M&Aのメリット・デメリットを売り手・買い手別にわかりやすく解説

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M&Aメリットとは 売り手・買い手別解説

近年、中小企業を中心に急増しているM&A合併・買収)。経営者の高齢化や後継者不足を背景に、事業承継の有効な手段として注目されています。

M&Aは売り手側にとっては、後継者問題の解決や経営者のハッピーリタイアメントの実現、企業の存続と発展、従業員の雇用維持など多くのメリットがあります。一方で買い手側も、事業規模の迅速な拡大や新規事業への参入加速、人材・技術の獲得などの効果を得られます。

しかし、その実施には両者それぞれにデメリットも存在します。本記事では、M&Aの基本知識から各種手法の比較、成功のポイントまで、売り手・買い手双方の視点でメリット・デメリットを詳しく解説します。M&Aを検討されている経営者の皆様の判断材料としてご活用ください。

M&Aの売り手側のメリット5つ

M&Aは売り手側にとって様々な課題を解決する有効な手段となります。特に中小企業のオーナー経営者にとっては、単なる会社売却以上の大きな意義を持っています。ここでは、M&Aによって売り手側が得られる主な5つのメリットについて詳しく解説します。

後継者不足を解決できる

日本の中小企業では、経営者の高齢化と後継者不足が深刻な問題となっています。帝国データバンクの調査によると、2023年の後継者不在率は53.9%に達しており、半数以上の企業が後継者問題に直面しています。

中小企業庁の発表では、2025年には70歳以上の経営者が約245万人となり、そのうち約127万人が後継者未定とされています。このままの状態が続くと、優良な企業でも後継者がいないために廃業せざるを得ないケースが増加することが予想されます。

後継者が見つからない理由としては、以下のようなものが挙げられます。

・子供が別のキャリアを持っており、家業を継ぐ意思がない
・子供自身が経営者としての資質や能力に不安を感じている
・事業環境の厳しさから将来の業績悪化を懸念している
・経営者が子供に経営の負担を背負わせたくないと考えている

M&Aを活用することで、親族内や社内に適切な後継者がいない場合でも、第三者に事業を引き継ぐことが可能になります。これにより、後継者不足という課題を解決し、企業を存続させることができるのです。

経営者のハッピーリタイアメント実現

中小企業の多くは未上場企業であるため、オーナー経営者が持つ自社株式を簡単に現金化することが難しいという課題があります。M&Aによる株式譲渡を行うことで、経営者は株式と引き換えに譲渡益(キャピタルゲイン)を獲得することができます。

この譲渡益は、経営者が引退後の生活資金として活用したり、新たな事業への投資資金としたりすることが可能です。会社清算の場合と比較しても、M&Aではより多くの対価を得られる可能性が高く、経済的に余裕のあるリタイアメントを実現できます。

また、単に経済的なメリットだけでなく、長年経営してきた会社が第三者の手で存続・発展していくことを見届けられるという精神的な安心感も得られます。これにより、「ハッピーリタイアメント」と呼ばれる、経営者にとって満足度の高い引退が可能になるのです。

企業の存続と発展を可能にする

M&Aによる事業承継の大きなメリットは、長年かけて築き上げてきた企業を存続させ、さらなる発展を可能にすることです。廃業を選択した場合、企業が持つ技術やノウハウ、ブランド価値などの経営資源は失われてしまいますが、M&Aではこれらの価値を次世代に引き継ぐことができます。

特に買い手企業が持つ経営資源(資金力、販路、技術力など)と組み合わせることで、これまで単独では実現できなかった成長や展開が期待できます。例えば、地域密着型の企業が全国展開している企業の傘下に入ることで、地域を超えた事業拡大が可能になるケースもあります。

また、企業文化や理念など目に見えない価値も、適切な買い手を選ぶことで継続させることができます。長年かけて築き上げてきた企業の歴史を途絶えさせることなく、新たな形で発展させていくことは、創業者や経営者にとって大きな喜びとなるでしょう。

従業員の雇用が守られる

中小企業のM&Aでは、「従業員の雇用維持」が重要な条件として交渉されることが一般的です。特に地域に根差した企業の場合、従業員の雇用を守ることは社会的責任の一つでもあります。

廃業を選択した場合、全従業員が職を失うことになりますが、M&Aであれば多くの場合、従業員は新しいオーナーのもとで、従来と同等の条件で雇用が継続されます。これは従業員やその家族にとっても大きな安心につながります。

さらに、大手企業の傘下に入ることで、従業員にとってより良い労働環境や福利厚生、キャリアパスが提供される可能性もあります。優秀な人材の確保は買い手企業にとってもM&Aの重要な目的の一つであるため、従業員の処遇が改善されるケースも少なくありません。

M&Aの最終契約書では、従業員の雇用条件が明記されることが一般的です。ただし、記載内容は交渉結果や状況によって異なります。売り手側が従業員の雇用継続や処遇維持を重視する場合は、契約条件として明確に定めておくことが重要です。

経営者保証から解放される

中小企業の経営者が抱える大きな負担の一つが「経営者保証」です。多くの中小企業では、金融機関からの融資を受ける際に経営者個人が連帯保証人となり、会社の債務を個人的に保証しています。この個人保証は、経営者とその家族にとって大きな精神的・経済的負担となっています。

M&Aによって会社を譲渡する際、多くの場合、負債も譲受企業に引き継がれます(ただし、個人保証の解除には金融機関の同意が必要で、自動的に解除されるわけではありません)。個人保証から解放されることで、経営者は引退後に会社の債務が残るリスクから守られ、安心して次のステージに進むことができます。

個人保証の負担は、事業承継の大きな障壁となっていましたが、M&Aによってこの問題を解決できるのは大きなメリットです。特に個人保証が大きい企業ほど、M&Aによる事業承継のメリットは大きいといえるでしょう。

このように、M&Aは売り手側にとって、後継者問題の解決だけでなく、経営者の引退後の生活保障、企業の存続・発展、従業員の雇用維持、個人保証からの解放など、多くのメリットをもたらします。自社や自身の状況に応じて、こうしたメリットを最大限に活かせるM&Aの実施を検討することが重要です。

M&Aの売り手側のデメリットと対策

M&Aは売り手側にとって多くのメリットがある一方で、いくつかのデメリットやリスクも存在します。これらのデメリットを理解し、適切に対処することで、円滑なM&Aの実現が可能になります。ここでは、売り手側が直面する主なデメリットとその対策について解説します。

M&A契約成立までの手間と時間的制約

M&A契約の成立までには、買い手候補の選定、秘密保持契約の締結、企業情報の開示、条件交渉、デューデリジェンス(詳細調査)、最終契約の締結など、多くのステップがあります。このプロセスは通常、数か月から場合によっては1年以上かかることもあります。

この間、経営者は本業の経営を行いながらM&A関連の業務も並行して進める必要があり、大きな負担となります。また、交渉の過程でお互いの条件が折り合わず、破談になるケースも少なくありません。

このようなデメリットに対する対策としては、以下のような方法が有効です。

・早い段階から準備を始め、時間的余裕を持ったスケジュールを立てる
・信頼できるM&Aアドバイザーを起用し、専門的なサポートを受ける
・自社の財務資料や重要書類を事前に整理し、スムーズな情報開示ができるようにする
・社内で限られた人員でM&A担当チームを組織し、秘密保持と効率的な進行を両立させる

特に優れたM&Aアドバイザーの存在は、契約成立までの道のりを大きく円滑化します。業界や企業規模に合ったアドバイザーを選定し、事前に十分な相談を行うことが重要です。

M&Aは従業員や取引先への影響がある

M&Aは従業員や取引先に大きな影響を与える可能性があります。従業員にとっては、雇用条件や職場環境の変化、企業文化の違いによるストレスなどが生じる可能性があります。また、M&Aの情報が社内に漏れると、従業員の不安や動揺を招き、優秀な人材の流出につながることもあります。

取引先にとっても、取引条件の変更や関係性の見直しが行われる可能性があり、長年築いてきた信頼関係に影響が出るケースもあります。特に、M&Aにより競合他社の傘下に入る場合、取引先との関係が複雑になることがあります。

こうした影響に対する対策としては、以下が挙げられます。

・M&A契約書に従業員の雇用継続や条件維持について明記する
・取引先との関係維持についても買い手企業と事前に十分協議する
・情報管理を徹底し、社内外への情報漏洩を防止する
・M&A成立後は迅速かつ丁寧に従業員や取引先へ説明を行う
・買い手企業と一緒に統合計画(PMI)を策定し、スムーズな移行を図る

従業員と取引先は企業の重要な資産です。これらのステークホルダーへの配慮を欠いたM&Aは、長期的には成功しにくいという点を認識しておくことが重要です。

売却後の経営環境変化によるストレスがかかる

長年経営してきた会社のオーナーが、M&A後に買い手企業の指示を受ける立場になることは大きなストレスとなり得ます。特に、創業者や長期にわたって経営を担ってきた経営者にとって、自分の価値観や経営方針と異なる方向性で会社が運営されることは、心理的に受け入れがたい場合があります。

また、従業員や顧客に対する責任感から、買い手企業の方針に不満や懸念を感じるケースもあります。M&A後もしばらく経営に関わる場合、新しい組織体制や意思決定プロセスに適応することも求められます。

このようなストレスに対処するためには、以下のような対策が考えられます。

・M&A前に、売却後の自分の役割や関与期間を明確にしておく
・買い手企業の経営方針や価値観が自社のそれと近いところを選ぶ
・移行期間中の権限や決定事項の範囲を契約書に明記する
・心理的な準備をし、必要に応じて外部の相談相手を持つ
・引退後の人生設計をしっかりと立てておく

M&A後の経営環境の変化は避けられないものですが、事前の準備と心構えによって、そのストレスを軽減することは可能です。自分自身のセカンドキャリアや趣味など、新たな生きがいを見つけておくことも有効な対策といえるでしょう。

売却益に関する税金問題

M&Aによる株式譲渡で得た利益には、約20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税金がかかります。

税金は避けられないものですが、正しい知識を理解し、合法的に税負担を最適化することは可能です。税金に関しては専門家のアドバイスを受けることをおすすめします。

M&Aには上記のようなデメリットが存在しますが、それらを理解し適切に対処することで、多くのメリットを享受することができます。デメリットを過度に恐れるのではなく、現実的な対策を講じながら、自社にとって最適なM&Aの実現を目指すことが重要です。

M&Aの買い手側のメリット4つ

M&Aは買い手側にとっても大きなメリットをもたらす経営戦略です。特に成長を目指す企業にとって、自社だけでは達成困難な目標や時間のかかる施策を、M&Aを活用することで効率的に実現できます。ここでは、買い手側が得られる主な4つのメリットについて詳しく解説します。

事業規模・シェアの迅速な拡大効果

M&Aの最大のメリットの一つは、短期間で事業規模を拡大し、市場シェアを高められることです。自社の力だけで事業規模を拡大しようとすると、施設の建設、設備の導入、人材の採用・育成など、多くの時間とコストがかかります。

一方、M&Aでは既存企業の経営資源をそのまま取り込むことができるため、短期間で事業規模を拡大することが可能です。特に同業種の企業を買収すれば、すぐに市場シェアの拡大につながります。

事業規模の拡大に伴い、以下のような効果も期待できます。

・生産量の増加による規模の経済(スケールメリット)が働き、製品1個あたりのコストが下がる
・市場シェアの拡大により、業界内での影響力や発言力が強まる
・取引先との交渉力が高まり、有利な条件での取引が可能になる
・資金調達力が向上し、さらなる成長投資が行いやすくなる

例えば、中小企業のM&A事例では、同業他社の買収により数年で売上が2〜3倍になったケースも少なくありません。自社の強みと買収先の経営資源を組み合わせることで、単独での成長を大きく上回るスピードでの事業拡大が可能になるのです。

新規事業参入を加速できる

新たな事業領域への参入を考える場合、ゼロから事業を立ち上げるよりも、すでにその分野で実績のある企業を買収する方が、はるかに効率的です。新規事業の立ち上げには通常3~5年程度かかるとされていますが、M&Aであれば、既存の事業や資産を取得することで迅速に事業を開始することが可能です。ただし、買収後の統合プロセスや法務手続きが必要な場合、即時性が制約されることもあります。

特に以下のようなケースでは、M&Aによる新規事業参入が有効です。

・参入障壁の高い業界への進出
・許認可や特殊な資格が必要な事業領域
・異業種への多角化
・地理的に新しい市場への展開
・海外市場への進出

例えば、建設業から介護事業への参入を考える場合、介護施設の設立や運営ノウハウの蓄積、人材の採用・育成などを一から行うには多大な時間と労力が必要です。しかし、すでに運営されている介護事業者を買収すれば、必要な許認可や運営ノウハウ、人材を一度に獲得でき、スムーズに事業を開始することができます。

また、海外市場への進出においても、現地の法規制や商習慣、顧客ニーズなどの理解に時間がかかるところを、現地企業の買収によって大幅に短縮することが可能です。多角化戦略や新市場への進出を考える企業にとって、M&Aは時間を買う有効な手段といえるでしょう。

人材・技術・ノウハウが得られる

企業の競争力の源泉は、人材、技術、ノウハウといった目に見えない資産にあります。M&Aの大きなメリットの一つは、これらの無形資産を一度に獲得できることです。

特に以下のような無形資産は、自社で育成・開発するには長い時間がかかりますが、M&Aによって即時に手に入れることができます。

・熟練した技術者や経験豊富な人材
・特許や独自技術などの知的財産
・長年かけて蓄積されたノウハウや業務プロセス
・業界の専門知識やネットワーク
・確立されたブランド力や顧客基盤

例えば、IT業界では技術革新のスピードが非常に速く、自社での人材育成や技術開発だけでは競争に遅れをとってしまうことがあります。そのような状況で、先進的な技術を持つベンチャー企業を買収することで、自社にない技術力を短期間で獲得できます。

また、熟練の職人技や特殊なノウハウが必要な業界では、そうした人材を抱える企業を買収することで、自社では育成が難しい人材や技術を確保することができます。人材獲得競争が激化する現代において、優秀な人材をチームごと獲得できることは、M&Aの大きなメリットといえるでしょう。

企業競争力を高めるシナジー効果が生まれる

M&Aの最も重要なメリットの一つが「シナジー効果(相乗効果)」です。これは、2つの企業が統合することで、単純な足し算(1+1=2)以上の価値(1+1=3以上)を生み出すことを指します。ただし、効果を最大化するためには、統合プロセスの計画と実行が重要です。

シナジー効果は、以下のような形で現れることが多いです。

・販売チャネルの統合による販路拡大と顧客基盤の拡大
・研究開発の統合による技術革新の加速
・調達の一元化や物流の効率化によるコスト削減
・相互の顧客基盤を活用したクロスセリング
・互いの強みを活かした新サービス・新製品の開発

例えば、製造技術に強みを持つ企業とマーケティングに強みを持つ企業が統合すれば、優れた製品を効果的に市場に投入することができます。また、地域に根差した複数の企業が統合することで、広域での事業展開が可能になり、地域の垣根を越えた成長が期待できます。

シナジー効果を最大化するためには、M&A前の段階から具体的なシナジープランを立て、統合後(PMI: Post Merger Integration)の実行計画を練っておくことが重要です。単に企業を買収するだけでなく、買収後にどのように価値を創造していくかというビジョンを持つことが、M&A成功の鍵となります。

このように、M&Aは買い手側企業にとって、事業拡大、新規参入、人材・技術獲得、シナジー効果など、多くのメリットをもたらします。これらのメリットを最大化するためには、自社の経営戦略に基づいた明確な目的を持ち、適切なターゲット企業を選定することが重要です。M&Aを単なる規模拡大の手段としてではなく、企業価値向上のための戦略的ツールとして活用することで、持続的な成長につなげることができるでしょう。

M&Aの買い手側のデメリットと対策

M&Aは買い手側にとって多くのメリットがある一方で、様々なリスクやデメリットも存在します。M&Aを成功させるためには、これらのデメリットを事前に理解し、適切な対策を講じることが重要です。ここでは、買い手側が直面する主なデメリットとその対策について解説します。

多額の資金調達に関するリスクがある

M&Aを実施する際、買い手側は企業価値評価に基づいた買収資金を用意する必要があります。特に規模の大きなM&Aや成長性の高い企業の買収では、多額の資金が必要となります。この資金調達に失敗すると、M&A自体が実現できなくなるリスクがあります。

買収資金の調達方法としては、自己資金の活用、銀行などからの借入れ、株式発行による調達などが一般的です。しかし、借入れに頼りすぎると財務状況が悪化し、返済負担が重くのしかかるリスクもあります。また、買収価格が過大になると、期待するリターンを得られない可能性も高まります。

こうした資金調達リスクに対する対策としては、以下のような方法が考えられます。

・自社の財務状況を踏まえた適切な買収規模の設定
・複数の資金調達先からの分散調達
・LBO(レバレッジド・バイアウト)などの手法の活用
・段階的な買収(ステップ買収)の検討
・専門家による客観的な企業価値評価の実施

特に中小企業のM&Aでは、自社の財務体力を超えた買収は避け、長期的な視点で資金計画を立てることが重要です。また、買収前に十分なデューデリジェンス(詳細調査)を行い、買収価格の妥当性を検証することも欠かせません。

統合作業による組織負荷がかかる

M&A後の統合作業(PMI: Post Merger Integration)は、多大な労力と時間を要します。業務プロセスや組織体制、人事・給与制度など、様々な面での統合が必要となり、これらの作業が本業に影響を与えるケースも少なくありません。

特に異なる企業文化を持つ企業同士のM&Aでは、価値観や仕事の進め方の違いから統合が難航することがあります。中には統合作業の失敗によって、期待していたシナジー効果が得られず、M&A自体が失敗に終わるケースもあります。

統合作業の負担を軽減するための対策としては、以下のようなものが挙げられます。

・M&A前からの詳細な統合計画(PMI計画)の策定
・統合管理のための専任チームの設置
・段階的な統合プロセスの採用(一度に全てを変えない)
・外部コンサルタントの活用
・両社の従業員への丁寧な説明と協力要請

M&A後の統合は「文化の融合」という面も持っています。相手企業の文化や価値観を尊重しながら、共通のビジョンを共有していくプロセスが重要です。統合計画では、優先順位を明確にし、短期的に達成すべき項目と中長期的に進めるべき項目を区別することで、効率的な統合を進めることができます。

優秀人材が流出する可能性がある

M&Aにおいて最も大きなリスクの一つが、買収した企業から優秀な人材が流出してしまうことです。特に知識集約型の産業では、人材こそが最大の資産であり、優秀な人材の流出は買収の価値を大きく毀損する可能性があります。

人材が流出する主な原因としては、M&Aによる不安や将来への不透明感、企業文化の違いによるストレス、業務内容や待遇の変化などが挙げられます。また、M&A後に新しい経営方針に納得できないキーパーソンが離職することで、その部下も続いて離職するという連鎖が起こる場合もあります。

優秀な人材の流出を防ぐための対策としては、以下のような方法が効果的です。

・M&A前のデューデリジェンス段階でのキーパーソンの特定と早期の関係構築
・継続して勤務するための適切なインセンティブ制度の設計
・M&Aの目的や今後のビジョンについての透明性の高いコミュニケーション
・被買収企業の企業文化を尊重し、段階的に融合を図る
・キャリアパスや成長機会の明確な提示

人材の流出を防ぐためには、M&Aの早い段階から人材マネジメントを重視し、被買収企業の従業員との信頼関係構築に努めることが重要です。特に重要なポジションの人材には、個別に丁寧なコミュニケーションを行い、新体制での役割や期待を明確に伝えることが効果的です。

のれんの減損リスクがある

M&Aでは、買収額と被買収企業の時価純資産額の差額が「のれん」として計上されます。こののれんは将来の超過収益力を表す無形資産ですが、買収後に期待した収益が得られなかった場合、減損処理が必要となります。

減損処理が行われると、貸借対照表上の資産が減少するとともに、損益計算書上に特別損失が計上されます。大型M&Aで巨額ののれんが計上されている場合、その後の減損処理は企業の財務に深刻な影響を与える可能性があります。

のれんの減損リスクに対する対策としては、以下のようなものが考えられます。

・適切な買収価格の設定(過大評価の回避)
・デューデリジェンスの徹底による将来収益性の精査
・収益計画の保守的な策定
・統合後の定期的なモニタリングと早期の対策
・のれん計上を最小化する買収スキームの検討

のれんの減損リスクを最小化するためには、まず買収価格の妥当性をしっかり検証することが重要です。企業価値評価の際には、複数の評価手法を用いて多角的に分析し、過大な評価とならないよう注意が必要です。また、買収後の統合プロセスを効果的に進め、計画通りの収益を実現するための取り組みも欠かせません。

M&Aには以上のようなデメリットが存在しますが、これらのリスクを理解し適切な対策を講じることで、多くは回避または軽減が可能です。デメリットを認識した上で戦略的にM&Aを実施することが、買い手側企業の成長と発展につながるでしょう。

M&A手法別のメリット・デメリットを比較

M&Aを実施する際には、目的や状況に応じて最適な手法を選択することが重要です。それぞれの手法には固有のメリットとデメリットがあり、これらを理解した上で選択することが成功への第一歩となります。ここでは、主要なM&A手法である「株式譲渡」「事業譲渡」「会社分割」「合併」について、そのメリットとデメリットを比較解説します。

株式譲渡のメリット・デメリット

株式譲渡は、売り手企業の株式を買い手企業(または個人)に譲渡することで経営権を移転させる方法です。中小企業のM&Aでは最も一般的な手法で、全体の8〜9割を占めるといわれています。

【メリット】
株式譲渡の最大のメリットは、手続きが比較的簡便である点です。会社の法人格は変わらないため、許認可や各種契約関係がそのまま引き継がれ、個別の移転手続きが不要です。このため、事業をスムーズに継続することができます。

また、売り手にとっても、保有株式と引き換えに現金を受け取れるため、経営からの引退資金を確保しやすいというメリットがあります。法人の場合、株式譲渡益は原則として課税対象となりますが、特定の条件を満たす場合に一部非課税措置が適用されることがあります。個人の場合は、譲渡所得として上場株式の譲渡益には一律20.315%の分離課税が適用され、比較的有利な税率となることが多いです。

【デメリット】
一方、株式譲渡の最大のデメリットは、簿外債務など隠れた負債も全て引き継いでしまうリスクがある点です。会社の全ての資産・負債・契約関係をそのまま引き継ぐため、事前のデューデリジェンス(詳細調査)が非常に重要になります。

また、株主が複数いる場合、全株主の合意が必要となったり、株式が分散している場合は全株式の取得が困難になったりする可能性もあります。特に長年経営されてきた会社では、相続などにより株式が分散していることも少なくありません。

事業譲渡のメリット・デメリット

事業譲渡は、会社の事業の一部または全部を、資産・負債・契約関係などとともに譲渡する方法です。会社自体ではなく、特定の事業だけを切り出して譲渡できる特徴があります。

【メリット】
事業譲渡の最大のメリットは、譲渡対象を柔軟に選べる点です。必要な資産や契約だけを選んで譲り受けることができ、不要な負債や問題のある契約関係を除外することで、買い手側は潜在的なリスクを限定できます。売り手側も不採算事業だけを切り離して譲渡することで、主力事業に経営資源を集中させることが可能です。ただし、重要な事業の譲渡には株主総会の特別決議が必要な場合が多く、手続きが簡単とは限りません。

【デメリット】
事業譲渡の最大のデメリットは、個別承継の手続きが煩雑な点です。資産・負債・契約関係などを個別に特定し、それぞれ移転手続きを行う必要があります。特に契約の移転には相手方の同意が必要で、許認可なども再取得が必要な場合が多いです。

従業員についても、労働契約を譲渡先企業に承継するために、従業員各自の同意が必要となります。そのため、事前の説明と合意形成が重要です。また、税務面では、譲渡益に対して法人税がかかるほか、不動産取得税や登録免許税などの各種税金も発生するため、株式譲渡よりも税負担が大きくなる傾向があります。

会社分割のメリット・デメリット

会社分割は、会社の一部を切り出して別会社に承継させる方法で、新たに会社を設立して承継させる「新設分割」と、既存の会社に承継させる「吸収分割」があります。

【メリット】
会社分割の最大のメリットは、包括承継の効果があるため、個別の契約移転手続きが不要な点です。事業に関連する資産・負債・契約関係が一括して承継され、従業員の労働契約も自動的に承継されます。これにより、事業譲渡のような煩雑な個別手続きを避けることができます。

また、事業譲渡と同様に、会社の一部だけを切り出して譲渡することができるため、不要な部分を残して必要な部分だけを承継させることが可能です。会社法上の手続きに則って実行できるため、法的安定性も高いといえます。

【デメリット】
会社分割の最大のデメリットは、法的手続きが複雑で時間がかかる点です。会社分割計画書の作成、株主総会での承認、債権者保護手続きなど、多くの手続きが必要になります。また、税務手続きも複雑になりがちです。

これらの理由から、中小企業のM&Aでは実務上あまり用いられることがなく、主に大企業のグループ再編や事業再構築などで活用されることが多い手法です。手続きの煩雑さやコストを考えると、中小企業の場合は株式譲渡や事業譲渡が適しているケースが多いです。ただし、事業承継や負債の包括承継が必要な場合など、会社分割が最適な選択肢となる場合もあります。

合併のメリット・デメリット

合併は、2つ以上の会社が1つになる方法で、一方の会社が存続して他方が消滅する「吸収合併」と、全ての会社が消滅して新会社が設立される「新設合併」があります。

【メリット】
合併の最大のメリットは、包括承継により全ての資産・負債・契約関係が完全に一体化される点です。これにより、シナジー効果を最大化しやすく、ブランドの統合や経営資源の完全な融合が実現できます。

また、対外的にも内部的にも、企業の一体感を醸成しやすいというメリットがあります。特に相互補完的な事業を持つ会社同士の合併では、統合によって大きな相乗効果が期待できる場合があります。

【デメリット】
合併の最大のデメリットは、望まない負債や問題も全て引き継がざるを得ない点です。また、法的手続きが複雑で時間がかかり、株主総会での承認や債権者保護手続きなど、多くのステップを踏む必要があります。

さらに、企業文化や業務プロセスの融合が困難な場合が多く、統合後の摩擦やコンフリクトが発生するリスクもあります。これらの理由から、中小企業のM&Aでは合併があまり用いられず、前述の株式譲渡が主流となっています。

以上のように、M&A手法にはそれぞれ特徴があり、目的や状況に応じて最適な手法を選択することが重要です。中小企業のM&Aでは、手続きの簡便さや迅速性の観点から株式譲渡が最も一般的ですが、譲渡対象を選別したい場合や特定のリスクを回避したい場合には事業譲渡が選択されることもあります。M&Aの初期段階から専門家に相談し、自社の状況に最も適した手法を選択することが、成功への近道となるでしょう。

M&A成功の鍵とポイント|効果を最大化する戦略

M&Aは単なる企業の買収や売却ではなく、経営戦略の一環として捉えることが重要です。M&Aの成功は、その後の企業成長や事業承継の成否に大きく影響します。ここでは、M&A成功のための鍵となるポイントと効果を最大化するための戦略について解説します。

事業承継におけるM&A成功のための重要ファクター

事業承継を目的としたM&Aを成功させるためには、以下のような重要なファクターに注目する必要があります。

まず、早期からの準備と計画が不可欠です。理想的には、経営者の引退を想定する3〜5年前から準備を始めることが推奨されます。時間的余裕があれば、複数の買い手候補と交渉することも可能となり、より良い条件での承継が実現しやすくなります。

次に、適切な企業価値評価の実施です。第三者による客観的な企業価値評価を行うことで、適正な譲渡価格の設定が可能になります。また、自社の強みや成長可能性を明確にすることで、交渉においても有利な立場を確保できます。

また、相性の良い買い手企業の選定も重要です。単に高い価格を提示する企業ではなく、企業理念や文化が近く、従業員や顧客との関係性を重視してくれる企業を選ぶことが、長期的な事業の存続・発展につながります。

さらに、経営者自身の精神的準備も欠かせません。長年経営してきた会社の経営権を手放すことは、多くの経営者にとって大きな心理的ハードルとなります。この心理的抵抗を乗り越え、前向きに事業承継を捉えることができるかどうかが、M&A成功の鍵となります。

事業拡大を目的としたM&A成功の共通要素

事業拡大を目的としたM&Aを成功させるためには、以下のような共通要素がポイントとなります。

まず、明確な戦略的意義とM&Aの目的設定が必要です。「なぜM&Aが必要なのか」「M&Aによって何を達成したいのか」を明確にし、社内で共有しておくことで、M&A後の統合プロセスがスムーズになります。

次に、徹底したデューデリジェンスの実施です。財務面だけでなく、法務、事業、人材、IT、環境など、多角的な視点からの詳細調査を行うことで、隠れたリスクを事前に把握し、対策を講じることができます。

シナジー効果の具体的な想定も重要です。「1+1=3」となるような相乗効果を具体的に描き、それを実現するための施策を事前に計画しておくことが必要です。曖昧なシナジー効果の想定は、M&A後の失望につながる可能性があります。

また、買収先企業の文化や価値観との適合性も見逃せません。企業文化の違いによる摩擦は、M&A失敗の大きな要因の一つです。事前に相手企業の企業文化や従業員の価値観を理解し、統合後の文化融合の方針を検討しておくことが重要です。

M&A成功企業に共通するのは、こうした要素をバランスよく考慮し、単なる規模拡大ではなく、企業価値の向上に焦点を当てた戦略的アプローチを取っていることです。

自社に最適なM&A戦略を立てるための4つの判断基準

自社に最適なM&A戦略を立てるためには、以下の4つの判断基準が役立ちます。

  1. 経営戦略との整合性
    M&Aは経営戦略の実現手段であり、自社の中長期的な経営計画と整合性がなければなりません。「このM&Aが自社のビジョンや経営目標にどう貢献するか」を明確にすることが重要です。例えば、新規市場への参入、製品ラインの拡充、技術獲得など、具体的な戦略目標との関連付けが必要です。
  2. 財務的な実現可能性
    M&Aには多額の資金が必要となる場合が多く、自社の財務状況に見合った規模のM&Aを検討する必要があります。買収資金の調達方法、投資回収シナリオ、ROI(投資収益率)の試算など、財務面での実現可能性を詳細に検討することが重要です。無理な資金調達や過大な買収価格は、その後の経営を圧迫する要因となります。
  3. 組織的な統合可能性
    M&A後の組織統合がスムーズに進むかどうかも重要な判断基準です。企業文化の親和性、人材の相性、システムの互換性など、統合プロセスの難易度を事前に評価しておく必要があります。特に中小企業の場合、大企業と比べて柔軟性がある反面、少数の人材に負担が集中しやすい点に注意が必要です。
  4. リスク許容度
    M&Aには様々なリスクが伴います。市場環境の変化、想定外の負債、キーパーソンの流出など、想定されるリスクを洗い出し、自社がどの程度のリスクを許容できるかを見極めることが重要です。リスクの大きさと対応策を検討した上で、自社のリスク許容度内に収まるM&A戦略を選択すべきです。

これらの判断基準に基づいて、自社に最適なM&A対象企業の選定基準を明確化し、戦略的なM&Aを実行することが、成功への近道となります。

M&A実施後の統合プロセス(PMI)成功のポイント

M&Aの真の成功は、契約締結後の統合プロセス(PMI: Post Merger Integration)にかかっています。PMI成功の鍵となるポイントは以下の通りです。

まず、統合計画を早期から作成することが重要です。理想的にはM&Aの交渉段階から計画を始め、「Day 1」「First 100 Days」「First Year」といった段階別の行動計画を立てるべきです。

次に、統合推進の専任チームを設置し、両社の橋渡し役として責任と権限を明確にしましょう。また、統合には優先順位をつけ、段階的に進めることが有効です。特に顧客対応や日常業務に関わる部分を優先し、バックオフィス機能は後から統合するアプローチが現実的です。

企業文化の融合も重要なポイントです。M&A失敗の大きな要因の一つが「カルチャークラッシュ(文化の衝突)」です。互いの企業文化を尊重しながら、新たな共通の価値観を醸成していく取り組みが必要です。

最後に、統合の進捗を定期的に評価し、計画を柔軟に修正することも欠かせません。KPI(重要業績評価指標)を設定してモニタリングし、問題点を早期に発見・対処しましょう。

M&Aは契約締結がゴールではなく、統合プロセスを通じて初めて価値が創造されるものです。計画的かつ柔軟なアプローチでPMIを進めることが、M&A全体の成功につながります。

まとめ|M&Aのメリット・デメリットを理解して成功へ導く

M&Aは、売り手側にとっては後継者問題の解決、ハッピーリタイアメントの実現、企業の存続と従業員の雇用維持などのメリットがあり、買い手側にとっては事業規模の迅速な拡大、新規事業参入の加速、優秀な人材や技術の獲得が図れます。一方で、双方にデメリットも存在します。M&Aを成功させるためには、早期からの準備、明確な目的設定、適切な専門家の活用、徹底したデューデリジェンス、そして統合計画(PMI)の策定が重要です。M&Aは単なる企業の売買ではなく、企業価値を高め、事業を継承・発展させるための重要な経営戦略です。メリット・デメリットを十分に理解した上で、適切な準備と戦略をもって臨むことで、持続的な成長へとつなげることができるでしょう。

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