EBITDAマルチプルとは?5つの活用法と計算手順を徹底解説

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中小企業のM&A事業承継において、適正な企業価値を把握することは成功の鍵となります。近年、多くの経営者がEBITDAマルチプルという評価手法に注目していますが、「計算が複雑そう」「自社に適用できるのか分からない」といった疑問を抱えている方も少なくありません。

EBITDAマルチプルは、企業の実質的なキャッシュ創出力を基準とした客観的な評価手法として、M&A実務で広く活用されています。EBITDAマルチプルを理解することで、買収価格の妥当性チェックから事業承継時の株価算定、投資回収期間の予測まで、様々な場面で戦略的に活用できるようになります。

本記事では、EBITDAマルチプルの基本から実践的な活用法まで、中小企業の経営者が今日から使える知識を体系的に解説します。

EBITDAマルチプルとは?基本概念と重要性を解説

EBITDAマルチプルは、中小企業のM&A事業承継における企業価値評価で重要な指標の一つです。この手法を理解することで、適正な売却価格の判断や投資回収期間の大まかな目安を把握することが可能となり、成功するM&Aの実現に大きく近づきます。ここでは、EBITDAマルチプルの基本概念から中小企業M&Aでの活用意義まで詳しく解説します。

企業価値評価におけるEBITDAマルチプルの定義

EBITDAマルチプルとは、「EV(企業価値)÷ EBITDA(償却前利益)」により算出される企業価値評価の指標です。この倍率は、企業がEBITDAの何倍の価値で評価されているかを示しており、M&A実務では「EV/EBITDA倍率」とも呼ばれます。EBITDAは「Earnings Before Interest, Taxes, Depreciation, and Amortization」の略で、利払前・税引前・減価償却前利益を意味します。具体的には営業利益に減価償却費と無形固定資産償却費を加算した値で、企業の事業が生み出すキャッシュ創出力を測るための代理指標(Proxy)として活用されています。

中小企業M&AでEBITDAマルチプルが注目される理由

中小企業のM&Aにおいて、EBITDAマルチプルが重視される理由は、企業間の公平な比較が可能だからです。中小企業では財務構造や会計処理方法が企業ごとに大きく異なりますが、EBITDAマルチプルは金利や税金の影響を排除するため、純粋な事業収益力での評価が実現できます。また、減価償却費などの非現金支出項目を除外することで、実際のキャッシュ創出能力を正確に把握でき、買収後の投資回収期間やシナジー効果の予測にも活用できます。特に設備投資の負担が異なる業界間での比較や、海外企業との評価においても有効な指標として機能します。

PERやDCF法との使い分け方

EBITDAマルチプルは、他の評価手法と組み合わせて使用することで、より精度の高い企業価値評価が可能となります。主要な評価手法との使い分けは以下のとおりです。

・PER:株式市場での相対評価に適するが非上場企業では活用困難
・DCF法:将来キャッシュフロー重視だが予測の不確実性が高い
・EBITDAマルチプル:過去実績ベースで非上場企業でも客観的評価が可能

EBITDAマルチpルはDCF法の補完的役割を果たし、両手法を併用することで評価の妥当性を高められます。特に中小企業では情報制約があるため、複数手法の組み合わせによる総合的な判断が重要となります。

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    EBITDAマルチプルの計算方法|実践ガイド

    EBITDAマルチプルを正確に算出するためには、EBITDA(償却前利益)と企業価値(EV)の両方を適切に計算する必要があります。中小企業の経営者でも実践できるよう、財務諸表から必要な数値を抽出し、段階的に計算を進める手順を詳しく解説します。正しい計算方法を身につけることで、自社の価値評価や投資判断の精度を大幅に向上させることができます。

    営業利益からEBITDAを導き出すステップ

    EBITDAの計算手順を段階的に実行することで、正確な数値を算出できます。

    ・営業利益:損益計算書から本業で稼いだ利益を確認
    ・減価償却費:販売費及び一般管理費の内訳またはCF計算書で特定
    ・無形固定資産償却費:のれん償却費やソフトウェア償却費を追加

    例えば、営業利益5,000万円、減価償却費2,000万円、のれん償却費500万円の企業の場合、EBITDA=5,000万円+2,000万円+500万円=7,500万円となります。この計算により、実際のキャッシュアウトを伴わない費用を除外した実質的な収益力を把握できます。製造業では製造原価報告書の減価償却費も確認が必要です。

    企業価値(EV)の正しい算出方法

    企業価値(EV)は「時価総額+有利子負債-現預金及び現金同等物」の計算式で求められます。上場企業の場合、時価総額は「株価×発行済株式数」で算出できますが、非上場の中小企業では適正な株価評価が必要となります。有利子負債には短期借入金、長期借入金、社債、リース債務などが含まれます。現預金及び現金同等物を差し引く理由は、企業買収時にこれらの資金で負債返済が可能なため、実質的な買収コストが軽減されるからです。貸借対照表から正確な数値を抽出し、見落としがないよう注意深く計算することが重要です。特に中小企業では、オーナーの個人資産と会社資産が混在していることがあるため、適切な調整が必要となります。

    より厳密な計算では、連結子会社の親会社所有外の価値を示す『少数株主持分』を加え、事業と関係のない『非事業用資産』(例:遊休不動産、投資有価証券)を差し引く調整も行われます。

    架空企業の数値例で学ぶ計算プロセス

    製造業のA社を例に、EBITDAマルチプルの計算プロセスを実践してみましょう。

    A社の財務データ:営業利益8,000万円、減価償却費3,000万円、時価総額(評価額)20億円、有利子負債5億円、現預金2億円。まずEBITDA=8,000万円+3,000万円=1億1,000万円を算出します。次に企業価値EV=20億円+5億円-2億円=23億円を計算します。最終的にEBITDAマルチプル=23億円÷1億1,000万円≒20.9倍となります。この結果は、A社の企業価値がEBITDAの約21倍で評価されていることを意味し、投資回収期間の目安や業界平均との比較に活用できます。計算の各段階で数値の妥当性を確認し、特別な事情がある場合は適切な調整を行うことが精度向上のポイントです。

    EBITDAマルチプルの相場

    EBITDAマルチプルは業界特性によって大きく異なるため、適正な企業価値評価を行うには業界別の相場を正確に把握することが不可欠です。事業の成長性、収益安定性、参入障壁などの要素が評価に大きく影響します。ここでは主要業界の標準倍率から自社の適正値を見極める判断基準まで、実務で活用できる具体的な目安を詳しく解説します。

    高倍率・低倍率業界の特徴分析

    高倍率業界の特徴として、継続的な売上基盤、高い参入障壁、スケーラビリティの高いビジネスモデルが挙げられます。医療・介護関連サービス、教育関連事業、特許技術を持つ製造業などは12~20倍の高倍率となることがあります。

    これらの業界は規制による参入障壁や専門性の高さにより、安定した収益構造を持つためです。一方、低倍率業界には建設業、運送業、一般小売業などがあり、3~6倍程度の評価となることが多くなります。これらの業界は競争が激しく、差別化が困難で、景気変動の影響を受けやすいという特徴があります。また、労働集約的な事業モデルのため、スケールメリットを活かしにくく、収益性の向上に限界があることも低倍率の要因となっています。

    自社の適正倍率を見極める判断基準

    自社の適正倍率を判断する際は、まず同業他社の公開データや類似上場企業のEBITDAマルチプルを調査し、業界平均を把握することから始めます。次に、自社固有の強みや弱みを客観的に評価します。市場シェア、顧客基盤の安定性、技術力、人材の質、財務健全性などが主要な評価要素となります。競合優位性が高く、継続的な成長が見込める企業は業界平均を上回る倍率での評価が期待できます。逆に、特別な強みがなく競争環境が厳しい場合は、業界平均を下回る倍率となる可能性があります。

    また、企業規模も重要な要素で、一般的に規模が小さいほどEBITDAマルチプルは低くなる傾向があります。これは、大企業に比べて事業リスクや株式の流動性の低さが考慮されるためで、これを「サイズディスカウント」と呼びます。具体的には、小規模企業は市場の変動や競争に対して脆弱であり、資金調達の面でも不利になることが多いです。そのため、投資家はリスクを反映させる形で、より低い評価倍率を適用することが一般的です。

    最新の業界別倍率データの入手方法

    信頼できる業界別倍率データを入手するには、複数の情報源を活用することが重要です。企業評価総合研究所やプルータス・マネジメントアドバイザリーなどの専門機関が発表する業界レポートは、定期的に更新される貴重な情報源となります。上場企業については、有価証券報告書や決算短信から財務データを取得し、自社で計算することも可能です。

    金融情報サービス(ブルームバーグ、リフィニティブなど)では、リアルタイムのマルチプル情報を入手できますが、中小企業には高額なため、M&A仲介会社や会計事務所から情報提供を受ける方法が現実的です。また、業界団体の調査レポートや金融機関の業界分析資料も参考になります。ただし、データの取得時期や算出方法の違いにより数値にばらつきが生じるため、複数の情報源を比較検討し、最新の市場動向を反映した適切な倍率を選択することが重要です。

    EBITDAマルチプルの5つの活用法|M&A実務での使い方

    EBITDAマルチプルは理論的な企業価値評価にとどまらず、M&A実務の様々な場面で戦略的に活用できる実践的なツールです。EBITDAマルチプルの活用により、客観的な根拠に基づいた意思決定を支援し、買収検討から価格交渉まで幅広いシーンで威力を発揮します。

    買収価格の妥当性をチェックする

    買収価格の妥当性チェックは、EBITDAマルチプルの最も基本的かつ重要な活用法です。まず対象企業と同業界の上場企業3~5社を選定し、それぞれのEBITDAマルチプルを算出して中央値を求めます。次に、対象企業の提示価格から逆算してEBITDAマルチプルを計算し、業界平均と比較します。例えば、業界平均が8倍なのに対象企業が12倍の価格で提示されている場合、割高である可能性が高いと判断できます。ただし、単純な数値比較だけでなく、対象企業の成長性、市場ポジション、競争優位性なども総合的に評価することが重要です。特に技術力や顧客基盤に優位性がある企業は、業界平均を上回る倍率でも妥当な場合があります。このチェックにより、感情的な判断を排除し、客観的なデータに基づいた買収判断が可能となります。

    事業承継時の株価を算定する

    事業承継における株価算定では、EBITDAマルチプルが簡易で実用的な評価手法として広く活用されています。相続税評価や譲渡価格の決定において、複雑なDCF法よりも理解しやすく、関係者間での合意形成が図りやすいためです。算定手順は、まず3~5年間の平均EBITDAを算出し、一時的な要因による変動を平準化します。次に同業他社の倍率を参考に適正なマルチプルを設定し、企業価値を算出します。非上場企業の場合は流動性ディスカウント(20~30%)を適用し、最終的な株式価値を決定します。親族間承継では、複数の評価手法で算出した価格帯の中から、税務上の問題がなく、かつ承継者の資金調達能力に見合った現実的な価格を選択することが重要です。

    投資回収期間をシミュレーションする

    EBITDAマルチプルは投資回収期間の概算に直結するため、買収後のキャッシュフロー予測や投資判断に活用できます。倍率がそのまま回収年数を表すため、例えばEBITDAマルチプル6倍の企業であれば、約6年での投資回収が期待できると判断できます。より精緻なシミュレーションでは、買収後のシナジー効果やコスト削減効果を織り込んでEBITDAの改善を予測し、実際の回収期間を算出します。例えば、年間5%のEBITDA成長が見込める場合、回収期間は短縮される計算となります。この分析により、投資の採算性や資金調達の妥当性を判断でき、取締役会や株主に対する説明資料としても有効です。また、複数の買収候補を比較検討する際の重要な判断材料としても機能します。

    競合他社とベンチマーク分析を行う

    EBITDAマルチプルを用いたベンチマーク分析により、自社の市場での相対的なポジションを客観的に把握できます。まず同業他社のEBITDAマルチプルを調査し、自社の倍率と比較して相対的な評価水準を確認します。自社が業界平均を下回っている場合は、収益性改善や成長戦略の見直しが必要であることを示唆しています。逆に平均を大きく上回っている場合は、高い評価を維持するための戦略が求められます。この分析は、事業戦略の策定、投資計画の立案、株主や金融機関への説明において重要な根拠となります。また、定期的なベンチマーク分析により、市場での競争力の変化をモニタリングし、適切なタイミングでの戦略転換や事業承継の判断材料として活用できます。競合分析の結果は、M&A戦略の方向性を決定する重要な指標となります。

    価格交渉で戦略的に活用する

    M&Aの価格交渉において、EBITDAマルチプルは客観的な根拠として強力な交渉材料となります。売り手側では、同業他社の高い倍率を根拠に価格の妥当性を主張できます。買い手側では、業界平均との比較や類似案件の事例を示して、価格の引き下げ交渉を行えます。効果的な交渉戦略として、複数の算出方法や比較対象を準備し、相手方の主張に対する反証データを用意することが重要です。また、倍率の差異について合理的な説明(成長性、リスク、競争優位性など)を準備し、建設的な議論を通じて適正価格での合意を目指します。価格交渉では感情論ではなく、客観的データに基づいた論理的な議論を展開することで、双方が納得できる価格水準での合意形成が可能となります。EBITDAマルチプルを戦略的に活用することで、交渉力を高め、有利な条件での成約を実現できます。

    EBITDAマルチプル活用の注意点|失敗を避けるポイント

    EBITDAマルチプルは有用な評価手法である一方で、適切に活用しなければ誤った判断を招く危険性があります。正確な企業価値評価を行うための主要な注意点は以下のとおりです。

    ・特別損益による歪みを見抜いて補正する:一時的要因の影響を除外
    ・将来の成長性を評価に組み込む:過去実績だけでは捉えきれない要素を反映
    ・他の評価手法と併用して精度を高める:複数手法による総合的判断が必要

    特に中小企業のM&Aでは、大企業とは異なる特殊事情や会計処理の違いが評価結果に大きな影響を与えることがあります。これらの限界を理解し、適切な調整と他手法との併用による総合的な判断が不可欠です。

    特別損益による歪みを見抜いて補正する

    EBITDAの算出において最も注意すべきは、一時的な特別損益がもたらす評価の歪みです。例えば、不動産売却益、保険金収入、災害損失、リストラ費用などが営業利益に含まれている場合、これらの影響を除外した調整後EBITDA(Adjusted EBITDA)を算出する必要があります。具体的には、過去3~5年間の損益計算書を詳細に分析し、通常の事業活動から生じない項目を特定します。設備投資による一時的な減価償却費の増減、大口取引先との特別な取引、為替変動の影響なども調整対象となります。また、中小企業では経営者の個人的な支出が経費に含まれているケースがあり、これらも適切に調整する必要があります。調整の際は、保守的な観点から疑わしい項目は除外し、継続性のある収益力のみを評価対象とすることが重要です。調整内容については、明確な根拠と計算過程を文書化し、関係者が理解できる形で説明できるよう準備することが求められます。

    将来の成長性を評価に組み込む

    EBITDAマルチプルは過去実績に基づく評価手法のため、将来の成長性や事業変革の影響を十分に反映できない限界があります。特に技術革新の激しい業界や新規事業を展開する企業では、過去の数値だけでは真の企業価値を捉えられません。この課題を解決するため、予測EBITDAを用いた将来指向の評価を併用することが重要です。具体的には、事業計画や市場予測に基づいて今後3~5年間のEBITDA成長率を算出し、成長性を考慮した調整倍率を適用します。高成長が期待される企業には業界平均を上回る倍率を、成熟・衰退業界の企業には下回る倍率を適用するなど、将来性を適切に評価に反映させます。ただし、過度に楽観的な成長予測は評価を歪めるため、保守的で実現可能性の高いシナリオを基準とし、複数のシナリオ分析を行うことで評価の妥当性を検証することが重要です。

    他の評価手法と併用して精度を高める

    EBITDAマルチプル単独での評価には限界があるため、DCF法、PER、PBR、純資産法など複数の評価手法を併用し、総合的な判断を行うことが不可欠です。DCF法では将来キャッシュフローの現在価値を算出し、EBITDAマルチプルでは捉えきれない将来性や投資計画の影響を評価できます。純資産法では資産の実質価値を把握し、特に不動産などの含み資産がある企業では重要な判断材料となります。各手法で算出された価格帯を比較し、大きな乖離がある場合はその要因を分析して適切な調整を行います。一般的には、各手法の結果を加重平均するか、最も企業の特性を反映する手法を重視した価格レンジを設定します。また、業界や企業の特性に応じて各手法の信頼性を評価し、最適な手法の組み合わせを選択することが重要です。中小企業では情報の制約があるため、入手可能なデータの質と量を考慮して適切な評価手法を選択し、評価の精度と信頼性を最大化することが求められます。

    EBITDAマルチプルを自社で簡易計算する実践テンプレート

    中小企業でもEBITDAマルチプルを活用した企業価値評価を自社で実施できるよう、実践的な計算テンプレートと手順を提供します。専門的な知識がなくても財務諸表から必要な数値を抽出し、エクセルを使った簡易計算で概算評価が可能です。このテンプレートを活用することで、M&A検討の初期段階での価格目安の把握や、定期的な自社価値のモニタリングを効率的に行うことができます。

    財務諸表から必要な数値を抽出する手順

    EBITDAマルチプルの計算に必要な数値を財務諸表から正確に抽出するため、以下のチェックリストを活用します。

    ・損益計算書:営業利益、減価償却費、無形固定資産償却費を確認
    ・貸借対照表:有利子負債(借入金、社債、リース債務)、現預金を抽出
    ・キャッシュフロー計算書:営業CFから減価償却費を照合確認

    製造業の場合は製造原価報告書にも減価償却費が計上されているため注意が必要です。中小企業では会計処理が統一されていない場合があるため、過去3年分のデータを比較して異常値や処理方法の変更がないかを確認することが重要です。各数値の整合性をチェックし、疑問点は会計士に確認しましょう。

    エクセルで作る簡易計算シート

    エクセルを使った簡易計算シートでは、入力項目と計算式を明確に分離し、誰でも使いやすい設計とします。入力シートには「営業利益」「減価償却費」「無形固定資産償却費」「有利子負債」「現預金」「想定株式価値または時価総額」の項目を設けます。計算シートでは「EBITDA=営業利益+減価償却費+無形固定資産償却費」「企業価値(EV)=株式価値+有利子負債-現預金」「EBITDAマルチプル=EV÷EBITDA」の自動計算を設定します。比較分析のため、同業他社のデータ入力欄も設け、業界平均との比較ができるようにします。グラフ機能を活用して、過去数年間のEBITDAマルチプルの推移や同業他社との比較を視覚的に表示できるよう設計します。

    また、感度分析として、EBITDAや株式価値を変動させた場合のマルチプルの変化を自動計算できる機能も追加し、複数のシナリオでの評価が可能となります。

    調整後EBITDA(Adjusted EBITDA)の算出方法

    より正確な企業価値評価のため、一時的要因を除外した調整後EBITDAの算出が重要です。調整項目として、固定資産売却損益、保険金収入、災害損失、リストラ費用、訴訟関連費用、一時的な売上変動、経営者の個人的支出などを特定します。調整の基準として「通常の事業活動に起因しない」「継続性がない」「金額が重要である」という3つの観点で判断します。具体的な調整手順では、過去3~5年間の損益計算書を詳細に分析し、各年度の特別項目を洗い出します。

    例えば、売上高の5%を超える一時的な損益や、前年比で大幅に変動した項目について、その要因を調査して調整の要否を判断します。調整後EBITDAの算出式は「調整後EBITDA=通常EBITDA-一時的利益+一時的損失」となります。調整内容については、その根拠と計算過程を明確に文書化し、第三者が検証できる形で記録を残すことが重要です。この調整により、企業の持続的な収益力をより正確に評価することが可能となります。

    EBITDAマルチプルに関するよくある質問

    EBITDAマルチプルの活用において、実務者から寄せられる代表的な質問と実践的な解決策を解説します。これらの疑問は中小企業のM&A現場で頻繁に遭遇するものであり、適切な対処法を理解することで、より精度の高い企業価値評価と効果的な意思決定が可能となります。実際の事例を交えながら、具体的な解決方法を提示します。

    赤字企業でもEBITDAマルチプルは使えるか

    赤字企業であってもEBITDAがプラスであれば、EBITDAマルチプルは有効な評価手法として活用できます。特に、設備投資や人件費負担が大きく一時的に最終利益が赤字となっている成長企業や、のれん償却費により会計上の利益が圧迫されている企業では、EBITDAベースの評価が企業の実力をより正確に反映します。

    ただし、赤字企業の評価では通常よりも慎重なアプローチが必要です。まず赤字の要因を詳細に分析し、一時的なものか構造的なものかを判断します。一時的要因による赤字の場合は、調整後EBITDAを算出して正常化した収益力を評価します。構造的な問題がある場合は、リスクプレミアムを織り込んだ低い倍率を適用するか、他の評価手法との併用を検討します。また、赤字企業では将来の収益改善計画の実現可能性を厳格に検証し、保守的な評価を行うことが重要です。金融機関や投資家への説明では、赤字の背景と回復見通しを明確に示すことが求められます。

    設備投資が多い業界でのEBITDAマルチプルの評価の注意点

    製造業や物流業など設備投資が多い業界では、EBITDAマルチプルの適用において特別な注意が必要です。これらの業界では減価償却費が大きく、EBITDAと実際のキャッシュフローの乖離が大きくなる傾向があります。評価の際は、継続的な設備投資の必要性を考慮し、維持投資額を差し引いた実質的なフリーキャッシュフローベースでの検討も併用します。

    また、設備の更新サイクルや技術革新の影響を評価に反映させることが重要です。老朽化した設備を多く抱える企業では、近い将来の大型設備投資を見込んだ評価調整が必要となります。一方、最新設備を導入済みの企業では、当面の設備投資負担が軽いことを評価に反映できます。設備投資計画と減価償却スケジュールを詳細に分析し、将来のキャッシュフロー予測の精度を高めることで、より適切な評価が可能となります。業界特性を理解した専門家との連携や、類似企業との比較分析を通じて、設備投資の影響を適切に評価に織り込むことが重要です。

    EBITDAがマイナスの場合の対処法

    EBITDAがマイナスの企業では、EBITDAマルチプルによる評価は適用できないため、以下の代替手法を検討します。

    ・売上高マルチプル(PSR):売上基盤が安定している企業で有効
    ・純資産法:資産価値を重視した保守的評価
    ・予測EBITDAベース:将来の事業改善計画に基づく評価

    まずマイナスとなっている要因を詳細に分析し、一時的要因による場合は正常化調整を行います。構造的にEBITDAがマイナスの場合は、代替手法を活用します。予測EBITDAを用いる場合は計画の実現可能性を厳格に検証し、複数のシナリオ分析を行うことが重要です。EBITDAマイナス企業の評価では、リスクが高いことを認識し、保守的な評価を行うとともに、詳細な事業分析を重視することが求められます。

    まとめ|EBITDAマルチプルを使いこなして適正なM&Aを実現しよう

    EBITDAマルチプルは、中小企業のM&A事業承継において極めて実用性の高い企業価値評価手法です。企業の実質的なキャッシュ創出力を基準とした客観的な評価により、適正な価格での取引実現を強力にサポートします。買収価格の妥当性チェックから価格交渉まで幅広く活用でき、業界相場との比較により客観的な判断が可能となります。ただし、特別損益の調整や他の評価手法との併用により、評価の精度を高めることが重要です。実践テンプレートを活用して自社評価から始め、専門家との連携で成功するM&Aを実現しましょう。

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