M&Aの譲渡価格の相場は?計算方法や価格を決定する要素を徹底解説

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M&Aにおいて、譲渡価格は売り手・買い手双方にとって最も大きな関心事のひとつです。しかし、「相場」と呼べる明確な基準が存在するのか、また譲渡価格はどのようにして決定されるのか、疑問を持たれる方も多いのではないでしょうか。

実際のM&Aでは、財務状況や資産価値だけでなく、将来の成長性や業界の動向、買い手の戦略など、さまざまな要素が譲渡価格に影響を与えます。こうした複雑な要因を整理し、適正な譲渡価格を見極めることは、成功するM&Aの鍵ともいえます。

本記事では、M&Aの譲渡価格に焦点を当てて解説していきます。

M&Aの譲渡価格に相場はない

一般的に「相場」とは、市場における時価、すなわちその時々の取引価格を指します。株式や債券、為替などと同様に、M&Aにおいても「相場」という言葉が使われることがあります。

しかし、M&Aにおける価格は譲渡・譲受の対象となる企業や事業の現時点における価値を金額として表したものであり、単一の基準によって決まるものではありません。買い手と売り手の交渉によって最終的に決定されることが一般的です。

そのため、明確な相場というものはありませんが、譲渡価格の決定要素や算出方法を組み合わせることで、一定の目安を知ることはできます。

M&Aの譲渡価格を決める要素

M&Aの譲渡価格の算定では、次の要素が重要視されています。

  • 財務状況
  • 無形資産
  • 市場・外部環境
  • 当事者の戦略的事情
  • スキームの違い
  • 支払い条件
  • その他の契約条件

これらの要素を総合的に捉えることで、企業の本質的な価値が見極められ、適正な譲渡価格が導き出されます。

財務状況

M&Aにおける譲渡価格を決める最も重要な要素は、財務状況です。

純資産

純資産は、資産から負債を差し引いた金額で、M&A相場に大きく影響する重要項目です。

額が大きいほど企業価値も高く見積もられやすく、営業利益と並んで譲渡価格の目安になります。

また、譲渡価格の下限を判断する基準としても使われます。ただし、貸借対照表上の簿価は過去の取得価格に基づくため、実際の価値を反映していないこともあり、時価評価による見直しが必要です。

将来的な利益

M&Aでは将来の利益やキャッシュフローも企業価値を決める重要要素です。

特に収益性や安定したキャッシュフローは、買い手にとって魅力的な指標で、譲渡価格算定の中心になります。

売り上げや利益が安定し成長が見込まれる企業は、利益の複数年分で評価されやすく、営業利益の安定は企業価値を高める材料です。

純資産が「現在の価値」なら、将来利益は「これからの価値」として譲渡価格に大きく影響します。

無形資産

無形資産は企業が持つ「目に見えない価値」として、譲渡価格を引き上げる要因です。

顧客基盤の強さと取引先

M&Aでは、強固な顧客基盤や安定した取引先の存在が企業価値を大きく左右します。

長期契約やリピーターが多い企業は、安定収益が見込めるため買い手にとって魅力的です。

優良な取引先との関係を引き継げることもメリットで、新規開拓の手間を省きつつ、事業拡大や市場参入がスムーズに進みます。

一定の市場シェアを持つ企業の買収は、自社成長にも直結します。

経営者のスキル・ビジョン・人間性

経営者のビジョンや人間性、リーダーシップも、M&Aの場面では重視されるポイントです。

これまで企業をどのような理念や方針で成長させてきたかは、買い手企業にとって重要な判断材料です。特に、買い手側の企業文化や経営スタイルと親和性の高い経営者であれば、買収後の事業承継もスムーズに進められます。

一方で、経営者の価値観が大きく異なる場合、M&A後に企業風土がかみ合わず、経営に支障をきたすリスクもあります。

優秀な従業員

専門知識・経験・ノウハウを持った優秀な従業員の存在も、譲渡価格に大きく影響する要素です。

特に、システム開発など専門性の高い業種では、従業員の技術力や実務能力が企業の競争力そのものであり、譲渡価格を大きく押し上げる要因です。

さらに、従業員の定着率が高い企業は、組織の安定性や良好な企業文化が評価され、信頼性の高い投資対象といえます。

ブランド力・特許・高度な技術力など

企業が保有する無形資産の中でも、ブランド力や特許、知的財産権、高度な技術力といった要素は、他社との差別化を生む重要な資産として評価されます。

たとえ赤字企業であっても、突出した技術力や高いブランド価値を有する場合には、例外的に高く評価され、譲渡価格に加算されるケースもあります。

市場・外部環境

M&Aの譲渡価格を算出する際には、売り手企業の市場価値を考慮することもあります。

市場価値は、同一業種・同一業界内で上場している企業の株式相場や、経営指標をベースに算出します。

さらに、業界全体の成長性や競争状況、景気の動向といったマクロな視点も加味されます。

当事者の戦略的事情

M&Aの譲渡価格は、買い手企業・売り手企業それぞれの事情や、M&Aに期待する内容によっても大きく変動します。

買い手企業の経営状況

買い手企業の経営状況や資金力、交渉力も間接的に影響を及ぼす場合があります。上場企業ならば、株主からの短期的な利益を求めるプレッシャーも、意思決定に影響を及ぼします。

慎重になりすぎると、優良な買収先を他社に取られてしまうリスクがあります。

一方で、焦って交渉を進めた結果、高値で買収した場合、後にのれん(営業権)代の減損で経営を苦しめる可能性があるため、注意が必要です。

買い手企業のシナジー効果への期待度

シナジー効果の有無は、M&Aの譲渡価格を左右する重要な要素です。

シナジーとは、統合によって単独以上の成果を生む効果で、コスト削減や販路拡大、新商品開発などが代表例です。

強いシナジーを見込む買い手は、相場以上の譲渡価格を提示することもあります。ただし、経営者交代などで「負のシナジー」が生じる可能性もあり、慎重な見極めが必要です。

売り手企業の経営状況

売却を検討する経営者の多くは、自社への思い入れや将来への期待から、できる限り高値での売却を望みます。

一方で、赤字経営や後継者不足といった課題を抱える中小企業では、早期の売却を優先することがあり、場合によっては譲渡価格が非常に低くなる、または無償に近い形で取引されるケースも存在します。ただし、企業が有する資産や顧客基盤によっては赤字経営でも一定の価格が設定されることがあります。

売り手企業が過度に高い希望価格を提示すると、買い手企業との価格差が広がり、交渉が難航してM&Aが不成立に終わるリスクが高まります。

スキームの違い

M&Aにおけるスキーム(実行手段)の違いによっても、譲渡価格は変動します。

株式譲渡

株式譲渡は、現経営者が自社株を買い手に譲ることで経営権を移すM&A手法です。

法人格や契約関係が変わらず、従業員や取引先の信頼を保ちやすいため、事業を円滑に継続できます。契約の再締結が不要な場合も多く、手続きも比較的簡便です。

ただし、債務や法的リスクも承継されるため、買い手による慎重な調査が欠かせません。会社全体が対象となるため、譲渡価格は高めに設定されやすく、後継者問題の解決策としても有効です。

事業譲渡

事業譲渡は、会社全体でなく特定事業のみを対象に、資産や契約、従業員などを選別して譲渡する手法です。

買い手は必要な部分だけ取得できるため、負債を避けてリスクを抑えられます。売り手企業の法人は残り、他の事業や債務は保持されます。

ただし、契約や許認可は法人単位が多く、再契約が必要になるため手続き負担は大きめです。対象が限定されるため、譲渡価格は株式譲渡より低くなる傾向があります。

支払い条件

M&Aが成立する際の支払い条件によっても、譲渡価格は変動します。

現金

現金による支払いは、最もシンプルかつ確実性の高い方法であり、売り手企業にとってリスクが少ない手段といえます。

買い手企業が手元資金だけで賄えない場合は、金融機関からの借り入れによって資金を調達します。特に大型買収では、自己資金だけで対応できるケースはまれであり、レバレッジド・バイアウト(LBO)のような借入金を活用したスキームが用いられることもあります。

株式

買い手企業の株式を対価として支払う方法もあります。

代表的な手法としては、買い手企業が新たに株式を発行し、売り手企業の株式と交換する「株式交換」や、株式を発行して売り手企業に直接交付する「株式交付」があります。

アーンアウト

アーンアウトとは、買収後の業績に応じて追加で対価を支払う仕組みです。通常、現金や株式での初期支払いと組み合わせて用いられます。

一定期間における業績の達成が支払いの条件となるため、買い手企業にとってはリスクを抑えやすい設計です。

一方で、売り手企業にとっては成果が保証されず、将来の収入が不確実になるというデメリットがあります。

その他契約条件

M&Aの成立の際に交わされる契約条件も、譲渡価格に影響します。

ロックアップ

ロックアップとは、売り手企業の社長や役員など、事業運営の中心人物が一定期間買い手企業に在籍し、引き継ぎ業務などを行うことを取り決める契約条件です。キーマン条項とも呼ばれます。

この制度は、取引先や従業員との関係性を維持しつつ、経営の混乱を防ぐことで、両社がスムーズに事業運営を継続できるようサポートする役割を果たします。

ロックアップの期間は一般に2年とされますが、事業規模が大きい場合は、より長期に設定される場合があります。

表明保証

表明保証とは、売り手企業が自社の財務状況や契約関係、法的リスクなどについて、正確な情報であることを買い手企業に対して保証する条項です。

この条項により、買い手企業はM&A成立後に発生し得るリスクをあらかじめ軽減できます。

万が一、虚偽や重大な事実の不告知が判明した場合、買い手企業は売り手企業に対して損害賠償を請求できる契約上の根拠となります。

M&Aの譲渡価格の算出方法

M&Aの譲渡価格は、コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチの3手法を組み合わせて算出されます。各手法には特徴があり、評価額の高低は企業の状況によって異なります。

コストアプローチは資産価値を基にした評価手法で、成長性を反映しないため評価額が低くなることがありますが、資産が重要な業種では高くなる場合もあります。マーケットアプローチは類似取引を参考にした手法で、市場動向に応じて評価額が変動します。インカムアプローチは将来利益やキャッシュフローを反映し、成長性が高い企業では評価額が高くなる傾向があります。また、コントロール・プレミアムが加わる場合もあります。

コストアプローチ

コストアプローチは、資産と負債の差(純資産)から企業価値を算出する手法で、「ストックアプローチ」とも呼ばれます。

将来の収益ではなく、保有資産の価値に着目する点が特徴です。不動産や設備の多い企業、中小企業、将来予測が難しい企業に適しており、計算が簡単で透明性が高い点も利点です。

一方で、のれんを反映しにくく、成長企業の評価には不向きな場合があります。正確な時価評価には専門知識が必要です。

コストアプローチには、次の2つの代表的な算出方法があります。

簿価純資産法

簿価純資産法は、貸借対照表に記載された帳簿上の資産から負債を差し引いた「簿価ベースの純資産額」を基に企業価値を評価する手法です。

この純資産額を発行済株式総数で割ることで、1株あたりの株価の算出も可能です。

ただし、帳簿上の資産は取得時の価格に基づいているため、時価と乖離(かいり)しているケースが多く、現実の価値を正確に反映していない可能性があります。

そのため、実務においてこの手法が単独で用いられるケースはほとんどありません。

時価純資産法(修正純資産法)

時価純資産法は、資産と負債を評価時点の時価に修正した上で企業価値を算出する手法です。「修正純資産法」とも呼ばれます。

全資産を時価に換算し、そこから時価ベースの負債を差し引くことで、実質的な純資産価値を導き出します。

この手法は、企業の清算価値(全ての資産を換金して債務を返済した後に残る価値)に近い評価を行うものであり、場合によってはのれんなど将来利益を加味するケースもあります。

そのため、後述する「年買法」と併用されることもあります。

マーケットアプローチ

マーケットアプローチは、株価やM&A事例などの市場データを基に企業価値を相対的に評価する手法です。

上場企業や成長企業の評価に適しており、非上場企業でも類似上場企業を参考にできます。市場価格や類似取引を基に評価を行うため信頼性が高く、交渉時の根拠として用いられることが多いです。ただし、適切な比較対象がない場合や市場動向に左右される場合には、注意が必要です。

一方で、類似企業の選定が難しい小規模企業や独自性の高い企業には不向きな場合があります。また、市場環境の影響を受けやすい点が課題です。このため、他の評価手法(インカムアプローチやコストアプローチ)との併用が一般的です。

マーケットアプローチには、主に次の3つの代表的な評価手法があります。

類似上場会社比較法(EBITDAマルチプル法)

同業種・同規模で、成長性や収益性が類似する上場企業の株価や財務指標を基に、対象企業の価値を推定する手法です。

市場の期待や成長性を反映しやすく、特に成長産業や上場企業の評価に適しています。

中でも「EBITDAマルチプル法」は、減価償却や税効果などの会計上の差異を排除し、企業のキャッシュ創出力に着目して評価を行うため、実務で大変多く用いられています。

類似取引比較法

過去に実施された類似のM&A取引事例を参考に、対象企業と共通点を持つ企業の売買価格や評価倍率(マルチプル)を用いて企業価値を推定する手法です。

実例に基づいた評価が可能なため、交渉において説得力のある材料といえます。ただし、市場環境や交渉状況に大きく左右される点には留意が必要です。

市場株価法

市場株価法は、上場企業の過去1〜3カ月程度の平均株価を基に企業価値を評価する方法です。多くの市場参加者の判断を反映しているため、客観性の高い評価が可能です。

ただし、この方法は経営権の移転やシナジー効果といったM&A特有の要素を考慮せず、「現状の企業価値」のみにとどまります。

そのため、M&Aにおいては買収プレミアムや将来の付加価値を加味して最終価格が調整されることが一般的です。

インカムアプローチ

インカムアプローチは、将来の収益やキャッシュフローを基に企業価値を算出する手法で、成長企業や収益が見込まれる事業の評価に適しています。

将来性やシナジーを反映でき、理論的かつ柔軟な評価が可能です。一方で、予測に主観が入りやすく、事業計画や割引率次第で評価が大きく変わる点が課題です。

情報収集に手間がかかり、収益が見込めない企業には不向きです。

代表的なインカムアプローチには、次の2つがあります。

DCF(ディスカウント・キャッシュ・フロー)法

DCF法は、インカムアプローチの代表的手法で、将来のフリーキャッシュフローを割引率で現在価値に換算し、企業価値を算出します。

通常は5〜10年分の予測にターミナルバリューを加え、成長性やリスク、シナジーも反映できます。

ただし、前提に主観が入りやすく、割引率次第で評価額が大きく変わるため、慎重な検討が必要です。

配当還元法

配当還元法は、将来支払われる配当金を基に企業価値を評価する手法で、非上場企業や株主数の少ない企業で用いられることが多い方法です。

ただし、配当額は企業の配当政策に左右されるため、将来の予測が困難である点が課題です。

また、成長戦略を重視する企業では配当を抑えて投資に回すケースも多いため、安定配当が前提とならない大企業のM&Aでは、あまり利用されません。

年買法(年倍法)

年買法は、時価純資産に過去の営業利益の数年分を加えて企業価値を算出する簡易な手法です。

この方法は小規模M&Aや個人間取引にも適しており、計算が簡単で過去の収益性を反映する評価手法です。将来予測に依存せず過去実績に基づくため、不透明な環境下でも使いやすい点が特長です。ただし、成長性や業績変動が大きい企業には適用が難しい場合があり、資産価値の反映は限定的です。

のれん代について

最終的な譲渡価格は、企業価値に「のれん代」を加えて決まります。

のれんは営業権とほぼ同義で、特許・ブランド・ノウハウ・従業員の能力など無形資産や将来性への期待を金額化したものです。

交渉が激化したり期待値が高まったりすると、のれん代は上昇する傾向があります。

コントロール・プレミアムについて

コントロール・プレミアムとは、M&Aにおいて企業の経営権を獲得するために、市場価格に上乗せして支払われる上乗せ額のことです。

実際のM&A取引では、平時の市場株価に対しておおむね20〜40%程度が上乗せされるケースが一般的です。

売り手企業が高額なM&Aを実現させる方法

M&Aにおいて、売り手企業が高い譲渡価格を実現するためには、次の方法があります。

  • 企業価値向上を図る
  • 強みをしっかりアピールする
  • 業績の良いタイミングを逃さない
  • 会社ごと売る

交渉に入る前に、企業価値を最大限に引き上げておくことが重要です。

企業価値向上を図る

企業価値の向上は、高額なM&Aを実現するための有効な手段です。

収益性の向上

業務効率の改善やコスト削減、生産性向上に取り組むことで、利益率の改善とキャッシュフローの安定が図れます。

営業利益が増加すれば、買い手企業からの評価が高まり、より高い譲渡価格を期待できます。

組織体制の改善

強固な組織体制は企業価値を高める重要要素です。

優れた経営陣と人材がそろう企業はリスクが低く、成長性も期待されるため、買い手にとって魅力的です。

後継者確保やリーダーシップ強化、従業員の意欲向上が競争力を高め、M&A時の評価にもつながります。

資産整理

不要な資産や利用されていない不動産を整理することで、財務状況が改善されます。

資産管理が徹底されている企業は、効率的な経営が期待できるため、買い手企業にとって魅力的です。

無駄な資産を排除し、資産の運用効率を高めることで、M&Aの交渉を有利に進められます。

強みをしっかりアピールする

M&Aでは、自社の強みを効果的にアピールすることが非常に重要です。企業の強みとしては、次のような点が挙げられます。

  • 独自の技術やノウハウ
  • 優秀な人材
  • 豊富な顧客基盤
  • 強固なブランド力

それぞれを解説します。

業績の良いタイミングを逃さない

企業価値は業績に左右されるため、好調な時期は高値で売却しやすく、「売り時」を逃さないことが重要です。

業績が悪化すると条件が不利になり、買い手が見つかりにくく交渉が難航するリスクもあるため、適切なタイミングの見極めがM&A成功の鍵となります。

会社ごと売却する

会社全体の売却は、事業の一部売却より高額で取引されることが一般的です。

多額の資金調達や後継者不在時に有効ですが、売却益には多額の課税が発生するため、事前に税理士などと税務シミュレーションを行うことが重要です。

M&Aの交渉手段

M&Aの交渉手段には、主に次の2つがあります。

  • 個別交渉方式
  • オークション方式

それぞれの特徴やメリット・デメリットについて解説します。

個別交渉方式

個別交渉方法は、M&Aの相手候補となる企業に対して取引条件を交渉し、双方が合意すれば取引が成立する方法です。合意に至らない場合は、別の相手候補を探して再度交渉を行います。

この方法は柔軟な交渉が可能ですが、M&A交渉に関する専門知識が不足していると、希望価格での成立が難しくなったり、自社に不利な条件で契約を結んでしまったりするリスクがあります。そのため、M&Aの専門家である仲介会社やアドバイザーにサポートを依頼することが一般的です。

オークション(入札)方式

オークション方式は複数の買い手候補に条件提示を求め、最も有利な提案者と交渉を進める手法で、高値売却に効果的です。

複数の買い手を競争させることで好条件を引き出すことが期待できる一方、選定プロセスが複雑で時間を要するため、短期決着には不向きな傾向があります。また、競争が成立しない場合やコストが増加するリスクも伴うほか、複数社に情報を開示するため情報漏えいリスクにも注意が必要です。

M&A仲介会社を利用するメリット

M&A仲介会社を利用するメリットは次のとおりです。

  • 専門的な知識と経験の活用
  • 買い手・売り手のマッチング
  • 交渉・手続きの一括サポート

それぞれを詳しく解説します。

専門的な知識と経験の活用

M&Aは法務・税務・財務などの専門知識が必要な複雑なプロセスです。

仲介会社を活用すれば、専門家の支援によりトラブルを避けて円滑に進められます。

業界知識や客観的視点を持つ仲介会社は、適正な企業価値の算定を行い、双方が納得しやすい価格設定にもつながります。

買い手・売り手のマッチング

M&A仲介会社は、独自のネットワークを活用して、買い手企業や売り手企業の候補を幅広く探すことができます。

また、業界や企業規模、経営方針などの条件に応じて最適な相手を選定できるため、スムーズかつ戦略的なマッチングが可能です。

交渉・手続きの一括サポート

M&Aでは条件交渉やスケジュール調整が不可欠です。

仲介会社が第三者として介入することで、感情的対立を避けつつ円滑に合意形成しやすくなる傾向があります。

また、資料作成やデューデリジェンス、契約確認など煩雑な手続きも一括でサポートしてくれるため、企業は本業に集中しながらM&Aを進められます。

M&A仲介会社を利用する際の注意点

M&A仲介会社を利用する際の注意点は次のとおりです。

  • 費用がかかる
  • 仲介会社によって質に差がある
  • 利益相反のリスクがある
  • 情報は複数の仲介会社から集める
  • 匿名で相談するのが望ましい
  • 仲介会社の提示価格をうのみにしない

費用がかかる

M&A仲介会社に依頼すると、成功報酬などの一定の費用が発生します。

特に中小企業の場合は、報酬割合が大きな負担となることもあります。

M&A仲介会社によって料金体系は異なるため、事前に報酬の算出方法や、費用が発生するタイミングを十分に確認しておくことが重要です。

仲介会社によって質に差がある

M&A仲介会社には大小さまざまな規模があり、担当者の経験や業界知識にもばらつきがあります。

知識や実績が不十分なM&A仲介会社に依頼してしまうと、適切な価格提示や買い手企業との交渉が期待できないリスクがあります。

そのため、複数のM&A仲介会社に相談し、業界に精通した信頼性の高い会社を選ぶことが重要です。

利益相反のリスクがある

多くのM&A仲介会社は、売り手と買い手の双方を同時に担当する「両手仲介」の形式を採用しています。

この場合、どちらの利益を優先すべきかが曖昧になりやすく、特に買い手企業寄りの提案がなされるリスクも否定できません。

利益相反の可能性を意識した上で、冷静に交渉を進めることが求められます。

情報は複数の仲介会社から集める

仲介会社ごとに持っている業界知識や過去の取引実績は異なります。

1社の意見や提示価格だけをうのみにするのではなく、複数の仲介会社に問い合わせて、情報を比較・検討することが客観的な判断につながります。

匿名で相談するのが望ましい

複数のM&A仲介会社に相談を持ちかける際、売却の意向や企業情報が不用意に広まってしまうリスクがあります。

そのため、初期段階の情報収集は、信頼できる代理人や中立的な専門家を通じて匿名で進めることが望ましいです。

情報の精度は若干下がる可能性もありますが、秘密保持の観点からは有効な手段といえます。

仲介会社の提示価格をうのみにしない

M&A仲介会社は経営者の関心を引くために、「この価格で売れます」とやや高めの価格を提示することがあります。

しかし、その金額が必ずしも市場の実勢価格を反映しているとは限らず、後の交渉で大幅に下方修正されるケースも珍しくありません。

提示された価格をうのみにせず、他の情報源と照らし合わせながら、冷静に判断することが大切です。

M&A仲介会社の手数料の相場

M&A仲介会社の譲渡価格(手数料)の相場は、各会社によって異なりますが、一般的には次のような費用項目があります。

  • 相談料
  • 着手金
  • 中間報酬
  • 成功報酬

それぞれを詳しく解説します。

相談料

相談料は、仲介会社に初回相談やアドバイスを受ける際の料金です。

M&Aの概要説明や質疑応答など初期対応の対価として請求されますが、多くは初回無料です。

無料相談では、目的や条件を伝えるだけでなく、仲介会社の対応力や実績も確認できます。一部の専門性が高い会社では有料で、相場は1回5,000〜1万円程度です。

着手金

着手金は、M&A仲介を正式依頼する際に支払う費用で、人件費や資料作成費が含まれます。

相場は、案件の規模や依頼するアドバイザーによって異なるものの、一般的には100〜500万円程度です。また、近年は無料の仲介会社も増加しています。ただし、大規模案件や専門性の高いアドバイザーを利用する場合、着手金が数百万円を超えることもあります。

成功報酬が高めに設定されている場合もあるため、全体の費用構成の確認が重要です。着手金は不成立でも返金されないことが一般的です。

中間報酬

中間報酬は、基本合意書の締結時に支払う費用で、成功報酬の10~30%程度が相場とされています。​​

この報酬は、M&Aプロセスの中間地点である基本合意の締結までの業務に対する対価として設定されており、M&Aが不成立となった場合でも返金されないことが一般的です。​

成功報酬

成功報酬は、M&Aが成立した際に支払う報酬で、取引金額に基づいて計算されます。一般的にはレーマン方式が採用されており、取引金額に応じて次の料率が適用されます。

一般的な成功報酬の相場は次のとおりです。

  • 取引金額が5億円以下の場合: 5%
  • 取引金額が5~10億円以下の場合: 4%
  • 取引金額が10~50億円以下の場合: 3%
  • 取引金額が50~100億円以下の場合: 2%
  • 取引金額が100億円超の場合: 1%

また、成功報酬に加えて月額報酬やデューデリジェンスの費用などの費用が発生する場合もあります。M&Aの規模が大きくなるほど、手続きが複雑化し、手数料も高くなる傾向があります。

M&Aの成功事例

M&Aは活発に行われており、2024年のM&A件数(適時開示ベース)は前年比14%増の1,221件となり、2007年の1,169件を上回って17年ぶりに記録を更新しました。主なM&Aの成功事例は次のとおりです。

  • 株式会社サイバーエージェントのニトロプラス買収
  • 日清紡ホールディングスと日立国際電気の買収
  • NTTのNTTドコモ完全買収

それぞれ詳しく解説します。

株式会社サイバーエージェントによるニトロプラスの買収

2024年、サイバーエージェントはニトロプラスの株式72.5%を約167億円で取得し、連結子会社化しました。高いコンテンツ力を活用し、オリジナル作品によるユーザー増や収益性向上を狙った買収です。

日清紡ホールディングス株式会社による日立国際電気の買収

2023年、日清紡ホールディングスは、無線・映像機器を手がける日立国際電気の株式80%を約370億円で取得し、子会社化を決定しました(取得分は192億円)。DXの進展による通信需要の拡大を見据えたもので、日本無線との技術・販売面での補完強化が期待されています。

NTTのNTTドコモ完全買収

2020年、NTTはNTTドコモの残り株式をTOBで取得し、完全子会社化を発表しました。買収総額は約4.3兆円で、国内最大規模のTOBとなりました。グループ資源を集約し、法人サービス強化や新たなライフスタイル支援を図る戦略です。

M&Aの譲渡価格に関するQ&A

最後に、M&Aの譲渡価格に関するよくある質問とその回答を紹介します。

休眠会社の譲渡価格はどのくらいか

そもそも「休眠会社」とは、現在は事業活動を行っていない企業を指します。便宜上、次の2種類に分類されます。

  • 看板用休眠会社:過去の経歴が不明瞭だったり、預金口座に動きがあったりするなど、使用履歴に一定のリスクがある会社。
  • 事業用休眠会社:経歴に問題はなく、単に長期間にわたって活動を停止している会社。

譲渡価格はあくまで交渉によって決まりますが、一般的な相場は次のとおりです。

  • 資本金1,000万円以上の有限会社:約30万円程度
  • 看板用休眠会社(株式会社):約30~50万円程度
  • 事業用休眠会社(株式会社):約35~65万円程度

譲渡価格は登記情報や履歴、納税状況などにより変動します。

赤字でも売却可能か

赤字企業でも、条件次第で売却は可能です。M&Aでは将来性や事業価値が重視されるため、技術や顧客基盤に魅力があれば買い手が見つかることもあります。

ただし、黒字企業に比べて譲渡価格は下がりやすく、売却の判断は早めが重要です。遅れると資産価値や信頼性が下がり、売却が困難になる恐れもあります。

買い手企業は、適正価格よりも安く買収すべきか

買収価格を安く抑えることは一見有利に見えますが、適正価格を大きく下回ると売り手の不信感を招きかねません。

M&Aは人・事業・文化の引き継ぎを含む取引であり、双方が納得できる譲渡価格での合意が、統合後の協力関係や従業員の士気維持にもつながります。

長期的成功のためには、譲渡価格よりも誠実な交渉と信頼構築が重要です。

M&A・事業承継のご相談はM&Aロイヤルアドバイザリーへ

M&Aでは、適正な譲渡価格を見極めることが買い手企業と売り手企業の双方共に大切です。さまざまな要素をもとに価格の妥当性を確認することで、両者の満足度を高め、リスクを軽減することができます。

M&Aや経営課題に関するお悩みをお持ちの方は、ぜひM&Aロイヤルアドバイザリーにご相談ください。貴社の成長と成功を全力でサポートいたします。

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