人的承継と物的承継の違いと重要性|円滑に引き継ぐためのポイント

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人的承継(人的事業承継)は、M&Aや事業承継において重要なプロセスの一つです。経営者や従業員といった人材の円滑な引き継ぎは、事業の継続性や成長に直結します。しかし、人的承継には心理的な抵抗や方針の違い、スキルのギャップなど多くの課題が伴います。

本記事では、人的承継の重要性を詳しく解説し、成功させるための具体的なポイントや対策についてお伝えします。

人的承継(人的事業承継)とは何か?

人的承継(人的事業承継)とは、会社や事業の承継において、経営権やノウハウ、人脈などを後継者に引き継ぐことをいいます。

人的承継の定義と重要性

事業承継は主に「物的承継」と「人的承継」に大別されます。人的承継とは、M&Aなど事業承継において、後継者に経営者の役職や経営権、取引先や従業員などの社内外の人脈や経営ノウハウなど「ヒト」に関する資産を引き継ぐことを指します。

事業承継後の経営を円滑に行うためには、後継者の能力だけでなく、役員や従業員など優秀な人材も欠かせません。人的承継は企業の継続性と成長性に大きく影響を与えます。例えば企業のノウハウや取引関係、組織文化などが新しい経営陣に適切に引き継がれることで、事業の安定と発展が期待できます。親族内承継にせよ、M&Aなど第三者への承継にせよ、中小企業の経営者にとって人的承継は事業発展のための重要な課題であり、事前の準備が大切となります。

また、人的承継は単なる人材の移行に留まりません。特に役員や従業員に承継する場合は、後継者の選定、教育訓練計画の策定、逐次的な役割移行など、多岐にわたるプロセスが含まれます。事前の問題点の整理や準備を行うことで、スムーズな組織運営と後継者の早期適応が可能となり、企業の成長を持続させることができます。

さらに、人的承継は企業のリスク管理にもつながります。適切に後継者を育成し引き継ぐことで、経営者交代時の混乱や労働力の欠如を最小限に抑えることができます。特に中小企業やファミリービジネスにおいては、人的承継の成功が企業存続の鍵となるため、その重要性は高まっています。

人的承継と物的承継の違い

人的承継と物的承継は、事業承継を考える上で非常に重要な側面です。

人的承継とは、経営ノウハウや企業の経営者や役員、専門職のスタッフなど、人的リソースを後継者に引き継ぐプロセスを指します。このプロセスでは、専門知識やスキル、企業文化、取引先との関係など、人的な要素を含む継承が焦点となります。

一方、物的承継は株式や事業用不動産などの資産を後続者に引き継ぐことです。具体的には、土地や建物、機械設備、在庫などの物的資産が含まれます。なお、株式を承継する場合、贈与税や相続税が発生することに留意が必要です。

物的承継は「モノ」や「お金」の引き継ぎなのに対し、人的承継では、経営者や従業員の知識や経験、人的ネットワークが中心であり、企業の運営方針や戦略に直結します。どちらも事業承継において欠かせない要素ですが、人的承継は企業の将来を担う人材の育成と引き継ぎが重要であり、事業継続の鍵となります。

人的承継が必要な理由

人的承継が必要な理由として、まず企業の存続と成長が挙げられます。次に、企業内の専門知識やスキルの継承が求められます。企業の競争力を維持し、新たな挑戦に対応するためには、環境整備や研修プログラムの充実などが必要です。また、企業文化や理念の持続も重要であり、これにより従業員のモチベーションと一致した方向性が保たれます。

中小企業における後継者問題

中小企業では、後継者問題が非常に深刻です。その原因のひとつは、後継者不足です。高齢化が進む一方で、若い世代が少なく、企業を引き継ぐ人材が見つかりにくい状況にあります。また、後継者が見つかったとしても、その能力や適性が問題となるケースも多いです。後継者には経営能力だけでなく、従業員との信頼関係の構築や、企業のビジョンを共有することが求められます。

さらに、株主や取引先との関係もきちんと整えておかないと、円滑な承継が難しくなります。これを解決するためには、親族内および社内の事業承継の場合は早い段階で後継者の選定と育成を行い、企業全体で承継計画を立てることが重要です。後継者の育成には時間がかかるため、経営者自身が積極的に関与して、スムーズな引き継ぎを目指す必要があります。また、専門家のアドバイスや外部支援を活用することも有効な手段となります。

M&Aなど第三者に継承する場合も事業承継には時間がかかるものと考え、M&Aアドバイザリーなど専門家を活用しながらできるだけ早めに準備を行うことを推奨します。

企業の成長と継続性に寄与する要因

人的承継が企業の成長と継続性に寄与する要因は多岐にわたります。まず、従業員のスキルとモチベーションが企業の成長には不可欠です。従業員が自らの成長を実感し、企業の目標に向かって意欲的に働く環境を整えることが重要です。

次に、経営者のビジョンとリーダーシップが大きな役割を果たします。明確なビジョンを持ち、それを具体的な戦略に落とし込むことができれば、企業は一貫した方向性を持つことができます。また、イノベーションの推進も欠かせません。変化の激しい市場環境においては、新しいアイデアや技術を取り入れることが競争力の維持に繋がります。

さらに、健全な財務基盤と資金調達のスキルも企業の持続的な成長を支えます。最後に、外部環境との適応力も重要です。市場や顧客の変化に柔軟に対応し、適切な戦略を素早く実行できる能力が求められます。これらの要因を総合的に強化することで、企業は長期的な成長を遂げることができます。

人的承継を成功させるための手続き

人的承継を成功させるためには、計画的かつ戦略的な手続きが欠かせません。具体的には、会社の現状把握、適切な後継者の選定、承継計画の策定と実行、後継者育成のためのプログラムや研修などです。これらの手続きを通じて、スムーズな承継を実現し、企業の継続性を確保します。

親族内・従業員承継の場合

経営の現状把握

事業承継を成功させるための最初のステップは、自社の現状把握です。このプロセスでは、企業の財務状況、経営資源、組織体制、従業員のスキルやモチベーションなどを包括的に評価します。現状把握を行うことで、承継において何が必要かを明確にし、適切な計画を立てる基礎が整います。

財務状況の把握では、過去数年間の財務データを分析し、収益性やキャッシュフロー、負債など主要な指標を確認します。経営資源に関しては、主要な資産や設備、人材の評価を行います。組織体制の評価では、管理職の能力や昇進の可能性、部門間の協力体制などを確認します。従業員のスキルやモチベーションについては、定期的な評価制度やアンケート調査を活用して把握することが有効です。

このように、会社の現状把握を徹底的に行うことで、次のステップである後継者の選定や承継計画の策定において、実践的で効果的な判断材料を得ることができます。

適切な後継者の選定方法

適切な後継者を選定することは、人的承継において極めて重要です。後継者選びにはいくつかのポイントがあります。まず、後継者の候補者が企業のビジョンや価値観に共感できるかです。また、新たなビジョンに基づいて事業計画を策定することも重要です。さらに、経営に必要なスキルや経験、素質を持っているかと後継者となる本人の意思も大切な要素です。

社内から選ぶ場合、従業員の昇進ポテンシャルを評価するためのパフォーマンスレビューや、適性検査などを実施することが有益です。また、候補者が新しい役割にスムーズに移行できるよう、段階的な教育やトレーニングプログラムを提供することが推奨されます。

さらに、後継者選定においては、透明性と公平性を確保するために複数の視点を取り入れることも大切です。例えば、経営チームの意見や外部のコンサルタントのアドバイスを取り入れることで、バイアスを減らし、より良い判断を下すことができます。

承継計画の策定と実行

承継計画の策定と実行は、人的承継を成功させるための中心的なプロセスです。まず、承継の目標とスケジュールを明確に設定し、詳細な計画を作成します。

計画策定においては、企業の長期的なビジョンと照らし合わせて、承継後の新体制のあり方を明確にします。また、従業員や利害関係者と十分にコミュニケーションを取り、計画の透明性を確保することも必要です。関係者からの疑問や懸念に対応することで、スムーズな移行を促進します。

実行段階では、計画に基づいて具体的なアクションを進めます。例えば、業務の引継ぎや新しい体制の構築、後継者の育成などです。この過程で発生する問題や課題に対しては、柔軟かつ迅速に対応し、必要に応じて計画を調整します。

承継計画の策定と実行は、組織全体の協力を得ながら進めることが大切です。しっかりとした計画と適切な実行により、人的承継を円滑に進め、企業の持続可能な成長を確保できます。

後継者育成のためのプログラムと研修

後継者育成のためのプログラムと研修は、人的承継を成功させるための鍵となります。後継者が効果的に役割を果たすためには、十分なスキルと知識を身につける必要があります。育成プログラムと研修は、この成長をサポートするための重要な要素です。

具体的には、リーダーシップ研修、財務管理、戦略的思考、問題解決能力など、経営に必要なスキルを強化するための講座を提供します。

研修の一環として、メンターシッププログラムを導入することも有効です。経験豊富な現経営者や外部の専門家が後継者の指導役となり、実務経験を通じて実践的な知識を指導します。また、社外の研修やセミナーへの参加も推奨されます。これにより、市場の最新トレンドや他社の成功事例など、広い視野を持つことができます。

関係者との協議

人的継承はノウハウだけでなく、現場で働く役員や従業員もです。従業員にとって、経営者が交代することは今後の働き方に影響を与える可能性があり、不安要素となります。従業員の不安を払拭できなければ、優秀な人材が離れていく可能性もあります。そのため、承継計画は早めに周知することが大切です。

また、取引先や金融機関にとっても事前に承継計画を説明しておくことで、後継者への引継ぎ後の取引が円滑になります。金融機関の場合は、個人保証の問題が発生する可能性もあるため、個人保証を利用している場合は「経営者保証に関するガイドライン」を踏まえた対応も大切です。

後継者育成は一過性の取り組みではなく、継続的なプロセスであることを認識し、長期的に計画性を持って進めることが重要です。

経営の承継

後継者の育成や関係者との調整後、会社法に基づいて経営権の継承が行われます。

M&Aによる第三者への事業承継の場合

M&Aなど第三者への事業承継を実施する場合、意思決定後にM&A仲介会社とのアドバイザリー契約を締結します。その後、企業価値評価を行い、買い手企業との打診や交渉を行います。お互いが合意したら、基本合意書を締結し、企業の財務状況などの調査が行われます。

その後、買収価格を決定し、株式譲渡または事業譲渡が行われます。

M&Aの場合、人的承継のうち従業員への影響は以下の通りです。

雇用契約株式譲渡:契約継続
事業譲渡:再契約が必要
給与等原則、変更なし
退職金株式譲渡:変更なし
事業譲渡:変更の可能性あり

雇用契約

株式譲渡の場合は基本的にすべて引き継がれるため、雇用契約はそのままです。一方で事業承継の場合は個別で新たに契約を締結し直す必要があり、従業員の同意が必要となります。

給与面等

給与や待遇面に関しては株式譲渡も事業譲渡も基本手金は変わりません。ただし、事業譲渡の場合、契約する際に条件が変更となる可能性もあります。

退職金

退職金も株式譲渡の場合はそのまま引き継がれますが、事業譲渡の場合は条件が変更となる可能性もあります。

M&Aの場合は、情報漏洩のリスクがあることから従業員には公表されずに進められます。また、ポジションによっても開示のタイミングは異なります。まず、経営陣は意思決定に関与するため、M&A初期フェーズで開示します。

事業部の責任者など、重要な役割を担う人材には基本合意書の締結後に開示されることが多くなります。キーマンとなる人材が退職してしまうと今後の経営にも影響が出てしまうため、丁寧な説明が大切です。その他の従業員には、M&Aの終盤で開示されます。

人的承継に伴うリスクとその対策

人的承継には後継者と従業員の間に発生するさまざまなリスクがあります。これらのリスクを事前に予測し、適切な対策を講じることが成功のカギです。

主要なリスク要因とその解決策

人的承継における主要なリスク要因はいくつかあります。まず、一つ目のリスクは後継者の選定ミスです。適任者を選ぶ際には、経営能力だけでなく、企業文化や従業員との相性も重要です。解決策としては、早期から後継者候補者を複数選び、段階的に育成していくことが有効です。

後継者に必要な要素として以下が求められます。

  • 経営スキル
  • 財務リテラシー
  • 現場の状況把握能力
  • 社内外の人脈
  • リーダーシップ
  • 経営理念・ビジョン
  • 先代の経営への理解

次に、二つ目のリスクは、突然のトップ交代による組織内の混乱です。これを防ぐためには、綿密な承継計画を策定し、全社員に周知する必要があります。また、今までの経営者と新しい経営者が一定期間共存し、円滑な移行を図ることも効果的です。

三つ目のリスクは、従業員のモチベーション低下や不安感です。特に、中小企業ではトップが変わることで従業員の将来に対する不安が増大します。そのため、社内コミュニケーションを強化し、従業員の意見を尊重する制度を導入することが重要です。また、後継者に対する信頼を築くためには、意思決定の傾向を理解し、価値観を明確にすることが重要です。

従業員間の信頼関係構築の重要性

人的承継の成功には、従業員間の信頼関係が欠かせません。信頼が構築されていれば、組織内の協力体制が強化され、承継後の企業運営がスムーズに進行します。逆に、信頼関係が欠如していると、組織内の対立や不満が生じやすくなり、企業全体のパフォーマンスに悪影響を及ぼします。

信頼関係を構築するためには、日常のコミュニケーションが重要です。経営者や管理職が従業員と積極的に意見交換を行い、その意見を尊重する姿勢を示すことで、信頼が深まります。また、透明性のある経営を実践し、経営状況や重要な決定事項を従業員と共有することも信頼を高める要素となります。

成功事例と失敗事例から学ぶ

人的承継における成功と失敗の事例を通じて、その重要なポイントを学びましょう。

成功事例:円滑な承継を実現したケース

中小同族会社のAは株式をAが80%、Aの妻が20%保有。子のBに段階的に株式を譲渡し、事業を承継することを考えていましたが、Bは経営に関する知識が少なく実務にも携わっていませんでした。家族間で協議の上、長期的な事業承継計画を策定し、後継者教育を行い、取引先にも賛同を得た結果、Bを中心とした新規事業に着手し、円滑に後継者への承継が行われています。

参考:中小企業庁「事業承継ガイドライン」

失敗事例:承継計画を決めずに行われたケース

次に、人的承継がうまくいかなかった失敗事例について見てみましょう。

業績が低迷していた中小同族会社の社長Cは子Dに社長職を譲渡。しかし、株式はAが100%保有している状態でした。その際に具体的な株式譲渡の時期は取り決めていませんでした。Bの経営改革により会社の業績は回復しましたが、AはBから経営に関する相談を受けず、臨時株主総会にてBを解任。その後、業績は赤字となり、取引先からの取引継続に関する不安も高まりました。

参考:中小企業庁「事業承継ガイドライン」

公的支援と助成金の活用方法

事業承継における公的支援と助成金の活用は、経営者の負担を軽減し、円滑な承継を実現するために非常に重要です。具体的な支援策や助成金の種類、申請方法について詳しく説明します。

利用できる公的支援策とその申請方法

事業承継に際して利用できる公的支援策には、後継者育成や事業計画の策定支援、そして税制優遇措置などが挙げられます。これらの支援策を活用することで、経営者は経済的な負担を軽減しつつ、事業承継を進めることができます。

経済産業省が提供している『事業承継ガイドブック』は、中小企業の経営者が事業承継の課題を認知することを目的として策定されています。また、中小企業大学校(東京校)では経営後継者に必要な知識や能力を習得できる『経営後継者研修』も行われています。

さらに、『地域事業承継推進事業』では、東京都と地域金融機関による事業承継の支援が受けられます。

さらに、税制優遇措置として、事業承継税制の特例措置があります。これにより、株式譲渡や相続時にかかる税金が軽減されるため、金融負担を著しく減らすことが可能です。

事業承継・引継ぎ補助金について

事業承継・引継ぎ補助金は、中小企業が円滑に事業承継を行うための財政的サポートを提供するだけでなく、新規事業や既存事業の改善に向けた取り組みも支援しています。この補助金は、後継者の育成や設備投資、経営資源の再編成など幅広い用途に使用できます。

補助金の申請手続きは、公募要領の公開・告知・募集の開始から始まります。その後、補助金を提供している機関や団体のWebサイトから必要書類を入手し、提出して申請します。

補助金は選定プロセスにおいて、充実した事業計画と明確な目標設定が重要です。また、補助金の受給には、受給後の報告義務があるため、事業の進捗状況を定期的に報告することが求められます。最新の募集情報や詳細な手続きについては、経済産業省や中小企業庁の公式サイトをチェックし、必要に応じて専門家のサポートを受けることをお勧めします。

まとめ:人的承継を成功させるためのポイント

人的承継を成功させるためには、後継者の適切な選定と育成、そして役員や従業員との円滑なコミュニケーションが不可欠です。まず、会社全体の現状を把握し、今後の方向性を明確にすることが重要です。その上で、後継者となる人物の選定と育成計画を立て、計画的にスキルや知識を伝授することが求められます。また、従業員との信頼関係を築き、全員が納得できる形で承継を進めることも大切です。

さらに、事業承継に伴うリスク管理も忘れてはなりません。特に、法務や税務の知識、そして公的支援策の利用に関しては、専門的な知識が求められます。こうした複雑な手続きを安心して進めるためには、専門家の支援を受けることも一つの方法です。

M&Aロイヤルアドバイザリーでは事業承継に関する初期の相談から承っています。事業承継には時間がかかるものなので早い段階から準備が大切です。経験豊富なアドバイザーが総力をあげてサポートさせていただくため、事業承継を検討している中小企業の経営者様は一度ご相談ください。

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