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営業権とは、企業のブランド力や顧客基盤、技術力など、財務諸表には現れにくい「無形の価値」を指します。M&Aで企業価値を評価する際に重視される項目の一つであり、適切な理解が必要です。
本記事では、営業権の基本的な意味から「のれん」との違い、評価アプローチ、譲渡メリット・デメリット、税務処理、償却方法まで、実務で役立つ情報を網羅的に解説します。見落としがちなリスクや節税効果、トラブル回避のヒントも併せて解説します。
目次
まず、営業権に関する基本的な知識について解説します。
営業権とは、企業が保有する無形の価値を指す概念です。企業の買収や事業譲渡などに際して、資産として金額評価されることがあります。
ただし「営業権」という名称ではありますが、これは法律上の権利ではなく、法的に保護された権利として存在するわけではありません。
企業価値を評価する際には「純資産 + 営業権」の合計として算定されることがあり、M&Aにおける価格に直接影響する重要な要素といえます。
営業権に含まれるものは、企業の継続的な収益を生むための目に見えない資産で、代表的なものは次のとおりです。
これらは通常、帳簿に記載されませんが、企業の競争力や収益性に大きく影響する資産とされます。
営業権は、M&Aの評価や価格設定において、純資産以外の要素を加味するための指標となり、売却対象の事業や企業が将来どれほどの利益を生むと期待されているかが金額に反映されます。
営業権とのれんは似た概念ですが、評価プロセスと定義上に違いがあります。
営業権は、M&A価格を算定する際に、純資産に上乗せされる「将来利益に関する期待値」です。
一方、のれんはM&A取引後に発生する帳簿上の資産であり、実際の買収価格から純資産を差し引いた差額を指します(買収価格 − 純資産 = のれん)。例えば、営業権が5,000万円と評価された企業を1億3,000万円で買収した場合、純資産が1億円ならのれんは3,000万円です。
このように、営業権は理論上の価値評価、のれんは実際の取引に基づく会計上の結果として使い分けられています。ただし、実務上はほぼ同義として扱われることも多いです。
M&Aなどで企業の価値を評価する際は、一般に「三大アプローチ」と呼ばれる次の三つの方法が用いられます。
それぞれのアプローチの特徴と営業権との関係について解説します。
インカムアプローチは、企業が将来生み出すと予想される収益を基に企業価値を評価する方法で、営業権を含めた評価が可能です。代表的な手法にはDCF法や超過収益法などがあります。
この手法のメリットは、将来的な収益性やシナジー効果、企業固有の成長戦略を反映できる点であり、理論的かつ柔軟な評価が可能です。
一方でデメリットとして、将来予測に基づくため、主観や恣意(しい)性が入りやすいという課題があります。事業計画や割引率の設定次第で評価額が大きく変動し、さらに予測の前提となる情報の収集には手間や専門知識が求められます。さらに、将来的な収益が見込めない企業や継続性に疑義のある企業には適用しづらいという制約もあります。
マーケットアプローチは、同業種・同規模の企業やM&A事例と比較して評価対象企業の価値を算定する方法です。「類似企業比較法」や「類似業種比較法」などがあります。
営業権もM&A市場での取引価格に反映されているため、一定程度織り込まれた企業価値が得られます。ただし、非上場企業の場合は適切な比較対象を見つけることが難しく、業種や地域によっては妥当性に疑問が生じるケースもあります。
コストアプローチは、企業の保有資産と負債の差額から企業価値を算出する方法で、簿価純資産法と時価純資産法が代表的な手法です。
ただし、いずれも帳簿に現れる資産・負債を評価するため、無形資産である営業権は評価対象に含まれません。そのため、営業権の評価には通常用いられず、補助的な手法とされています。
営業権の具体的評価手法には、次のような評価手法があります。
それぞれについて解説します。
年買法(年倍法)は、営業利益の一定年数分をもって営業権の金額とする簡易的な評価手法です。コストアプローチとインカムアプローチを組み合わせた方法で、バランス良く企業価値評価を行えます。
年買法では通常、純資産額に税引後営業利益の3〜5年分を加算して算出され、中小企業のM&A実務において広く利用されています。計算が非常にシンプルで、経営者間での直感的な納得感を得やすい点が特徴です。
一方で、「何年分を掛けるか」には明確な根拠がなく、評価のばらつきや主観が入りやすいという問題点があります。また、市場動向や成長性などを織り込まないため、客観的かつ理論的な手法とはいえません。そのため、大企業のM&Aでは用いられず、あくまで中小規模取引の目安的手法として位置付けられます。
DCF(Discounted Cash Flow)法は、将来のフリーキャッシュフローを予測し、それを割引率で現在価値に換算することで企業価値を算出する方法です。企業が将来生み出す収益力に着目する点から、インカム・アプローチに分類されます。
まず、3~5年の事業計画に基づいてフリーキャッシュフローを算出し、その後、それ以降の継続価値を加味します。営業権は、DCF法で算出された企業全体の価値から純資産額を差し引くことで導き出されます。企業の将来収益力に基づいて算出されるため、理論的かつ実務的な整合性があります。
ただし、将来予測の妥当性や割引率の設定が難しく、説明責任や納得感の面で課題がある場合もあります。中小企業においては単独での採用は少なく、他手法と併用されることが一般的です。
超過収益法は、インカム・アプローチに属する評価手法で、将来の実際収益から期待収益を差し引いた「超過収益」をもとに無形資産の価値を算出します。
具体的には、実際収益としてフリーキャッシュフローを用い、期待収益は投下資本に期待収益率を掛けて算出することが一般的です。この超過収益を一定期間にわたって得られるものと仮定し、割引率で現在価値に換算して営業権などの評価額を導きます。
DCF法に類似した構造で、企業の収益力を理論的に評価できる点で信頼性は高いものの、収益予測や割引率の設定に一定の仮定や主観が入りやすく、計算が複雑です。
実務では大企業や高度な理論に基づくM&Aで活用されることが多く、中小企業M&Aでは理解や合意形成が難しいことから、あまり用いられない傾向があります。
類似企業比較法は、マーケット・アプローチに属する評価手法です。評価対象企業と事業内容や規模が近い上場企業の市場データを基に企業価値を算定する手法です。
具体的には、類似企業の株価やEV/EBITDA倍率、PER、PBRといった財務指標を用いて、評価対象企業の収益・資産と照らし合わせて企業全体の価値を推定します。営業権も含んだ実勢ベースの価格情報が反映されているため、実務上の妥当性が高いとされます。
ただし、非上場企業では、業態や規模が完全に一致する上場企業を見つけることが難しい場合があり、比較対象の選定には慎重さが求められます。また、企業ごとの収益構造や地域性、成長性の違いを調整しきれないと、過大または過小評価となる恐れもあります。
類似業種比較法は、マーケット・アプローチに属する評価手法です。この方法は、評価対象企業が属する業種の株価や配当金額などを基に企業価値を算定します。具体的には、国税庁が公表する「業種別月次平均株価」などの公的統計を参考にすることが多く、特に税務上の財産評価において用いられるケースが一般的です。
租税法上の公平性や簡便性に優れていますが、企業ごとの固有の強みや個別事情を十分に反映できない点がデメリットです。
M&Aにおける実務ではあまり用いられず、むしろ相続税評価や事業承継時の評価で使われるケースが多いです。また、業種分類が大まかであるため、業態の細分化が進んだ近年の企業には適用が難しい場合もあります。
企業価値差額法は、企業全体の事業価値から特定の資産価値を差し引くことで、営業権の価値を導き出す手法です。
まず、インカムアプローチやマーケットアプローチの手法を用いて、企業の事業価値を算出します。その上で、有形資産、評価対象外の無形資産、運転資本などを時価で評価し、それらを差し引くことで残余の「見えない価値」を営業権として評価します。
この手法は、企業が生み出す超過収益力を定量的に捉えることができ、理論的整合性が高いとされています。特にDCF法と併用されることが多く、評価の裏付けとして信頼性があります。
ただし、各資産の時価評価や事業価値の見積もりには高度な専門知識が必要となるため、実務では税理士や会計士などの専門家の関与が前提となるケースが一般的です。
実査査定法は、どの評価アプローチにも明確には分類されない、実地調査に基づく独自の手法です。買収企業側が実際に売却対象企業の現場(工場・店舗・事務所など)を訪問し、経営実態や将来性を目視・対話を通じて評価する実地査定の手法です。
中小企業のM&Aにおいては、財務データだけでは判断しきれない事業の潜在力や、経営者の姿勢、従業員の士気、取引先との関係などを把握する手段として活用されます。特に、赤字企業や事業再生型M&Aでは、過去の数字よりも将来性重視で判断される場面が多く、有効な補助的手法となります。
ただし、定量的評価ではなく主観的要素が強いため、他の手法と併用して総合的に判断することが一般的です。
財産評価基本通達による評価は、国税庁が定めた相続税や贈与税の課税に用いる評価基準であり、非上場株式にかかる営業権の評価にも一定の指針を与えるものです。
インカム・アプローチやマーケット・アプローチなどの一般的な評価手法には明確には分類されず、あくまで税務上の画一的・実務的な評価基準として用いられます。特に中小企業の株式評価や事業承継の場面で実務的に重要視される評価方法です。
同通達165条・166条に基づき、「平均利益金額 × 0.5 − 企業者報酬 − 総資産 × 5%」で超過利益を計算し、それに年数と複利年金減価率を乗じて営業権の価額を求めます。
ただし、この手法は税務目的のためのものであり、M&A実務で営業権を評価する際に使われることはほとんどありません。画一的で形式的な計算に依拠するため、企業固有の収益力や将来性を反映できず、実態評価には不向きです。あくまで税務上の参考情報にとどまる手法です。
なお、次のような場合には営業権の評価は行われません。
それぞれについて解説します。
営業権の評価が不要とされる代表的なケースの一つに、「個人の技術や才能に依存する事業」があります。これは、医師・弁護士・税理士などの士業や専門職に多く該当します。
国税庁の「財産評価基本通達165条」の注釈では、これらの事業は個人の技能や信頼に強く依存しており、その人物の死亡や退任によって営業権が消滅するとされているため、評価対象外とされています。
例えば、医療法人であっても、主たる収益が勤務医の専門性に基づく場合には、営業権は評価されません。これは、営業権の本質が個人に帰属するものであり、客観的かつ持続的な資産としての評価が困難であると判断されるためです。
営業権の評価は、企業の収益性が前提となるため、利益金額がマイナス(赤字)である場合には、評価の対象外となることが一般的です。
国税庁の「財産評価基本通達」に基づいて営業権を算出する際には、平均利益金額を基礎とした計算式により「超過利益金額」を導出しますが、平均利益が小さい、または損失を出していると、この超過利益がマイナスとなるため、営業権はないものとして扱われます。
具体的には、平均利益が5,000万円の場合でも、標準企業者報酬額と総資産価額の影響により、計算結果がマイナスになれば営業権の価額もゼロとされます。
営業権を譲渡する場合における、買い手側・売り手側それぞれのメリットについて解説します。
営業権の譲渡は通常、事業譲渡の一環として行われます。この場合、対象企業全体ではなく、自社が必要とする特定の事業機能や無形資産のみを選別して取得できます。
これにより、ブランド力や販売ルート、ノウハウなどを効率的に獲得でき、不要な資産や負債を引き受けるリスクを回避できます。また、取得費用も必要部分に限定されるため、コスト面でも合理的です。戦略的に特定機能を強化したい企業にとって、営業権の譲渡は非常に実効性の高い手法といえます。
営業権を取得することで、既に立ち上がっている事業に即座に参入できるため、新規市場開拓にかかる時間と労力を大幅に削減できます。通常、新規事業の立ち上げには許認可の取得や設備投資、ブランド確立、人材確保など多くのリソースが必要ですが、営業権を譲受することで、これらのプロセスをスキップできます。
特に、専門性の高い分野や地域特化型の事業では、営業権譲渡による参入のスピード感が競争優位を生み出す要因です。新規事業戦略を推進する上で、リスクを抑えつつスピードを重視したい企業にとって、非常に有効な手段です。
営業権は、無形固定資産として取得後5年間で均等償却することが認められており、節税効果が期待できます。例えば3,000万円の営業権を取得した場合、毎年600万円を損金として計上することで課税所得を圧縮でき、キャッシュフロー改善にも寄与します。
なお、これは株式譲渡では認められないため、事業譲渡によって営業権を取得する場合に限られる特典です。
営業権を譲渡することで、純資産を超えた企業価値を価格に反映させられます。営業権が高く評価された場合、通常の資産価値よりも高額な売却益を得られるケースがあります。
この売却益は、オーナーの利益還元はもちろん、他の事業への再投資や財務の健全化、後継者問題への対応など多様な用途に活用できます。
事業譲渡による営業権の譲渡は、企業全体を売却するのではなく、有形資産を残したまま特定の無形価値のみを譲渡できる柔軟な手法です。
例えば、特定の地域ブランドや顧客リスト、フランチャイズ権など、事業の「核」ではあるが成長性が見込めない部分を切り出して売却し、他の成長事業へ経営資源を集中させられます。
赤字ではないが収益性が相対的に低い非中核事業を手放したい企業にとても有効で、事業ポートフォリオの最適化やリストラクチャリングの一環としても良く用いられる手法です。
営業権を譲渡する場合における、買い手側・売り手側それぞれのデメリット・リスクについて解説します。
営業権を取得する際には、営業契約や取引先との関係、従業員体制の引き継ぎなど多岐にわたる実務処理が必要です。特に、既存の契約書の修正や業務マニュアルの把握、顧客対応の引き継ぎには時間と労力がかかるため、想定以上に事業開始が遅れるリスクがあります。
加えて、許認可が必要な業種では、新たに許認可申請をしなければならないケースもあり、法的な確認や行政対応が必要です。
営業権には明確な市場価格が存在しないため、売り手の希望額と買い手の評価額に乖離(かいり)が生じやすく、価格交渉が難航する可能性があります。特にブランド力やノウハウが高く評価される場合は、営業権の価格が高騰し、資金負担が大きくなることがあります。
加えて、営業権の価値が将来的に十分な利益を生み出せるかどうかは不確実であるため、買収後に期待どおりの収益を得られなければ、投資回収が困難になるリスクも否めません。事前に財務分析や将来収益のシミュレーションを行うなど、慎重な判断が必要です。
営業権の譲渡には、社内外の多くの関係者への対応が不可欠です。特に、事業の中核を担う従業員や長年の取引先にとって、譲渡の決定は大きな変化となるため、丁寧な説明と理解の取り付けが必要です。
場合によっては退職対応が発生し、追加的な業務が発生します。また、譲渡対象の契約書類の再締結や変更手続きも必要であり、想定以上に事務負担が大きくなることを覚悟すべきです。
営業権の譲渡によって得られる売却益には、法人税や所得税などの課税が発生します。そのため、譲渡価格の全額を手元資金として自由に活用できるわけではありません。
特に、利益計上が一時的に集中することで、課税所得が急増し、税負担が大きくなるケースもあります。売却後に資金を活用して別事業に再投資する計画がある場合には要注意です。
会社法上、営業譲渡を行った売り手は譲渡後、原則20年間は同一地域または近隣地域で同一の事業を行うことが禁止される「競業避止義務」が課されます。
この規制は、買い手が安心して事業を引き継ぐための制度ではありますが、売り手にとっては将来的に同業での再チャレンジが難しくなるリスクがあります。経営環境の変化で撤退した地域や業種に戻りたい場合でも、法的に再参入が制限されます。
営業権を譲渡するまでの流れは次のとおりです。
それぞれを順番に解説します。
事業譲渡などによる営業権の譲渡を検討する際、多くの企業はM&A仲介会社に相談するところから始めます。譲渡を成功させるためには、初期段階で信頼できるパートナーと連携することが重要です。
専門的な知識やネットワークを持つ仲介会社に依頼することで、適正な譲渡条件の設計や買い手候補の探索、交渉のサポートまで幅広く支援を受けられます。
特に、自社の営業権の価値を正確に把握するための資料作成や、根拠のある価格設定のアドバイスなどは、経験豊富な仲介業者の力を借りることで精度が向上します。
仲介会社との相談を経て譲渡方針が固まったら、具体的な買収先候補の選定に進みます。候補企業が複数ある場合は、価格面だけでなく、事業との相性や従業員の雇用維持、理念の整合性なども含めて総合的に検討します。
候補先とは事前に面談を行い、譲渡後の事業ビジョンや信頼関係を確認することもポイントです。単に高値を提示する企業よりも、譲渡後の事業承継を円滑に進められるパートナーを選ぶことが、長期的な視点での成功につながります。
買い手候補が決まると、次にデューデリジェンスが行われます。これは、買い手側が売り手側の経営・財務・法務・労務・技術などの実態を詳細に調査し、投資判断の妥当性を確認する手続きです。
売り手側は、求められた書類やデータを適切に開示し、誠実に対応することが求められます。不備や虚偽があれば、契約破棄や損害賠償につながる可能性があるため注意が必要です。
デューデリジェンスを経て、買い手から正式な条件が提示されます。これを受けて最終的な価格や譲渡条件について両者で交渉を行います。交渉内容には、譲渡対象範囲や支払条件、アフターサポート、営業譲渡後の従業員処遇など多岐にわたる項目が含まれます。
売り手側である中小企業の多くは不利な条件を提示されやすいため、最終合意に至るまでには、仲介会社に加え、税理士や弁護士の助言を得ながら交渉を進めることが望ましいです。
交渉がまとまると、正式に営業権譲渡契約書を作成し、両者が署名・押印して契約を締結します。この契約書には法的拘束力があり、内容に不備があると後々トラブルにつながるリスクがあるため、必ず弁護士などのリーガルチェックを受けるべきです。
営業権譲渡契約書には、譲渡範囲や実施日、支払方法、表明保証、競業避止義務などを明確に記載することが求められます。
営業権の譲渡は重要な会社の意思決定となるため、原則として売り手側では株主総会での特別決議が必要です。なお、特別決議には、出席した株主の議決権の3分の2以上の賛成が必要です。
譲渡に反対する株主がいる場合、事前に株主との情報共有や合意形成を図っておくことが大切です。また、会社規模や株主構成によっては、株主総会の準備に時間を要することもあるため、早めの対応が求められます。
営業権譲渡契約書に定められた譲渡日に基づき、営業権の引き渡しと対価の決済が実行されます。
これと並行して、官公庁への届出や許認可の名義変更、営業許可の申請、関係者への通知や取引先との契約変更手続きなどが必要です。
売り手側が営業権の価値を高めるには、次の方法が挙げられます。
それぞれを解説します。
営業権は企業の将来収益を裏付ける無形の価値ですが、その源泉となるものが自社の技術力や業務ノウハウです。
熟練した技術者の存在や業務効率を支える独自のマニュアル、または長年にわたって培われた業界知識などは、他社が容易にまねできない競争優位として評価されます。それらの知見が文書化・システム化されていれば、さらに営業権の価値が高まります。
企業のブランド力は、顧客や取引先に対する信頼・認知の証であり、営業権の評価に大きく影響します。特に一般消費者向けのビジネスでは、ブランドの浸透度が集客力や販売力に直結するため、その価値は高く見積もられます。
例えば、地域で高いシェアを誇る老舗企業や、独自性の高い商品・サービスを展開している会社などは、ブランド力によって高い営業権が認められる傾向にあります。
営業権の評価において、社内の優秀な人材や取引先の安定性は極めて重要です。
従業員の定着率が高く、長年にわたって特定の業務に従事している場合、会社としての安定性はもちろん、そのスキルやノウハウの継続性が高く評価されます。同様に、取引先との関係が信頼に基づいて安定していれば、M&A後も契約が継続する可能性が高く、買い手にとっての安心材料となります。
営業権の価値は、理論的な計算だけでなく、市場の競争環境にも左右されます。一社のみに売却交渉を限定すると、買い手が価格交渉で優位に立ちやすく、営業権の価値が適切に反映されない可能性があります。
そこで、複数の買い手候補と交渉を行うことで競争原理が働き、営業権も含めた総合的な評価が高まる傾向があります。買い手ごとに企業への評価ポイントは異なるため、ある企業では低く見積もられた部分が、他の企業では強みと判断されることもあります。
営業権の評価は、目に見えない無形資産を数値化する作業であり、高度な知識と経験が求められます。とりわけM&Aの現場では、買い手側が財務や税務の知識にも長けているケースが多いです。さらに、買い手側の企業規模の方が大きい場合がほとんどで、交渉力の面でも優位に立ちやすい傾向があります。
そのため、M&Aに精通した専門家(M&Aアドバイザー、公認会計士、税理士など)に早期相談することが重要です。専門家は、営業権の計算根拠を明確にした上で、適切な買い手候補の選定や交渉戦略の立案を支援してくれます。売却時期の調整や資料整備など、全体の進行を円滑に進める役割も果たします。
営業権をする場合の税務について、売り手側・買い手側それぞれについて解説します。
営業権を含む事業譲渡を行う場合、売り手側は譲渡によって得られる「譲渡益」に法人税が課税されます。具体的には、営業権を含めた売却価格から帳簿上の簿価を差し引いた差額が譲渡益となり、この譲渡益に法人税(または個人事業主の場合は所得税)がかかります。
また、営業権は無形固定資産であるため、資産譲渡として消費税の課税対象となる点にも注意が必要です。ただし、株式譲渡によるM&Aであれば、有価証券の譲渡に該当するため消費税は非課税です。
買い手側が営業権を取得した場合、その金額は「資産調整勘定」として無形固定資産に計上され、税務上は5年間で均等に損金処理(減価償却)されます。この処理により、各年の課税所得が減り、法人税の軽減につながる効果があります。
また、営業権の取得は消費税の課税対象となるため、売り手が課税事業者である場合、買い手は営業権の対価に消費税を上乗せして支払う必要があります(ただし、事業全体の包括譲渡に該当する場合は非課税)。消費税の納税義務は売り手にありますが、実質的な負担は買い手が行う点に注意が必要です。
加えて、不動産や特許などを含む場合には、不動産取得税や登録免許税も発生する可能性があります。
営業権の償却に当たっては、次の点に注意が必要です。
それぞれについて解説します。
営業権は、事業譲渡や企業買収などで発生した「目に見えない資産」として、買い手側の無形固定資産に計上されます。ただし、営業権は永続的に価値を持つものではないため、他の無形資産と同様に、時間の経過とともに価値が減るものとして扱われ、減価償却の対象となります。
日本の税務上では、営業権は法定耐用年数5年と定められており、定額法により毎年同額を償却します。例えば、取得価額が5,000万円であれば、毎年1,000万円ずつを5年間にわたって費用として計上します。これにより、企業の課税所得を圧縮する効果が生じます。
一方、会計上の処理では、日本基準において営業権は最長20年以内の経済的効果が見込まれる期間にわたって償却されます。償却期間は企業ごとに合理的な根拠に基づいて設定され、原則として途中で変更はできません。
日本基準では営業権は20年以内に償却することが原則ですが、国際会計基準(IFRS)では営業権の償却は認められていません。
IFRSでは営業権の価値は毎年の減損テストによって評価され、明確な価値低下(業績悪化や再編による収益力の喪失)が発生した場合に、減損処理を行います。
償却が行われない分、短期的な利益が大きく見えます。ただし、価値の下落が明確になるまでは帳簿上の資産として残り続けるため、将来のリスクが大きくなります。
2017年(平成29年度)の税制改正により、営業権取得初年度における償却限度額の計算方法が変更されました。
改正前は、取得日が年度途中であっても、年間分の償却額全額をその年度に計上可能でした。しかし改正後は、「月割計算」が義務付けられ、営業権を取得してから事業年度末までの月数に応じた償却しか認められなくなりました。
例えば、3月決算の企業が11月に営業権1億円を取得した場合、年間償却額2,000万円のうち、5カ月分(833万円程度)のみが当年度の償却限度額です。
最後に、営業権に関するよくある質問とその回答を紹介します。
営業権譲渡と営業譲渡は同じ意味を持ちます。
元々「営業譲渡」は、企業の営業活動に関する一切を包括的に譲渡する概念として商法で用いられてきましたが、2006年の会社法施行以降、法人に関しては「事業譲渡」という用語に統一されました。ただし、個人事業主には商法が適用されるため、営業譲渡という表現は現在も使われることもあります。
飲食店における営業権とは、店舗の収益力に寄与する目に見えない価値(無形資産)を包括的に指します。
具体的には、地域におけるブランド力や店名の認知度、リピーターを含む顧客基盤、独自のメニューやレシピ、調理ノウハウ、SNSや口コミによる評判・集客力、そしてスタッフの接客スキルや運営オペレーションなどが含まれます。さらに、立地条件や周辺環境も含めた集客要因が営業権として評価されることもあります。
ただし、営業権が属人的(店主のカリスマ性など)である場合は、譲渡後の持続可能性が低いとみなされ、営業権としての価値が限定的になることがあります。
フランチャイズは、本部(フランチャイザー)が加盟店(フランチャイジー)に対して、商標やブランドの使用許諾、経営ノウハウの提供、商品供給体制の整備などを通じて、事業運営を支援する契約形態です。
フランチャイズ契約を通じて、本部が保有する営業権の一部が加盟店に提供されるといえます。加盟店は、本部の確立されたビジネスモデルやブランド力を活用することで、開業当初から一定の集客力や収益性が見込めます。
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