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敵対的買収のリスクは、企業の意思決定や経営権を脅かす重大な課題です。こうした状況に備える手段として注目されているのが「買収防衛策」です。
この記事では、買収防衛策の基本的な仕組みや代表的な種類、導入のメリット・デメリットをわかりやすく解説します。
経営の安定と企業価値の維持に向けた選択肢として、どのような戦略が考えられるのかを探っていきます。
目次
企業が敵対的買収の脅威にさらされたとき、自社の経営権や企業価値を守るために講じるのが買収防衛策です。これは経営陣の保身のためだけではなく、株主や従業員、取引先などステークホルダー全体の利益を守るための重要な戦略とされています。
買収防衛策には大きく分けて「事前の予防策」と「買収提案があった後の対抗策」があり、それぞれの目的と対応手段が異なります。この見出しでは、敵対的買収との関係、友好的買収との違いを説明します。
買収防衛策を理解するには、まず「敵対的買収」について知っておく必要があります。
敵対的買収とは、買収対象企業の経営陣の同意を得ずに進められるM&Aです。多くの場合、TOB(株式公開買付)や市場での株式買い集めによって議決権の過半数を取得し、経営権の掌握を狙います。
目的はさまざまで、企業再建や資産・技術の取得、競合排除、さらには短期的な投資利益の獲得などがあります。しかし、経営陣の交代や事業の切り売りによって企業価値が損なわれるリスクもあるため、防衛策の必要性が強調されているのです。
友好的買収は、買収対象企業の経営陣と合意した上で行われるM&Aの形です。事前に買収条件や経営方針が話し合われ、両社の合意のもと進行します。
デューデリジェンス(資産調査)が十分に行えるほか、買収価格にプレミアムが付くケースも多く、株主にも好まれる傾向があります。買収後も経営陣が残る場合が多く、企業文化や事業の継続性が保たれやすいのが特徴です。
特に中小企業の事業承継では、友好的買収が一般的な手段となっています。
買収防衛策を導入するかどうかは、企業にとって重要な経営判断です。自社の状況や株主構成、市場環境を踏まえ、「敵対的買収の対象となる可能性があるか」を見極めることが大切です。
特に、株価が割安で資産価値が高い企業や、安定した収益があるにもかかわらず評価されていない企業は、買収リスクが高いとされます。
買収防衛策の導入には、企業にとって多くのメリットがある一方で、慎重な判断が求められる側面も存在します。
▼メリット
▼デメリット
このように、防衛策を導入すること自体が企業価値向上に資するかどうかを慎重に検討しなければなりません。
買収防衛策を導入・発動する際、「企業価値」と「株主共同の利益」をどのように捉えるかが重要です。
企業価値とは、企業が将来生み出すキャッシュフローの現在価値を基に評価されるものであり、株主価値を含む全体的な価値を示します。具体的には、企業の将来のキャッシュフローを適切な割引率で現在の価値に換算することで算出されるため、企業価値はその収益性や成長性を反映します。
評価指標には以下があります。
「株主共同の利益」は、特定株主ではなく全体の長期的利益を指します。短期的な株価上昇ではなく、中長期での企業価値向上が重視されます。
買収防衛策の導入・継続には、機関投資家の議決権行使方針への配慮が欠かせません。特に近年は議決権行使助言会社の影響が強まっており、以下の要件が重視されています。
これらに対応するには、以下の施策が有効です。
議決権行使の方針は国内外で異なり、時代によって変化します。継続的に最新動向を把握し、自社の方針を柔軟に見直すことが求められます。
事前(予防的)買収防衛策とは、買収の脅威が発生する前に導入する防衛策です。事前防衛策は導入の目的や手法によって様々な種類があり、それぞれ特徴が異なります。
以下では、事前防衛策を以下4つのカテゴリーに分けて解説します。
これらの防衛策は単独で導入されるだけでなく、複数を組み合わせて導入される場合も多いです。
株主権希薄化型は、新株や新株予約権、特別な種類株式などを活用して、敵対的買収者の議決権比率を下げることで、経営権の掌握を困難にする買収防衛策です。
代表的な手法には、ポイズンピル(ライツプラン)、黄金株、全部取得条項付株式、絶対的多数条項、スタッガードボードなどがあります。いずれも買収への強力な牽制になりますが、既存株主の権利を損なう可能性があるため、導入には株主総会での承認や丁寧な説明が不可欠です。
ポイズンピルは、買収者が一定割合以上の株式を取得した場合、その他の株主に対して割安で新株や新株予約権を取得できる権利を付与する制度です。
これにより敵対的買収者の持株比率を相対的に下げると同時に、買収コストを大幅に上昇させる効果があります。交渉を促すプレッシャーとしても有効です。
黄金株(ゴールデン・シェア)は、拒否権や取締役選任権など特別な権利が付与された種類の株式で、安定株主や友好的第三者に保有させることで、重要な意思決定をコントロールできます。
一方、全部取得条項付株式は、株主総会の決議によって会社がすべての株式を取得し、対価として他の種類株を発行できる仕組み。敵対的買収者の保有株式を実質的に排除できる防衛策です。
絶対的多数条項は、合併・取締役解任などの重要決議において、賛成比率を90%以上にするなど厳しくする条項です。買収者が経営権を握るためのハードルを高く設定できます。
スタッガードボード(期差任期制)は、取締役の任期をずらして改選する仕組みで、取締役会の過半数を一度の株主総会で入れ替えることを困難にします。たとえば3年任期で毎年1/3を改選する場合、買収者は最低2年以上かけなければ経営支配ができません。
ガバナンス強化・契約型の買収防衛策は、経営の透明性や契約条項を活用して敵対的買収を抑止する手法です。株主権の希薄化を伴わないため、株主からの反発が少ない点が特徴です。
代表的な手法には、COC条項(チェンジ・オブ・コントロール条項)、資産ロックアップ、相互持株などがあります。いずれも買収後の事業継続を困難にする、あるいは株主との信頼関係を深めることで、買収自体の動機を弱める効果が期待されます。
COC条項とは、企業の支配権に変更があった場合に、契約の内容が変更されたり解除されたりする条項です。主に以下の契約に組み込まれます。
この条項を通じて、買収者にとっての事業継続リスクを高め、買収の障壁として機能します。
▼メリット
▼デメリット
資産ロックアップは、特定の資産を一定期間売却不能にする契約です。株主総会の特別決議を必要とするなど、買収後の切り売りを防ぐ手段として機能します。
相互持株は、友好企業同士で株式を保有し合うことで、安定株主を確保し、外部からの買収圧力を和らげる仕組みです。
▼メリット
▼デメリット
日本では、コーポレートガバナンス・コードの浸透により、政策保有株式の保有理由や適正性の開示が求められており、相互持株は減少傾向にありますが、戦略的な目的による保有は依然として活用されています。
経営陣インセンティブ型の買収防衛策とは、経営陣や重要な人材に特別な利益や権利を付与することで、敵対的買収への抵抗力を高める方法です。代表的な施策には「ゴールデンパラシュート」「ピープルピル」「MBO(マネジメント・バイアウト)」などがあります。
これらの手法は経営陣にとって強力なインセンティブとなりますが、一方で株主との利益相反を招くリスクもあり、導入には透明性や公正性が求められます。特に日本では、役員報酬への風当たりが強いことから、過度な優遇措置には慎重な配慮が必要です。
ゴールデンパラシュートは、企業が買収された際に経営陣へ多額の退職金や補償金を支払う制度です。ティンパラシュートは、同様の仕組みを一般従業員に適用したものを指します。
買収時に多額の補償金が発生することで、買収コストが上がり、買収者の意欲を削ぐ効果があります。また、経営陣には買収反対のインセンティブを、従業員には安心感を与え、人材流出を防止する役割も果たします。
▼メリット
▼デメリット
日本ではあまり一般的ではないものの、役員退職慰労金制度などが実質的に同様の役割を果たしている場合もあります。
ピープルピルは、買収が成立した場合に、キーパーソンが一斉退職することで企業価値を意図的に下げ、買収意欲を削ぐ防衛策です。研究開発型企業や人的資産が競争力の源泉である企業に効果的です。
MBO(マネジメント・バイアウト)は、経営陣自身が自社株を買い取り、上場廃止によって非公開化する手法。敵対的買収の脅威を排除し、長期的視点に立った経営を可能にします。
日本でも、MBOは徐々に普及し、事業承継や構造改革の一環としても活用されるケースが増えています。
この防衛策は、買収者に対して一定のルールを事前に設定し、そのルールを遵守しない場合に対抗措置を発動するというものです。
2005年に経済産業省と法務省が公表した「企業価値・株主共同の利益の確保又は向上のための買収防衛策に関する指針」に基づいており、2023年8月には「企業買収における行動指針」として改訂されています。
2023年8月に改訂された「企業買収における行動指針」では、敵対的買収を「同意なき買収」と呼び換え、買収防衛策も「買収への対応方針・対抗措置」と改められました。また、企業は「真摯な買収提案」に対しても企業価値の観点から検討することが求められるようになり、株主意思の尊重がより強調されています。
事後の買収防衛策(自社)とは、敵対的買収のリスクが顕在化した際に、自社の経営判断で迅速に導入・実行する防衛手段です。
あらかじめ準備不要な柔軟さがある一方で、時間的制約や法的リスク、株主の反発を招く可能性も高く、実行には慎重な判断が求められます。代表的な防衛策を以下に紹介します。
クラウン・ジュエル作戦は、企業の中核資産(高収益部門、知財、不動産など)を友好的な第三者に売却することで、買収者の関心をそらす防衛策です。
焦土作戦はさらに強硬な手段で、買収者が狙う資産を意図的に手放す、あるいは多額の負債を抱えるなどして企業価値を意図的に低下させる方法です。
ジューイッシュ・デンティストとは、社会的な問題点を宣伝し相手企業のイメージダウンを図る手法です。
パックマン・ディフェンスは、買収を仕掛けられた企業が、逆に買収者の株式を取得し買収者を買収し返す戦術です。
日本の会社法では、株式を相互に保有している場合、相手企業の25%以上の株式を取得すれば、相手企業は株式を保有していても議決権が行使できません。この規制を利用して敵対的買収に対抗することができます。
増配・特別配当は、適度な株主還元により支持を集め、敵対的買収への反対姿勢を強める防衛策です。株価上昇によって買収コストを引き上げる効果もありますが、原資の枯渇や期待に応えられないリスクには注意が必要です。
労組との連携では、ストライキや広報活動を通じて社会的圧力をかけ、買収者の意欲を削ぐことが可能です。特に、公共性の高い企業では効果的ですが、労使関係の悪化による業務停滞リスクも伴います。
他者に頼る買収防衛策は、敵対的買収の脅威が現実化した後に、外部の友好的第三者の支援を得て対抗する方法です。
自社だけでは防衛が難しい場合に有効で、即効性がある一方、交渉や条件調整に時間がかかるほか、既存株主の利益との調整も必要になります。最終的に自社の独立性を手放す可能性があるため、慎重な対応が求められます。
ホワイトナイトは、敵対的買収を阻止するために登場する友好的な買収者のこと。グレー・ナイトは、完全に友好的ではないものの、敵対的買収者より条件や姿勢が柔軟な買収者を指します。
ホワイトナイトによる買収は、急激な経営改革を避けつつ、株主に適正な買収プレミアムを提供できるのがメリットです。事前に買収後の経営方針をすり合わせる余地もありますが、理想的な相手を見つけるのは容易ではなく、独立性の喪失につながるリスクも伴います。
敵対的買収への対抗策として、第三者の協力を得る方法の一つが「第三者割当増資」「株式交換」といったスキームです。
第三者割当増資は、友好的な企業に新株を発行することで、敵対的買収者の持株比率を相対的に下げる防衛策です。比較的短期間で実行でき、資金調達にもつながりますが、既存株主の持株比率が希薄化するため慎重な判断が必要です。
株式交換では、友好関係にある企業と互いに株式を持ち合い、安定株主を確保します。これにより買収者の影響力を抑える効果が期待できます。
買収防衛策を導入・発動するにあたっては、法的整合性や実務運用上の注意が不可欠です。不適切な対応は、訴訟リスクや市場の不信感を招くだけでなく、経営陣の善管注意義務違反や株主平等原則の侵害といった重大な法的問題に発展しかねません。
さらに、近年はコーポレートガバナンス・コードや議決権行使助言会社による監視が強化されており、機関投資家や市場関係者への配慮も求められます。以下では、買収防衛策を運用するうえで押さえるべき法制度、ガイドラインのポイントを整理します。
買収防衛策に関係する主な法令は、以下の2つです。
■ 会社法
■ 金融商品取引法
これらの法律は、買収プロセスの公正性を担保するためのものであり、防衛策導入時には適切な情報開示と説明責任が求められます。
2005年、経済産業省と法務省が公表した「買収防衛策に関する指針」は、敵対的買収が注目された時期における企業の対応基準として策定されました。その後、2023年8月には「企業買収における行動指針」が定められ、企業が買収防衛策を適切に運用するための指針として機能しています。
▼改訂後の主なポイント
この指針は、企業側の防衛策が単なる「拒否」ではなく、企業価値を高める視点から構築されるべきことを強調しています。
買収防衛策は、企業が経営権や企業価値を脅かす敵対的買収に備えるための、極めて重要な経営戦略の一つです。事前に適切な対策を講じることで、経営の安定性を確保し、株主や従業員、取引先といったステークホルダーの利益を守ることにもつながります。
本記事では、買収防衛策の基本的な仕組みや代表的な類型、導入時のメリット・デメリット、実務的な判断基準について解説しました。制度の背景や市場動向を理解したうえで、自社にとって最適な防衛策を柔軟かつ戦略的に検討していくことが求められます。
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