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M&Aで発生する「のれん」は、企業のブランド力や将来収益力といった「目に見えない価値」を反映した重要な資産です。しかし、のれんは取得後に会計上どのように処理されるべきか、またその処理が財務に与える影響について正しく理解している方は多くありません。
本記事では、日本会計基準におけるのれん償却の基本から、日本と海外の基準の違いや税務上の取り扱い、実務上の注意点まで幅広くかつ丁寧に解説します。
目次
のれん償却とは、企業の買収で発生した「のれん」の金額を、5〜20年の期間で会計上の費用として分割計上する処理を指します。
のれんは将来的な利益創出を見込んで支払われた無形資産であり、その価値は永続的ではないと考えられています。そのため、他の無形固定資産と同様に減価償却の対象となります。
具体的には、無形固定資産として計上された「のれん」の価値を、毎期一定額ずつ「のれん償却」として費用処理し、段階的に減少させていきます。償却期間は、のれんが将来どれだけ収益に貢献するかを見積もった上で、その効果が続くと見込まれる年数に基づいて設定します。例えば、効果が10年間続くと判断される場合、1,000万円ののれんは毎年100万円ずつ償却されます。
のれん償却の「のれん」について詳しく解説します。
のれんは、企業を買収した際に買収価格が純資産額を上回ることで発生する差額を指し、会計上「無形資産」として貸借対照表に計上されます。この差額には、ブランド力や人材、企業文化など将来収益への期待が含まれます。
例えば、純資産1,000万円の会社を2,000万円で買収した場合、1,000万円ののれんが発生します。日本基準ではのれんを償却しますが、国際基準(IFRS)では減損テストのみで管理されます。
のれんという言葉は、日本の商店の入り口に掲げる布「暖簾(のれん)」に由来しています。信用や格式、長年培ってきた信頼関係を象徴するものとして、古くから商売の世界で用いられてきました。
のれんがあることで「この店はしっかりした店だ」と認識されるように、企業にとってののれんも、その会社のブランド力や顧客との信頼関係、地域に根ざした営業基盤などを象徴するものです。
会計の世界でもこの慣用表現が取り入れられ、M&Aにおいて無形資産の価値を表す言葉として定着しました。
なお、のれんは英語では「goodwill」と呼ばれます。企業の評判や顧客からの信頼、取引関係の安定性など、将来的に収益を生むと期待されるビジネス上の信用全般を意味します。
営業権とのれんは似た概念ですが、評価プロセスや定義に違いがあります。
営業権はM&Aにおける企業価値の評価段階で用いられる概念で、純資産に将来利益への期待値を加算して算定されることが一般的です。主観的な価値の見積もりであり、理論上の評価額として扱われます。
一方、のれんは取引成立後に会計上認識される資産で、買収価格と純資産の差額として機械的に算出されます。営業権が「見積もり」であるのに対し、のれんは「結果」としての性質を持ちます。
日本の実務では両者が同義語として扱われることもありますが、国際会計基準(IFRS)などではのれん(Goodwill)のみが正式な概念として定義されています。そのため、国際的な場面では正確な区別が求められます。
負ののれんとは、買収価格が買収先企業の純資産の時価を下回った場合に発生する差額を指し、原則として発生時に特別利益として一括計上されます。
これは、買収先の経営悪化や市場価値の低下、緊急売却などにより、実態よりも安価で買収が成立した際に生じます。例えば、純資産が2億円ある企業を1億円で買収した場合、その差額1億円が負ののれんです。
負ののれんは、通常ののれん(正ののれん)と反対の性質を持ち、将来の収益性よりも、取得時点での「安さ」や「取引条件の有利さ」を示しています。そのため、異常事象や一時的な買収要因として扱われ、継続的な利益とは区別されます。
一般的に発生頻度は低く、企業評価やデューデリジェンスの過程で慎重に分析すべき項目とされます。
減価償却について詳しく解説します。
減価償却とは、企業が取得した資産の購入費用を耐用年数に応じて分割し、会計上の費用として段階的に計上する処理方法です。
高額な資産を一括で経費処理してしまうと、当期の損益が大きく変動し、企業の業績が実態以上に不安定に見えてしまう恐れがあります。そのため、資産の使用期間にわたって費用を分配することで、より適切に経営成績を反映させられます。
例えば、製造業の企業が5億円の生産設備を導入した場合、耐用年数が20年とされていれば、毎年2,500万円ずつを経費(減価償却費)として計上します。これにより、収益と費用の対応関係が保たれ、会計の正確性が向上します。
この方法は、資産の劣化や価値の減少を財務諸表上に反映させることで、投資家や金融機関が企業の経営実態を正確に把握できるようにする目的でも活用されています。
また、減価償却を行うことで、法人税の節税効果が得られる場合もあります。
減価償却の対象となる資産は、有形・無形を問わず、一定の条件を満たす固定資産です。のれんのほかにも多くの資産が該当し、それぞれ耐用年数に応じて分割費用化されます。
代表的な有形固定資産には、建物・構築物・車両・機械装置・工具・什器(じゅうき)備品などがあります。これらは日々の使用により物理的に劣化していくため、減価償却を通じてその減少価値を損益計算書に反映します。一方、無形固定資産としては、ソフトウエアや特許権、商標権、借地権などが該当します。これらも使用期間や法的権利の期間に応じて償却されます。
ただし、土地や電話加入権、書画・骨董(こっとう)品など、時間の経過により価値が減少しないと考えられる資産は、減価償却の対象外です。また、稼働を休止している資産や業務に使用していない資産も、会計上は減価償却の対象に含まれません。
のれん償却における会計基準には次の基準があります。
それぞれについて解説します。
日本会計基準(J-GAAP)は、日本国内における企業会計の実務を規律する日本独自の基準です。
日本会計基準において、のれんは将来の収益獲得を目的とした無形固定資産とみなされ、必ず償却することが義務付けられています。償却期間は最長で20年以内と定められ、企業は合理的な根拠に基づいてこの期間を自主的に設定します。
現在、日本企業の多くは日本会計基準を採用していますが、国際的な財務報告の整合性や投資家対応を意識し、IFRS(国際会計基準)の任意適用に移行する企業も増加しています。
国際会計基準(IFRS:International Financial Reporting Standards)は、ロンドンに本拠を置く国際会計基準審議会(IASB)が策定する会計基準で、EU諸国を中心に広まり、現在では世界中で採用されています。IFRSでは、のれんを償却せず、減損テストによる管理を行う方式を採用しています。
のれんは将来の収益に寄与する資産とみなされ、少なくとも年1回の減損テストにより、帳簿価額が回収可能額を上回る場合に減損処理を行います。これにより、利益の過剰な圧迫を防ぎつつ、のれんの価値を定期的に見直すことができます。ただし、減損テストにはキャッシュフロー予測や割引率設定など高度な判断が必要で、実務負担が大きいという課題があります。
近年、IASBではのれん償却復活を検討する議論を進めており、将来的に制度が変更される可能性があります。IFRSを導入する企業は今後の動向を注視する必要があります。
米国会計基準(US-GAAP)は、アメリカ独自の会計基準であり、細則主義に基づく詳細な規定が整備されている点が特徴です。US-GAAPでは、2001年にのれんの定期償却が廃止され、減損テストによる管理方式に変更されました。これにより、のれんは貸借対照表上に無形資産として残り続け、少なくとも年1回の減損テストが義務付けられています。
減損テストでは、のれんが属する事業単位(レポーティングユニット)の公正価値と帳簿価額を比較し、必要に応じて減損損失を計上します。2017年の改訂以降、減損テストは簡素化され、一段階の評価プロセスとなりました。
なお、日本の会計基準はUS-GAAPの影響を受けた部分もありますが、現在では国際会計基準(IFRS)の影響をより強く受けています。
修正国際基準(J-IFRS/JMIS)は、日本会計基準(J-GAAP)と国際会計基準(IFRS)の中間的な位置付けとして策定された基準です。これは、国際的な財務報告の枠組みを尊重しながらも、日本独自の経済・会計慣行を反映することを目的としています。
具体的には、2015年に企業会計基準委員会(ASBJ)が、IFRSのうち「のれんの償却」や「その他の包括利益」の処理方法を日本の事情に合わせて修正し、公表した方法がこの修正国際基準です。
しかし、2023年3月末時点でJMISを採用している上場企業は存在しておらず、普及は進んでいません。国際的な基準との整合性が不十分であることや、金融機関・投資家の理解が限定的であることなどが背景にあります。
のれん償却の期間設定や期間中の償却額の決定方法について解説します。
のれんの償却期間は、日本基準において、原則として20年以内で、その効果が及ぶ期間に基づいて設定することが求められています。企業は買収時に、そののれんが収益にどれだけ寄与するかを合理的に見積もり、慎重に償却期間を設定する必要があります。一度設定した償却期間は原則として変更できないため、注意が必要です。
税務上の償却期間は通常「5年間」であり、会計上と税務上で差異が生じる点にも留意が必要です。ただし、国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(US GAAP)では、のれんは償却されず、減損テストによる管理が求められます。この点で日本基準とは異なるルールが適用されるため、基準の違いを理解することが重要です。
のれんの償却期間は、日本基準において20年以内の合理的な期間とされ、のれんの効果が継続する期間や投資回収期間などを考慮して設定されます。実務では、のれんの構成要素(ブランド力、技術、人材、顧客基盤など)が将来収益にどの程度貢献するかを評価し、その効果の継続期間を基に設定することが一般的です。ただし、これらの価値を定量的に測定するのは難しいため、実際には投資回収期間を基準とするケースも見られます。
投資回収期間の計算では、営業利益やEBITDAを基準に累積利益で買収額を回収できるまでの年数を見積もる手法がよく使用されます。理論上は割引計算やキャッシュフロー分析の方が正確ですが、実務では手間がかかるため採用されにくい傾向にあります。
のれん償却額の計算方法としては、定額法が最も一般的です。この方法では、のれんの金額を償却期間に応じて毎年均等に費用として計上します。例えば、1,000万円ののれんを10年間で償却する場合、毎年100万円を損益計算書に計上します。
定額法は、のれんの経済的価値が時間とともに徐々に消費されるという考え方に基づいており、予測可能性や財務の安定性に寄与します。その簡易性から実務ではほぼ唯一の選択肢として採用されています。ただし、のれんの価値が特定の時期に集中して発揮される場合や収益の予測が困難なケースでは、実態に即していないとの指摘もあります。
なお、日本基準ではのれん償却が求められますが、国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(US GAAP)ではのれんは償却されず、減損テストで管理されます。この点で日本基準とは大きく異なります。
のれん償却には次のようなメリットがあります。
それぞれについて解説します。
のれんは、ブランド力や顧客基盤、人材力などの無形の経済的価値を反映する資産であり、その実態を捉えにくいという特徴があります。のれん償却を行うことで、企業はのれんの価値を財務上に反映し、時間の経過に伴う変化を把握することが可能です。
償却を通じて年次で費用化することで、のれんの効果が徐々に失われていく状態を財務上に計上し、経営資源の見直しや再投資判断のための手がかりとして活用できます。また、定期的な価値の見直しにより、過大評価やリスクの兆候を早期に把握することで、透明性のある財務報告や株主への説明責任を果たすことができます。
なお、日本基準ではのれん償却を行いますが、国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(US GAAP)では償却を行わず、減損テストで管理されます。基準によって処理方法が異なる点に注意が必要です。
のれん償却の最大のメリットの一つは、のれんを一括で損失計上せずに済むことです。企業買収により生じたのれんは、数百万円から数十億円に及ぶケースもあります。この金額を一度に費用化してしまうと、その年度の業績が大きく悪化し、経営や資金繰りに重大な影響を与える恐れがあります。
そこで、のれんを定額で償却すれば、数年に分けて費用を計上でき、財務負担を平準化できます。これによって損益の変動がなだらかになり、経営計画が立てやすくなります。
のれんは回収可能性が低下した場合、その価値の減少を損失として計上する「減損処理」を行う必要があります。ただし、日本基準ではのれん償却を継続的に行うことが求められており、これにより減損時の影響を軽減する効果があります。
具体的には、のれん償却を通じてのれん残高が一定額減少するため、万が一のれんの価値が急激に下落した場合でも、減損対象となるのれんの残高が小さくなり、損失額を抑えることが可能です。一方で、償却をしていなかった場合、のれん全額が減損損失として計上される可能性があり、決算に大きな赤字をもたらすリスクが高まります。
ただし、のれん償却は企業の利益を毎期一定額圧迫するため、減損リスク軽減のメリットと償却費による収益への影響を慎重にバランスする必要があります。また、国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(US GAAP)ではのれん償却は行われず、減損テストによる管理が求められるため、このメリットは適用されません。基準の違いを十分に理解することが重要です。
日本会計基準を採用している企業がのれん償却を行う場合、国際会計基準(IFRS)で義務付けられているような毎期の減損テストは不要です。
一方、IFRSを採用している場合、のれんを償却せずに残高を維持する代わりに、毎年キャッシュ・フローの見積や割引計算を用いた減損テストを実施しなければなりません。
この減損テストには、事業部門ごとの将来収益予測や市場評価など、多くの前提と高度な分析が必要であり、会計・財務部門にとって大きな負担となります。
のれん償却には次のようなデメリット・リスクがあります。
それぞれについて解説します。
のれん償却を行うと、毎期一定額を費用として計上するため、その分だけ利益が圧迫されます。特に、買収額が大きく、のれんの金額が多額になる場合は、その影響が顕著です。
実際にキャッシュが流出しているわけではないにもかかわらず、償却費によって会計上の利益は減少します。そのため、買収の効果が短期間では目に見えにくい場合には、償却による利益の減少がネガティブに受け取られる可能性があります。
外部の投資家や金融機関からは、純利益や営業利益の数値を基準に企業の健全性を評価するため、株価や信用力に影響する恐れがあります。特に経営が不安定な年には、償却が特に大きな負担となる点にも注意が必要です。
のれん償却を行う上での大きな課題は、適切なのれん償却期間を設定することが非常に難しい点にあります。のれんは無形資産であり、具体的な形がなく、時間とともにその価値がどのように変化するかを正確に予測することは困難です。
買収した企業のブランド価値や技術、人材の優位性が将来どれほど収益に貢献するかを見積もるには、高度な分析と判断が求められます。さらに、会計基準では償却期間は20年以内で企業が合理的に決定することとされていますが、一度決定した期間は原則として変更できません。
そのため、償却期間の見誤りによって、本来は短期間で価値が減少するのれんを長期にわたって償却し続ける、あるいは逆に短期間で費用化しすぎて利益を不必要に圧迫するなどのリスクが生じます。
前述のとおり、日本会計基準を採用している企業では、のれんを定期的に償却する必要があるため、その分だけ毎期の利益が圧迫されます。特にM&Aを積極的に行っている企業では、のれんの償却費が多額となり、実際の経営成績以上に利益が少なく見えるという傾向があります。
このような財務情報は、のれんの償却を行わず減損テストで管理する国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(US-GAAP)を採用する企業と比べて、財務数値に乖離(かいり)が生じやすいです。結果として、海外投資家やアナリストが企業の実力を正確に評価しづらくなり、国際的な財務比較における整合性が損なわれるリスクがあります。
海外での資金調達や事業展開を視野に入れる企業にとって大きなデメリットとなり得ます。そのため、日本企業の中には、こうした問題を避けるために、IFRSへの移行を選択する企業が増加傾向にあります。
のれん昇格における税務上の取り扱いについて解説します。
会計上では、のれん償却を費用として処理しますが、税務上は原則として損金(税務上の費用)には含まれません。つまり、会計上でのれんを償却しても、その分を法人税の計算に使うことはできず、税務申告時に調整が必要です。これは、のれんが実際の支出を伴わない無形資産であり、課税所得を不当に減らすことを防ぐためです。
ただし、特定のM&A取引(事業譲渡や非適格分社型分割など)を通じて「資産調整勘定」または「差額負債調整勘定」といった税務上の調整項目が発生する場合があります。これらは税務上で一定期間にわたり償却(損金算入)が認められ、M&Aによる節税効果が期待できることもあります。
なお、税務上ののれん償却の扱いは国によって異なる場合があり、米国などでは税務上ののれん償却が認められるケースもある点に留意が必要です。
資産調整勘定とは、事業譲渡や非適格分社型分割など、特定のM&A取引において、取得価額と引き継いだ資産・負債の時価との差額として発生する税務上の調整項目です。税務の観点では、この差額は「のれん」に類似した性質を持つものの、会計上の「のれん」とは異なる扱いを受けます。
取得側企業は、この資産調整勘定を5年間(60カ月)で月割償却し、その金額を税務上の費用(損金)として計上することが可能です。この制度を活用することで、M&Aに伴う支出の一部を損金として処理でき、結果として法人税の軽減効果が期待できます。
資産調整勘定の特徴として、損金経理要件がない点が挙げられます。つまり、会計上の費用計上を行わなくても、税務上の償却が可能です。これにより、会計処理とは独立して税務上のメリットを享受することができます。
ただし、資産調整勘定が発生する取引は、事業譲渡や非適格分社型分割など、一定の条件を満たすものに限定されるため、適用には注意が必要です。
差額負債調整勘定とは、事業譲渡や非適格分社型分割などの取引で、取得価額が引き継ぐ資産・負債の時価を下回る場合に税務上計上される調整項目です。この差額は、いわゆる会計上の「負ののれん」に類似していますが、税務上は異なる扱いを受けます。差額負債調整勘定は、税務上の益金として5年間(60カ月)に分割して計上され、一時的な課税繰り延べ効果を持ちます。
この調整項目は、引き継いだ資産・負債の時価と取得価額の差額が企業にとって特別利益に相当するものであるため、税務上徐々に益金として取り込む形で課税対象となります。例えば、1000万円の差額負債調整勘定が発生した場合、毎年200万円ずつ益金として計上し、法人税の計算に反映されます。
差額負債調整勘定は、損益計算書には直接現れないため、会計上の処理とは異なり、税務処理を区別して管理する必要があります。発生条件が限定的であり、適用する際には事業譲渡や非適格組織再編に関する専門的な税務知識が求められます。
2017年(平成29年度)の税制改正により、営業権を取得した初年度の償却限度額の計算方法が変更されました。従来は、営業権の取得日が事業年度の途中であっても、その年度において年間償却額の全額を損金算入することが認められていました。しかし、改正後は月割計算が義務化され、営業権を取得した月の翌月から事業年度末までの月数に応じて償却額を算定する方式に変更されました。
例えば、3月決算の企業が11月に営業権1億円を取得した場合、年間の償却額6,000万円のうち、5カ月分(約2,500万円)のみがその事業年度の償却限度額となります。この改正により、初年度の費用計上額が抑制され、税務上の損金処理に慎重な対応が求められるようになりました。
なお、営業権は税務上の償却可能な項目であり、会計上の「のれん」とは異なる概念です。この改正は税務上の公平性を確保する目的で行われたものです。
のれんの減損処理について解説します。
のれんの減損処理とは、帳簿上に計上されたのれんの価値を、経済的実態に即して下方修正する会計処理を意味します。これは、M&Aによって取得された企業の収益力が想定より大きく下がったときに行われます。
のれんは、将来的な収益性を期待して支払った超過取得額に当たり、ブランド価値や人的資産、顧客基盤などの無形資産に反映されます。しかし、買収後に経営状況が悪化した場合、その価値が維持されないと判断されれば、会計上もその分を減額しなければなりません。これが「減損」と呼ばれる処理です。
例えば、買収先企業の売り上げが大幅に減少した、重要な技術や人材が流出した、あるいは外部環境の悪化によって期待した収益を得られないといった状況が、減損のきっかけとなります。減損処理は原則として「特別損失」として計上され、企業の決算に大きな影響を与えます。
のれんの減損処理は「減損損失」として損益計算書に計上し、貸借対照表上の「のれん」の残高を減額する形で行います。これは、のれんの帳簿価額が、実際の回収可能価額を上回っていると判断されたときに実施されます。
具体的な仕訳例を挙げると、もともと100万円ののれんがあり、その後の収益性悪化などにより80万円の価値しかないと判定された場合、差額の20万円が減損の対象です。この場合の仕訳は次のとおりです。
借方 | 貸方 | 摘要 | ||
減損損失 | 200,000円 | のれん | 200,000円 | のれんの減損処理 |
この処理によって、損益計算書には「減損損失(特別損失または営業外費用)」として計上され、のれんの帳簿価額は80万円に減額されます。減損処理は一時的に企業の純利益を大きく押し下げるため、株主や投資家にも大きな影響を与えます。
最後に、のれん償却に関するよくある質問とその回答を紹介します。
A.のれんは、買収価格が被買収企業の純資産の時価を上回った場合に生じるため、買収価格が純資産と等しいか、下回っている場合には発生しません。
例えば、被買収企業の純資産が10億円で、買収価格も同額であれば、のれんは発生しません。さらに、買収価格が純資産を下回るケースでは「負ののれん」が発生し、これは特別利益として一括計上されます。
A.のれんとコントロールプレミアムは、いずれもM&Aにおいて買収価額に上乗せされる付加価値に関する概念ですが、その意味と会計上の扱いには明確な違いがあります。
コントロールプレミアムとは、買い手側が売り手側の支配権(経営権)を取得するために、市場価格より上乗せして支払う金額のことです。
コントロールプレミアムは独立して会計上認識されることはなく、最終的にのれんの構成要素の一部として処理されます。
A. 日本会計基準では、のれんの償却期間は「最長20年以内」とされています。ただし、実務では20年フルに設定するケースは少なく、5年〜10年程度を採用する企業が多い傾向にあります。これは、買収によるシナジー効果や超過収益力が20年間も継続すると見込むのは現実的ではないと考えられるためです。また、業界や企業ごとの特性や買収の目的によって償却期間が異なる場合もあります。
一方で、あまりにも短期で償却を行うと、毎期の償却費が大きくなり、営業利益を圧迫する可能性があります。そのため、企業は将来収益への影響や株主への説明責任を考慮しつつ、合理的な年数を選定しています。
なお、国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(US GAAP)ではのれんを償却せず、減損テストによる管理が求められるため、償却期間を設定する必要はありません。この点で日本会計基準とは大きく異なります。
A.買収後にのれんの評価が過大であると判明した場合、会計上は「減損処理」によって帳簿価額を一括で下方修正する必要があります。これは、期待した収益が得られないと判断されたときに行われる措置です。
既に説明したとおり、この減損処理は通常「特別損失」として一度に費用計上されるため、当期純利益を大きく押し下げる可能性があり、株価にも影響を与えることがあります。
A.のれん償却は、短期的には株主にマイナスの影響を与える可能性があります。償却により毎期の費用が計上されることで、会計上の利益が圧迫され、EPS(1株当たり利益)が低下し、株価にネガティブな評価が及ぶことがあります。短期的な利益を重視する投資家にとっては、減益がマイナス材料として扱われることが一般的です。
一方で、のれん償却によって財務の健全性が向上し、減損リスクが軽減される可能性があるため、長期的にはポジティブな要素とみなされる場合もあります。これにより、企業の収益基盤を評価する長期投資家にはプラスの影響を与えることもあります。
なお、日本基準ではのれん償却が行われますが、国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(US GAAP)では償却されず、減損テストによる管理が求められるため、基準によって株主への影響も異なります。
A.日本基準では、のれんの償却費は「販売費および一般管理費(販管費)」に含めて処理することが一般的です。多くの企業では、「のれん償却費」または「のれん償却」として独立した内訳項目を設け、損益計算書の販管費明細で表示します。これは、のれんが営業活動に関連する無形資産であるため、償却費も営業費用として扱われるからです。
また、のれん償却費を明示することで、営業利益や純利益への影響を投資家や監査人が把握しやすくなるメリットがあります。ただし、表示方法は企業によって異なる場合があります。
なお、国際会計基準(IFRS)や米国会計基準(US GAAP)ではのれんは償却されず、減損テストで管理されるため、「のれん償却費」という科目は存在しません。この点で日本基準とは異なります。
A.のれんは会計上の無形固定資産であり、定額法で償却することが原則とされていますが、有形固定資産の減価償却の一般的な手法に「定率法」があります。
定率法とは、資産の取得価額に対して期首の未償却残高に一定の割合を乗じて償却費を計算する方法で、初年度に多くの償却を行い、以降は徐々に償却額が減少していく点が特徴です。
この方法は、例えばパソコンや車両など、時間の経過とともに価値が急激に下がる資産に適しています。税務上は費用の前倒し計上が可能になるため、節税効果が得られる点もメリットです。定率法には「200%定率法」や「250%定率法」といったバリエーションがあり、取得時期に応じて適用される償却率が異なります。
A.IFRS(国際会計基準)では、のれんは定期償却の対象とはならず、毎期の減損テストによって価値を評価する方式が採用されています。これは、のれんの耐用年数を合理的に見積もることが困難であること、そして恣意(しい)的な償却処理を避けることで、より実態に即した財務報告を実現するという目的から導入されたものです。
この非償却モデルは、2004年にIFRS第3号「企業結合」の導入により正式に採用されました。当時の前提として、減損テストによりのれんの価値低下を適切に反映できると期待されていました。
ただし、実務上は減損の発生が遅れたり恣意(しい)的になりやすいとの批判もあり、のれん非償却モデルの有効性には継続的な議論があります。また、一部の投資家は、償却費を分析上除外する傾向にあるため、定期償却による利益圧迫が投資判断に直結するとは限らないという指摘も存在します。
2025年5月、日本会計基準における「のれん」償却ルールの見直しに向けた動きが本格化しています。経済同友会をはじめとする民間13団体やスタートアップ35社、有志経営者138人が連名で、財務会計基準機構(FASF)に対し、のれんの非償却や償却の選択制導入を提案しました。
現行の日本基準では最大20年での定期償却が義務付けられており、M&Aによる利益圧迫が成長企業の障壁となってきました。一方、IFRSや米国基準では減損処理のみが求められ、買収企業にとっては財務負担が軽減されます。
首相の諮問機関である規制改革会議もこれを制度改革の柱とし、会計基準委員会(ASBJ)に検討を要請する予定です。制度が見直されれば、M&Aを通じたスタートアップの成長や資金回収手段の多様化が期待され、企業の新陳代謝と国際競争力の向上に寄与すると考えられています。
前述のとおり、のれん償却ルールの見直しの動きもあり、M&Aにおいて企業に有効的な流れになる可能性が高まっています。
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