オーバーアロットメントの意味とは?仕組みや目的、注意点を徹底解説

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人気の限定商品が発売直後に完売して追加販売が急遽決まる、そんな場面が株式市場にも存在します。オーバーアロットメントは、当初の売り出し予定数を超えて株式を追加で販売する仕組みです。 

価格の乱高下を防ぎ、需給バランスを安定させる重要な制度ですが、投資家・企業・証券会社全てにメリットと注意点があります。 

本記事では、オーバーアロットメントの基本構造、実施後の株式調達方法、実際の事例、メリット・デメリットまで丁寧に解説します。 

オーバーアロットメントとは

まず、オーバーアロットメントの基本的な知識について解説します。 

株式の追加販売のこと 

オーバーアロットメントとは、株式の売り出し時などにおいて、証券会社が追加的に株式を売り出す仕組みです。海外では以前から広く用いられており、日本では2002年に正式に導入されました。 

具体的には、株式の販売を行う主幹事証券会社が、発行企業の大株主などから株式を一時的に借り入れ、投資家に対して当初の募集条件と同じ内容で追加販売を行います。 

オーバーアロットメントの目的 

オーバーアロットメントの主な目的は、株式募集後の市場における価格変動を抑制し、需要と供給のバランスを安定させることにあります。 

特にIPO(新規株式公開)では人気が集中し、初値が急騰するケースが少なくありません。オーバーアロットメントは、こうした過熱感を和らげ、需給のバランスを保つ役割を担います。その機能から、証券業界では「冷やし玉」と呼ばれることもあります。 

逆に、公募価格を下回る場合には、主幹事証券会社が市場で株式を買い戻すことで、株価の下支え効果を期待できます。 

さらに、当初の募集に漏れた投資家への対応手段ともなるため、需給調整と価格安定化を同時に図る制度といえます。 

オーバーアロットメントの語源 

「オーバーアロットメント(Over-Allotment)」は、英語の「over(超える)」と「allotment(割り当て)」から成る言葉で、直訳すると「超過割当」という意味です。 

欧米の資本市場では古くから使われている制度です。特にアメリカでは株式市場の安定化措置の一環として根付いています。 

オーバーアロットメントが行われる主なケース

オーバーアロットメントは株式市場における「新規株式公開(IPO)」と「公募・売り出し(PO)」において行われています。 

新規株式公開(IPO) 

新規株式公開(IPO、nitial Public Offering)とは、未上場企業が証券取引所に株式を上場し、一般の投資家に向けて株式を初めて公開することを指します。企業にとっては、資金調達の手段であると同時に、社会的な信用力を高める重要な節目でもあります。 

IPOの際には、主幹事証券会社がブックビルディング(需要調査)を行い、投資家の購入希望に基づいて公募価格や発行株数を決定します。しかし、人気銘柄の場合は想定以上の応募が殺到し、供給が需要に追いつかないことがあります。このようなケースで活用される制度がオーバーアロットメントです。 

公募・売り出し(PO) 

公募・売り出し(PO、Public Offering)とは、既に上場している企業が追加で株式を発行(公募増資)したり、既存株主が保有株式を市場で売却(売り出し)したりすることをいいます。企業は設備投資や事業拡大、財務体質の強化などを目的にPOを実施します。 

IPOとは異なり、POは既に株式市場に流通している銘柄が対象であるため、投資家は申込期間中に株価の変動リスクがあることを意識する必要があります。もし申込期間中に株価が公募価格を下回れば、投資家の申し込み意欲が減退し、売り出しが不調に終わる可能性もあります。 

このようなリスクに備え、POにおいてもオーバーアロットメントが活用されます。さらに主幹事証券会社は、株価が下落しないように市場価格を一定範囲内に維持する安定操作取引(いわゆる買い支え)を行うこともあります。これにより、需給バランスを調整し、株価の安定性を確保する役割を果たします。 

オーバーアロットメントの条件

オーバーアロットメントを実施するに当たり、「株数の上限」と「返済期限」の二つの条件があります。 

株数の上限 

オーバーアロットメントによる追加売り出しには明確な上限が設けられています。日本証券業協会の「有価証券の引受等に関する規則」第29条によれば、追加で売り出せる株数は、国内における募集・売り出し株数の15%が上限とされています。 

例えば、IPOやPOでの予定株数が100万株であれば、オーバーアロットメントにより追加で売り出せるのは最大15万株となります。この制限により、市場での供給過多を防ぎつつ、過剰な需要に柔軟に対応する枠が確保されています。 

返済期限 

オーバーアロットメントで主幹事証券会社が大株主などから借り入れた株式には、返済期限が設けられています。こちらも株数の上限と同じく、日本証券業協会の「有価証券の引受等に関する規則」第29条により、募集・売り出しの申込期間終了日の翌日から最長30日間と定められています。 

この期間内に株式を市場で買い戻す「シンジケートカバー取引」や「グリーンシューオプション」の行使によって株式の返却が行われます。 

オーバーアロットメントにおける株式の調整方法

オーバーアロットメントによって一時的に借り入れた株式は、一定期間内に返済が求められます。その際、主幹事証券会社が用いる方法が「グリーンシューオプション」と「シンジケートカバー取引」という二つの株式調整手法です。 

それぞれの概要やメリット・デメリットについて解説します。 

グリーンシューオプション 

グリーンシューオプションとは、主幹事証券会社が発行企業や大株主から株式をあらかじめ取り決めた引受価額で追加取得できる権利のことです。名称の由来は、米国の「Green Shoe Manufacturing Company(現Stride Rite社)」が1960年代に初めてこのスキームを申請・採用したことによります。 

オーバーアロットメントで借りた株式を市場価格が上昇した後に買い戻そうとするとコスト増になりますが、グリーンシューオプションを行使すれば、引受価額で株式を取得して返済に充てられます。 

オプションには「第三者割当型(新株発行で株式を取得)」と「買取型(保有株主からの直接取得)」があり、どちらの方式かによって資本構成や株主の希薄化への影響が異なります。 

シンジケートカバー取引 

シンジケートカバー取引とは、オーバーアロットメントで借りた株式を証券会社自らが市場で買い戻して返済する手法です。 

市場価格が公募価格を下回っている場合、主幹事証券会社は市場で株式を安く買い戻せるため、グリーンシューオプションよりもコスト効率の良い返済手段となります。 

また、この買い戻しには株価の下支え効果があり、価格形成の安定化が期待されます。特にIPO後に初値が公募価格を下回る「公募割れ」状態では、投資家心理を支える目的でこの取引が行われ、「誠意買い」とも呼ばれることがあります。 

シンジケートカバー取引とグリーンシューオプションは排他的な手段ではなく、状況に応じて使い分ける補完的な手法です。例えば、返済期間内に十分な株式を市場で買い戻せなかった場合、残数分はグリーンシューオプションを行使して調達するといった併用も可能です。 

オーバーアロットメントのメリット

オーバーアロットメントのメリットについて、企業、投資家、証券会社それぞれの立場から解説します。 

企業側のメリット 

資金調達額が増える 

オーバーアロットメントは、当初の募集・売り出し予定株数に対して最大15%まで追加で株式を発行・販売できる仕組みです。これにより、想定以上の投資家需要があった場合でも柔軟に対応でき、結果的に当初の計画を上回る資金調達が可能です。 

特に大型案件では、この追加分が数百億円規模となることもあり、企業の成長戦略や設備投資、財務体質の強化において重要な財源です。 

株価が安定する 

株式公開直後は、需給の偏りから価格が乱高下しやすい局面ですが、オーバーアロットメントにより証券会社が安定操作(シンジケートカバー取引など)を行うことで、株価の過度な下落を防ぐ効果があります。 

また、需要が旺盛であることが可視化されるため、対象銘柄にプレミアムがつきやすく、結果として企業の市場評価や信用力の向上にもつながります。 

投資家側のメリット 

購入機会が拡大する 

オーバーアロットメントは、IPOやPOにおける人気銘柄に対して、当初の売り出し株数に最大15%を上限とする追加売り出しが行われるため、応募が殺到する銘柄でも購入できるチャンスが広がります。 

当初の株数では落選していた投資家にとっては、当選確率が上がるという明確なメリットがあり、特に初値で利益を狙う短期投資家にはとても重要です。 

投資リスクが緩和される 

主幹事証券会社が実施するシンジケートカバー取引などによって、株価が公募価格を下回った際には市場での買い戻しが行われ、価格の急落がある程度抑制される仕組みが働きます。 

この「下支え効果」によって、投資家は安心してエントリーしやすくなり、長期投資家の参入が促されます。また、需給のバランスが調整されることで、投機的な値動きを避けやすくなり、健全な市場形成にもつながる点が評価されます。 

証券会社側のメリット 

収益が増加する 

オーバーアロットメントによって主幹事証券会社は通常の引受株数に加えて追加株数を販売できるため、引受手数料がその分増加し、収益が拡大します。 

さらに、株価が公募価格を下回ればシンジケートカバー取引で安く買い戻し、上回ればグリーンシューオプションを行使して安定した価格で株式を取得できるなど、市場状況に応じたリスクヘッジと利益の確保が可能です。 

信用構築と市場安定への貢献ができる 

証券会社は、オーバーアロットメントを通じて株価の急騰・急落を抑える「安定操作取引」を行い、市場の健全性を支える役割を担います。 

このような価格形成への適切な関与は、投資家との信頼関係の強化につながり、企業側からも「信頼できる主幹事」として評価される要因となります。また、将来的なIPOやPOの案件における主幹事選任においても優位性を確保でき、長期的な事業基盤の強化にもつながります。 

オーバーアロットメントのデメリット

オーバーアロットメントのデメリットについても、企業、投資家、証券会社それぞれの立場から解説します。 

企業側のデメリット 

株式の希薄化によって既存株主の価値が下がる可能性がある 

オーバーアロットメントによって追加の株式が市場に出回ると、発行済株式数が一時的に増加します。これにより1株当たりの利益(EPS)や資産価値が低下する「株式の希薄化」が生じ、既存株主の持分価値が相対的に下がる可能性があります。 

特に中長期の資本政策を重視する企業にとっては、株主構成の変動や株主からの信頼低下を招くリスクとなります。 

市場介入と見なされるリスクがある 

オーバーアロットメントは、証券会社による株価安定化措置(シンジケートカバー取引など)を伴うため、株価形成に「外的な手」が加わる点が否めません。この介入が市場に「価格操作ではないか」という印象を与えてしまうと、企業の透明性や市場との健全な関係構築に悪影響を与える可能性があります。 

信頼を重視する企業ほど、市場からの見え方に配慮した慎重な対応が求められます。 

投資家側のデメリット 

初値が伸び悩むリスクがある 

オーバーアロットメントは、高い需要に応じて株式を追加販売する仕組みですが、投資家にとって必ずしも有利とは限りません。 

オーバーアロットメントによって需給バランスが緩和されることで、初値の上昇幅が抑制される可能性があります。特にIPOで短期的なキャピタルゲインを狙う投資家にとっては、利益機会が縮小するリスクとなります。 

値動きが読みにくくなる 

オーバーアロットメントにおいて主幹事証券会社が安定操作として市場介入を行うことで、価格形成が本来の市場メカニズムから乖離し、値動きが読みづらくなる点も留意すべきです。 

安定操作は市場全体の混乱を抑える目的ではあるものの、個別投資家の利益を必ずしも最大化するとは限りません。 

公募割れによる損失リスクがある 

オーバーアロットメントが行われたからといって、株価が堅調に推移するとは限りません。 

相場環境の悪化や需給の読み違いにより、上場直後の株価が公募価格を下回る「公募割れ」が発生することもあります。シンジケートカバー取引などの価格下支え策には限界があり、投資家は短期的に含み損を抱えるリスクを負います。 

特に成長性が見込みづらい企業や、市場全体が弱気相場にある局面では、オーバーアロットメントの効果も限定的であり、想定外の損失につながる可能性があります。 

証券会社側のデメリット 

市場変動による損失のリスクがある 

証券会社にとっての最大のリスクは、市場動向の誤算による損失です。オーバーアロットメントに伴い株式を借りて販売した場合、後日返還のために市場から株式を買い戻す必要があります。 

この際、市場価格が予想以上に上昇していれば、グリーンシューオプションを行使しない限り、割高な価格での買い戻しとなり、損失を計上する恐れがあります。 

市場介入への慎重な対応が必要になる 

価格が下落しすぎた場合は、シンジケートカバー取引により価格を下支えする必要があり、証券会社の裁量と責任が重くなります。 

安定操作の過程が過剰になると、「価格操作」との批判を受ける可能性があり、過度な介入は市場からの信頼を損なうリスクも伴います。 

オーバーアロットメント実施までの流れ

IPOやPOにおいて、オーバーアロットメントが実施されるまでの主な流れは次のとおりです。 

  1. 仮条件の決定 
  1. ブックビルディング開始 
  1. 需要状況の確認 
  1. 実施判断 
  1. 株式の借り入れ・売り出し 
  1. 株価推移に応じたカバー手段の実行 

それぞれ順番に解説します。 

仮条件の決定 

まず、発行企業と主幹事証券会社は、過去の同業種の価格帯、市況、企業業績などを参考に「仮条件」と呼ばれる価格レンジを設定します。例えば「1,500円〜1,600円」のような幅が提示されます。 

この仮条件は、あくまで市場の反応を見るためのものであり、確定ではありません。需要状況を踏まえ、最終的な売り出し価格がこのレンジ内で決まります。 

ブックビルディング開始 

次に、公募価格を決めるための「ブックビルディング(需要積み上げ方式)」を実施します。 

ブックビルディングでは、引受証券会社が機関投資家や個人投資家に対して仮条件を提示し、投資意欲(需要)を募ります。通常は数日間にわたって実施され、その間に投資家は希望する購入価格帯や株数を申し込みます。 

この段階での需要の厚さが、後のオーバーアロットメント実施の判断材料となります。 

需要状況の確認 

ブックビルディング期間中、証券会社は日々の需要動向をチェックし、仮条件に対する申し込みの集まり具合を確認します。 

ここで需要が仮条件の上限近くに集中したり、全体として高水準であれば、主幹事証券会社は需給の強さを判断し、オーバーアロットメントによる追加売り出しの可能性を検討します。逆に、需要が弱い場合は実施を見送ることもあります。 

この段階でオーバーアロットメント実施の方向性がほぼ固まり、同時にグリーンシューオプションの活用も視野に入れた準備が始まります。 

実施判断 

需要が強く、株式市場での需要超過が見込まれると判断された場合、主幹事証券会社はオーバーアロットメントを実施する決定を下します。この判断には、発行会社と相談の上で需給環境、投資家構成、市場のボラティリティなどが加味されます。 

なお、オーバーアロットメントの株数上限は、「募集・売り出し予定株数の15%」までとされており、それを踏まえた売り出し枠が確定されます。 

この段階でグリーンシューオプション契約も締結され、実施体制が整えられます。 

株式の借り入れ・売り出し 

オーバーアロットメントの実施が決定すると、主幹事証券会社は発行会社または大株主から、事前に取り決めた契約に基づいて株式を一時的に借り入れます。 

借り入れた株式は、公募・売り出しと同一の価格・条件で市場に追加販売されます。 

株価推移に応じたカバー手段の実行 

借り入れた株式の返済方法は、株価の動向に応じて選択されます。市場価格が公募価格を下回った場合は市場から買い戻す「シンジケートカバー取引」が実施されます。 

市場価格が公募価格を上回った場合は事前に合意された価格で株式を取得する「グリーンシューオプション」が活用されます。実務上は、両手段に対応できる体制で進められることが多いです。 

オーバーアロットメントの代表事例7選

オーバーアロットメントが行われた直近の事例をいくつか紹介します。 

アシックス 

2024年7月、アシックスは7,391万6,500株の株式売り出しを実施し、その一環として約1,108万株のオーバーアロットメントも行いました。 

本取引は、政策保有株の見直しを背景に実施されたもので、業績の上方修正や市場評価が追い風となり、株価は売り出し後も堅調に推移しました。 

最終的に主幹事証券会社は市場での買い戻し(シンジケートカバー取引)を行わず、全てグリーンシューオプションを行使して株式を調達・返還しました。 

ホンダ(本田技研工業) 

2024年7月、東証プライム上場の本田技研工業は、大手損害保険会社などによる政策保有株式の見直しを背景に、総額約5,300億円規模の株式売り出しを発表しました。売り出し株式数は約2.6億株、加えて約3,900万株のオーバーアロットメントも設定されました。主幹事はみずほ証券をはじめとする大手証券5社が共同で務めました。 

売り出し人は、東京海上日動火災保険、損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険などの大手損保で構成され、金融庁の方針に従い保有株式を全量売却する動きの一環として注目されました。これにより発行済株式数の相当部分が市場に供給されることとなり、需給への影響が意識されました。 

オーバーアロットメント後のカバー手段としては、約2,244万株がシンジケートカバー取引(SCT)によって市場で買い戻されました。また、安定操作取引として既に約1,203万株を取得済みであったため、残りの約450万株についてはグリーンシューオプションが行使されました。 

この結果、オーバーアロットメントによって売り出された株式のうち、SCTと安定操作取引による合計3,447万株は借り入れ元の株主へ返却されることとなります。これらの株式は将来的に市場に売却される可能性があり、一定の売却圧力を生むリスクもあります。 

関西電力 

2024年11月、関西電力は公募増資1億4,828万株、自己株式処分4,570万株に加え、約2,909万株のオーバーアロットメントによる第三者割当増資を実施し、最大5,049億円の資金調達を行いました。2024年に行われたPOではホンダと並ぶ最大級の案件として市場でも注目を集めました。 

主幹事は野村證券およびシティグループ証券が務めました。発行済み株式数は約19%の増加となり、1株利益の希薄化や需給悪化が懸念され、発表直後には株価が急落しました。 

その後、約119万株がシンジケートカバー取引で市場から買い戻され、約2790株がグリーングリーンシューオプションによって賄われたことが報告されています。 

ヒューリック 

2024年11月、不動産大手ヒューリックは、既存株主による最大8537万株の売り出しと、約1281万株のオーバーアロットメントによる売り出しを発表しました。本売り出しにより、同社は株主構成の多様化とコーポレートガバナンスの強化を目指し、長期的な企業価値の向上に取り組む姿勢を明確にしています。 

売り出し人は損害保険ジャパン、東京海上日動火災保険、東京建物、大成建設、OKIの5社で、政策保有株式の見直しの流れを受けた動きとされます。最大で発行済み株式数の12.8%に及ぶ規模であることから、短期的な需給悪化懸念が台頭し、翌28日の株価は大幅に下落しました。 

なお、最終的に主幹事証券会社は市場での買い戻し(シンジケートカバー取引)を行わず、全てグリーンシューオプションを行使して株式を調達・返還しています。 

コロワイド 

2024年8月、外食大手コロワイドは、新株式発行および株式売り出しを実施し、最大367億円の資金調達を発表しました。内訳としては、新たに約1,700万株の公募増資を行い、さらに約255万株のオーバーアロットメントを含む第三者割当増資を実施しました。調達資金は、2026年9月末までに実施予定のM&Aに充当され、未充当分は借入金の返済に充てられます。 

主幹事証券は野村證券です。株式需給の悪化懸念から発表直後には株価が急落しましたが、最終的に主幹事証券会社は市場での買い戻し(シンジケートカバー取引)を行わず、全てグリーンシューオプションを行使して株式を調達・返還しています。 

キオクシア 

2024年12月、フラッシュメモリ大手のキオクシアホールディングスは、東証プライム市場への上場(IPO)に際して約2,156万株の新株発行と約5,038万株の売り出しを実施し、さらに約1,079万株のオーバーアロットメントが設定されました。吸収金額は1,150億円に達する見込みで、公募資金は三重・岩手両工場の設備投資に充当予定です。 

グローバルオファリングとして米欧でも売り出され、モルガン・スタンレー、野村證券、BofA証券が共同主幹事を務めました。 

最終的に主幹事証券会社は市場での買い戻し(シンジケートカバー取引)を行わず、全てグリーンシューオプションを行使して株式を調達・返還しています。 

相鉄ホールディングス 

2025年2月、相鉄ホールディングスは、株主である小田急電鉄や大林組、三井住友海上火災保険など8社が保有する普通株式約848万株の売り出しを発表しました。これは発行済株式数の約9%に相当し、政策保有株式の見直しの一環として実施されました。 

また、需要状況に応じて約127万株のオーバーアロットメントによる売り出しも計画され、主幹事証券会社であるSMBC日興証券が既存株主から株式を借り入れて追加的に売り出す形式が採られました。 

株式需給の悪化を懸念した売りが出たものの、相鉄HDは同時に、最大200万株・50億円を上限とする自己株式の取得を発表し、株式需給の緩和を図りました。 

なお、シンジケートカバー取引は実施されず、借り入れた株式の返済にはグリーンシューオプションが行使されました。 

オーバーアロットメントに関するQ&A

最後に、オーバーアロットメントに関するよくある質問とその回答を紹介します。 

発行企業にとってオーバーアロットメントは義務か 

オーバーアロットメントの実施は、発行企業にとって法的義務ではなく、主幹事証券会社との協議を経て任意で決定される制度です。 

特にIPOやPOにおいては、想定以上の需要が集まる場合に限り、市場の安定と投資家への配慮を目的として導入されます。 

ただし、起業側にとっても株価の安定や資金調達額が増えるといったメリットがあるため、注目企業のIPOや大手企業のPOでは高確率で実施されます。

オーバーアロットメントは必ず行われるか 

オーバーアロットメントは需要が高まった場合に、主幹事証券会社の裁量で実施される任意の制度です。そのため、目論見書に「オーバーアロットメントによる売り出し」と記載されていても、実際には行われないこともあります。 

実施されない主な理由としては、想定していたほど需要が集まらなかった場合や、市場環境が不安定で価格形成への影響が大きくなると判断された場合が挙げられます。 

オーバーアロットメントと第三者割当増資の違い 

オーバーアロットメントは、一時的に株式を借りて追加販売を行う制度で、需給調整と価格安定を目的とした短期的な売り出しスキームです。これに対して、第三者割当増資は、発行会社が新株を特定の第三者(主幹事証券会社の場合が多い)に直接割り当てて資金調達を行う手段であり、資本構成に恒久的な変化をもたらします。 

両者は併用されることもあり、オーバーアロットメントにおける株式返還手段として、主幹事が第三者割当増資によって新株を取得するケースがあります。 

オーバーアロットメントによる株式売り出しはどこに記載されているか 

オーバーアロットメントの実施予定は、発行会社が提出する有価証券届出書や目論見書の中に明記されています。 

また、シンジケートカバー取引の実施予定期間や、グリーンシューオプションの行使期間などについても記されているため、投資家は目論見書を通じてオーバーアロットメントの概要と調整スキームを把握できます。 

オーバーアロットメントは株式以外の金融商品でも行われるか 

原則として、オーバーアロットメントは株式を対象とした制度であり、債券やデリバティブ、投資信託(オープン型公募ファンド)などの非株式型の金融商品には適用されません。 

これは、制度の本質が「株式の需給調整と価格安定化」にあるためです。ただし、例外的にREIT(不動産投資信託)などの上場する投資証券には、株式と同様の仕組みでオーバーアロットメントが導入されるケースがあります。 

特にREITは、安定的な配当収入や不動産資産に裏付けられた投資商品として個人・機関投資家の注目を集めやすく、需要が集中する場面が見られます。そのため、オーバーアロットメントが実施されるケースも多いです。 

ロックアップとは 

ロックアップとは、IPOに際して、特定の株主が保有する株式を一定期間売却しないことを誓約する制度です。特に、大株主やベンチャーキャピタル(VC)、経営陣などが対象となることが多く、上場後に株式が一気に市場へ放出されて株価が急落するのを防ぐことを目的としています。 

オーバーアロットメントとの関係においては、シンジケートカバー取引において主幹事証券会社が市場で株式を買い戻すための株式が一定数確保されている必要があります。このため、オーバーアロットメントを伴う売り出しでは、既存株主に対してロックアップが設定されることが一般的です。 

ロックアップ条項の詳細(期間や解除条件)は目論見書に記載されており、一般には90日または180日とされますが、「株価が公開価格の1.5倍以上で一定期間推移した場合に解除」といった条件付き解除条項(エスケープ条項)が設けられることもあります。 

空売りとの違い 

オーバーアロットメントと空売りは、いずれも「株式を借りて売る」という行為を含む点で一見似た取引に見えますが、その目的や制度的な位置付けには明確な違いがあります。 

空売りは、投資家が株価の下落を予想して、証券会社から株式を借りて売却し、後に安く買い戻して利益を得ようとする取引です。空売りは市場の価格形成の一部として機能しますが、過度に行われると価格の急落を招く可能性もあるため、金融当局による規制の対象となります。 

オーバーアロットメントは「需給の安定を図るための制度的措置」であり、空売りは「相場変動を利用した投資行為」です。 

新株予約権との違い 

オーバーアロットメント新株予約権は、一見するとどちらも「新たに株式が市場に出回る」仕組みに見えますが、制度の目的や性質は大きく異なります。 

新株予約権は、特定の条件を満たした場合に将来的に新株を一定価格で取得できる権利で、ストックオプションや転換社債の一部として発行されるケースもあります。これは企業の資金調達やインセンティブ制度として活用されるものです。 オーバーアロットメントは「一時的な売り出し調整」に関する制度であるのに対し、新株予約権が「未来の株式発行」に関わる制度であるという違いがあります。 

本記事ではオーバーアロットメントについて解説しました。M&Aや経営課題に関するお悩みはぜひ一度、M&Aロイヤルアドバイザリーへご相談ください。

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