも関わらず気づけなかった情報がM&A後に発覚した場合、買主は大きな損害を被ることになります。
表明保証を盛り込むことにより、売主に正しい情報を開示してもらい、事前にリスクが判明した場合にはクロージングを回避することができ、虚偽の申告により損害を受けた場合には買主は売主に対して賠償請求を行うことができます。
これにより双方が安心して取引を進めることができるため、最終契約書に表明保証条項を明記することが大切です。
デューデリジェンス(DD)は買収監査とも呼ばれ、M&Aにおいて買い手が買収対象企業の実態を把握し、リスクを特定するための調査のことです。
デューデリジェンスを行うことで、対象企業の価値を見極めたり、潜在的なリスクや問題点を事前に発見したりできるだけでなく、取引後の事業計画を策定することにも役立ちます。
デューデリジェンスでの調査項目には以下があげられます。
デューデリジェンスの調査期間は数週間から数か月と事業規模により異なりますが一定期間で帳簿にない数字を追いかけることは難しくなります。
最終契約書に記載される表明保証には法的拘束力が発生するため、記載内容に偽りがあった場合は損害賠償請求の対象となります。
最終契約書(DA)は詳細な取引条件が盛り込まれた法的拘束力のある契約書です。
契約書の大まかな構成は以下の通りです。
M&A契約の始めに買主と売主で基本合意書が交わされますが、基本合意書には法的拘束力はありません。
しかし、最終契約書には法的拘束力があるため、最終契約書に記載された内容に関して当事者の一方が違反し、他方に経済的な損害が発生した場合には賠償請求ができます。
ただし、表明保証の最終契約書における位置づけは特約であり必須ではありません。
株式譲渡のM&Aでは、株式の譲渡が行われた時点で契約が成立し、後になって不正事実が発覚しても損害を請求することができません。
双方が安心して取引を進めるためにも、表明保証条項を契約書に明記するようにしましょう。
表明保証の内容として以下があります。
売主と買主では表明保証に記載する事項が異なります。
【売主と買主それぞれ証明するもの】
【売主が証明するもの】
事業承継においてリスクが大きいのは買主側です。そのため、表明保証の項目は売主が多くなります。
上記に掲げた項目で保証できないものがある場合は解決可能なものは譲渡前に解決することを約束したり、解決が難しいものは補償範囲を限定し、売却価格を下げて交渉したりといった方法をとることが一般的です。
顕在化したリスクに対して問題解決に費用が発生した場合には売主が費用を負担するなど特別補償が適用されることもあります。
デューデリジェンスや売主の情報開示により当事者同士が認識している事項のうち、通常補償ではリスク分担が難しいものに対しては特別補償を定めます。
特別補償を明記することで、表明保証できないリスクに対して、将来そのリスクによって経済的な損害が発生した場合に買主は発生した費用を売り手に請求することができます。
お互いが認識している事項に関しては表明保証違反とは異なり、損害額の上限を通常補償とは別に定めることができます。
表明保証条項に違反があった場合、契約内容に従って損害賠償や補償請求、契約解除などの手段をとることができます。
故意、過失にかかわらず表明保証と事実が異なっていた場合には相手側から損害賠償や補償請求をされる可能性があるため誤解を生まない表現を行うことが大切です。
表明保証は損害担保契約にあたるため、表明保証違反があった場合は故意か過失かにかかわらず責任を負う無過失責任となります。
表明保証と事実が異なり損害を被った場合に、買い手は売り手に対して「損害賠償請求」「補償請求」「契約解除」を行うことができます。
損害賠償請求
表明保証条項に記載された内容と事実が明らかに異なる場合、故意か過失かに関わらず損害賠償請求を行うことができます。損害賠償請求では相手側が被った経済的損失を補填するために必要なものが請求されます。
補償請求
補償請求は法には違反していない行為によって損じた損害の補償を意味します。
契約解除
表明保証違反が発覚した場合、相手側は契約を解除することができます。
M&Aを行う際、買収企業に事業価値を減らすリスクがあった場合、後の事業の成長発展に関わってきます。企業の情報を多く持つのは売主です。買主は売主に正しい情報開示をしてもらうことによって将来的なリスクを回避することができます。
しかし、企業のリスクを把握し回避するための表明保証事項に虚偽があった場合、想定していた収益や事業展開が望めない可能性があります。事業効率の低下や投資回収期間が遅くなるなどの問題が起こることも考えられます。
こういったリスクを抑えるためにも買主は以下のようなリスク管理が必要です。
デューデリジェンスを徹底する
表明保証条項作成の際には買主側のデューデリジェンスが重要なポイントとなります。デューデリジェンスが不足していた場合、売主が公表したくない情報が見えてこないこともあります。
過去の判決ではデューデリジェンス不足によって内容と事実が異なることに気づかなかった場合には表明保証と事実が異なっていても認められない可能性も示唆されたケースがあります。
買主側は表明保証条項に安心するのではなく、事前のデューデリジェンスを徹底することが大切です。
サンドバッキング条項を記載する
サンドバッキング条項とは、表明保証違反が発覚した場合に備えて補償請求を認める条項です。サンドバッキング条項を記載することで、取引成立後に経済的な損失が発生してしまった場合に買主は売主に対して損害賠償を請求することができます。
売主は買主が把握していない情報を開示することにより、事業の買収価格が減額されてしまうと感じてしまうかもしれません。
しかし、虚偽の申告をし、後に表明保証違反があったことが発覚すれば金銭的損失だけでなく、買主や取引先、顧客からの信頼も失うことになります。企業の信頼を失うと、売却費用を元手に新規事業を行うことも難しくなります。
故意ではなかった場合でも表明保証条項の内容と事実が異なっていれば表明保証違反に該当する可能性も否めません。こうしたリスクから身を守るために以下の点に注意が必要です。
誤解を招く表現があった場合、事実と異なると解釈される可能性もあります。また、マイナスな情報だとしても正確に記載することが誠実な取引につながります。
表明保証保険はM&A取引後に表明保証違反の事実が発覚し、それにより被った損失を補償する保険です。表明保証保険を活用することで売り手と買い手の双方にメリットがあります。
表明保証保険は表明保証条項に違反があった場合の経済的な損害を補償する保険です。表明保証保険の役割は「リスクの軽減」と「信頼の構築」です。
加入しておくことでトラブルが起きた際の負担を軽減することができるだけでなく、信頼関係の構築にもつながります。
売主用と買主用があり、加入しておくことで表明保証違反によって損害が発生した場合の負担を軽減することができます。
加入時の手続きの流れは以下のようになります。
表明保証契約の締結はМ&A契約の締結日と同日に行われることが一般的です。
表明保証保険には買主用保険と売主用保険があり、買主用保険は買い手側が契約します。売買において売り手に表明保証違反があった場合は損害の全部または一部が保険会社から支払われます。
売主用保険は売り手側が契約し、売り手に表明保証違反があった場合、買い手に支払う補償金の全部一部を売主が保険会社から受け取ります。
買主用保険と売主用保険の違いは、保険の範囲と手続き方法です。
保険金を請求する際、買主用保険は買い手が保険会社に請求するだけなのに対し、売主用保険の場合は買い手から売り手に補償請求が行われ、補償金が確定後に売主が保険会社に請求するという手続きが必要になります。
こういった手続きの簡便さの違いもあり、利用されている表明保証保険は買主用保険がほとんどです。
また、買主用保険ではM&A契約の補償範囲を超えて設定できますが、売主用保険は補償金額や補償期間の拡大はできません。
表明証明保険の保険料は保険金の1~3%が目安であり、保険金の上限額は企業価値の約10~20%です。
保険期間はM&A契約時に定めた補償請求期間とは別に設定することもできます。
表明保証保険に加入することによるメリット・デメリットについて売り手側と買い手側からそれぞれでみていきましょう。
【売り手側のメリット】
売り手側が保険に加入している場合、請求された費用は保険会社が補償するため万が一の時に安心です。
また、クリーンエグジットの実現がしやすいのも魅力です。クリーンエグジットとは、将来的な賠償請求のリスクを排除し、事業を完全撤退するために売却を行うことです。
表明保証違反があった場合の費用負担は保険会社が行うので賠償請求の可能性を考えて資金を残しておかずに済むため、クリーンエグジットが行いやすくなります。
エスクローとは、金融機関などの第三者に譲渡価格の一部を預け、特定の条件が満たされた場合に決済される仕組みです。
表明保証保険に加入しておくことで、エスクローを回避することができ、譲渡価格の回収が早まります。
【買い手側のメリット】
買い手側のメリットは以下の3つです。
買い手側のメリットは、補償請求の手間が簡単であることです。表明保証違反が発生した場合、通常は売り手に対して補償を請求しますが、表明保証保険に加入している場合は保険会社に請求することになります。
売り手側の表明保証違反が発覚し、損害賠償請求をおこなう場合、売り手側からその損害を回収するには、時間も費用も要します。
また、売り手が経済的な事情により支払い能力がない場合でも、保険会社から補償を受けることができます。
さらに、表明保証保険の加入はM&A取引の交渉でも優位になります。
万が一、表明保証違反があった場合にはお互いが損失を負うことになるため、保険加入は売主も取引に応じやすくなり、交渉の際に優位に進めることができます。
保険に加入することのデメリットは保険料の支払いが必要であることです。
表明保証保険の保険料は補償限度額の約1%~3%で、最低でも500万円~1000万円ほどかかります。
また、補償限度額にも上限があり、適用外の場合もあるため事前に確認が必要しておくことが大切です。
表明保証保険が適用されない免責事由もあります。
保険契約締結時に既知の損失要因(保険契約者/被保険者が認識していたもの)
このような場合は表明保証違反をしていたとしても保険金が下りないため注意が必要です。
特にデューデリジェンスは保険料や補償範囲を決める上で重要なプロセスです。
引受審査の際にデューデリジェンスの内容が不十分と判断された場合には、保険会社から追加調査を要求されたり、ま補償対象から除外されることもあります。
また、買主が売主の表明保証違反に該当するリスクを認識し放置していた場合も免責事由となり、保険金は支払われません。
M&Aにおいて最終段階で交わされる最終契約書に記載する表明保証条項の作成や交渉の際のポイントについてもみていきましょう。
【売り手側が注意するポイント】
表明保証違反が発覚し裁判になった場合に、契約書の内容が本来の意味と異なる意味で捉えられてしまうと賠償責任の対象になる可能性があるため、明確かつ適正な表現を行い、正しく情報開示することが大切です。
【買い手側が注意するポイント】
デューデリジェンスは、表明保証条項作成の非常に重要なポイントです。デューデリジェンス不足によっては裁判で認められない可能性もあるため、しっかりと調査することが必要不可欠です。
また、表明保証条項を作成する際の注意点として、保証期間を明記しておくことです。
M&Aでは契約締結から数年が経過後に表明保証条項の違反が発覚することもあるためです。
通常、表明保証は当事者の主観的事情によらず成立します。
しかし、M&A契約においては表明保証の内容は広範囲になります。売主側としても、自社の経営状況を漏れなくすべて把握しているとは限りません。
売り手側からすれば、契約時に知りようがなかった事実まで後に追求されることを避けるために、表明保証に対する限定をかけると方法もあります。
表明保証条項を最終契約書に記載する場合の例をみてみましょう。
以下は株主譲渡の際の表明保証のサンプルになります。
第3章 表明及び保証 第7条 (甲の表明及び保証) 甲は、乙に対し、本契約締結日及びクロージング日において、別紙1に記載の各事項が真実かつ正確であることを表明し保証する。 第8条 (乙の表明及び保証) 乙は、甲に対し、本契約締結日及びクロージング日において、別紙2に記載の各事項が真実かつ正確であることを表明し保証する。 |
(別紙1) 甲が表明及び保証する事項 (1)甲に関する表明及び保証 ① 自然人 甲は、日本国籍を有し日本国に居住する自然人であること。 ② 本契約の締結及び履行 甲は、本契約を適法かつ有効に締結し、これを履行するために必要な権限及び権能を全て有しており、法令等上の制限及び制約を受けていないこと。 ③ 強制執行可能性 本契約は、甲により適法かつ有効に締結されており、かつ乙により適法かつ有効に締結された場合には、甲の適法、有効かつ法的拘束力のある義務を構成し、かかる義務は、本契約の各条項に従い、甲に対して執行可能であること。 ④ 法令等との抵触の不存在 甲による本契約の締結及び履行は、(i)甲に適用ある法令等又は司法・行政機関等の判断等に違反するものではなく、(ii)甲が当事者である契約等について、債務不履行事由等を構成するものではないこと。また、甲による本契約の締結又は履行に重大な影響を及ぼす、甲を当事者とする訴訟等は係属しておらず、かつ、将来かかる訴訟等が係属するおそれもないこと。 ⑤ 反社会的勢力との関係の不存在 甲は、反社会的勢力ではなく、反社会的勢力との間に取引、資金の提供、便宜の供与、経営への関与その他一切の関係又は交流がないこと。 なお、反社会的勢力とは、以下の者のことを指し、本契約において以下同じとする。 i 暴力団(その団体の構成員(その団体の構成団体の構成員を含む。)が集団的に又は常習的に暴力的不法行為等を行うことを助長するおそ れがある団体をいう。) ii 暴力団員(暴力団の構成員をいう。) iii 暴力団準構成員(暴力団員以外の暴力団と関係を有する者であって、暴力団の威力を背景に暴力的不法行為等を行うおそれがある者、又は暴力団若しくは暴力団員に対し資金、武器等の供給を行う等、暴力団の維持若しくは運営に協力し若しくは関与する者をいう。) iv 暴力団関係企業(暴力団員が実質的にその経営に関与している企業、暴力団準構成員若しくは元暴力団員が経営する企業で暴力団に資金提供を行う等、暴力団の維持若しくは運営に積極的に協力し若しくは関与する企業又は業務の遂行等において積極的に暴力団を利用し暴力団の 維持若しくは運営に協力している企業をいう。) v 総会屋等(総会屋、会社ゴロ等企業等を対象に不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うおそれがあり、市民生活の安全に脅威を与える者をいう。) vi 社会運動等標ぼうゴロ(社会運動若しくは政治活動を仮装し、又は標ぼうして、不正な利益を求めて暴力的不法行為等を行うおそれがあり、市民生活の安全に脅威を与える者をいう。) vii 特殊知能暴力集団等(上記ⅰないしⅵに掲げる者以外の、暴力団との 関係を背景に、その威力を用い、又は暴力団と資金的なつながりを有し、構造的な不正の中核となっている集団又は個人をいう。) viii その他上記ⅰないしⅶに準ずる者 ⑥ 倒産手続等の不存在 甲について、支払停止、手形不渡、銀行取引停止等の事由は生じておらず、かつ、破産、民事再生等の倒産手続開始の申立てはされておらず、それらの申立て事由も生じておらず、私的整理も行われていないこと。 ⑦ 対象会社との取引の不存在 クロージング日において、甲と対象会社の間には、甲が対象会社の役員として提供する役務及びそれに対する報酬等の支払を除き、役務、便益の提供その他の取引(契約書の有無を問わない。)は存在しないこと。ただし、本契約において記載がある事項については、この限りではない。 (2)対象会社に関する表明及び保証 ① 対象会社の設立及び存続 対象会社は、日本法に基づき適法かつ有効に設立され、かつ存続する株 式会社であり、現在行っている事業に必要な権限及び権能を有していること。 ② 対象会社の株式 i 対象会社の発行済株式は本株式が全てであること。本株式は、その全てが適法かつ有効に発行され、全額払込済みの普通株式であること。 ii 甲は、本株式の全てを何らの負担、制限及び制約のない状態で、適法かつ有効に所有していること。 iii 本株式について、訴訟等、クレーム等、司法・行政機関等の判断等は存在しないこと。 iv 対象会社は、転換社債、新株引受権付社債、新株引受権、新株予約権、新株予約権付社債その他対象会社の株式を取得できる権利を発行又は付与していないこと。 ③ 子会社及び関連会社の不存在 対象会社は、子会社及び関連会社を有していないこと。 ④ 倒産手続等の不存在 対象会社について、支払停止、手形不渡、銀行取引停止等の事由は生じておらず、かつ、破産、民事再生、会社更生、特別清算等の倒産手続開始の申立てはされておらず、それらの申立て事由も生じておらず、私的整理も行われていないこと。 ⑤ 計算書類等 ○○年○○月○○日を終期とする事業年度に係る対象会社の計算書類その他の甲が乙に開示した計算書類等(以下「本計算書類等」という。)は、適用ある法令等及び日本において一般に公正妥当と認められる企業会計の基準に従って作成されており、その作成基準日及び対象期間における対象会社の財政状態及び経営成績を、重要な点において正確に示していること。 ⑥ 資産 対象会社は、その事業の遂行のために使用している有形又は無形資産につき、有効かつ対抗要件を具備した所有権、賃借権又は使用権を保有しており、かかる資産上には対象会社以外の者に対する債権を被担保債権とする担保権は存在しないこと。また、対象会社の所有に係る不動産は、良好な状態に維持されており、重要な変更を加えられていないこと。 ⑦ 知的財産権 対象会社は、その事業を遂行するにあたり必要な全ての特許権、実用新案権、意匠権、商標権、著作権その他の知的財産権(以下「知的財産権」という。)について、自ら保有するか又は知的財産権を使用する権利を有しており、第三者の知的財産権を侵害しておらず、過去に侵害した事実もなく、 侵害しているとのクレームを受けたこともないこと。また、第三者が対象会社の知的財産権を侵害している事実もないこと。 ⑧ 負債 対象会社は、保証契約、保証予約、経営指導念書、損失補填契約、損害担保契約その他第三者の債務を負担し若しくは保証し、又は第三者の損失を補填し若しくは担保する契約の当事者ではないこと。対象会社は、○○年○○月○○日以降、通常の業務過程で生じる債務及び負債、本計算書類等に記載された負債、第11条に従い甲に支払われる役員に係る役員退職慰労金債務を除き、一切の債務及び負債を負担していないこと。 ⑨ 重要な契約 対象会社が締結する重要な契約は全て有効に成立・存続し、それぞれ各契約の全当事者を拘束し、かつ執行可能な義務を構成すること。全ての重要な契約に関し、これらの内容を変更若しくは修正し、又は契約の効果を減ずるような約束は、口頭又は文書を問わず一切存在しないこと。全ての重要 な契約について、本契約の締結及び履行は解除事由又は債務不履行を構成せず、また、当該契約の相手方による理由なき解除を認める規定は存在しないこと。全ての重要な契約について、対象会社の債務不履行の事実は存在せず、また、今後債務不履行が発生するおそれもないこと。 ⑩ 競業避止義務の不存在 対象会社は、取引先等との契約において、競業避止義務等の義務のうち、その事業の遂行に重大な影響を与える制限を内容とする義務を負っていないこと。 ⑪ 労働関係 対象会社は、その従業員に対し法令等上支払義務を負っている全ての賃金を支払っていること。対象会社には、ストライキ、ピケッティング、業務停止、怠業その他従業員との間での労働紛争は存在しないこと。対象会社は、いかなる従業員に対しても、退職金等の経済的利益を提供する義務を負っていないこと。対象会社においては、以下の労働組合が組織されており、対象会社と当該労働組合との間で以下の労働協約が締結されていること及び以下に記載されたもの以外に組織された労働組合はなく、締結されている労働協約も存在しないこと。 (略) ⑫ 税務申告等の適正 対象会社は、過去7年間、国内外において、法人税をはじめとする各種課税項目及び社会保険料等の公租公課について適法かつ適正な申告を行っており、適時にその支払を完了していること。また、クロージング日以前の事業に関して、対象会社に対する課税処分がなされるおそれは存在しないこ と。 ⑬ 法令遵守 対象会社は、過去○年間において、適用ある法令等(労働関連の各法令等を含む。)及び司法・行政機関等の判断等を、重要な点において、遵守しており、重要な点において、これらに違反したことはないこと。対象会社は、過去○年間において、事業停止等の一切の行政処分を受けていないこと。 ⑭ 反社会的勢力との関係の不存在 対象会社及びその役員は反社会的勢力ではなく、反社会的勢力との間に取引、資金の提供、便宜の供与、経営への関与その他一切の関係又は交流がないこと。対象会社の従業員は、甲の知る限り、反社会的勢力ではなく、反社会的勢力との間に取引、資金の提供、便宜の供与、経営への関与その他一切の関係又は交流がないこと。 ⑮ 情報開示 本契約の締結及び履行に関連して、甲又は対象会社が、乙に開示した本株式又は対象会社に関する一切の情報(本契約締結日前後を問わず、また、書面等の記録媒体によると口頭によるとを問わない。)は、重要な点において、全て真実かつ正確であること。 (別紙2)乙が表明及び保証する事項 ① 設立及び存続 乙は、日本法に基づき適法かつ有効に設立され、かつ存続する株式会社であり、現在行っている事業に必要な権限及び権能を全て有しており、法令等上の制限及び制約を受けていないこと。 ② 本契約の締結及び履行 乙は、本契約を適法かつ有効に締結し、これを履行するために必要な権限及び権能を有していること。乙による本契約の締結及び履行は、その目的の範囲内の行為であり、乙は、本契約の締結及び履行に関し、法令等又は乙の定款その他内部規則において必要とされる手続を全て適法に履践していること。 ③ 強制執行可能性 本契約は、乙により適法かつ有効に締結されており、かつ甲により適法かつ有効に締結された場合には、乙の適法、有効かつ法的拘束力のある義務を構成し、かかる義務は、本契約の各条項に従い、乙に対して執行可能であること。 ④ 法令等との抵触の不存在 乙による本契約の締結及び履行は、(i) 乙に適用ある法令等又は司法・行政機関等の判断等に違反するものではなく、(ii) 乙の定款その他内部規則に違反するものではなく、(iii) 乙が当事者である契約等について、債務不履行事由等を構成するものではないこと。また、乙による本契約の締結又は履行に重 大な影響を及ぼす、乙を当事者とする訴訟等は係属しておらず、かつ、将来かかる訴訟等が係属するおそれもないこと。 ⑤ 反社会的勢力との関係の不存在 乙及びその役員は反社会的勢力ではなく、反社会的勢力との間に取引、資金の提供、便宜の供与、経営への関与その他一切の関係又は交流がないこと。乙の従業員は、乙の知る限り、反社会的勢力ではなく、反社会的勢力との間に取引、資金の提供、便宜の供与、経営への関与その他一切の関係又は 交流がないこと。 ⑥ 倒産手続等の不存在 乙について、支払停止、手形不渡、銀行取引停止等の事由は生じておらず、かつ、破産、民事再生、会社更生、特別清算等の倒産手続開始の申立てはされておらず、それらの申立て事由も生じておらず、私的整理も行われていないこと。 |
表明保証条項の違反が認められる場合でも、表明保証条項違反の責任を免れる場合があります。M&Aの場合以下のケースが該当します。
表明保証違反が軽度だった場合
契約書に記載された事実と表明保証条項の内容が異なっていた場合でも、その問題が軽度であり、買い手側に損失や損害が発生していない場合は責任を問われないことがあります。
過去には表明保証条項に違反したことを訴訟したものの、損害賠償請求が認められなかった事例もあります。
デューデリジェンスが不足していた場合
買い主側がデューデリジェンスを怠ったことで見抜けなかった場合も責任を免れる可能性があります。
一般的に実施されるデューデリジェンスで発見できるはずの簿外債務などが契約後に見つかった場合、売主に対して責任追及ができません。
デューデリジェンス不足の場合は保険加入していても対象外のため、買主は徹底したデューデリジェンスを行うことが必要です。
売り手が正確な表明保証を行っていた場合
売主が買主に対して重要な問題を事前に開示していた場合は表明保証違反とならないため、損害賠償請求が認められません。
表明保証条項違反になるか否かの判断は複雑です。後のトラブルを避け、リスクを最小限に抑えるためにも最終契約書に載せる表明保証は専門家への相談も行いながら丁寧に行うことが大切です。
表明保証は特約の位置づけになりますが、法的拘束力を持つため、M&A成立後に問題が発覚し、裁判を起こした場合は表明保証の内容が重要な役割を持ちます。
実際にどのような判決があったのかをみてみます。
平成18年1月17日の東京地裁の判決ケース
A社はB社との株式譲渡において、財務諸表が完全かつ正確であり,一般に承認された会計原則に従って作成されたこと及び、財務内容が貸借対照表のとおりであり,簿外債務等の存在しないことを表明保証条項に記載していました。
しかし、実際には赤字決済の対策として元本の返済に充てていた債務者からの和解契約(和解債権)に基づく返済金を利息の弁済に充当していたものの同額の元本についての貸倒引当金の計上をしていませんでした。
これに対し、B社は表明保証違反を主張しましたが、東京地裁は、「本件において,原告が,本件株式譲渡契約締結時において,わずかの注意を払いさえすれば,本件和解債権処理を発見し,被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることを知り得たにもかかわらず,漫然これに気付かないままに本件株式譲渡契約を締結した場合,すなわち,原告が被告らが本件表明保証を行った事項に関して違反していることについて善意であることが原告の重大な過失に基づくと認められる場合には,公平の見地に照らし,悪意の場合と同視し,被告らは本件表明保証責任を免れると解する余地があるというべきである。」と述べています。
このケースでは、買い手側が注意を払えば気づくことができた事項に関しては、表明保証違反として認められない可能性があることがわかります。
参照:裁判所資料「損害賠償等請求事件(東京地方裁判所 平成16年(ワ)第8241号」
2020年4月1日に債権に関する民法の改正が施行されました。これまで債権関係の規定については過去120年間ほとんど改正されていませんでした。
この法改正は表明保証にどう影響を与えているのでしょうか。
改正前は民法570条において、売買の目的物に隠れた瑕疵があった場合に売り手は担保責任を負うものとされていました。法改正により、民法562条において、売り手は種類、品質または数量に関して契約内容に適合しない目的物を引き渡した場合に責任を負うことが明記されています。
改正後の民法では、売主の責任は契約責任説が採用され、損害賠償の請求には売り手に帰責事由(落ち度)があったことを証明する必要がありますが、表明保証の場合は売り手の帰責事由は不要とされています。このため、表明保証違反による責任と売り手の担保責任が同じとは言い難いです。ただし、今後はM&A契約において補償責任と合わせて担保責任が生じる可能性もあります。
また、中小企業における事業承継の手法としてM&Aの認知も広まり、中小M&Aガイドラインが2020年に策定され、表明保証に関する内容が記載されています。
参考:中小M&Aガイドライン
経済産業省の「取引の安全・安心の確保」では安全かつ安心なM&A推進に向けて環境整備が重要と述べられています。
こうした国をあげての政策もあるため、今後さらに表明保証および表明保証保険が普及していくと考えられ、保険業界とM&A支援機関が一体となって保険商品の改良につながっていくことを目指す必要があります。
経営権を理解し、権利譲渡や買収対策を把握することで会社を守り、正しく運営することができます。
解説した内容を参考に、経営権に関する知識を深め、自社の経営に役立ててください。
また、経営権や事業を譲渡する場合にM&Aを検討することもあるでしょう。
M&Aロイヤルアドバイザリーでは、M&Aや事業承継の初期的な関心でもご相談いただけます。事業承継には時間がかかるものなので、早い段階で情報収集を行い、M&Aを含めた最適な解決策を検討することが重要です。
今後のプランを考えるためにも、ぜひM&Aロイヤルアドバイザリーにご相談ください。
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