着手金・中間金無料 完全成功報酬型
「負ののれん」は、企業買収の際に買収対価が時価純資産額を下回る場合に発生する会計上の概念です。通常ののれん(正ののれん)とは対照的に、負ののれんは発生時に一括で利益として計上されるインパクトの大きい項目ですが、その裏には簿外債務や訴訟リスク、経営破綻の兆候など、見逃せないリスクが潜んでいます。
本記事では、負ののれんの定義や仕訳例や会計・税務処理などを体系的に解説します。さらに、RIZAPなどの実例から、実務における注意点や活用場面も紹介します。
目次
まず、負ののれんに関する基本的な知識について解説します。
負ののれんとは、企業の買収時に支払った買収価格が、対象企業の時価純資産額を下回った場合に生じる差額のことです。
通常、M&Aにおける買収価格は時価純資産額にブランド力やノウハウ、人材などの無形資産の価値を上乗せして決定されるため、負ののれんが発生するケースは例外的です。買収先に財務上の懸念や将来の損失リスクがある場合や、売り手側の意向によって買収価格が低く抑えられた場合などに発生します。
のれんとは、企業の買収において買収価格が対象企業の時価純資産額を上回った場合に発生する差額のことです。これは、企業のブランド力や顧客基盤、人材、立地など、帳簿に現れない将来的な収益源(=無形資産)に対して支払われる対価とされ、会計上は「無形固定資産」として資産計上されます。
例えば、純資産が1,000万円の企業を2,000万円で買収すれば、1,000万円ののれんが発生します。
のれん償却とは、買収によって発生したのれんを一定の年数にわたって費用化していく処理のことです。日本では、一般的にのれんは20年以内の合理的な期間で定額償却されます。
これは、のれんが永続的な資産ではなく、時間の経過とともに価値が失われると見なされているためです。例えば、1,000万円ののれんを10年で償却する場合、毎年100万円が費用として損益計算書に計上されます。
海外では、負ののれんは「Bargain Purchase Gain(バーゲン・パーチェス・ゲイン)」と呼ばれます。国際会計基準(IFRS)では、買収価格が時価純資産額を下回る場合、その差額は発生時点で利益として一括認識されます。ただし、取得資産と負債の再評価を厳格に行い、その合理性が確認された場合に限り認識されます。
海外では、ディール競争が激しく、企業価値が市場性を反映した形で正確に評価される傾向があるため、日本よりも負ののれんが発生する機会は少ないとされています。発生した場合は、異常事象とみなされ、投資家や監査人から特に注目されることになります。
なお、日本基準では負ののれんが「特別利益」として認識されますが、IFRSでは通常の利益として計上されるため、処理方法に違いがあります。
負ののれんの仕訳方法と仕訳例について解説します。
負ののれんが発生した場合、会計上では取得時に特別利益として損益計算書に一括計上されます。継続的な収益ではなく、買収時点の取引条件による例外的かつ一時的な利益とみなされるため、正ののれん(通常ののれん)のように貸借対照表に計上して償却することはありません。損益計算書上は「負ののれん発生益」や「特別利益」として表示されます。ただし、国際会計基準(IFRS)では「特別利益」という区分はなく、通常の利益として認識されます。
一方、税務上では負ののれんが「差額負債調整勘定」として認識され、通常5年間にわたって益金に織り込む処理が行われます。これは、課税所得を平準化する目的があります。会計処理と税務処理のタイミングが異なるため、繰延税金負債の計上など税効果会計の適用が必要となる点に注意が必要です。
例えば、ある企業が保有する資産が「現金100万円」「建物2,500万円」、負債が「借入金1,000万円」だったとします。この場合、資産合計(2,600万円)から負債(1,000万円)を差し引いた時価ベースの純資産は1,600万円です。
これに対し、買収側が1,500万円の対価でこの企業を買収したとすると、買収対価が純資産より100万円低くなります。この差額の100万円は、会計上「負ののれん」として扱われ、特別利益として一括計上されます。
借方 | 貸方 | ||
現金預金 | 1,000,000円 | 借入金 | 10,000,000円 |
建物 | 25,000,000円 | 現金 | 15,000,000円 |
負ののれん発生益 | 1,000,000円 |
負ののれんが発生する原因として、次の点が挙げられます。
・経営状況の悪化
・売り手が迅速な売却を希望する意向
・企業再編の一環としての意図的な安価譲渡
・簿外債務の存在
・訴訟リスクの存在
・事業継続リスクの高さ
それぞれについて解説します。
企業の経営が悪化しており、将来的な業績の改善が見込めない場合、時価純資産額を下回る買収価格に設定されることがあります。
特に「赤字が慢性化している」、「債務超過に近い」、「資金繰りに窮している」といった状態にある企業は、売却を急ぐ傾向があり、割安な価格での買収が成立しやすいです。
負ののれんは、売り手の意向によっても発生することがあります。例えば、オーナー経営者が高齢や健康上の理由で早期に事業を手放したいと考えている場合、時価純資産額よりも低い金額でも譲渡が成立し、負ののれんが発生するケースがあります。
また、買収先の文化や経営方針に共感し、従業員の雇用維持や事業継続性を優先する場合、「金額より信頼」を重視して譲渡する選択がなされることもあります。中小企業のM&Aや事業承継では、特にこの傾向が顕著です。
グループ内再編や親会社主導の統合プロジェクトにおいて、戦略的判断として市場価値よりも低い金額で子会社や事業部門を譲渡するケースがあります。例えば、赤字部門の早期整理や地域拠点の統廃合、持株会社体制の再編成といった状況下で見られます。
このような場合、買収対価は純資産評価よりも意図的に引き下げられるために「負ののれん」が発生しますが、背景には資本効率の改善、税務戦略、グループガバナンスの再構築といった目的があります。
負ののれんの代表的な原因の一つが、簿外債務の存在です。これは、決算書上に計上されていないにもかかわらず、将来的に支払義務が生じる可能性がある債務を指します。具体例としては、第三者への債務保証や未払残業代、未認識の退職給付債務、関連会社への連帯保証などが挙げられます。
買収先企業にこのような債務が存在する場合、買い手はそのリスクを織り込んだ価格設定を行うため、時価純資産額を下回る買収額となり、結果として負ののれんが発生します。
企業が訴訟リスクを抱えている場合、将来の損害賠償金や訴訟費用を見越して、買収価格が引き下げられることがあります。
例えば、製品トラブルや不正会計、内部通報、労働問題などを背景に訴訟や行政指導が想定される場合、買い手はそのマイナス要因を考慮して慎重な価格交渉を行います。これにより、純資産額よりも低い買収価格となり、負ののれんが発生します。
負ののれんは、買収対象企業に将来的な重大な事業リスクが存在すると判断された結果、そのリスクが買収価格に反映されることで発生することがあります。例えば、特定の地域や業種への依存度が高い企業が市場環境の変化や規制強化によって業績悪化のリスクを抱えている場合が該当します。
また、主力製品が時代遅れとなり販売が低迷していたり、顧客離れが進んでいたりするケースも、長期的な事業継続性に対する懸念材料とみなされ、結果的に買収価格が時価純資産額を下回る要因となります。
なお、負ののれんが発生する場合には、買い手側が財務デューデリジェンスや事業デューデリジェンスを通じてリスクを評価し、取得資産や負債の時価評価を厳密に行う必要があります。特に国際会計基準(IFRS)では、負ののれんの合理性を確認した上で認識されるため、このプロセスが重要です。
買収対象企業が清算手続きを選択しにくい場合、譲渡価格が時価純資産額を下回り、負ののれんが発生することがあります。例えば、顧客資産を大量に預かる事業者や利害関係者が多いファンド運営会社では、清算による返還コストや風評リスクを避けるため、安価で事業譲渡が行われることがあります。
負ののれんが発生する際は、取得資産や負債の時価評価が適切に行われ、合理性が確認される必要があります。特に国際会計基準(IFRS)では、発生の背景や合理性について厳密な評価が求められます。
負ののれんが発生する場合、リスクやデメリットが多いのは事実ですが、次のようなメリットも存在します。
それぞれについて解説します。
負ののれんが発生すると、その差額は会計上、特別利益(または通常の利益)として一括計上されます。これにより、財務諸表上の業績が改善し、短期的に株主や金融機関からの信頼回復につながる可能性があります。
低い買収価格で相応の資産や事業を取得できる場合、資金効率の高い投資が実現し、キャッシュフローや投資利益率(ROI)が改善する可能性があります。また、担保価値の増加や資金調達コストの低下といった副次的な効果も期待されます。
買収先との戦略的な補完関係があれば、顧客基盤や技術・ノウハウの統合を通じて売上拡大やコスト削減が可能です。ただし、シナジー効果は買収後の統合が成功した場合に限られるため、慎重な評価が必要です。
負ののれんが発生することで、買収対象企業を純資産の時価よりも安く取得できるため、資産の効率的な活用が可能です。特に不動産や有形資産を中心とする企業では、低コストでの資産取り込みが期待されます。
負ののれんは特別利益として一括処理されるため、正ののれんに伴う償却や減損負担が発生しません。このため、利益計画の見通しを立てやすくなります。
なお、負ののれんが発生する背景には事業継続リスクや簿外債務、訴訟リスクなどが含まれることが多いため、買収対象企業のリスク評価を慎重に行う必要があります。また、国際会計基準(IFRS)では「特別利益」としてではなく、通常の利益として認識されるため、会計基準による処理の違いにも留意が必要です。
負ののれんによるデメリット・リスクとして次の点が挙げられます。
それぞれについて解説します。
負ののれんは買収時の差額をその年度に一括して利益として計上するため、損益計算書上は大きな利益が発生したように見えます。しかし、これは継続的な収益ではなく、一時的な利益に過ぎません。負ののれんが発生する背景には業績悪化や将来リスクが織り込まれている場合が多く、買収後に赤字転落する可能性もあります。
負ののれんによる一時的な利益が膨らむことで、実際の営業活動による収益と見分けがつきにくくなり、投資家やアナリストに誤解を与えるリスクがあります。特に国際会計基準(IFRS)では特別利益の区分がなく、営業成績が実力以上に良く見えることがあります。このため、企業評価や将来予測に誤認が生じる恐れがあります。
負ののれんによる利益は本質的な収益力とは無関係であるため、投資家や金融機関から「見せかけの利益」と懐疑的に受け取られる可能性があります。継続的に負ののれんが発生する企業は、買収依存体質とみなされ、資本市場でネガティブに評価されることもあります。
負ののれんが発生する企業はリスク要因を抱えている場合が多く、買収後に簿外債務の発覚やリストラ、不採算部門の整理など追加コストが発生する可能性があります。これにより、当初想定していたシナジーが得られず、経営負担が増加することがあります。
負ののれんは税務当局から「適正な時価評価がなされていない」と判断される場合があります。特に同族間取引や関係会社間取引では、恣意的な価格設定とみなされ、追徴課税の対象となるリスクがあります。負ののれんが繰り返し発生している場合は税務調査で重点確認される可能性が高まります。
負ののれんが発生した場合の会計処理について、買い手側・売り手側それぞれの場合について解説します。
日本基準では、負ののれんが発生した場合、買い手側企業はその差額を損益計算書上の「特別利益」として一括計上します。この利益は「負ののれん発生益」として特別利益に分類されますが、重要性が低い場合には「営業外収益」として計上されることもあります。負ののれんは貸借対照表に資産計上されず、償却や減損処理も不要です。
IFRSでは、負ののれんによる利益も取得時点で一括計上されます。ただし、IFRSには「営業利益」や「特別利益」の表示区分が設けられていないため、負ののれんの利益は「その他の収益」や「事業利益」の一部として表示されることが一般的です。このため、収益の構成が日本基準とは異なる形式になりますが、IFRSでは透明性を重視した表示ルールが採用されています。
負ののれんが発生する場合、売り手側では譲渡価格が時価純資産額を下回るため、損失として会計処理することになります。この損失は「営業外費用」や「特別損失」に分類される場合が多く、譲渡の背景や時価評価の合理性が厳密に確認される必要があります。
会計上、負ののれんは特別利益として一括計上されますが、税務上は段階的に益金として認識する処理が採られます。具体的には、負ののれんに相当する金額を「負債調整勘定」として分類・計上し、その後一定期間にわたり益金に算入します。
なお、税務上の負債調整勘定には、次の三つがあり、それぞれの性質や期間に応じて処理方法が異なります。
これらはいずれも最終的には益金算入(課税対象)となるため、発生時に会計上で利益計上されていても、税務上のタイミングは分割・繰延されます。税効果会計の適用対象にもなりうるため、適切な仕訳と管理が求められます。
退職給与負債調整勘定とは、買収に伴い引き継がれた従業員の退職給付債務に関する税務上の調整項目を指します。これは、買収時点で従業員に支給が予定されている退職金など、会計上引当金として計上されていないが、経済的に債務とみなされる金額を対象とします。
具体的には、退職給付債務が実際に従業員の退職により支払われたタイミング、または従業員が退職したタイミングで課税対象に復帰する仕組みです。この処理は、買収時の財務状況を正確に反映するとともに、将来の支出に応じた税務処理を行うことを目的としています。
なお、この勘定科目が適用される場合には、適切な時価評価や税務規定に基づく対応が求められるため、専門的な会計・税務の指導が必要です。
短期重要負債調整勘定は、買収企業が引き継いだ将来債務のうち、3年以内に発生が見込まれる特定の債務に対して設定される調整項目を指します。対象となる債務には、環境修復義務、未契約のリース料、営業補償、クレーム対応費用などが含まれます。
この勘定は、①実際にその債務に対応する損失が発生した場合、または②3年経過時に未発生であった場合、いずれかの時点で税務上益金として算入されます。このため、税務処理では将来債務の精査が求められ、会計上の処理との間に一時差異が生じる可能性があります。
なお、この勘定科目が適用される場合には、税務規定や報告基準に基づく適切な対応が必要です。
差額負債調整勘定は、税務上の負ののれんに関する調整項目の一つであり、買収に伴い発生した負ののれんの差額を税務上の益金として分割して認識する仕組みを指します。この勘定は、60カ月(5年間)にわたり均等に益金に算入されることが求められています。
会計上では負ののれんは一括で利益として認識されますが、税務上は課税所得への反映が分割されるため、会計と税務の間に一時差異が生じます。このため、繰延税金負債の計上が必要になる場合があり、税効果会計による適切な対応が求められます。
税務処理を行う際には、差額負債調整勘定の金額が適正に評価されていること、またその根拠が税務当局によって認められる必要があります。
実際に負ののれんが発生した日本国内の事例を取り上げ、その背景や影響について解説します。
RIZAPグループは、業績不振の企業を次々と買収する戦略を展開してきました。買収価格が純資産を下回るケースが多く、その差額である「負ののれん」を特別利益として一括計上することで、短期的に業績を押し上げました。
実際、2018年3月期には約87億円の負ののれんが特別利益として計上され、営業利益は117億円に達しました。しかし、再建が思うように進まず、買収先の経営悪化や構造改革費用の増大により、2019年3月期には営業損益が93億円の赤字に転落しました。この事例は、負ののれんが一時的な利益であることを示すとともに、長期的な事業リスクを見過ごした結果、大きな損失を招いた例といえます。
2014年、KADOKAWAとドワンゴは経営統合を行い、負ののれん約223億円がIFRS基準に基づいて一括計上されました。この統合はデジタル分野への展開を目的とした戦略的な買収でしたが、統合後の経営成果については慎重な評価が求められます。
シャープは2018年、東芝のパソコン事業を担っていた東芝クライアントソリューション(現Dynabook)の株式80.1%を取得し、グループ傘下としました。これによって、2019年3月期に約40億円の負ののれん発生益を計上しました。
DynabookはノートPC市場でかつて世界首位を誇った東芝の主力事業でしたが、不正会計問題や米国原発子会社の巨額損失を受け、再建の一環として譲渡されました。
なお、2020年には残りの株式19.9%も取得され、Dynabookはシャープの完全子会社となりました。
大和証券グループ本社は、あおぞら銀行との資本業務提携の一環として、2024年7月に約519億円の第三者割当増資を通じて出資を行い、同銀行を持分法適用会社化しました。
これにより、大和証券は2024年4〜9月期に約210億円の負ののれん発生益を計上し、純利益は前年同期比45%増の777億円となりました。今回はあおぞら銀行の財務悪化により安値での取得が可能となった結果です。
この一時的な利益は業績を大きく押し上げたものの、将来的な統合効果や事業シナジーの創出が問われる局面に入っています。大和証券は同提携により、資産管理型ビジネスと投資銀行機能の融合による付加価値創出を狙っています。
2024年、セブン銀行はセブン・カードサービスを子会社化し、その際に約215億円の負ののれんが発生しました。これにより、2024年3月期の純利益は大きく押し上げられました。
しかし、この負ののれんは一時的な利益であるため、翌2025年3月期には反動が生じました。実際、純利益は前期比で約43%減少しました。
この事例は、負ののれんによって短期的に業績が改善しても、翌期以降には収益の押し下げ要因となるリスクがあることを示しています。
西武ホールディングスは、2025年3月期に持分法適用会社であったNWコーポレーションを完全子会社化したことにより、657億円の負ののれん発生益を特別利益として計上しました。これにより、親会社株主に帰属する四半期純利益は前年同期比で481億円増の913億円となり、9期ぶりの最高益を記録しました。
この一時的な利益の計上に加え、同年度には東京ガーデンテラス紀尾井町の売却益も利益を押し上げ、営業利益は前年同期比で6%近く増加しました。
ただし、負ののれん発生益や不動産売却益はいずれも一過性の特殊要因であるため、2026年3月期にはこれらの反動減により純利益が大幅に減少する見通しです。
2008年、三越と伊勢丹は共同株式移転によって経営統合を行い、三越伊勢丹ホールディングスが誕生しました。この統合では伊勢丹が主導し、三越の評価額が割安とされ、約700億円の負ののれんが発生しました。
三越は銀座をはじめとする都心の一等地に多くの不動産を保有していたため、帳簿上の純資産が大きく、買収価格との差額が利益として認識されました。この事例は、旧来型の百貨店同士の統合であっても、資産評価の方法や交渉の力関係によって、大きな負ののれんが発生し得ることを示しています。
なお、当時は負ののれんも正ののれん同様に20年以内の期間に利益として償却することと定められていたため、この利益は一括で計上されず、5年間に分けて段階的に利益として処理されました。
2018年、三重銀行と第三銀行は株式移転による経営統合を実施し、三十三フィナンシャルグループが発足しました。この統合により、2019年3月期の決算では約520億円の負ののれんが発生し、一括で利益計上されました。前年度の両行合計の純利益は約80億円であったことから、この統合により発生した利益は実績の6倍以上となり、初年度の業績を大きく押し上げる結果となりました。
地域銀行同士の統合であっても、大きな負ののれんが発生し得ることが示された事例です。金融業界で再編が進むなか、統合に伴うのれんの扱いが業績に与える影響は、今後も注視されるべき重要な要素です。
2019年、日本取引所グループ(JPX)は、東京商品取引所の全株式を約57億円で取得しました。同時点での東商取の公正純資産額は64億円であり、その差額7億円が負ののれんとして計上されました。
取引所再編による業務効率化と商品先物市場の統合を目的とした戦略的買収であり、負ののれんは小規模ながらも即時利益を押し上げました。また、買収価格が純資産を下回ったことで、財務的にも有利な取引となりました。
2015年、日本郵政は国内郵便事業の成長限界を見据え、海外展開の起点としてオーストラリアの物流大手トール社を約6,200億円で買収しました。買収時には企業価値を高く見積もった結果、正ののれんが発生しました。
しかし、買収後の業績は予想に反して悪化しました。背景には、豪州の資源価格下落による景気後退と、トール社が過去のM&Aで抱えていた重複事業や非効率な経営体制がありました。こうした構造的課題に対する対応が不十分だったため、日本郵政は2017年3月期に約4,000億円の減損を余儀なくされました。
この結果、当初は黒字を見込んでいた決算が赤字に転じ、市場からの信頼を大きく失いました。企業価値が実態より過大に評価されていたことが明らかになり、買収価格がより妥当であれば、負ののれんが発生していた可能性も否定できません。
最後に、負ののれんに関するよくある質問とその回答を紹介します。
A.正ののれんと負ののれんは、いずれも企業買収時に発生する「取得対価」と「純資産額」の差額に基づきますが、その意味合いと会計処理は大きく異なります。
正ののれんは、買収対価が純資産を上回った場合に発生し、将来収益力や無形価値への期待として無形資産として資産計上後、償却(日本基準)や減損テスト(IFRS)の対象となります。一方、負ののれんは、純資産が対価を上回った場合に発生し、異常な安値取得として会計上は特別利益または営業利益として一括計上され、償却処理は行われません。
正ののれんが期待の表れであるのに対し、負ののれんはリスクや異常要因を反映するという、本質的な性格の違いがあります。
A.合併差益と負ののれんは、取得対価が時価純資産額を下回ることで生じる差額ですが、発生場面と会計処理が異なります。
合併差益は企業合併において発生し、資本取引とみなされるため、資本剰余金として計上されます。一方、負ののれんは企業買収時に発生し、収益取引とみなされるため、利益として認識されます。日本基準では「特別利益」として計上され、国際基準では収益項目の一部として処理されます。
なお、J-REITの合併では負ののれんを「合併差益」と呼び、資本剰余金に計上するケースがあります。
A.のれん減損とは、買収後に計上された正ののれんが、将来的に期待される経済的利益を生まないと判断された場合に、簿価を減額して損失を計上する処理です。
一方、負ののれんは、そもそも取得時点で対価が安すぎる場合に生じる差額であり、発生時に一括で特別利益(または営業利益)として認識されます。
のれん減損は将来の業績やキャッシュフローの悪化を反映する会計上の調整であるのに対し、負ののれんは取得時点での異常性やリスク評価を反映した利益項目です。
A.中小企業のM&Aでも負ののれんは十分に関係します。特に事業承継型のM&Aにおいては、オーナー経営者が高齢や健康上の理由で早期売却を希望し、時価純資産額より安い価格での譲渡が成立するケースが少なくありません。
また、中小企業は財務情報が十分に開示されていないことも多く、簿外債務や事業リスクを織り込んで買収価格が抑えられる傾向もあります。その結果、買い手側で負ののれんが発生する場合があります。
A.MBO(マネジメント・バイアウト)やLBO(レバレッジド・バイアウト)は、経営陣やファンドが対象企業を買収する手法であり、買収価格が市場価値や純資産額を下回るケースが少なくありません。
特に、対象企業が業績不振や株価低迷などにより相対的に割安に評価されている場合、実際の純資産額と買収対価の乖離(かいり)が大きくなり、負ののれんが発生する可能性が高まります。
M&Aにおいて負ののれんが発生するケースは例外的ですが、さまざまなパターンを把握しておくことで、実際にM&Aを実施する際に自社の事業に有効的になる可能性があります。
M&Aや経営課題に関するお悩みをお持ちの方は、ぜひM&Aロイヤルアドバイザリーにご相談ください。貴社の成長と成功を全力でサポートいたします。
CONTACT
当社は完全成功報酬ですので、
ご相談は無料です。
M&Aが最善の選択である場合のみ
ご提案させていただきますので、
お気軽にご連絡ください。