株式交付とは?メリットや手続き、適用要件、株式交換との違いを解説

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2021年に施行された株式交付は、従来の株式交換や現物出資といったM&Aスキームの課題を補完する新たな制度として注目されています。

本記事では、株式交付の基本的な仕組みや類似制度との相違点を明確にしながら、株式交付のメリット・デメリット、さらに実際に必要となる手続きの流れについても分かりやすく解説します。

株式交付とは

株式交付とは、2021年3月1日に施行された改正会社法により導入された新たなM&A手法「株式交付制度」を指します。この制度を用いることで買い手企業が売り手企業の株式を取得し、その対価として自社の株式を交付できます。

ここでは、株式交付の仕組みや制度創設の背景について解説します。

定義

株式交付については、会社法にて次のとおり定義されています。

「株式交付 株式会社が他の株式会社をその子会社(法務省令で定めるものに限る。第774条の3第2項において同じ。)とするために当該他の株式会社の株式を譲り受け、当該株式の譲渡人に対して当該株式の対価として当該株式会社の株式を交付することをいう。」

会社法第2条は、会社法において使われる用語の定義を規定する条文で、他にもさまざまな用語が定義されています。

制度が創設された理由

株式交付制度は、株式を対価とするM&Aのニーズに応え、従来の手法の課題を解決するために創設されました。

同じM&A手法の「株式交換」は、完全子会社化を実現する手段としてよく利用されますが、必ずしも完全子会社化が前提ではありません。また、現金を使わずにM&Aを実行できる点で柔軟性がある手法といえます。そして、「現物出資」は規制や手続きが煩雑で実務的に利用されにくいという問題がありました。

また、税制面では株式譲渡益課税が売り手の負担となり、障壁となっていました。これを解決するため産業競争力強化法による特例が設けられましたが、申請手続きが煩雑で利用が進みませんでした。

そのため、2021年の改正会社法でより簡便な「株式交付制度」が導入され、M&Aが柔軟に進められるようになりました。

株式交付と他制度の違い

株式会社が他の株式会社を金銭ではなく株式を用いて買収しようとする場合の既存の方法として、「株式交換」と「現物出資」があります。

それぞれの制度との違いについて解説します。

株式交換との違い

株式交付と株式交換は、いずれも他社を子会社化するために自社株式を対価として用いるM&A手法であり、共通点も多い一方で、法的性質や柔軟性の面で明確な違いがあります。

株式交付が株式交換と比較して、どのように優れているかを分かりやすく解説します。

対価

株式交換では、親会社は自社株式のほかに、金銭のみの対価でも子会社の株式を取得できます。

これに対し、株式交付では原則として自社株式による交付が義務付けられており、金銭は対価の一部にしか認められていません。従って、株式交付では金銭のみの交付はできず、資本政策上の柔軟性に一定の制約があります。

親会社となる会社の種類

株式交換では、親会社となる企業は「株式会社」または「合同会社」とされており、比較的広い法人形態が認められています。

一方、株式交付では金銭のみの対価の支払いができないため、親会社として認められるのは「株式会社」のみに限定されており、合同会社は該当しません。

株式取得方法

株式交換は、親会社と子会社の間で「株式交換契約」を締結し、その契約に基づいて親会社が子会社の全株式を一括取得します。

これに対し株式交付では、親会社が子会社の株主全体に対して自社株式を対価として提示し、適法な手続きを経て子会社の株式を取得します。つまり、契約の相手が子会社かその株主か、という点に大きな違いがあります。

このように、株式交付は、一部の株主に継続保有してほしい場合や、100%買収までは行いたくない場合などの利用が想定されています。

取得する株式の数

株式交換では、対象企業を完全子会社化する必要があるため、対象企業の株式を100%取得しなければなりません。

一方、株式交付は完全子会社化を前提とせず、過半数や3分の2といった必要最低限の持株比率で柔軟に対応可能です。

特に、上場企業の少額買収やスタートアップとの連携などにおいて、資金負担を抑えつつ効果的な支配を実現できる点から、株式交付の活用は今後さらに広がると期待されています。

適格要件

株式交換が「適格株式交換」として認められるためには、親会社と子会社の支配関係(完全支配関係、支配関係、共同事業目的)に応じて要件が異なり、「株式以外の不交付」「事業の継続」「従業員の引き継ぎ」など、最大で七つの要件を満たす必要があります。適格要件を満たせば、譲渡損益への課税が繰り延べられ、帳簿価額での資産移転が認められるなどの税制上の優遇措置が適用されます。満たさない場合は「非適格株式交換」となり、時価課税が行われます。

一方、株式交付においては、2021年の税制改正により、対価のうち株式が80%以上を占めていれば、譲渡益課税が繰り延べられる制度が導入されました。株式交換に比べて要件がシンプルで、適格性の判断が容易である点が特徴です。

子会社の新株予約権の扱い

新株予約権とは、一定の期間内に、投資家や既存の株主がその権利を行使することによって、当該株式会社の株式を前もって決められた金額で取得できる権利を指します。

株式交換は完全子会社化を目的とするため、子会社の新株予約権が行使されると親会社の持株比率が変動し、支配関係が不安定になる恐れがあります。そのため、予約権の事前消滅や親会社の予約権との交換が必要です。

一方、株式交付は完全子会社化を前提とせず、親会社が子会社の株式の一部を取得する場合にも利用可能です。また、新株予約権の取り扱いについては、保有継続や譲渡、条件変更などの選択肢があるものの、法律や契約の制約を受けます。親会社が子会社の新株予約権を譲り受けることも可能ですが、具体的な手続きや条件の検討が必要です。株式交付のメリットとして、親会社の財務負担を軽減しつつ子会社の支配を強化する点が挙げられますが、自社株式を対価とする場合は希薄化リスクが発生する可能性もあります。

手続き方法

株式交換は、親会社と子会社の間で契約を締結し、株主総会での承認や債権者保護手続きなどを経て実施されます。

これに対し、株式交付では親会社が株式交付計画を定め、子会社の株主から個別に株式の譲渡申込を受ける形式です。手続き上、株式交付は個別対応が求められる分だけ柔軟性がある反面、煩雑さが増す側面もあります。

現物出資との違い

株式交付と現物出資は、いずれも企業の経営権取得や子会社化に活用される手法ですが、その仕組みや手続きには明確な違いがあります。

現物出資とは、会社の設立や増資時に金銭の代わりに不動産や設備、営業権、株式などの資産を出資する方法です。会社法第207条に基づき、出資物の価値が不明確な場合には裁判所選任の検査役による調査が必要となるなど、厳格な規制が課されています。

また、過大評価による不正を防ぐため、発起人や取締役が価値不足分を補填する義務も課せられることがあります。

一方、株式交付は、他社の株式を取得し、対価として自社の株式(必要に応じて一部現金を含む)を交付するスキームです。この制度はM&Aを促進する目的で2021年の会社法改正で導入され、株式交換や現物出資に比べて手続きが簡素で、企業価値を基準とした柔軟かつ合理的なスキームを組める点が特徴です。

M&Aで株式交付を用いるメリット

M&Aの手法として株式交付を用いるメリットは次のとおりです。

  • 資金調達の負担を軽減できる
  • スムーズな経営統合が可能
  • 連絡が取れない株主がいても実行できる(ただし、連絡が取れない株主に対しても通知や株式交付の手続きを適切に行う必要がある)

それぞれを解説します。

資金調達の負担を軽減できる

従来のM&A手法では、株式譲渡や事業譲渡など、買収対価として現金が必要なケースが多く、買い手企業にとって資金調達が大きな負担となることが一般的でした(ただし、株式交換や現物出資といった現金を伴わない手法も一部存在していました)。これに対し、株式交付では買い手が自社株を対価として子会社化できるため、現金の準備が不要となります。

資金に余裕のないベンチャー企業など、M&A資金の調達が難しい企業が買収を行う際に株式交付を活用するケースが増加しています。

スムーズな経営統合が可能

株式交付では、買収後も対象企業(子会社)が別法人として存続するため、すぐに経営統合を行う必要はなく、段階的かつ柔軟な統合が可能です。

また、売り手企業の法人格が存続することで、基本的に既存の契約関係や許認可の再取得といった手続きが不要となり、手続き上の負担が軽減されます。ただし、特定の契約条件や規制によっては影響を受ける場合もあるため、事前の確認が重要です。買収後も一定の独立性を保ちながら、計画的に経営統合を進めることが期待されます。

連絡が取れない株主がいても実行できる

株式交付は、対象会社(子会社となる会社)の株主総会決議を必要としません。

そのため、全ての株主の同意を得ることが難しい場合や、大株主との連絡が取れない場合でも、M&Aを進めることが可能です。

M&Aで株式交付を用いるデメリット・注意点

株式交付には次のようなデメリットがあります。

  • 対象は新規の子会社のみ
  • 国内の会社のみしか子会社化できない
  • 税制の優遇を受けられない場合も
  • 新制度であり活用に関する情報が乏しい

それぞれについて解説します。

対象は新規の子会社のみ

株式交付は、新たに他の株式会社を子会社化するために、自社株式を対価として実施するM&A手法です。主に新規の子会社化を目的として利用されますが、すでに子会社関係が成立している企業に対しても、追加の株式取得などを目的とした場合には適用されることがあります。ただし、すでに100%完全子会社化されている企業に対しては適用されません。

例えば、すでに議決権の50%超を保有している企業を対象に、さらに所有比率を高めたい場合には、株式交付ではなく、株式交換や現金対価での取得といった他の方法を用いる必要があります。

国内の会社のみしか子会社化できない

株式交付の対象となるのは日本国内で設立された株式会社に限られており、外国法人を親会社または子会社とすることはできません。

近年ケースが増加しているクロスボーダーM&Aに株式交付を適用することが認められていません。

税制の優遇を受けられない場合も

株式交付において税制優遇措置(課税の繰り延べ)を受けるためには、子会社株主に支払う対価のうち80%以上を親会社の自社株式とする必要があります。

つまり、現金など株式以外の対価を用いる場合には、それらの割合を全体の20%未満に抑える必要があります。

新制度であり活用に関する情報が乏しい

株式交付は柔軟なM&A手法として注目されていますが、制度の新しさゆえに実務上の情報や判例がまだ十分に蓄積されていません。

今後、新たな論点や課題が浮上する可能性もあるため、最新情報の把握が重要です。

税務面においては、国税庁が発信する株式交付に関するQ&Aのチェックや、国税局電話相談センターなどの公的な相談窓口を活用することが推奨されます。

株式交付を用いる場合の手続きの流れ 

株式交付は、買い手企業(親会社、交付会社)が主導して実施する会社法に基づく特別な手続きであり、対象会社(子会社)の株主に対して自社株式を対価として交付します。手続きの主体は主に買い手企業側ですが、対象会社の株主や経営陣にも一定の影響が及ぶ場合があります。   

親会社および子会社それぞれにおける手続きの流れについて解説します。

株式交付における親会社の手続きの流れ

株式交付の手法を用いたM&Aにおいて、親会社(買い手側)から見ると、株式交付は「部分的な株式交換」に近い性質を持つといえます。

そのため、法的には異なる制度であるものの、実施にあたっては株式交換に準ずる取締役会の決議や契約書の作成、場合によっては株主総会の特別決議といった手続きが求められます。

株式交付計画を作成する

まず、親会社は子会社株主に対して提示する株式交付計画を作成します。記載事項は次のとおりです。

  • 商号・住所
  • 取得予定株式数の下限
  • 対価と算定方法、資本金情報
  • 譲渡人への金銭交付の有無
  • 申込期日
  • 効力発生日

株式交付は子会社化を目的とした制度であるため、親会社は通常、対象会社の議決権の過半数以上を取得することを目指します。ただし、株式交付計画に具体的な「過半数超の株式数(議決権ベース)の下限」を明記することは、法律上の義務ではありません。

事前開示書類を備置く

株式交付に関連して、株主総会前に本店やウェブサイトで株式交付計画、貸借対照表、対価の相当性などを記載した事前開示書類を備え置き、株主や債権者が情報を閲覧できるようにします。

備え置き期間は、原則として株主総会の2週間前から効力発生日の6カ月後までです。

株主総会で計画の承認を得る

株式交付を行う際、原則として親会社は株主総会にて特別決議による承認を得る必要があります(会社法第816条の3第1項)。これは、株式交付という重要な取引について、株主自身に内容を判断してもらうために求められる手続きです。

ただし、交付する対価(自社株など)の合計額が親会社の純資産額の5分の1(20%)以下である場合は、「簡易株式交付」として、株主総会の承認は不要です(同法第816条の4第1項)。

なお、次のようなケースでは簡易株式交付は利用できません。

  • 株式交付差損が発生する場合
  • 親会社が非公開会社である場合
  • 株主からの一定数の反対通知がある場合(通知から2週間以内)

反対株主の株式買取請求、債権者異議手続き

株式交付において、親会社の株主や債権者が反対する場合には、それぞれ対応が求められます。

まず、反対株主は親会社に対して株式の買取請求を行うことができ、親会社はこれに応じて適正な価格で株式を買い取らなければなりません。ただし、簡易株式交付の場合は、この買取請求権は発生しません。

また、株式交付の対価に金銭が含まれる場合には、債権者異議手続きが認められます。債権者が異議を申し立てた場合、親会社は債務の弁済や担保の提供などによって対応しなければなりません。ただし、金銭などの対価が支払われない、あるいはその額が少額である場合には、異議申し立てが認められないこともあります。

株主へ通知・公告を行う

親会社は次のような通知・公告を行う必要があります。

まず、自社の株主(親会社株主)に対しては、株式交付を実施する旨の通知または公告を行います。これは、株式交付の計画や影響を株主に事前に知らせるための措置です。

一方、株式交付子会社の株主に対しては、株式交付計画の内容(譲受希望株式数、対価株式数、申込期限など)を記載した通知を行い、株式を譲渡する意思がある株主を募ります(会社法第774条の4第1項)。

譲渡を希望する子会社株主は、申込期限までに譲渡株式数などを記載した書面を提出しなければなりません(同条第2項)。

親会社はその申し込みを基に、譲受対象の株主と株式数を決定し、効力発生日前日までに通知を行います。通知の内容や対象によって法的要件が異なる点に注意が必要です。

株式の割り当てと通知

株式交付親会社は、申込者(株式交付子会社の株主)から譲り受ける株式を株式交付計画に基づき確定し、それぞれに割り当てる株式数を決定します(会社法774条の5第1項)。そして、効力発生日の前日までにその内容を申込者に通知する義務があります(同条第2項)。

 親会社は計画に基づいて譲受けの内容を決定するため、申込数全てを譲受けないケースもあり得ます。ただし、この判断は計画の範囲内で行われる必要があります。

なお、子会社化に必要な株式(過半数)を確保できない場合、株式交付が適法に成立する可能性はありますが、親会社はその結果として子会社化を達成できない場合があります。その場合、親会社が速やかに申込者全員に状況を説明することが実務上望ましいと考えられます。

また、総数譲渡契約(会社法774条の6)を締結する場合には、申し込み・割り当て手続きが一括で完了するため、上記の個別手続き規定の適用外となります。これは効率的な手続きを目的とした例外措置です。

株式交付の効力発生

株式交付の効力発生日を迎えると、親会社は、あらかじめ通知した内容に従って、自社株式を子会社株主に交付し、対価として子会社株式を正式に譲り受けます。これにより、株式交付による子会社化の手続きが完了します。

この時点で、申し込みを行っていた株主は、株式交付親会社に対して株式を譲渡する「譲渡人」となり(会社法774条の7第1項第1号)、指定された株数の株式を親会社に給付します(同法第774条の7第2項)。一方、これらの譲渡人は、新たに親会社の株主として登録されます(同法第774条の11第2項)。

事後開示書類を備置く

株式交付の効力発生日を迎えたら、親会社は事後開示書類を本店に備え置く義務があります。これは、株主や債権者などの関係者が内容を確認できるようにするための措置であり、会社法により定められています。

事後開示書類には、次の内容を記載します。

  • 株式交付の効力発生日
  • 譲り受けた子会社株式の数
  • 株式買取請求や債権者異議手続きがあった場合は、その経過

備置の開始時期は「効力発生日後遅滞なく」とされており、可能な限り速やかに対応することが求められます。備置の期間は効力発生日から6カ月間です。関係者からの閲覧希望があった場合には、これに応じる必要があります。

株式交付で子会社における手続きの流れ

子会社の株式が「譲渡制限株式」である場合には、株式の譲渡には譲渡承認手続きが必要です。

譲渡承認請求を行う

子会社の株式が「譲渡制限株式」である場合、株主が保有株式を親会社へ譲渡するには、あらかじめ子会社の承認を得る必要があります。この手続きは、通常の株式譲渡と同様に進められます。

まず、株式の譲渡を希望する子会社株主が、子会社に対して「譲渡承認請求書」を提出します。

株式譲渡の承認を得る

譲渡承認請求書の提出を受けて、子会社は取締役会(非設置会社の場合は株主総会)を開催し、譲渡の可否について普通決議を行います。承認された場合、株主は正式に株式を譲渡できます。

なお、承認が得られなければ、譲渡制限株式の譲渡は無効となり、親会社が必要な株式を取得できなくなるため、株式交付の前提条件を満たすことができません。このため、譲渡制限株式を有する子会社が株式交付の対象となる場合は、事前に承認手続きを適切に進めることが不可欠です。なお、承認手続きが遅れる場合や承認が得られない場合、株式交付計画の修正や中止が検討される可能性があります。

株式交付の税制・会計処理

株式交付に関係する税制や会計処理などについて解説します。

税制措置

株式交付は、M&Aを円滑に進めるために創設された制度であり、その普及を後押しするために税制上の配慮がなされています。

2021年の税制改正では、「株式譲渡損益の繰り延べ」措置が導入され、株主が保有株式を譲渡し、対価として買い手側の株式を受け取った際に発生する譲渡益に対する課税が繰り延べられるようになりました。

この繰り延べの適用を受けるには、対価として譲り受けた資産のうち、株式の価額が80%以上を占めることが条件です。金銭などの資産も対価に含まれる場合は、その割合に注意が必要です。

また、2023年の税制改正では、この課税繰延措置の適用対象が見直され、株式交付親会社が同族会社(株主が3人以下や親族経営など)の場合には、原則として適用対象外となりました。これは、同族会社による私的な節税目的での制度利用を防ぐことが目的です。

株式交付制度は本来、M&Aを円滑に進めるための制度ですが、改正後も同族会社の範囲や過去の取引の取り扱いなど、なお検討を要する課題が残されており、今後さらなる見直しが行われる可能性もあります。

会計処理

株式交付制度は2021年に施行されましたが、これに伴う新たな会計基準の制定や大幅な改正は行われていません。そのため、株式交付の会計処理は、既存の「企業結合に関する会計基準」などをもとに対応します。

株式交付は、同じく組織再編行為である株式交換と性質が類似しているため、会計上も原則として株式交換に準じた方法で処理されます。これは、企業結合に該当する場合には取得法を適用するという考え方に基づいており、取得者と被取得者の識別や対価の測定、のれんの認識などが求められる点も共通しています。

金融商品取引法との関係

株式交付は、会社法上の組織再編手段でありつつ、金融商品取引法(金商法)上も多くの規制が及ぶ行為です。

株式交付には「対象会社の株式取得」と「買収会社株式の交付」という二面性があり、取引内容によって公開買付規制や有価証券届出書の提出が求められる場合があります。特に買収会社が上場企業の場合、自社株の発行は金融商品取引法上の「募集」に該当し、開示義務が課されることがあります。

また、株式交付の決定は「適時開示」の対象でもあります。売り手が上場企業の場合には、公開買付を要し、会社法や金商法上の要件を満たすスケジュール調整が不可欠です。さらに、対抗買付けが発生した場合への備えとして、買い手側は柔軟な条件変更を可能とする株主総会決議を事前に得ておくことが望ましく、制度上の柔軟な運用が今後の実務で問われます。

株式交付の事例5選

株式交付が実際に行われた例を紹介します。

テクマトリックス株式会社とPSP株式会社

2022年1月、テクマトリックス株式会社は、PSP株式会社を株式交付により子会社化することを決議しました。さらに、テクマトリックスの連結子会社である株式会社NOBORIは、株式交付の効力発生を条件に、PSPを存続会社、NOBORIを消滅会社とする吸収合併を実施することも決定しました。

この統合により、医療関連ネットワークシステム分野における顧客基盤の拡大や、製品・サービスの機能強化、研究開発の加速を通じたシナジー効果を期待しており、事業領域の拡大と企業価値の向上を図る狙いがあります。

トレンダーズ株式会社と株式会社クレマンスラボラトリー

2021年12月、トレンダーズ株式会社は、株式会社クレマンスラボラトリーを株式交付により子会社化することを決議し、同社が発行する全株式(20株)を取得しました。買収対価3000万円のうち、約2165万円が現金、残りの約835万円が株式による支払いであったため、本件では株式譲渡損益の課税繰延要件は満たされなかったと推察されます。

本株式交付を通じて、トレンダーズは自社のマーケティングノウハウを生かし、美容医療・再生医療分野におけるDX支援や製品開発を推進し、業界課題の解決とグループ全体の企業価値向上を目指しています。

株式会社ソフトフロントホールディングスと株式会社サイト・パブリス

2021年11月、株式会社ソフトフロントホールディングスは、株式会社サイト・パブリスを株式交付により子会社化することを決議しました。本件は簡易株式交付手続により、株主総会の承認を経ずに実施されています。

この株式交付により、ソフトフロントホールディングスは、主力であるボイスコンピューティング関連のコミュニケーション基盤事業に加え、近接領域であるサイト・パブリスの事業を第二の柱として取り込み、経営の安定化を図るとともに、音声・動画・ウェブ分野での顧客基盤の拡大や提供価値の向上を目指しています。

GMOインターネットと株式会社OMAKASE

2021年5月、GMOインターネット株式会社は、株式会社OMAKASEを株式交付により子会社化することを決定しました。本件は、同年5月24日開催の取締役会において承認され、株主総会の決議を要しない簡易株式交付の手続きにより実施されました。

OMAKASEは、予約困難な高級飲食店に特化した予約管理サービスを展開しており、GMOインターネットは、同社の顧客基盤や予約サイト運営ノウハウが、自社のEC支援・決済事業とのシナジーを生むと判断し、グループへの迎え入れを決定しました。

本件を通じて、両社は経営資源とノウハウを融合させ、飲食店およびユーザー双方への提供価値の拡大を図るとともに、グループ全体の企業価値の向上を目指しています。

株式会社プロルート丸光とマイクロブラッドサイエンス株式会社

2021年6月、株式会社プロルート丸光は、医療機器や血液検査事業を展開するマイクロブラッドサイエンス株式会社(MBS)を株式交付により子会社化することを決議しました。

プロルート丸光は、従来の総合衣料卸売事業に加え、「美と健康」事業を新たな収益基盤と位置付けており、MBSとの提携を通じて医薬品や医療機器分野への本格参入を図ってきました。今回の子会社化により、MBSの製品販売ネットワークや研究機関・製薬会社との連携を生かし、OEM製造・輸出拡大といった新たな事業機会の獲得を見込んでいます。

株式交付に関するQ&A

最後に、株式交付に関するよくある質問とその回答を紹介します。

株式交付費とは何か

株式交付費とは、株式を発行または自己株式を処分する際に直接かかる費用を指し、株式交付という制度に限らず、広く株式を用いた資金調達に伴う支出全般のことをいいます。

2006年に施行された会社法により、新株発行に関する費用の範囲や取り扱いが明確化されました。これには、従来の「新株発行費」として扱われていた費用に加え、自己株式の処分に関連する費用も含まれるケースがあります。具体的には、広告費、金融機関や証券会社への手数料、目論見書や株券の印刷費、登録免許税などが該当します。これらの費用は、企業会計基準において「資本取引関連費用」として扱われることが一般的であり、通常は資本剰余金から控除される形で処理されます。

株式交付信託とは何か

株式交付信託とは、役員や従業員に対して自社株式を付与することで、インセンティブや財産形成を支援する「株式報酬制度」のひとつです。「株式給付信託」や「株式報酬信託」と呼ばれることもあります。

この制度は、信託を通じて、業績などに応じたポイントに基づき株式を給付する仕組みです。

2025年3月には、トヨタ自動車が一部幹部職向けに初めてこの制度を導入し、注目を集めました。

なお、本記事で解説しているM&Aにおける「株式交付」制度とは性質が異なります。株式交付信託が従業員や役員への報酬制度であるのに対し、株式交付制度は企業買収を目的とする手法であり、目的も仕組みも異なります。

株式交付がインサイダー取引に当たることはある?

株式交付は、親会社が子会社株式を取得し、その対価として自社株を交付する取引であり、「部分的株式交換」に近い性質を持ちます。ただし、株式交付が未公開の重要事実を利用して行われた場合には、金融商品取引法に基づきインサイダー取引に該当する可能性があります。そのため、取引を行う際には、情報の適法性や公開性に十分な注意が必要です。

このため、金融商品取引法では、親会社による株式交付の決定やその中止、子会社の異動を伴う株式取得、公開買付けの実施などがインサイダー取引規制の対象となる重要事実に該当します。

ただし、反対株主の株式買取請求や株式交付による株式の交付・受領については、特例としてインサイダー取引規制の適用除外とされています。

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株式交付は柔軟なM&A手法として、今後ますます注目されるでしょう。制度の活用によってメリットとデメリットがあるため、しっかり検討することが大切です。

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