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割引現在価値は、将来得られる利益やキャッシュフローを現在の価値に換算する考え方です。
例えば、5年後に受け取る1,000万円は、いま手元にある1,000万円と同じ価値とは限りません。時間の経過によってお金の価値は変わるため、投資判断や企業価値の算定では割引率を用いて現在価値に直すことが不可欠です。
本記事では、割引現在価値の意味や計算方法や活用される場面、近い概念との違い、メリット・リスクまで、割引現在価値を体系的に分かりやすく解説します。
目次
まず、割引現在価値の基本的な知識について解説します。
割引現在価値(Discounted Present Value、略して「DPV」)とは、将来得られる金銭的な価値を、現在の価値に換算して評価するための指標です。
将来のキャッシュフローは、インフレや金利、リスクなどの影響によって目減りする可能性があるため、「将来の100万円」と「今の100万円」は等価ではありません。このため、将来得られる金額を「割引率」と呼ばれる一定の割合で現在価値に引き直す必要があります。
割引現在価値は、企業評価や投資判断の分野で広く用いられており、資金の時間的価値やリスクを適切に反映する点において、合理的な意思決定に資する指標といえます。
企業買収や資本投資を判断する際、割引現在価値は極めて重要な役割を果たします。
例えば、M&Aでは将来にわたり得られる利益やキャッシュフローをどのように評価するかが、適正な買収価格を左右します。単純に時価総額や純資産のみを参考にする方法では、将来の収益性やリスクが織り込まれていないことが多く、適正な企業価値を把握するには不十分です。
一方、割引現在価値を用いれば、将来の価値を現時点で適切に評価できるため、収益性や不確実性を加味した合理的な判断が可能です。
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割引現在価値を計算する際に用いられる割引率について解説します。
割引率とは、将来得られるキャッシュフローを割引現在価値に換算する際に用いられる一定の割合です。時間の経過に伴う貨幣価値の変化やリスクを反映するための数値です。
例えば、1年後に100万円を受け取る場合、割引率が5%であれば割引現在価値は約95万です(具体的な計算方法は後述します)。このように、割引率が高いほど割引現在価値は小さくなります。
割引率は企業価値評価や投資判断において不可欠な要素であり、適切な設定が結果の正確性に大きな影響を与えます。
実務において割引率の設定には一定の目安があり、評価対象の性質やリスク水準に応じて4〜7%程度が広く用いられます。
安定した収益が見込まれる事業や公共インフラなどでは5%前後ですが、成長性が高いがリスクも大きい新興企業や海外プロジェクトでは8〜10%以上の水準が採用されることもあります。
また、公共セクターでは国が定めた、3%などの標準割引率が用いられることもあります。評価対象ごとに固有のリスクを反映させる必要があり、金融市場の状況や業界の収益性も考慮して調整されます。
割引率には複数の種類があり、分野や目的によって使い分けられます。
代表的なものには、安全資産の利回りに基づく「リスクフリーレート」、企業価値評価で用いる「WACC(加重平均資本コスト)」、個別投資案件の収益性を示す「内部収益率(IRR)」などがあります。
M&AにおいてはWACCが主に用いられています。WACCとは、企業が資金を調達する際のコストを、借り入れと株式の構成比に応じて加重平均した指標です。
例えば、企業価値を算定する手法の一つである「DCF法(ディスカウント・キャッシュ・フロー法)」を用いる際、将来のキャッシュフローを割引現在価値に割り引く際の割引率としてWACCが使われます。
また、ROIC(投下資本利益率)と比較することで、企業が調達した資本に対してどれだけ効率的に利益を上げているかを評価できます。
割引現在価値に関連した用語として、次の3つが挙げられます。
それぞれの用語と割引現在価値の違いについて解説します。
現在価値(Present Value、略して「PV」)とは、将来に受け取る予定の金銭的価値を、現在の価値に引き直して評価した金額のことです。
割引現在価値と同義で用いられることが一般的です。
将来価値(Future Value、略して「FV」)とは、現在手元にある資産や現金が、一定期間後にどれだけの価値に成長するかを示す指標で、現在価値とは対となる関係にあります。
例えば、100万円を年利5%で1年間運用した場合、その将来価値は105万円です。現在価値を将来に向かって増加させる考え方が将来価値であり、資産運用や投資の収益見通しを立てる際に活用されます。
正味現在価値(Net Present Value、略して「NPV」)とは、将来得られるキャッシュ・フローを所定の割引率で現在価値に換算し、その合計額から初期投資額を差し引いた金額を指します。
正味現在価値がプラスであれば、投資によって得られる利益が初期投資を上回ると判断され、経済的に実行価値があるとされます。逆にマイナスであれば、将来の収益では投資額を回収できないため、見送るべきとされます。
例えば、将来キャッシュ・フローの現在価値が1,000万円、初期投資が800万円であれば、正味現在価値は200万円となり、この投資は有望と評価されます。
割引現在価値は、将来のキャッシュ・フローを現在の価値に換算した金額を単純に示すもので、「得られる金額が今いくらに相当するか」を表すものです。
一方、正味現在価値は、その割引現在価値から初期投資額を差し引いたものであり、「投資の結果、最終的に得られる利益の大きさ」を表します。
すなわち、割引現在価値はキャッシュ・フローの現在換算値そのものであり、正味現在価値はそこから投資原資を控除して得られる、投資判断のための純利益額です。
割引現在価値は次のような場面で活用されます。
それぞれについて解説します。
M&Aにおいては、譲渡企業の価値を的確に評価することが、取引の成否を左右する重要な要素です。中でも割引現在価値は、企業価値の算定や投資判断において不可欠な指標とされています。
例えば、設備投資や人件費の増加により一時的に赤字となっている企業であっても、将来的に安定した収益が見込まれる場合には、割引現在価値を用いることでその将来価値を適切に反映できます。
企業価値の算定手法には、コストアプローチ、マーケットアプローチ、インカムアプローチの3つがあります。このうち、将来の収益力に基づいて価値を評価するインカムアプローチでは、DCF法を用いる方法が一般的であり、その中核をなすものが割引現在価値です。
不動産投資では、物件の将来性や収益性を評価する際に、割引現在価値が活用されます。
家賃収入や将来の売却益など、将来的に得られるキャッシュフローを現在の価値に換算することで、物件の適正な購入価格や投資判断を下すための基準となります。
例えば、賃貸物件においては毎月の収入だけでなく、空室リスクや管理費などの支出、修繕費の見込みといった要素も考慮し、全てを現在価値に割り引くことで投資の妥当性を評価できます。割引現在価値が算出された金額よりも購入価格が低ければ、収益性が高いと判断できます。
割引現在価値は、会計基準における資産や負債の評価にも用いられています。
代表的な適用例には、固定資産減損会計や退職給付会計、リース会計、資産除去債務などがあります。これらの会計処理では、将来に発生するキャッシュフローや債務の金額を、一定の割引率に基づいて現在価値に換算し、その結果を財務諸表に反映させることが求められます。
例えば、固定資産の将来収益が帳簿価額を下回ると見込まれる場合には、減損処理を行い、割引現在価値を基にした回収可能価額に引き下げて評価します。
割引現在価値を用いるメリットとして、次の点が挙げられます。
それぞれについて解説します。
割引現在価値を用いる最大のメリットの一つは、買収対象企業の将来にわたるキャッシュフローや利益見込みを、現在の価値として定量的に評価できる点です。
M&Aにおいては、将来の収益力を踏まえた上で買収価格を算出する必要がありますが、割引現在価値を用いれば、収益性やリスクを考慮しながら企業価値を導き出せます。
例えば、設備投資や構造改革により短期的には赤字でも、中長期的に高い利益が見込まれる企業であれば、将来価値を正確に反映させた合理的な評価が実現します。帳簿上の数値に左右されず、実質的な企業価値を把握できる点は、投資判断において大きな意義を持ちます。
割引現在価値を用いることで、企業全体だけでなく、個別の事業や案件単位でも活用できる柔軟性の高い評価が可能です。プロジェクトごとに異なる収益性やリスクを割引率に反映させることで、より現実的かつ正確な価値評価が可能です。
例えば、高リスク・高リターンの新規事業と、安定した収益を見込める既存事業では、異なる割引率を設定することにより、それぞれの事業の経済的価値を個別に把握できます。
事業ポートフォリオの再構成や資本配分の最適化、リスク管理策の検討など、企業戦略の意思決定において、割引現在価値は判断の基準となる重要な評価指標の一つといえます。
M&Aにおいて割引現在価値を用いるデメリット・リスクとして、次の点が挙げられます。
それぞれについて解説します。
割引現在価値は、将来得られるキャッシュフローや利益を基に評価する手法であるため、予測に基づく不確実性を常に伴います。将来の売り上げや収益性は、景気の変動や業界の競争状況、規制の変更など、外部環境の影響を大きく受けます。
さらに、経営戦略の成否や技術革新の影響といった企業固有の要因も見逃せません。こうした要素は事前に全てを正確に見積もることが困難であるため、予測された将来価値の信頼性には限界があります。
従って、割引現在価値を用いる際には、前提となる予測の妥当性を慎重に検証する必要があり、単一の数値結果に過度に依存しない姿勢が求められます。
割引現在価値を算出する際には、割引率やキャッシュフロー予測など、評価者の判断に基づく前提が多数存在します。
特に割引率は、対象となる事業や企業のリスクをどの程度反映させるかによって大きく変動しうる要素であり、評価者の立場や目的によって恣意的に設定される恐れがあります。
例えば、買収側と売却側の利害が対立する場面では、互いに有利な評価結果を導くために割引率を調整するケースも見受けられます。このような恣意性が評価に影響を及ぼすと、割引現在価値の客観性や公平性が損なわれかねません。
割引現在価値の計算方法について解説します。
割引現在価値は、将来に受け取る予定の金額を、ある割引率で現在の価値に換算することで求められます。計算式は次のとおりです。
割引現在価値 = 将来価値 ÷(1 + 割引率)ⁿ
ここでの「将来価値」はn年後に受け取る予定の金額、「割引率」は金利やリスクを反映させた一定の割合、「n」は年数を示します。
割引率が高くなるほど分母が大きくなり、割引現在価値は小さくなります。例えば、1年後に受け取る資産の場合、将来価値 ÷(1 + 割引率)で計算され、2年後であれば将来価値 ÷(1 + 割引率)²というように、期間が長くなるほど現在価値は減少します。
割引現在価値の理解を深めるため、具体的な数値例を見てみましょう。
例えば、1年後に100万円を受け取る予定で、割引率が5%と10%の場合、計算式はそれぞれ次のとおりです。
さらに、5年後に100万円を受け取る場合、割引現在価値は次のとおりです。
このように、同じ100万円でも受取時期が遅くなるほど、また割引率が高くなるほど、現在価値は低下します。
割引現在価値は自分で計算できますが、次のような専用サイトを利用すれば、簡単に算出できます。
Keisanは、カシオ計算機株式会社が提供するオンライン計算サイトで、生活や教育、ビジネス、工学など多様なカテゴリーの実用計算を支援しています。
財務・投資の分野では、現在価値や将来価値の計算、ローン返済シミュレーションなどに対応した専用ツールが用意されており、フォームに必要項目を入力するだけで即座に結果が表示されます。
miniWebtoolは、世界中の利用者を対象としたオンライン計算サービスで、財務計算、健康指標、統計処理など多岐にわたるツールを提供しています。
シンプルな構成でスマートフォンからの利用にも適しており、金融・税務・教育現場での計算補助としても活用できます。
ディスカウントキャッシュフロー法(DCF法)は、割引現在価値を用いる代表的な応用例です。計算方法や計算に用いる指標などについて解説します。
DCF法とは、企業が将来生み出すと見込まれるフリーキャッシュフロー(FCF)を割引現在価値に割り引いて企業価値や株式価値を算定する手法です。
ファイナンス理論に基づく合理的な評価方法として、M&Aや投資判断、上場準備などのさまざまな場面で活用されています。
DCF法の最大のメリットは、企業の将来キャッシュフローを基に評価するため、成長性や収益性を正確に反映できる点です。収益の源泉である事業活動に着目するため、本質的な企業価値を捉えやすく、シナリオ分析や感度分析を通じて柔軟な評価が可能です。
一方で、デメリットとしては、将来のFCFや割引率といった前提が不確実であり、仮定が変わるだけで評価額が大きく変動する点が挙げられます。また、詳細な事業計画や財務数値が求められるため、評価には専門的知識や経験が不可欠です。特に成長率やWACCの設定には慎重を要し、恣意性が入り込むリスクがあります。
DCF法を用いる際は、他の評価手法と併用しながら、総合的に価値判断を行うことが推奨されます。
まず、企業が将来的に生み出すと見込まれるフリーキャッシュフロー(FCF)を複数年分予測します。FCFは、企業が本業によって自由に使えるお金を指し、次の計算式で求められます。
FCFがマイナスになる場合でも、設備投資による一時的なものか、資金繰りに問題があるかを見極める必要があります。事業計画に基づき、将来数年分のFCFを算定します。
将来得られるFCFを現在価値に換算するために、割引率を設定します。DCF法では、通常WACC(加重平均資本コスト)を使用します。
負債コストは支払利息などから算出し、株主資本コストはCAPM理論などに基づいて算出します。
WACCは企業が資金を調達する際に必要となるコストの平均値を表し、評価額に大きな影響を与えるため慎重に設定します。
事業計画で予測できる年数(通常5年)を超える期間については、ターミナルバリュー(TV)を用いて永続的な企業価値を算定します。
成長率はインフレ率やIMF等の経済成長予測に基づき、通常1%程度で設定されます。
株式価値は、まず事業計画期間中のフリーキャッシュフロー(FCF)とターミナルバリュー(TV)を割引現在価値に換算し、その合計である事業価値を算出します。
次に、事業価値に事業外資産を加算して企業価値を求め、そこから有利子負債を控除することで、最終的な株式価値が導き出されます。計算式にすると、次のとおりです。
なお、事業外資産には、遊休地や有価証券など事業に直接関係のない資産が含まれます。
ある企業が今後5年間に生み出すと見込まれるフリーキャッシュフロー(FCF)が次のとおりだとします。
割引率(WACC)を6%とした場合、各年度の割引現在価値は次のように算出されます。
これらを合計すると、5年間のキャッシュフローの割引現在価値は約2,504万円です。
さらに、5年目以降も事業が継続すると仮定してターミナルバリュー(TV)を算定し、その現在価値を加えることで事業価値が完成します。
例えば、5年目のFCF(700万円)を基準に成長率2%を前提とした終価を求めると、TVの計算式は次のとおりです。
最終的な事業価値は、2,504 + 13,370 = 約1億5,874万円です。
既に説明したとおり、この事業価値に事業外資産を加えることで企業価値が算出され、さらにその企業価値から有利子負債を控除することで株式価値が導き出されます。
割引現在価値を用いないM&Aにおける株価算定の手法について解説します。
M&Aにおける株価算定の評価アプローチは次の三つに大別されます。
それぞれの特徴や、具体的な計算手法について解説します。
コストアプローチとは、企業の保有資産と負債に基づいて企業価値を算出する評価手法です。貸借対照表の純資産額(資産から負債を差し引いた額)を基に企業価値を算定するため、数値の客観性が高く、根拠が明確である点が特長です。
中小企業のM&Aでは、適切な比較対象となる上場企業が存在しないことや、将来収益の予測が難しいことから、このコストアプローチが採用されることが多いです。また、企業や事業の清算価値を把握する目的でも活用される場面があります。
ただし、企業の将来性や収益力は評価に含まれないため、成長企業の実態価値を反映しにくい点には注意が必要です。
具体的な計算方法として、代表的なものに「簿価純資産法」と「時価純資産法」があります。
簿価純資産法とは、貸借対照表に記載された帳簿価格(簿価)を基に、企業の資産と負債の差額 = 純資産額をそのまま企業価値とする評価方法です。
評価対象企業の分析をほとんど行わず、会計帳簿の数値をそのまま用いるため、手続きが簡易で客観性の高い数値が得られる点がメリットです。一方で、帳簿価格と実際の資産価値との間に乖離(かいり)がある場合、実態に即した正確な評価が難しくなるデメリットもあります。
特に含み益・含み損の大きな不動産や有価証券を保有している場合には、簿価純資産法のみで適正な評価を行うのは困難です。実務では、簡易評価や時価評価のコストをかけたくない場合などに限定的に用いられます。
時価純資産法とは、企業の資産と負債を時価ベースに修正した上で、純資産額を算出し、それを株式価値とする評価方法です。土地や有価証券など、時価と帳簿価格の乖離(かいり)が大きい項目を中心に評価替えを行うことで、より実態に即した企業価値を把握できます。
評価の対象となる資産には、売掛金や棚卸資産、不動産、保険積立金などがあり、控除や加算を通じて時価への修正を行います。負債面でも、退職給付引当金や偶発債務の見込み額などを加味する必要があります。
ただし、将来の収益性や事業の成長性といった要素は考慮されないため、清算前提の評価や収益力の乏しい企業の評価に向いています。中小企業のM&Aでは、コストアプローチの中核手法として広く利用されています。
インカムアプローチとは、企業が将来に生み出すと見込まれる収益やキャッシュフローを基に、現在の企業価値を算出する評価方法です。
将来の利益や配当を現在価値に割り引いて計算するため、企業の成長性や将来性を反映できる点が特徴です。
代表的な手法には、DCF法と収益還元法、配当還元法があります。既に解説したDCF法はM&A実務において広く採用されています。一方、簡易的に用いる収益還元法や、配当を基準とする配当還元法も、特定の条件下で有効な手法です。
収益還元法とは、将来にわたって安定的に得られると見込まれる一定の収益を資本還元率で割り引き、企業価値を評価する手法です。
例えば、平均的な営業利益や経常利益を用い、これを還元率(自己資本利益率や無リスク利回りに事業リスクを加味した率)で除して現在価値を求めます。DCF法と比べて計算が簡便であるため、簡易評価や初期検討段階で利用されることがあります。
ただし、収益が安定していることが前提となるため、業績変動が大きい企業や成長段階にある企業の評価には適しません。不動産賃貸業など、収益が比較的一定の業種に向いている評価方法です。
配当還元法とは、企業が将来支払うと期待される配当金を基に企業価値を評価する手法で、将来の配当金額を一定の割引率で現在価値に換算して株式価値を算出します。配当金の予測が前提となるため、過去の配当実績や配当方針が安定している企業に適しています。
計算は比較的簡易で、株式の利回り評価や非上場株式の評価、また特定の業種の企業評価に使われることもあります。
ただし、利益が出ていても配当が行われていない企業では評価が困難であり、業績にかかわらず配当額が変動するケースでは、実態を正確に反映しない可能性もあります。
マーケットアプローチとは、市場に存在する類似企業の株価や、過去に行われたM&A取引などを基にして企業価値を評価する手法です。市場参加者が形成した実際の価格を参照するため、客観性と説得力の高い評価が可能です。
比較対象の選定や補正に専門的な判断が必要である一方、株式市場やM&A市場が成熟している国・地域では非常に有効な評価手段とされています。中立的かつ市場実勢に即した評価を行いたい場面で多く用いられます。
主な手法には、類似企業比較法や類似取引比較法、市場株価法、類似業種比較法などがあり、いずれも比較対象のデータを基に倍率(マルチプル)を算出し、それを評価対象企業の財務数値に適用して企業価値を見積もります。
類似企業比較法(マルチプル法)は、対象企業と事業内容や規模が類似する上場企業の財務指標を基に、倍率を算出して企業価値を評価する方法です。
計算に用いる倍率には、PER(株価収益率)やPBR(株価純資産倍率)、EV/EBITDAなどが用いられます。算出された倍率を、対象企業の当期純利益や純資産額、EBITDAなどに適用して株式価値を見積もります。
上場企業の情報は一般に公開されているため、データ収集の手間が比較的軽いことが特長です。一方で、完全に同じ条件の企業を見つけるのは難しく、評価には一定の補正や判断が求められます。
類似取引比較法は、過去に行われたM&A取引のうち、対象企業と同種・同業の案件を参考に、買収価格の倍率を用いて企業価値を評価する手法です。計算時はEV/EBITDAやEV/売上高などの倍率が用いられます。
業界において取引実績が豊富で、標準的な買収倍率が形成されている場合は、高い妥当性を持つ評価が可能です。
ただし、参考にする過去事例の財務データや取引条件の詳細が非公開であることが多く、評価の前提とする情報の入手が困難なケースもあります。また、取引当時の経済状況やシナジー期待の有無なども評価に影響する恐れがあります。
類似業種比較法は、国税庁が相続税や贈与税における非上場株式の評価を目的として定めた手法であり、マーケットアプローチの一種と位置付けられます。
評価対象企業と同じ業種の上場企業が発行する株式の株価や配当、利益などを基に、評価対象の株式価値を算出します。
税務上の公正な評価を重視しているため、評価方法や使用データは標準化されています。一方で、財産評価を目的とした手法であるため、M&Aなどにおける将来の企業価値評価には不向きであり、活用場面は限定されます。
市場株価法は、対象企業が上場している場合に、その株式の市場価格を基に評価を行う方法です。日々の株価は需給や外部環境の影響を受けやすいため、評価時点に近い過去数カ月の平均株価を用いることが一般的です。
上場企業の株式は流動性が高く、透明性のある市場で価格が形成されているため、客観的で迅速な評価が可能です。
ただし、株価が一時的な思惑や投機によって変動する場合もあり、業績や実態価値と乖離(かいり)している恐れもあります。合併比率や株式交換比率の算定時などに活用されることが多い手法です。
最後に、割引現在価値に関するよくある質問とその回答を紹介します。
割引現在価値は、将来得られるキャッシュフローを割引率で現在の金額に換算することで算出されます。そのため、割引率が高く設定される場合や、キャッシュフローの発生が遠い将来に集中している場合には、現在価値が低く見積もられやすいです。
例えば、金利上昇局面やハイリスクな事業の評価では、高めの割引率が用いられ、結果として割引現在価値が圧縮される傾向があります。
また、投資初期の支出が大きく、収益化に時間を要する案件では、現在価値が小さく見積もられることがあります。こうした条件下では、短期的な収益性が乏しいと判断されやすく、プロジェクトの採否に影響を及ぼします。
割引現在価値の考え方は、企業の投資判断に限らず、個人の資金計画にも幅広く活用できます。
例えば、退職金の一括受け取りと分割受け取りのどちらが得かを比較する際、それぞれの受取金額を現在価値に換算すれば合理的な判断ができます。
また、不動産投資や教育資金の積立計画においても、将来得られる利益や支出を現在の価値で評価することで、より確かな資金計画を立てられます。
「内部収益率(IRR:Internal Rate of Return)」とは、投資によって得られる将来のキャッシュフローを現在価値に割り引いた合計が、ちょうど初期投資額と等しくなる割引率を指します。言い換えれば、正味現在価値(NPV)がゼロになる割引率です。
割引現在価値が一定の割引率を前提に「金額」で投資の採算性を評価するのに対し、内部収益率は「利回り(率)」でその収益性を表します。例えば、あるプロジェクトのIRRが8%であれば、その投資は年8%の収益を生む水準であると評価されます。
実務では、このIRRが資本コスト(WACC)を上回る場合に、投資は合理的と判断されます。一方で、IRRは投資額や利益の絶対値を示さないため、同じIRRでも利益の規模が異なる案件同士を単純比較する際には注意が必要です。
このような理由から、IRRはNPVと併用して判断されることが多く、NPVがプラスであるか、かつIRRが資本コストを上回るかを総合的に確認することが推奨されます。
期待収益率とは、投資家がその投資から得たいと考えるリターンの割合を示す指標で、「要求収益率」や「期待リターン」とも呼ばれます。
この期待収益率は、将来のキャッシュフローを割引現在価値に換算する際の割引率として用いられることがあります。
特に、M&Aで用いられるDCF法では、将来のフリーキャッシュフローを期待収益率、またはそれを反映したWACCで割り引いて、企業の割引現在価値を算出します。
減損会計とは、固定資産などの帳簿価格が回収可能額を下回る恐れがある場合に、回収可能額まで減額(減損)する処理です。この回収可能額のうち、「使用価値」を算定する際に割引現在価値の考え方が用いられます。
具体的には、資産が将来生み出すと見込まれるキャッシュフローを、適切な割引率を使って割引現在価値に換算します。この割引率は、金銭の時間的価値を反映した税引前の割引率であり、さらに事業リスクなども考慮して調整されます。
例えば、国債利回りにリスクプレミアムを加える手法などが使われます。これにより、資産が実際にどの程度の経済的価値を持つのかをより厳密に評価でき、適切な減損処理が可能です。
割引現在価値は、企業評価や投資判断をする際に非常に重要であり、資金の時間的価値やリスクを適切に反映することで合理的な意思決定を実現できます。
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