包括利益をわかりやすく解説!計算方法や当期純利益との違いも紹介

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企業の財務状況を正確に把握するためには、従来の当期純利益だけでは見えない部分があります。そこで重要となるのが「包括利益」という概念です。包括利益は、企業の真の業績をより包括的に捉えるための指標として、2011年以降、日本の連結財務諸表で表示が義務付けられています。
特に中小企業のM&Aにおいては、包括利益の理解が企業価値の正確な評価や適切な買収判断に欠かせません。為替変動や投資有価証券の含み損益など、当期純利益では把握できないリスクと機会を可視化することで、より精密な企業分析が可能となります。
本記事では、包括利益の基本的な概念から計算方法、財務諸表との関係、そして中小企業M&Aでの実務活用法まで、わかりやすく解説していきます。包括利益を正しく理解し、M&A成功への道筋を明確にしていきましょう。

包括利益とは?

企業の財務状況を正確に把握するためには、従来の当期純利益だけでは見えない部分があります。そこで注目されているのが「包括利益」という概念です。包括利益は、企業の真の業績をより包括的に捉えるための重要な指標として、2011年以降、日本の連結財務諸表で表示が義務付けられています。
中小企業のM&Aにおいても、包括利益の理解は企業価値の正確な評価や適切な買収判断に欠かせません。本セクションでは、包括利益の基本的な概念から、なぜこの指標が重要なのかまで、わかりやすく解説していきます。

包括利益の定義

包括利益とは、企業会計基準第25号「包括利益の表示に関する会計基準」において、以下のように定義されています。
「特定期間の財務諸表において認識された純資産の変動額のうち、株主との資本取引によらない部分」
これを分かりやすく表現すると、貸借対照表の純資産が期首から期末にかけてどれだけ変動したかを示す指標と言えます。ただし、株主による出資や配当金の支払いなど、株主との直接的な取引による変動は除きます。
包括利益は次の計算式で表されます。

包括利益 = 当期純利益 + その他の包括利益

ここで「その他の包括利益」とは、まだ確定していない含み損益のことを指します。具体的には、保有株式の時価変動や為替変動による影響、退職給付に関する調整額などが含まれます。

当期純利益との根本的な違い

当期純利益と包括利益の最も大きな違いは、確定済みの損益のみを扱うか、未実現の損益も含むかという点にあります。
当期純利益は、損益計算書で表示される確定済みの利益です。売上から費用を差し引いて計算され、企業の本業での稼ぐ力を示します。一方、包括利益は当期純利益に加えて、まだ現金化されていない含み損益も含めた、より広範囲な企業の業績を表します。
例えば、企業が保有する株式の価値が上昇した場合、まだ売却していなければ当期純利益には影響しません。しかし、包括利益では「その他有価証券評価差額金」として含み益が計上されます。これにより、企業の潜在的な価値変動も財務諸表に反映されるのです。
なお、その他の包括利益として計上された項目(例えばその他有価証券評価差額金など)が、将来的に売却などによって実現した場合、当期純利益に振り替えられることがあります。この際、過去にその他の包括利益として計上された額が当期純利益と二重計上されることを防ぐため、「組替調整」という会計処理が行われます。
この違いが特に重要となるのがM&Aの場面です。買収対象企業の真の価値を評価する際、当期純利益だけでは見えない資産の含み損益や為替リスクなどを包括利益によって把握できるからです。

導入された背景とIFRSとの関係

包括利益が日本の会計基準に導入された主な背景は、国際財務報告基準(IFRS)との整合性確保にあります。
1997年以降、IFRSや米国会計基準では包括利益の表示が定められていました。グローバル化が進む中で、日本企業も国際的な会計基準との調和が求められるようになり、2011年から日本でも連結財務諸表における包括利益の表示が義務化されました。
包括利益の導入により、以下のメリットが生まれています。
・透明性の向上:市場変動リスクの影響度がより明確に
・比較可能性の向上:国際基準を採用する企業との比較が容易に
・総合的な業績評価:企業活動の全体像をより正確に把握
特に中小企業M&Aにおいては、包括利益の理解により、買収対象企業の為替リスクや投資有価証券の含み損益など、当期純利益では見えないリスクや機会を事前に把握できます。これにより、より精度の高い企業価値評価と適切な買収価格の設定が可能となるのです。

包括利益の計算方法と仕組み

包括利益を実際に理解し活用するためには、その具体的な計算方法や構成要素の内容を正確に把握することが重要です。特に中小企業M&Aでは、これらの詳細な理解が適切なリスク評価や価格算定につながります。本セクションでは、包括利益の計算式から各構成要素の内容、そして計算書の見方まで、実務的な観点から解説していきます。

計算式と内訳

包括利益の計算は、次のシンプルな式で表されます。

包括利益 = 当期純利益 + その他の包括利益

当期純利益は損益計算書で表示される確定済みの利益です。一方、「その他の包括利益」は、まだ現金化されていない含み損益を指します。
具体的な計算例を示すと、ある企業の当期純利益が1,000万円、その他の包括利益が200万円だった場合、包括利益は1,200万円となります。この200万円の差額が、保有資産の時価変動や為替変動などによる未実現の損益を表しています。
包括利益は「純資産の期首と期末の差額(資本取引を除く)」とも表現できます。これにより、「期首の純資産+包括利益+資本取引=期末の純資産」という関係が成り立ちます。従来は「評価・換算差額等」として処理していた含み損益が、包括利益として明確に可視化されるようになったのです。
中小企業M&Aにおいて、この計算式を理解することで、買収対象企業の本当の価値変動を把握できます。当期純利益だけでは見えない潜在的な価値や リスクを包括利益によって発見できるため、より精密な企業評価が可能となります。

その他の包括利益に含まれる5つの項目

その他の包括利益は、主に以下の5つの項目から構成されます。

・その他有価証券評価差額金

保有株式や債券の時価評価による含み損益。上場株式の場合、取得価額と期末時価の差額が計上される。

・繰延ヘッジ損益

為替や金利の変動リスクをヘッジするデリバティブ取引の評価額。ヘッジ会計適用時に一時的に繰り延べられる損益。

・土地再評価差額金

過去に「土地の再評価に関する法律」に基づき再評価を行った場合に生じた評価差額。
※なお、現行の日本の会計基準では、IFRS任意適用企業や特定の状況を除き、事業用土地の時価評価による未実現の評価益をその他の包括利益として認識する会計処理は一般的ではありません。

・為替換算調整勘定

海外子会社の財務諸表を円換算する際に生じる差額。為替レート変動による影響を表す。

・退職給付に係る調整額

退職給付債務の数理計算上の差異や過去勤務費用の未認識分。

これらの項目は、いずれも企業が直接コントロールできない外部要因(市場価格、為替レート、金利等)の変動により発生します。中小企業M&Aでは、これらの項目の内容と金額を詳細に分析することで、買収後のリスクや機会を事前に特定できます。

計算書の見方と必須チェックポイント

包括利益計算書には2つの表示方式があります。
2計算書方式(主流)では、損益計算書と包括利益計算書を分けて作成します。損益計算書で当期純利益を算出した後、包括利益計算書でその他の包括利益の各項目を加減して包括利益を表示します。
1計算書方式では、「損益及び包括利益計算書」として1つの計算書で表示します。当期純利益の下にその他の包括利益の内訳を記載し、最終的に包括利益を表示します。
中小企業M&Aにおける必須チェックポイントは以下の通りです。

1.その他の包括利益の構成比率

どの項目が大きなウェイトを占めているかを確認し、リスクの所在を把握する。

2.過去数年間の推移

その他の包括利益の変動パターンを分析し、ボラティリティを評価する。

3.外部環境との関係性

為替や株価の変動とその他の包括利益の連動性を確認し、感応度を測定する。

これらのポイントを押さえることで、包括利益計算書から買収対象企業の真のリスクプロファイルを読み取ることができ、M&A成功の確率を高めることが可能となります。

包括利益と財務諸表の関係性

包括利益は、企業の財務諸表における各要素と密接に関連しながら、従来の会計構造に新たな視点をもたらしています。特に中小企業M&Aにおいては、これらの関係性を正確に理解することで、買収対象企業の真の財務状況をより的確に把握できるようになります。本セクションでは、包括利益と主要な財務諸表との相互関係について詳しく解説していきます。

貸借対照表との連動性

包括利益と貸借対照表の関係は、「クリーンサープラス関係」という概念を通じて説明されます。これは、「純資産の期首と期末の差額が包括利益と一致する」という基本的な会計原則です。
具体的には、「期首純資産 + 包括利益 + 資本取引(株主からの新たな出資や株主への配当など) = 期末純資産」という関係式が成り立ちます。これは、期末の純資産から期首の純資産を差し引いた変動額が、包括利益と株主との直接的な資本取引の合計額と一致することを意味します。
包括利益の導入により、貸借対照表の純資産部分にある「その他の包括利益累計額」(従来の「評価・換算差額等」)が明確に区分表示されるようになりました。この科目には、その他有価証券評価差額金、為替換算調整勘定、退職給付に係る調整額などが含まれ、包括利益計算書の「その他の包括利益」と直接的に連動しています。
中小企業M&Aでは、この連動性を理解することで、買収対象企業の資産価値の変動要因を正確に把握できます。例えば、投資有価証券を多く保有する企業の場合、株価変動が純資産に与える影響を包括利益を通じて定量的に分析することが可能となります。

損益計算書との重要な違い

損益計算書と包括利益計算書の最も重要な違いは、確定損益と未実現損益の取り扱いにあります。
損益計算書は、実際に現金化された収益や支払済みの費用に基づいて当期純利益を算出します。一方、包括利益計算書では、これに加えて「その他の包括利益」として未実現の損益も含めた総合的な業績を表示します。
例えば、企業が保有する投資有価証券の時価が上昇した場合

損益計算書:売却していなければ影響なし
包括利益計算書:含み益として「その他の包括利益」に計上

この違いにより、包括利益は企業の潜在的な価値変動をより包括的に捉えることができます。特に外国為替の影響を受けやすい企業や投資有価証券を多く保有する企業では、当期純利益と包括利益の差が大きくなることがあります。
中小企業M&Aにおいては、この違いを理解することで、買収対象企業の本当の収益力と市場リスクへの感応度を適切に評価できるようになります。

表示方法(2計算書方式が主流な理由)

包括利益の表示には、1計算書方式と2計算書方式の2つの方法がありますが、日本では約9割の企業が2計算書方式を採用しています。
2計算書方式では、従来の損益計算書とは別に包括利益計算書を作成し、当期純利益を出発点としてその他の包括利益を加減算して包括利益を算出します。
1計算書方式では、「損益及び包括利益計算書」として1つの計算書で表示し、当期純利益の下にその他の包括利益の内訳を記載して包括利益まで表示します。
2計算書方式が主流となっている理由は以下の通りです。

当期純利益の重要性維持:経営者や投資家が従来から重視している当期純利益を明確に区分表示できる。
分析の容易さ:当期純利益による企業の本業評価と包括利益による総合評価を分離して行いやすい。
比較可能性:従来の損益計算書の形式を維持し、過去のデータとの比較が容易。

中小企業M&Aにおいては、2計算書方式により、買収対象企業の本業による稼ぐ力(当期純利益)と市場変動による影響(その他の包括利益)を分けて評価することで、より精密な企業価値算定が可能となります。これにより、買収後のリスク管理や事業計画の策定にも活用できるのです。

包括利益がM&Aで重要な3つの理由

中小企業M&Aにおいて、包括利益は単なる会計上の指標を超えた重要な役割を果たします。従来の当期純利益だけでは見えない企業の真の姿を明らかにし、M&A成功の鍵となる要素を提供するからです。本セクションでは、包括利益がM&Aで重要とされる3つの理由について、具体的な事例とともに詳しく解説していきます。

企業価値評価における意義

包括利益は、M&Aにおける企業価値評価においてより正確で包括的な企業評価を可能にします。
従来のコストアプローチ(特に簿価純資産法)では、帳簿上の資産・負債のみを基準とするため、含み損益が反映されません。しかし、包括利益を考慮することで、以下のような隠れた価値やリスクを発見できます。
例えば、中小製造業のA社を買収検討する場合を考えてみましょう。当期純利益は1億円と安定しています。包括利益の分析に加え、M&Aのデューデリジェンスにおいては、以下のような会計帳簿には直接表れない潜在的な価値やリスクも評価します。
・保有株式の含み益(その他有価証券評価差額金としてOCIに影響):5,000万円
・工場用地の時価評価による含み益(M&Aにおける評価):2億円 (これは会計上の「その他の包括利益」として日常的に計上されるものではなく、M&Aの際の企業価値評価で把握されるものです)
・為替換算調整勘定(損失としてOCIに影響):▲3,000万円
この分析により、A社は当期純利益を上回る潜在的価値を持つ一方で、為替リスクにも晒されていることが判明します。こうした情報は、適正な買収価格の算定や買収後の事業戦略立案に不可欠です。
特に時価純資産法を用いる際、包括利益の構成要素を詳細に分析することで、清算価値と事業継続価値の両面から企業を評価できるようになります。これにより、買収価格の交渉において、より説得力のある論拠を提示することが可能となります。

含み損益を把握することでリスクを正確に評価できる

包括利益の最大の価値は、企業が抱える潜在的なリスクと機会を事前に特定できることにあります。
その他の包括利益に含まれる各項目は、市場変動に対する企業の感応度を示しています。
為替リスク評価:海外子会社を持つ企業の為替換算調整勘定を分析することで、円高・円安が与える影響を定量化できる。
金利リスク評価:繰延ヘッジ損益からデリバティブ取引の状況を把握し、金利変動リスクを評価できる。
市場リスク評価:投資有価証券の含み損益から、株価変動が企業価値に与える影響を測定できる。

中小商社のB社の例で考えてみましょう。包括利益の詳細分析により以下のリスクが発見されたとします。

・為替換算調整勘定が▲2億円:ドル安により海外子会社の価値が大幅減少
・その他有価証券評価差額金が▲8,000万円:保有株式の含み損による隠れた損失

これらの情報により、買収後の事業統合において為替ヘッジの強化や投資ポートフォリオの見直しが必要であることを事前に把握して、リスク管理戦略を策定することができます。

買収判断の精度が分析により大幅に向上する

包括利益の活用により、M&Aの買収判断がより精密で戦略的になります。
包括利益と当期純利益の差額分析により、以下のような重要な判断材料を得られます。

1. 本業の収益力と市場リスクの分離評価
・当期純利益:企業の本業での稼ぐ力
・その他の包括利益:市場環境変化への感応度
2. 買収後のシナジー効果の予測精度向上
・含み益の実現可能性分析
・統合によるリスク分散効果の定量化
・事業ポートフォリオ最適化の機会発見
3. 適正な買収プレミアムの算定

包括利益の構成要素を詳細に分析することで、純粋な事業価値と資産価値を分離し、適正な買収プレミアムを算定できます。
仮に中小IT企業のC社を買収した例をあげます。包括利益分析により以下の成果を得ました。

・当期純利益:3億円(安定)
・包括利益:2億円(その他の包括利益▲1億円)
・分析結果:保有する投資有価証券の含み損▲1億円が判明
・対応策:含み損の処理スケジュールを買収条件に明記し、価格調整条項を設定
この分析により、買収価格を当初提示額から1億円減額することに成功し、買収後の財務健全性も確保することができました。
包括利益の活用は、M&Aにおける情報の非対称性を減らし、買収者・売却者双方にとってより透明性の高い取引を実現します。これにより、M&A後の統合プロセスがスムーズに進み、期待されるシナジー効果の実現確率が大幅に向上するのです。

中小企業M&Aにおける包括利益の実務活用法

包括利益の理解を実際のM&A取引で活用するためには、具体的な実務手法を身に付けることが重要です。中小企業M&Aでは、限られた時間と資源の中で効果的に包括利益を分析し、取引の成功につなげる必要があります。本セクションでは、デューデリジェンス、価格算定、開示準備の3つの局面における包括利益の実務活用法を詳しく解説していきます。

デューデリジェンスで重点的にチェックする

財務デューデリジェンスにおいて、包括利益は買収リスクの発見と企業価値の正確な評価のための重要なチェックポイントとなります。
主要チェック項目は以下の通りです。

その他有価証券評価差額金の詳細分析
・株式、債券別の含み損益内訳確認
・取得時期と評価損益の推移分析
・流動性リスクや減損リスクの評価
為替換算調整勘定の変動要因分析
・海外子会社の所在国別内訳
・主要通貨ごとのエクスポージャー測定
・ヘッジ戦略の有無と効果検証
退職給付に係る調整額の詳細確認
・数理計算上の差異の発生要因
・過去勤務費用の未認識分
・制度変更による影響予測
実務的なアプローチとしては、過去3年間の包括利益の推移を分析し、パターンを特定することが重要です。例えば、為替変動に敏感な企業では、主要通貨の変動1%当たりの包括利益への影響度を定量化し、買収後のリスク管理方針の検討材料とします。
また、季節性や一時的要因の影響を除外した「正常化包括利益」を算出することで、企業の真の収益力とリスクプロファイルを把握できます。

適正な買収価格を算定する

包括利益は、M&Aにおける適正買収価格の算定精度を大幅に向上させます。
時価純資産法の調整では
・簿価純資産に含み損益を加減算して実質純資産を算出
・税効果を考慮した調整後純資産価値の計算
・含み損の実現可能時期を考慮した割引計算
DCF法への反映では
・その他の包括利益の正常化による事業CF予測の精度向上
・市場リスクファクターの変動が将来CFに与える影響の定量化
・統合シナジーとして含み益実現効果を織り込み

具体的な算定例を示すと、中小製造業D社の買収価格算定において
1.簿価純資産:10億円
2.含み益調整
・土地含み益:3億円(税効果後:2.1億円)
・投資有価証券含み益:1億円(税効果後:0.7億円)
・為替換算調整勘定:▲0.5億円
3.調整後純資産:12.3億円
4.営業権評価:事業CF予測に含み損益の正常化を反映
この分析により、従来の簿価ベースの評価より2.3億円高い企業価値を算定でき、より適正な買収価格を導出することが可能となりました。
重要なのは、含み損益の「実現可能性」と「実現時期」を慎重に評価することです。特に不動産の含み益については、立地や市況を考慮した現実的な評価が必要となります。

売却企業は開示内容を事前に整理する

売却企業側では、包括利益に関する情報の事前整理が円滑なM&A進行と適正評価獲得の鍵となります。
事前準備項目
包括利益計算書の精緻化
・各項目の詳細内訳資料作成
・変動要因の説明資料準備
・会計方針の明確化
含み損益の分析資料作成
・投資有価証券明細(銘柄別)
・不動産等の時価評価資料
・為替・金利感応度分析
リスク管理体制の文書化
・ヘッジ方針と実施状況
・市場リスク管理規程
・リスク報告体制の整備状況
セルサイド・デューデリジェンスの活用も効果的です。売却前に外部専門家による包括利益の詳細分析を実施し、以下の成果を得られます。
・買収者から想定される質問への事前準備
・企業価値向上のための具体的改善提案
・開示タイミングの最適化による価格最大化

売却企業にとって重要なのは、包括利益を「隠すべき情報」ではなく「企業価値を説明する重要な指標」として位置づけ、積極的かつ透明性高く開示することです。これにより、買収者との信頼関係を構築し、適正評価を獲得できる環境を整えることができるのです。

包括利益に関するよくある質問

包括利益について学ぶ過程で、多くの方が疑問に感じる点があります。特に中小企業M&Aの実務では、包括利益の理解が取引の成否に直結するため、正確な知識を身に付けることが重要です。本セクションでは、実務でよくある3つの質問について、具体例を交えながらわかりやすく解説していきます。
Q. 包括利益は当期純利益より重要な指標なのですか?
包括利益と当期純利益はそれぞれ異なる目的を持つ重要な指標であり、どちらが重要かは分析の目的によって異なります。当期純利益は企業の本業の収益力を示す確定済みの利益で、投資家や金融機関が企業の稼ぐ力を評価する際の基本的な指標となります。一方、包括利益は当期純利益に加えて含み損益を含めた、より広範囲な企業の価値変動を表します。M&Aの実務では、当期純利益で企業の安定的な収益力を評価し、包括利益で投資有価証券や為替リスクの影響度を分析するというように、両方の指標を併用することで企業の真の姿をより正確に把握できるのです。

Q. その他の包括利益とその他の包括利益累計額はどう違うのですか?

その他の包括利益は「当期の変動額」、その他の包括利益累計額は「これまでの累計額」を表す点で異なります。この違いは、損益計算書と貸借対照表の関係と同じで、その他の包括利益は包括利益計算書に表示される当期中に発生した増減額(例:当期の投資有価証券の含み益増加額+5,000万円)であり、その他の包括利益累計額は貸借対照表の純資産の部に表示される過去から累積した総額(例:過去からの投資有価証券の含み益累計額2億円)です。M&Aの実務では、この違いを理解することで企業が蓄積してきた潜在的価値とその変動トレンドを把握でき、買収後の統合戦略立案に活用できます。

Q. 含み損益と確定損益の違いがよく分からないのですが?

含み損益は「まだ現金化されていない評価上の損益」、確定損益は「実際に取引が行われて確定した損益」です。含み損益は帳簿上は計上されるものの現金化されておらず、市場価格の変動により日々変動し、売却等により実現すると確定損益となる特徴があります。一方、確定損益は実際の取引により確定した損益で、原則として現金流入・流出を伴い、一度確定すると変動しません。M&Aにおいては、含み損益の「実現可能性」と「実現タイミング」を慎重に評価することが重要で、例えば不動産の含み益は立地や用途制限により実現が困難な場合がある一方、上場株式の含み益は比較的容易に実現可能といった違いを踏まえた評価が必要となります。

まとめ|包括利益を理解してM&A成功につなげよう

包括利益は、中小企業M&Aにおいて企業の真の価値を理解し、成功率を高めるための重要な指標です。当期純利益では見えない企業の潜在的リスクと機会を可視化し、為替変動や投資有価証券の含み損益などを分析することで、買収対象企業の真の財務体質を把握できます。デューデリジェンスでの重点チェック、適正買収価格の算定、売却企業での開示準備において包括利益を戦略的に活用することで、より透明性が高く双方にとって納得感のあるM&A取引を実現できます。
 
 

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