固定残業代とは?計算方法やメリット・デメリット、法的な注意点

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固定残業代とは、実際の残業時間にかかわらず、あらかじめ定めた一定時間分の残業代を毎月固定で支払う制度です。固定残業代は「みなし残業代」とも呼ばれ、中小企業を中心に導入されています。この制度は、給与計算の効率化や人件費の平準化といったメリットがある一方で、運用を誤ると残業代未払いとして違法になります。

特に会社売却を検討している場合、労務リスクは企業価値に直結する重要な要素です。本記事では、固定残業代の定義や計算方法、法的な注意点など、実務に役立つ情報を解説します。

固定残業代の定義と仕組み

固定残業代とは、従業員の実際の残業時間が多くても少なくても、毎月一定額の残業代を支払う制度のことを指します。この制度を正しく理解することは、適切な労務管理の第一歩となります。ここでは、固定残業代の基本的な仕組みと、混同されやすい他の制度との違いについて解説します。特に、みなし労働時間制との違いは、制度の適用範囲を判断する上で重要です。

固定残業代制度の仕組み

固定残業代制度は、あらかじめ決められた時間数分の残業代を基本給とは別に、または基本給に含めて支給する仕組みです。例えば「月30時間分の時間外手当として6万円を固定で支給する」というような形で運用されます。

この制度には大きく分けて2つの形態があります。1つ目は「手当型」で、基本給とは別に固定残業手当として支給する方法です。2つ目は「組み込み型」で、基本給の中に固定残業代を含めて支給する方法となります。いずれの形態であっても、設定された時間を超えて残業した場合は、超過分の残業代を別途支払う義務が企業に生じます。この原則を無視した運用は、労働基準法違反となる可能性があります。

固定残業代の有効性を巡る過去の裁判例では、「基本給部分と残業代部分の明確な区分」と「時間外労働の対価性」が備わっているかが審査されています。もしこれらが不十分で制度が無効と判断された場合、過去に支払った固定残業代は「単なる基本給(手当)」とみなされ、それとは別に過去数年分の残業代全額の支払いを命じられるリスクがあります。M&Aの労務監査でも、この判例基準を満たしているかは精査されやすいポイントです。

みなし労働時間制との違い

固定残業代制度とみなし労働時間制は、名称が似ているため混同されやすいですが、本質的に異なる制度です。固定残業代制度は残業代の「支払い方法」を定めるものであるのに対し、みなし労働時間制は働いた「時間そのもの」を一定時間とみなす制度です。

みなし労働時間制は、「事業場外労働のみなし時間労働制」と「裁量労働制」に区分されます。事業場外労働では、外勤営業職など労働時間の把握が困難な職種や、在宅勤務など要件を満たす場合に適用されます。

また、裁量労働制では、対象となる職種が法律で厳格に定められており、どの企業でも自由に導入できるわけではありません。一方、固定残業代制度は対象職種に制限がありません。さらに、みなし労働時間制では深夜労働や休日労働、1日8時間を超えるなど法定労働時間を超過した場合を除き超過分の支払いが原則不要ですが、固定残業代制度では超過分の支払いが求められます。

導入する際には、これらの違いを理解した上で、自社に適した制度を選択することが重要です。

通常の残業代計算との違い

通常の残業代計算では、実際に残業した時間数に応じて毎月の残業代が変動します。計算式は「基礎時給×割増率×残業時間数」となり、月ごとに正確な労働時間の集計と計算作業が必要です。

これに対して固定残業代制度では、あらかじめ設定した時間数と金額に基づいて定額を支給します。例えば月給30万円の内訳が「基本給24万円+固定残業代6万円(30時間分)」の場合、30時間以内の残業であれば追加の計算は不要です。

ただし、固定残業代制度を採用していても、実際の残業時間を把握する義務は免除されません。設定時間を超過した場合には差額を支払う必要があるため、勤怠管理の徹底は通常の残業代計算と同様に求められます。

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    固定残業代のメリット・デメリット

    固定残業代制度には、企業側と労働者側の双方にメリットとデメリットがあります。導入や見直しを検討する際は、両面を理解した上で判断することが大切です。ここでは、企業と労働者それぞれの立場から、固定残業代制度のメリット・デメリットを具体的に解説します。特に会社売却を控えている場合、これらの特性が企業価値に与える影響も考慮する必要があります。

    企業にとってのメリット

    固定残業代制度の大きなメリットは、給与計算業務の効率化と人件費の把握です。毎月の残業代が一定額となるため、細かな残業時間の集計と計算にかかる事務負担を軽減できます。

    また、人件費の見通しが立てやすくなることも大きなメリットです。残業代が月ごとに大きく変動すると、予算管理や資金繰りに影響を及ぼします。固定残業代制度を導入することで、人件費の予測精度が向上し、経営計画の立案がしやすくなります。

    さらに、従業員に対して効率的な働き方を促す効果も期待できます。残業時間が少なくても固定残業代は支給されるため、労働時間の削減に取り組む意識が高まり、生産性の向上につながる可能性があります。

    労働者にとってのメリット

    労働者側のメリットとして、収入の安定性が確保されることが挙げられます。繁忙期と閑散期で残業時間に差があっても、毎月の給与が大きく変動しないため、生活設計を立てやすくなります。また、効率的に業務を終えた場合でも固定残業代は支給されます。早く仕事を終わらせることがそのまま実質的な時給アップにつながるため、効率的な働き方へのインセンティブとして機能します。

    プライベートの時間を確保しやすくなることも見逃せないメリットです。残業代を稼ぐために長く働く必要がないため、仕事とプライベートのバランスを取りやすくなります。これは、ワークライフバランスを重視する現代の働き方にも合致した制度といえます。

    企業にとってのデメリット

    固定残業代制度の企業にとっての主なデメリットは、残業が少ない月でも固定残業代を支払う必要がある点です。業務量が少ない時期には、実際の残業時間に対して過払いとなるケースが発生します。

    また、設定時間を超過した場合の追加支給管理が必要となります。固定残業代制度を導入していても、実際の残業時間を正確に把握し、超過分を計算して支払う業務は残ります。運用を誤ると、未払い残業代の請求を受けるリスクがあります。

    制度設計や運用における法的リスクも考慮すべきです。固定残業代制度の有効性は裁判で争われることが多く、要件を満たさない場合は無効と判断される可能性があります。無効となった場合、過去に遡って残業代を支払う義務が生じ、企業価値評価に悪影響を及ぼす恐れがあります。

    労働者にとってのデメリット

    労働者にとってのデメリットとして、まず挙げられるのは不公平感の発生です。同じ固定残業代を受け取っていても、実際の残業時間は個人によって異なります。残業が多い従業員からすると、早く帰れる従業員と同じ金額しかもらえないことに不満を感じる場合があります。

    さらに、超過分の残業代が適切に支払われないリスクもあります。一部の企業では、固定残業代制度を「残業代込みの給与」と誤って解釈し、何時間残業しても追加の支払いをしないケースがあります。これは明確な労働基準法違反であり、労働者は本来受け取るべき賃金を失うことになります。

    また、固定残業代が設定されていることを理由に、長時間労働を強いられる懸念もあります。制度の本来の趣旨に反して「固定残業代の分は働いて当然」という風潮が生まれると、労働者の健康やモチベーションに悪影響を及ぼしかねません。

    固定残業代の正しい計算方法

    固定残業代を法的に有効なものとするためには、算定根拠が客観的に明確でなければなりません。なんとなくの金額設定は、後の未払い残業代請求やM&A時の減額査定の原因となります。ここでは、実務で用いられる標準的な計算ステップを解説します。

    ステップ1:1時間あたりの基礎賃金を算出する

    まず、残業代計算の基礎となる時給(単価)を求めます。基礎賃金には家族手当や通勤手当、住宅手当などは原則として含まれない点に注意しましょう。

    計算式
    基礎賃金(月額) ÷ 月平均所定労働時間

    ステップ2:月平均所定労働時間を算出する

    月によって営業日数が異なるため、1年間の平均値を算出します。この計算を誤ると、意図せず最低賃金を下回るリスクが生じます。

    計算式
    (365日 - 年間休日数) × 1日の所定労働時間 ÷ 12か月

    例えば、年間休日120日、1日の労働時間が8時間の場合: (365 - 120) × 8 ÷ 12 = 163.33時間 となります。

    ステップ3:固定残業代の金額を算出する

    基礎時給に法律で定められた割増率(通常1.25以上)と設定時間を乗じます。設定時間が「月45時間」を超える場合は、別途、特別な理由や36協定の特別条項(繁忙期などの臨時的な事情がある場合に限り、年間6か月まで原則の上限を延長できる労使間の取り決め)が必要になるため慎重な設計が必要です。

    計算式
    基礎時給 × 1.25(割増率) × 設定時間数

    具体的な計算例

    基本給:24万円、年間休日:125日、1日の労働時間:8時間、固定残業:30時間の場合

    • 月平均所定労働時間:(365 - 125) × 8 ÷ 12 = 160時間
    • 基礎時給:240,000円 ÷ 160時間 = 1,500円
    • 固定残業代:1,500円 × 1.25 × 30時間 =56,250円

    この場合、月給総額は 296,250円(基本給24万円+固定残業代56,250円)となります。

    固定残業代制度の運用における4つの注意点

    固定残業代制度を適切に運用するためには、いくつかの重要な注意点があります。これらを怠ると、制度自体が無効と判断され、未払い残業代の支払い義務が発生する可能性があります。ここでは、法的に有効な固定残業代制度を維持するために必ず押さえておくべき4つの注意点を解説します。

    固定残業時間を超えた分の差額は支払う必要がある

    固定残業代制度において重要な原則は、設定時間を超過した残業については必ず差額を支払わなければならないという点です。例えば30時間分の固定残業代を設定している場合、35時間残業した月は5時間分の追加支給が必要となります。

    この原則を守らないと、未払い残業代として労働者から請求を受ける可能性があります。労働基準監督署の調査が入った場合には是正勧告の対象となり、悪質なケースでは刑事罰が科されることもあります。

    超過分の適切な支払いを実現するためには、客観的な方法による勤怠管理が不可欠です。タイムカードや勤怠管理システムを用いて、1分単位で正確に労働時間を記録する仕組みを整備しましょう。自己申告制の場合でも、適切な確認プロセスを設けることが求められます。

    基本給と固定残業代を明確に区分する

    固定残業代制度の有効性を確保するためには、基本給と固定残業代を明確に区分して表示する必要があります。「月給30万円(固定残業代含む)」のような曖昧な表記は、制度が無効と判断される原因となります。

    正しい表記例としては、「基本給24万円、固定残業手当6万円(時間外労働30時間分)」のように、それぞれの金額と固定残業代に対応する時間数を明示します。これにより、労働者が自分の給与の内訳を正確に理解できるようになります。

    組み込み型の場合も同様に、「月給30万円(うち固定残業代6万円、時間外労働30時間分相当)」のように内訳を明記することが求められます。給与明細だけでなく、雇用契約書や求人票においても、この明確な区分表示を徹底しましょう。

    時間数を適切に設定する

    固定残業代の対象となる時間数の設定は、慎重に検討する必要があります。実務上は「45時間の壁」と「60時間の壁」を意識しなければなりません。

    まず、労働基準法における残業時間の原則的な上限は「月45時間」です。固定残業代を月45時間を超えて設定する場合、36協定の特別条項の締結が前提となります。しかし、特別条項はあくまで臨時的な状況を想定したものであるため、恒常的に45時間を超える設定にしていると、労働基準法違反の疑いを持たれるリスクが高まります。

    次に注意すべきは、月60時間の壁です。2023年4月からは中小企業でも月60時間を超える残業の割増賃金率が50%以上に引き上げられたため、60時間を超える設定は人件費コストを急増させます。また、これほど長い時間を設定していると、M&Aの局面では「過重労働が常態化している会社」と見なされ、企業価値(譲渡価格)に悪影響を及ぼす可能性が非常に高いです。

    実務上は、過去の残業実態を分析した上で、原則的な上限である「月45時間」以内、かつ実際の平均残業時間に近い水準を設定するのが望ましいといえます。設定時間が実態とかけ離れていると、従業員の不信感を招くだけでなく、会社売却時のデューデリジェンスで厳しく追及される原因となります。

    最低賃金を下回っていないかチェックする

    固定残業代制度を導入する際には、固定残業代を除いた基本給部分が最低賃金を下回っていないか確認することが必須です。この確認を怠ると、最低賃金法違反となる可能性があります。

    チェックの手順として、まず月平均所定労働時間を算出します。次に、固定残業代を除いた基本給をこの月平均所定労働時間で割り、時給換算額を求めます。この時給換算額が、事業所の所在地における都道府県別最低賃金を上回っていれば問題ありません。最低賃金は毎年改定されるため、年に一度は必ず確認作業を行い、必要に応じて基本給の引き上げを検討してください。

    以下の表は、固定残業代制度の運用における主な注意点と、違反した場合のリスクをまとめたものです。

    注意点具体的な対応違反時のリスク
    超過分の差額支払い勤怠管理と追加支給の徹底未払い残業代請求、是正勧告
    基本給との明確区分金額と時間数を契約書等に明記制度無効、未払い残業代発生
    時間数の適切な設定実態に基づく合理的な時間数の設定従業員の不信感、コスト増加
    最低賃金のチェック年1回以上の確認と必要に応じた改定最低賃金法違反、刑事罰の可能性

    契約書・就業規則での固定残業代の記載ルール

    固定残業代制度を法的に有効なものとするためには、雇用契約書や就業規則への適切な記載が不可欠です。記載内容に不備があると、紛争時に制度の有効性が否定されるリスクがあります。ここでは、固定残業代を契約書や就業規則に記載する際の具体的なルールと、従業員への周知方法について解説します。これらの手続きを適切に行うことで、労務トラブルを未然に防ぐことができます。

    固定残業代の「金額」と「該当時間数」を明記する

    固定残業代制度の有効性を確保するための第一条件は、固定残業代の金額と、それに対応する時間数を明確に記載することです。「残業代込み」のような曖昧な表現では、制度として認められない可能性が高くなります。

    具体的な記載例としては、「固定残業手当 金60,000円(月30時間分の時間外労働に対する割増賃金として支給)」のように、金額と時間数の両方を明示します。組み込み型の場合は、「月額基本給300,000円(うち時間外労働30時間分に相当する60,000円を含む)」のように内訳を示します。

    超過分を別途支払う旨の文言を含める

    固定残業代の金額と時間数を明示するだけでなく、設定時間を超過した場合には別途残業代を支払う旨を明記することも重要です。この文言がないと、「超過しても追加支給しない」という誤った運用につながりかねません。

    記載例としては、「固定残業時間を超える時間外労働が発生した場合は、超過分の割増賃金を別途支給する」という一文を加えます。この文言があることで、企業側の支払い義務が明確になり、労働者も安心して働くことができます。

    従業員への周知と合意形成を行う

    固定残業代制度を導入または変更する際には、従業員への十分な説明と合意形成のプロセスが欠かせません。説明不足のまま制度を導入すると、従業員の不信感を招き、エンゲージメントの低下につながる恐れがあります。

    具体的な手順として、まず制度の目的や内容を説明する従業員説明会を開催します。質疑応答の時間を設け、個別の不安や疑問に丁寧に対応することが大切です。就業規則を変更する場合は、労働者の過半数代表者からの意見書を添付した上で、所轄の労働基準監督署に届け出る必要があります。

    届出後は、就業規則を事業所内に掲示するなどして従業員に周知しなければなりません。これらの手続きを怠ると、就業規則の変更自体が無効となる場合があります。

    まとめ

    固定残業代とは、実際の残業時間にかかわらず一定時間分の残業代を毎月固定で支払う制度であり、給与計算の効率化や人件費の平準化といったメリットがあります。一方で、超過分の未払いや明示義務の不履行は違法となり、労務リスクを高める原因となります。

    制度を適法に運用するためには、基本給と固定残業代の明確な区分、設定時間の超過分支払い、最低賃金の確認、従業員への周知と合意形成が欠かせません。これらの要件を満たすことで、制度の有効性を確保し、労働トラブルを未然に防ぐことができます。

    特に会社売却を検討している場合、労務面のコンプライアンスは企業価値評価において重要な審査項目となります。固定残業代制度の見直しや適正化を含め、労務リスクの解消に取り組むことが、円滑なM&Aの実現につながります。

    M&Aロイヤルアドバイザリーでは、M&Aや事業承継に関するご相談を承っております。会社売却をご検討の際にはお気軽にご相談ください。

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