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リストラクチャリングは、経営環境の変化に対応し、持続的な成長を実現するための重要な経営戦略のひとつです。単なるコスト削減や事業の整理にとどまらず、財務や事業、業務、ブランドといった複数の観点から、企業全体の構造を抜本的に見直すことで、競争力と収益性の強化を図ります。
本記事では、リストラクチャリングの主な対象領域やそれぞれの特徴、目的などを詳しく解説します。
目次
まず、リストラクチャリングについて基礎的な情報を紹介します。
「リストラクチャリング」とは、企業が経営環境の変化や業績不振に対応するために、事業や財務、組織・人材などの経営基盤を抜本的に見直し、立て直すための取り組みを指します。
リストラクチャリングは、単なるコスト削減にとどまらず、収益性や競争力の回復・強化を目指す中長期的な戦略です。企業構造をより持続的かつ効率的な形へと転換することを目的として、幅広い施策が講じられます。
リストラクチャリングの語源は、「再構築」や「再編成」を意味する英語の「restructuring」にあります。この言葉は、「再び」を意味する接頭辞「re」と、「構造」や「組織」を意味する「structure」を組み合わせたものです。
「structure」は、ラテン語の「structura(建てられたもの、組み立て)」に由来し、さらにその語源は「組み立てる」「築く」を意味するラテン語「struere」にさかのぼります。
つまり、「restructuring」とは「再び構築する」「再び組み立て直す」といった意味合いを持ち、企業や組織の在り方を根本から見直し、新たな形へと再編成するプロセスを表す言葉として用いられています。
リストラクチャリングと似た言葉は次のとおりです。
それぞれの意味と使い方を解説します。
「リストラ」は本来、「リストラクチャリング」の略で、企業の構造改革全般を指す言葉ですが、日本では一般的に「人員削減」や「希望退職の募集」といった人に関するコストカット策を意味する言葉として使われており、主に経営不振時の緊急対応として実施されます。
一方、リストラクチャリングは前述のとおり、企業の事業や財務、組織全体を戦略的に見直し、より持続可能で強固な経営体制を構築するための中長期的な取り組みを指します。つまり、リストラとリストラクチャリングとは同義であるものの、リストラはリストラクチャリングの一部の人員削減を指して表現されることが多いです。
リエンジニアリングは、既存の業務プロセスをゼロベースで見直し、業務の効率化や生産性向上を目的に再設計する取り組みです。対象となるのは業務フローや情報システム、部門間の連携などで、比較的現場レベルの業務改善にフォーカスしています。
例えば、「受注から出荷までの工程を一元管理するシステムに入れ替える」といった改革を行うなどです。
一方、リストラクチャリングは、企業全体の構造を再構築する戦略的な改革であり、事業の統廃合や資産売却、人員再配置、財務再建、M&Aなど、経営の根幹に関わる意思決定が含まれます。 簡単にいえば、リエンジニアリングは「仕事のやり方」の改革であり、リストラクチャリングは「会社のあり方」の改革です。両者は共に変革を目的としていますが、スケールと視点に大きな違いがあります。
リファクタリングは、主にソフトウエア開発の分野で使われる用語です。プログラムの外部仕様を変えずに、内部の構造を改善する行為を指します。可読性や保守性の向上を目的として行われるものであり、ビジネスにおける経営改革とは異なる概念です。
リファクタリングが「コードの最適化」であるのに対し、リストラクチャリングは「企業の経営基盤そのものを変える」包括的な施策です。両者は使われる文脈も目的も全く異なります。
「リストラクション」という言葉は、英語・日本語のいずれにおいても一般的には使われない表現であり、 おそらく「リストラクチャリング」や制限・規制を意味する「リストリクション」と混同されている可能性があります。
リストラクチャリングが必要になる背景や原因は、次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
経営判断の遅れや不適切な戦略によって、企業は市場環境の変化に対応できなくなることがあります。例えば、業界の構造転換に乗り遅れたり、不採算事業を抱え続けたり、過剰な投資が財務を圧迫したりするケースがあります。
こうした状態を放置すれば、企業の体力低下や資金繰りの悪化を招きかねません。抜本的な経営体制の見直しや、資源配分の再構築が不可欠となる局面では、リストラクチャリングが選択肢として浮上します。
急速な技術革新は、既存のビジネスモデルや製品価値を一変させることがあります。新たな技術を持つ競合が登場すると、従来の技術やサービスでは競争力を維持できなくなり、その結果、業績の悪化を招く恐れがあります。
製造業における自動化やAIの導入、小売業でのECシフトなどはその典型例です。企業が競争力を取り戻すには、事業構造や組織体制を現代の市場に適した形へと再設計する必要があり、この場合もリストラクチャリングが重要な手段です。
企業の外部環境には、自社の努力だけでは制御できない構造的なリスクが数多く存在します。新型コロナウイルスのような感染症の流行は、短期間で経済活動を停止させ、事業継続や働き方を根底から見直す契機となりました。
また、地政学的リスクや原材料価格の高騰は、供給網やコスト構造に深刻な影響を及ぼします。さらに、日本では少子高齢化が進行しており、労働力不足と国内市場の縮小が避けられない状況にあるのも事実です。
こうした要因が複合的に重なる中、既存の事業構造や収益モデルを維持することが困難になりつつあり、将来のリスクに備えてリストラクチャリングを視野にいれる企業が増えています。
リストラクチャリングには、次のような複数のメリットがあります。
それぞれを分かりやすく解説します。
リストラクチャリングは、財務体質の改善に直結する有効な手段です。例えば、遊休資産や非中核事業を売却することで資金を確保し、借入金の返済や資金繰りの安定化につなげられます。
また、債務条件の見直しや資本増強策を講じることで、自己資本比率の改善や財務の健全化も可能です。その結果、金融機関との信頼関係が深まり、将来的な資金調達力の強化にも寄与します。
リストラクチャリングを通じて、収益性に乏しい事業を見直し、将来性のある中核事業へと経営資源を再配分できる点も大きなメリットです。
これにより、限られた人材・資金・時間といったリソースをより効果的に活用できるため、企業全体の収益力を高められます。長期的な成長を見据えた経営改革において、資源配分の最適化は極めて重要な要素です。
リストラクチャリングで組織構造や人員配置を見直すことで、社内の意思決定や業務の進行を効率化できる点もメリットのひとつです。部門の再編や階層の簡素化により、役割や責任が明確になり、部門間の連携も向上します。
また、人材の適正配置によって個々の能力を最大限に発揮できる体制が構築され、従業員の意欲や組織の一体感も向上します。こうした柔軟な組織運営は、変化の激しい事業環境において迅速な対応を可能にし、企業の持続的な競争力を支える基盤となるでしょう。
リストラクチャリングによって、事業構造や財務状況が明確に改善されると、企業としての透明性や将来性が高まり、投資家や市場からの評価が向上する傾向があります。不採算事業の撤退や財務指標の改善により、企業価値の向上が期待され、株価や信用力にも好影響を及ぼす点もメリットです。
また、戦略の明確化や継続的な改革姿勢が示されることで、機関投資家や株主との信頼関係が強化されます。結果として、安定した資金調達や市場での競争優位性の確保が可能です。
リストラクチャリングの主な対象領域は、次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
収益構造の弱体化や資本効率の低下が見られる場合、財務構造そのものを見直すことが求められます。 財務指標の健全化を図るために、負債と自己資本のバランスや資産の流動性、資本コストの最適化といった観点で体制を整備することが大切です。
また、資本市場との対話を強化し、投資家からの信頼を確保することも財務構造の安定には欠かせません。これらは、資産売却や債務再編といった個別の手段とは異なり、財務の在り方そのものを再設計する取り組みと位置付けられます。
財務をリストラクチャリングすることを一般に「財務リストラクチャリング」といいます。さらに、財務リストラクチャリングは内容によって「アセットリストラクチャリング」「エクイティリストラクチャリング」「デットリストラクチャリング」に分類されます。
経営不振に陥った場合、企業が展開する各事業の役割や位置付けを再検討し、将来にわたって価値を生み出せる体制へと見直すことが求められます。市場の成長性や競争優位性、自社の強みとの整合性といった観点から、既存事業の再定義や役割の見直しを行い、長期的に競争力を維持できる事業ポートフォリオの構築を図ることが大切です。
新規事業への転換や事業構造の抜本的な見直しを通じて、企業の方向性そのものを再設計するプロセスといえます。事業をリストラクチャリングすることを一般に「事業リストラクチャリング」といいます。
業務面では、業務そのものの在り方や目的を問い直し、継続的な価値創出に資する仕組みに変革する必要があります。単に既存業務の効率化にとどまらず、「どの業務が本当に必要か」「顧客にとっての価値と一致しているか」といった根本的な視点から再構成を行います。
これは、組織の構造やプロセス、情報共有の仕組み、人材の役割設計を含む包括的な改革です。ITやデジタルツールの導入はあくまで一手段にすぎません。重要なのは、組織全体で「付加価値を生む業務」へリソースを集中的に配分できる体制を構築することです。
業務をリストラクチャリングすることを一般に「業務リストラクチャリング」といいます。
ブランドにおいては、顧客との接点やブランドメッセージ、提供価値を見直すことで、変化した消費者ニーズや社会的要請に応えるブランド戦略の再構築を図ります。これにより、企業のアイデンティティや信頼性を再強化し、顧客との持続的な関係を築く土台を整えることが大切です。
ブランドリストラクチャリングは、単なる広告戦略の変更にとどまらず、経営理念やビジネスモデルと連動した根本的な見直しが求められる領域です。ブランドをリストラクチャリングすることを「ブランドリストラクチャリング」または「ブランド再構築」といいます。
リストラクチャリングの主な手段は、次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
M&A(企業の合併・買収)は、戦略的なリストラクチャリングを推進する上で有効な手段のひとつです。 例えば、不採算事業を外部企業に売却することで経営資源の集中を図ったり、成長分野の企業を買収して事業の多角化や技術力を高めるなどです。
また、グループ再編や持株会社化といった組織再構築と組み合わせることで、統治体制の強化や意思決定の迅速化にもつながります。M&Aはリストラクチャリングにおいて、短期間で企業体制を大きく変革する有力な手段です。
スピンオフとは、企業が保有する一部の事業や子会社を分離し、独立した法人として新たにスタートさせる手法です。既存の経営体制では成長が制限されている事業を切り出すことで、より柔軟な経営判断が可能となり、その事業の競争力向上や企業価値の最大化が期待できます。
また、本体企業側にとっても、経営資源の集中と財務構造の整理が進むメリットがあります。株主への株式交付を伴う形式(100%スピンオフ)や外部売却との組み合わせなど、再編手段として高い柔軟性を持つ点も特徴です。
収益性の低い事業や拠点、サービスを見直すことは、経営の効率化を図る上で欠かせません。リストラクチャリングにおいては、事業規模の縮小や市場からの撤退、重複する部門や施設の統廃合が実施されることがあります。
こうした施策は、固定費の削減や資源配分の最適化を通じて、企業全体の収益構造の改善につながります。ただし、顧客離れや従業員の不安を招く恐れもあるため、影響範囲を慎重に見極めた上で、段階的に実行することが重要です。
人員削減は、リストラクチャリングの中でも最もセンシティブな施策のひとつです。収益改善やコスト構造の見直しを目的に、希望退職の募集や整理解雇などが行われるケースがあります。 即効性がある一方で、従業員の士気低下や企業イメージへの悪影響といった懸念も伴います。必要な人材の確保や再配置といった「攻めの人事戦略」と組み合わせることで、組織の活性化につながります。
自社で行っていた業務の一部を外部企業に委託するアウトソーシングは、業務効率の向上とコスト削減を目的にリストラクチャリングで活用される手段です。 特に、間接部門(経理や人事などのバックオフィス)の定型業務は外部に移管しやすく、専門業者による高品質なサービスが受けられる魅力があります。
さらに、コア業務への集中体制を構築することで、企業全体の競争力強化にもつながります。ただし、外注先の選定や契約管理、情報漏えいへの対策には注意が必要です。
近年では、生成AIを活用した業務改革もリストラクチャリングの手段として注目されています。文書作成やデータ分析、カスタマー対応など、これまで人手に依存していた業務にAIを導入することで、大幅な業務効率化とコスト削減が期待できます。
特に、定型的な業務の自動化は人的資源の最適配分に貢献し、創造性の高い業務へとシフトする土台を築けます。一方で、導入初期の教育コストや倫理的課題といった懸念もあるため、全社的な視点から段階的に活用を進めることが求められます。
リストラクチャリングを進める際に留意すべきデメリットと注意点は、次のとおりです。
それぞれを分かりやすく解説します。
リストラクチャリングにおいて人員削減を伴う場合、特に注意すべき点が労働法上の制約です。日本の労働法制では、解雇権の乱用が厳しく制限されており、合理的な理由がない解雇は無効とされます。
さらに、解雇の「合理性」や「社会的相当性」を企業側が証明する必要があり、そのハードルは非常に高いため、訴訟で敗訴するケースも少なくありません。仮に一度解雇したとしても、違法と判断されれば復職命令が下されることもあります。
こうした背景から、多くの企業では「退職勧奨」という手段を用いて人員整理を進めますが、この方法にもリスクは存在します。
本人の自由意思に基づく退職でなければならず、強要や不利益な圧力があったとみなされると、合意の効力が否定される可能性があります。そのため、退職勧奨を実施する際には、交渉記録の保全や複数回の面談、本人の納得形成など、慎重かつ誠実な対応が求められます。
リストラクチャリングは、人員削減でなくても配置転換を伴うことが多く、従業員にとって将来への不安や組織への不信感を引き起こす原因となり得ます。
特に、改革の目的や進め方が十分に共有されていない場合、現場では混乱が生じ、モチベーションの低下や優秀な人材の離職につながる可能性が高いです。その結果、期待された生産性向上や業務効率化が実現されず、かえって組織全体のパフォーマンスが低下する可能性もあります。
不採算部門であっても、そこには長年にわたり培われた技術や業務ノウハウ、熟練した人材が存在します。リストラクチャリングによって当該部門を縮小・売却したり、人員整理を行ったりすると、こうした知的資産が失われるリスクが高いです。
表面的な収支だけでは評価しきれない暗黙知や実務的な工夫が失われることで、将来的なイノベーションや業務改善を阻害する恐れもあります。
リストラクチャリングは、企業文化やブランドのあり方にも大きな影響を及ぼす可能性もあります。例えば、「雇用を守る」「社員を大切にする」といった文化を築いてきた企業が急な人員整理を実施すれば、従業員の信頼を損なうだけでなく、社外からも一貫性のない企業として見られかねません。
さらに、創業以来の理念や企業らしさが希薄化することで、ブランドイメージが損なわれるリスクも生じます。こうした文化的な側面は数値化しづらいものの、企業の持続的成長を支える重要な要素です。
リストラクチャリングには、中長期的な経営改善や競争力強化といった効果が期待されますが、その実行にはしばしば多額のコストが伴います。例えば、人員削減を行う場合には退職金や再就職支援費用、説明会や個別対応にかかる人件費などが発生します。
また、不採算部門の閉鎖にあたっては、違約金や契約解消費用、設備の撤去・廃棄費用なども無視できません。
さらに、資産の売却や事業撤退によって特別損失を計上することになれば、一時的に財務諸表が悪化し、外部評価にも影響を及ぼす可能性があります。 たとえ一時的なコストであっても、キャッシュフローや自己資本比率に与える影響は大きく、慎重なシミュレーションと資金繰りの管理が不可欠です。
リストラクチャリングを成功に導くために、押さえておきたいポイントは次のとおりです。
それぞれを詳しく解説します。
リストラクチャリングの成否は、初期段階で「何を、なぜ、どう変えるのか」といった目的と全体像を明確に描けているかどうかに大きく左右されます。単なるコスト削減や人員整理にとどまらず、経営課題の本質を見極めた上で、再構築のゴールとプロセスを明確にすることが重要です。
そのためには、財務や事業、組織といった複数の視点から現状を客観的に分析し、経営戦略との整合性をもった改革方針を策定することが求められます。組織全体で共有できる一貫したストーリーがなければ、現場の理解が得られず、改革が形骸化するリスクもあります。
リストラクチャリングを構想だけで終わらせないためには、段階的かつ具体的な実行計画を策定し、あわせて成果を測定・評価する仕組みを整備することが不可欠です。
スケジュールや担当部署、KPI(重要業績評価指標)などを明確に定め、進行状況を可視化しながら管理することで、実行力が高まります。また、状況の変化に応じて柔軟に軌道修正を図れる体制を整えておくことも重要です。
さらに、短期的な成果にとどまらず、中長期的な効果も継続的に検証することで、改革の定着と持続的な価値創出が可能になります。
リストラクチャリングを現場で円滑に機能させるためには、従業員の理解と納得が欠かせません。
特に、人員配置の見直しや組織体制の変更を伴う場合は、一方的な指示にとどまらず、改革の目的や意義を明確に伝え、丁寧に説明することが求められます。不安や誤解を放置すれば、上述したように従業員のモチベーションの低下や反発を招き、改革の実効性が損なわれる可能性が高いです。
また、現場と経営の橋渡し役となる中間管理職の巻き込みが重要です。ミドルマネジメントの理解と協力があってこそ、現場への浸透と施策の定着が実現します。
リストラクチャリングを円滑に進めるには、取引先や金融機関、株主、従業員など、企業活動に関わる多様な利害関係者に対して、改革の目的や影響を的確に伝えることが不可欠です。実行前の段階で丁寧な説明を行うことで、誤解や不信感の拡大を防ぎ、信頼関係の維持・強化につながります。
例えば上場企業であれば、株主や市場に対する継続的なIR(投資家向け広報)を通じて、進捗や経営方針を透明性高く発信することが求められます。
リストラクチャリングは、経営危機や市場環境の急変に対応するための有効な手段ですが、本来は「行わざるを得ない状況」自体を未然に防ぐことが理想的といえます。リストラクチャリングが不要な組織づくりのために大切なことは、次のとおりです。
それぞれを分かりやすく解説します。
売り上げや変動費は景気や市場環境に左右されやすい一方で、固定費は企業が主体的に管理できる領域です。そのため、家賃や人件費、設備維持費といった固定費を常に適正な水準に保つことが、経営の柔軟性を確保する上で重要です。
固定費が過剰な体制では、売上が一時的に落ち込むだけでも経営に支障をきたし、大規模なリストラクチャリングを余儀なくされるリスクが高まります。
社会や市場の変化に一度で対応しようとすると、大規模な構造改革が必要となり、時間やコストの負担、社内の混乱が生じることも少なくありません。
しかし、環境の変化を日常的にモニタリングし、早い段階で兆候を察知できれば、大規模な改革をせずとも、局所的な対応で問題を最小限に抑えられます。例えば、顧客ニーズの変化に応じて商品ラインアップを段階的に見直す、業務プロセスの無駄を定期的に洗い出す、人事評価制度を時代に合わせて柔軟に設計し直すといった取り組みは全て「微修正による適応経営」の一環といえます。 これにより持続可能な組織運営をの礎を築くことができます。
経営環境が大きく変化した場合でも、組織内で迅速に対応を完結できる体制が整っていれば、大規模な再編や人材の入れ替えに頼る必要はありません。
その鍵が、多様なスキルを持つ柔軟な人材の育成です。例えば、特定の職種にとらわれず、複数の領域で活躍できる人材を増やすためには、職種横断的なローテーションや兼務制度の導入、定期的な配置転換が効果的です。合わせて、社内教育やリスキリングの支援を通じて、変化に応じて役割を変えられる基盤を整える必要もあります。
リストラクチャリングの代表的な成功事例を紹介します。
2010年代前半、シャープでは過剰投資の継続やグローバル市場における競争力の低下を背景に、財務状況が急激に悪化しました。資金繰りの窮迫(ひっぱく)に直面する中、2012年に人員削減を実施。2016年には台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業の支援を受け入れ、外資系企業の傘下に入るという大きな経営判断を下しました。
資本提携と並行して、同社は役員人事の刷新を含む経営体制の見直しを行い、不採算事業の整理や保有資産の売却、間接部門のスリム化などを通じて、財務体質の抜本的な再構築を推進しました。これらの改革により、長年続いた赤字体質からの脱却に成功し、再び健全な経営基盤を取り戻すことに成功しています。
参考:日税経営情報センター
パナソニックは、長年にわたり「総合電機メーカー」として多角的に事業を展開してきましたが、グローバルな競争激化と市場の成熟化に直面し、2012年から2013年にかけて7,500億円以上の赤字となり、抜本的な事業再編を迫られました。
同社はテレビやプラズマディスプレイなど採算性の低い事業から段階的に撤退し、住宅設備や車載機器、エネルギー関連といった成長性の高い中核事業へと経営資源を集中させました。
さらに、社内カンパニー制を導入し、各事業部門の採算責任を明確化することで、迅速な意思決定と柔軟な対応を可能にする組織体制を構築しました。これにより、収益構造の安定と中長期的な競争力の強化を実現しました。 2021年にはカンパニー制を廃止し、持株会社制へと移行しています。
参考:日本経済新聞
1990年代後半、日産自動車は長期の赤字経営と巨額の有利子負債を抱え、深刻な経営危機に直面していました。1999年、フランスのルノーと資本提携を結び、CEO(最高経営責任者)に就任したカルロス・ゴーン氏のもとで「日産リバイバルプラン」を始動。
この改革では、不採算事業や車種の整理、工場の閉鎖、約2万人規模の人員削減など、従来の体制を大きく見直す大胆な構造改革が実行されました。さらに、縦割り的な組織文化を刷新し、成果主義と迅速な意思決定を重視する経営スタイルへと転換しています。
その結果、改革実施からわずか1年で黒字転換を達成し、企業再生の成功モデルとして高く評価されました。
最後にリストラクチャリングに関する質問とその回答を紹介します。
リストラクチャリングに要する期間は、対象範囲や施策の規模によって異なります。人員配置や部門統合のような比較的小規模な改革であれば、数カ月〜1年程度で完了することもありますが、複数事業の整理やM&Aを含む抜本的な再編であれば、計画立案から実行、定着までに2〜5年を要するケースが一般的です。
短期的な成果を急ぎすぎると、現場の混乱を招く恐れがあるため、段階的かつ持続的に進めることが成功のポイントです。
リストラクチャリングにかかる費用は、その内容や規模によって大きく異なります。例えば、人員削減を伴う場合には、退職金や再就職支援などの費用が発生し、場合によっては数千万円から数十億円規模になることもあります。
また、資産売却による損失計上や業務システムの再構築、コンサルタントや専門家への報酬なども含めて検討が必要です。
これらの費用は一時的に財務状況に悪影響を与える可能性があるため、単なるコストではなく、将来的な収益改善への投資と捉え、費用対効果(ROI)を意識した計画立案が求められます。
中小企業にとってもリストラクチャリングは重要です。むしろ、経営資源が限られている中小企業こそ、収益性の低い事業の見直しや人員・業務の再配置、遊休資産の有効活用などを通じて、効率的な経営体制を構築する必要があります。
特に後継者の交代や事業承継の局面では、組織や財務構造を再構築する好機と捉えられるでしょう。最近では、中小企業診断士や商工会議所といった公的支援機関のサポートを活用し、外部の知見を取り入れながら改革を進める企業も増えています。
海外に拠点を持つ企業でも、リストラクチャリングは有効な手段です。ただし、各国で労働法や商習慣が異なるため、日本国内と同じ進め方ではトラブルを招く恐れがあります。
例えば、整理解雇の手続きや交渉に関して、厳格な法的手続きが義務付けられている国もあります。そのため、現地の制度や文化的背景を踏まえた慎重な判断が欠かせません。実行にあたっては、現地法人の経営陣や法務部門、必要に応じて現地専門家と連携を図ることが、リスクを抑えつつ効果的に改革を進めるポイントです。
リストラクチャリングと後継者問題には密接な関係があります。事業承継を控えた企業では、後継者が自らの経営方針に基づき、不要な事業の整理や財務体質の見直し、組織のスリム化を進めるケースが少なくありません。
これは、次世代の経営を見据えた「土台づくり」として、リストラクチャリングが位置付けられます。とりわけ中小企業においては、承継のタイミングが改革の好機になりやすく、後継者がリーダーシップを発揮して変革を主導することも多いです。
リストラクチャリングは、企業が持続的に成長し続けるための重要な戦略です。経営環境の変化に対応し、競争力を高めるために企業は時折、組織の構造を根本から見直す必要があります。特にM&A(合併と買収)の場面では、リストラクチャリングは成功の鍵を握っています。
M&Aは企業の成長戦略として利用されますが、その過程で組織の統合や経営資源の再配置が求められます。適切なリストラクチャリングを行うことで、シナジー効果を最大化し、経営の効率化と競争力の向上を実現することが可能となります。
M&A、その他の経営課題に関するお悩みがありましたら、ぜひM&Aロイヤルアドバイザリーにご相談ください。
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