ロングリストとは?M&Aを成功に導く作成ステップと実践ポイント

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M&Aを成功させるためには、相手企業の選定が最も重要なステップの一つです。しかし、無数の企業の中から最適なパートナーを見つけるのは容易なことではありません。そこで重要な役割を果たすのが「ロングリスト」です。ロングリストとは、M&Aの初期段階において候補となる企業を一定の条件で絞り込み、作成された企業リストのことです。適切なロングリストを作成することで、M&Aの成功確率は大きく高まります。本記事では、ロングリストの基本的な意味から作成ステップ、ショートリストとの違い、そして実践的なポイントまで詳しく解説します。M&Aを検討している経営者の方々にとって、この記事が成功への第一歩となれば幸いです。

ロングリストとは?M&Aにおける役割と重要性

M&Aを成功させるためには、適切な相手企業を見つけることが何よりも重要です。しかし、無数の企業のなかから自社に最適なパートナーを選び出すのは容易ではありません。ここで重要な役割を果たすのがロングリストです。このセクションでは、ロングリストの基本的な意味から、M&Aにおける役割、中小企業M&Aでの特別な価値まで詳しく解説します。

基本的な定義と目的

ロングリストとは、M&Aの初期段階においてターゲット候補となる企業を一定の条件で絞り込み、作成された企業リストのことです。M&Aの提案候補をなるべく広く検討するために、事業内容や売上高、事業エリアなどの情報により絞り込み、候補先になりそうな企業を拾い上げて作成します。

ロングリストの主な目的は、M&Aの候補として少しでも可能性がある企業を漏れなく網羅することです。この段階では完璧な候補企業を絞り込むのではなく、あくまでM&Aの可能性がある企業を幅広くリストアップすることが重要になります。

ロングリストに掲載される企業数は状況によって大きく異なります。記載数の目安は20〜30社程度ですが、ケースによっては100社以上になる場合もあります。例えば、譲渡希望の会社に対して初期的な検討のために提示する場合は概ね数十から100社前後となることが多いですが、検討初期の段階からある程度条件が明確である場合には、ロング・ショートの区分なく20〜30社前後に絞って提示することもあります。

M&Aプロセスにおける位置づけ

M&Aのプロセスにおいて、ロングリストは最初の重要なステップとなります。M&Aの重要なプロセスの一つが、M&Aの対象候補となる企業の選定と絞り込みです。このプロセスにおいて、大切な役割を果たすのがロングリストです。

M&Aの一般的なプロセスは以下のような流れで進みます。

  1. 自社の課題や目的の明確化
  2. M&A戦略の策定
  3. ロングリストの作成(候補企業の一覧作成)
  4. ショートリストの作成(候補企業の絞り込み)
  5. 候補企業への打診・交渉
  6. 基本合意・デューデリジェンス
  7. 最終契約・クロージング

このプロセスにおいて、ロングリストは「膨大な数の企業のなかから有限の候補企業を選び出す」という重要な役割を果たします。ロングリストの目的は、M&A候補先の絞り込みです。何百社という企業の情報を一つずつ精査するのは現実的ではないため、まずは一定の選定基準を満たしている企業のみを事前にピックアップします。

ロングリストを作成することで、「ある程度の精査は必要だが、無制限に時間や手間もかけられない」という課題を解決し、効率的にM&Aを進めることができるのです。

記載すべき企業情報の種類

ロングリストには、主に公開されている基本的な企業情報を記載します。具体的には、以下のような項目が一般的です。

・会社名:正式な社名を記載
・代表者名:現在の代表者の氏名
・所在地:本社や主要拠点の所在地
・主力事業/製品:主要な事業内容や代表的な製品・サービス
・資本金:登記上の資本金額
・売上高/利益:直近の業績数値
・従業員数:正社員を中心とした人員規模
・設立年:創業からの経過年数を把握するための情報
・事業エリア:営業展開している地域
・業界内ポジション:業界内での市場シェアや立ち位置

なお、ロングリストの段階では特に開示されていない情報については、無理に情報を取りに行く必要はありません。詳細な情報部分よりも、網羅的に企業がリストアップされているかの方がより重要です。

これに対し、後述するショートリストでは、事業の強み・弱み、技術力、シナジー効果など、より詳細な分析情報が記載されます。

中小企業M&Aにおいての特別な価値

中小企業のM&Aにおいては、ロングリストの作成がより一層重要な意味を持ちます。なぜなら、中小企業は大企業に比べて情報が少なく、適切な候補企業を見つけること自体が難しいからです。

中小企業M&Aでは、以下の理由からロングリストが特別な価値を持ちます。

  1. 情報の非対称性の解消:中小企業は公開情報が限られているため、ロングリストを通じて幅広く候補企業を把握することで情報格差を埋めることができます。
  2. 適切な相手企業の発見:M&Aを成功に導くためには、どのような企業に、どのような事業領域で取り引きを行うのかを明確にする必要があります。網羅性を追求するあまり条件が曖昧になると、自社の方向性と合致しない企業を含む結果につながり、選定に余分な時間がかかります。ロングリストは、このバランスを取るための効果的なツールとなります。
  3. 経営資源の効率的活用:中小企業は人的・時間的リソースが限られているため、効率的な候補企業選定が必要です。ロングリストを活用することで、多くの候補を整理し、適切な企業を効率的に絞り込むことが可能です。
  4. 事業承継問題の解決:後継者不在などの課題を抱える中小企業にとって、適切なM&A相手を見つけることは事業継続の鍵となります。ロングリストを活用して選択肢を広げることで、業界や地域などの条件に合致する最適な事業承継先を見つける可能性が高まります。

ロングリストに載る企業は、大手企業や有名企業に限られるわけではありません。ロングリストに載る企業には、買い手企業もしくは売り手企業のM&Aの目的に合致し、シナジー効果や成長性を期待できる企業が含まれるため、中小企業であっても、ロングリストに掲載される可能性は十分にあります。

以上のように、ロングリストはM&Aの成否を分ける重要な要素であり、特に中小企業M&Aにおいてはその価値が一層高まります。

M&Aロングリスト作成の5つの重要ステップ

ロングリストはM&Aの成功を左右する重要な資料です。ここでは、効果的なロングリストを作成するための5つの重要ステップを詳しく解説します。それぞれのステップを丁寧に踏むことで、より精度の高いM&A候補企業リストを作成することができます。

STEP1.自社の経営課題を正確に分析する

ロングリスト作成の第一歩は、自社の経営課題や目的を明確にすることです。M&Aを行う理由や達成したい目標を明確にしなければ、どのような企業をリストアップすべきかの基準を設定できません。

自社の課題分析に効果的なのが「SWOT分析」です。SWOT分析では、「強み(Strength)」「弱み(Weakness)」「機会(Opportunity)」「脅威(Threat)」の4つの視点から自社の現状を分析します。この分析により、自社の課題が明確になり、M&Aによって解決すべき問題点や強化すべき領域が見えてきます。

例えば、技術力は高いけれど営業力が弱い企業であれば、営業力の強い企業とのM&Aによるシナジー効果を期待できます。また、後継者不在が課題であれば、自社の企業文化を尊重してくれる買い手企業を探すことが重要になります。

経営課題の分析では以下のポイントを押さえましょう。
・現在の事業における強みと弱みの洗い出し
・業界内でのポジショニングと競争環境の把握
・短期的または中長期的な経営課題の特定
・M&Aによって解決したい具体的な問題点

この段階で経営課題を明確にしておくことで、次のステップでの理想の相手企業像の設定が容易になります。

STEP2.M&A戦略に基づく理想の相手企業像を明確にする

経営課題の分析が完了したら、次はM&A戦略に基づいて理想の相手企業像を明確にします。買い手・売り手のいずれの立場でも、M&Aには実施目的があります。この目的が曖昧になっていると、候補企業を絞る希望条件の設定が難しくなります。

理想の相手企業像を描く際には、以下の点を考慮しましょう。

・自社の弱みを補完できる強みを持っているか
・自社とのシナジー効果が十分に期待できるか
・企業文化や経営理念の親和性はあるか
・地理的な条件(同一地域か、進出したい地域か)
・規模感(売上高、従業員数など)は適切か
・財務状況(利益率、成長性など)は健全か

具体的な例として、製造業で従業員の雇用維持を目的に買い手候補を探す場合、同業他社で人材不足を課題にしている会社が候補として考えられます。この場合、「業種」「従業員数」「所在地」などが重要な条件となります。

理想の相手企業像が明確になれば、次のステップで具体的な選定基準を策定する際の指針となります。M&A戦略に曖昧な部分があると、交渉段階になって相手企業の見直しが必要になったり、希望する契約が結べなかったりする可能性があるため、この段階での明確化が重要です。

STEP3.掲載企業の選定基準を具体化する

理想の相手企業像が明確になったら、次はロングリストに掲載する企業の選定基準を具体化します。ロングリストの作成時には膨大な数の企業をチェックするため、「資本金○○円以上」「売上高△△円以上」のように具体的な条件を設定することが重要です。

選定基準を具体化する際のポイントは以下の通りです。

・定量的な基準を設定する
例:売上高規模(5億円以上10億円未満)、従業員数(50名以上)、設立年数(10年以上)など

・定性的な基準も考慮する
例:特定の技術や特許の保有、顧客基盤の質、ブランド力の強さなど

・必須条件と希望条件を区別する
必須条件:絶対に満たしていなければならない条件
希望条件:満たしていることが望ましいが、必須ではない条件

・業界特性を考慮した基準を設ける
業界によって重視すべき指標は異なります(製造業なら生産能力、IT企業なら技術力など)

選定基準の例として、「本社所在地が関東地方」「売上高5億円以上20億円以下」「従業員数30名以上100名以下」「設立後10年以上」「営業利益率5%以上」「特定の技術・サービスを保有」などが考えられます。

ただし、選定基準が厳しすぎると候補企業が少なくなりすぎる可能性があるため、バランスを考慮しながら設定することが重要です。この基準によって、次のステップでの企業リストアップの精度が大きく左右されます。

STEP4.複数の情報源を活用して候補企業を網羅的にリストアップする

選定基準が定まったら、次はその基準に基づいて候補企業を網羅的にリストアップします。信用調査会社やM&A仲介会社などが保有するデータベースを活用して、企業情報を収集することが一般的です。

候補企業をリストアップする際の情報源には以下のようなものがあります。

・企業情報データベース
信用調査会社のデータベース

・業界団体の会員リスト
各種業界団体や協会が公開している会員企業リスト

・M&A仲介会社のデータベース
M&A仲介会社が独自に保有する企業情報

・ビジネス検索サイト
 企業情報検索サービスや業界ポータルサイト

・公開情報
有価証券報告書、企業ホームページ、ニュースリリースなど

ロングリストの段階では、特に開示されていない情報については無理に情報を取りに行く必要はなく、ない情報は空欄のままで構いません。詳細な情報部分よりも、網羅的に企業がリストアップされているかの方がより重要です。

自力で情報収集が難しい場合は、M&A仲介会社やFAなどのM&A専門家の支援を受けることも検討しましょう。専門家は豊富なデータベースを持っており、効率的に候補企業をリストアップすることができます。

STEP5.選定基準に基づいて候補企業の優先順位付けを行う

候補企業がリストアップできたら、最後のステップとして選定基準に基づいた優先順位付けを行います。データベースを使って機械的に抽出を行うと、基準には合致するが実質的には対象外となる企業が少なからず含まれるため、データ抽出後は個別に絞り込みを行い、対象外の企業を除外するプロセスも欠かせません。

優先順位付けでは以下のポイントを考慮します。

・重要度の高い選定基準の充足度
すべての基準を同等に扱うのではなく、特に重要な基準をどの程度満たしているかを評価

・シナジー効果の大きさ
自社とのシナジー効果が大きいと予想される企業を上位に位置付ける

・M&A実現可能性
オーナー企業か上場企業か、過去のM&A実績の有無など、M&Aの実現可能性を考慮

・アプローチのしやすさ
既存の取引関係や人的ネットワークなど、アプローチのしやすさも考慮

この段階で、候補企業に優先順位をつけたり、A・B・Cなどのランク付けをしたりすることで、後のショートリスト作成やアプローチ戦略の策定が効率的になります。

ロングリストの企業数が多すぎる場合は、この段階でさらに絞り込みを行い、管理可能な数に調整することも考えられます。ただし、あまりに厳しく絞り込みすぎると、有望な候補企業を見逃す可能性もあるため、バランスが重要です。

以上の5つのステップを丁寧に実行することで、M&Aの目的に合致した質の高いロングリストを作成することができます。

ロングリストとショートリストの明確な違いと活用法

M&Aプロセスにおいて、ロングリストとショートリストはどちらも重要な役割を担います。しかし、その目的や記載内容、活用タイミングには明確な違いがあります。このセクションでは、ロングリストとショートリストの違いを詳しく理解し、それぞれを効果的に活用する方法について解説します。

ロングリストとショートリストの目的の根本的な違い

ロングリストとショートリストは、同じM&Aプロセスの中で使用されるリストですが、その作成目的には根本的な違いがあります。

ロングリストの主な目的は、M&Aの候補として少しでも可能性がある企業を漏れなく網羅することです。可能性のある企業を広く把握することで、最適なM&A相手を見逃さないようにするためのリストです。ロングリストは、膨大な企業のなかから選定基準に基づいて幅広く候補をリストアップする役割を果たします。その後の絞り込み(ショートリスト化)に向けた基盤を形成し、効率的な選定プロセスを支援します。

一方、ショートリストの主な目的は、ロングリストから絞り込んだ企業のなかから、実際に交渉を持ちかける企業を選定することです。M&Aの実現可能性がより高い企業や、自社の理想とする候補企業に近い企業を選び出し、効率的にM&Aを進めるためのリストです。

この2つのリストの目的の違いは以下のように整理できます。

・ロングリスト:「可能性のある企業を漏らさず把握する」
・ショートリスト:「交渉すべき最適な企業を選び出す」

例えば買い手企業の場合、ロングリストでは「同業種」「年商5億円以上20億円以下」「従業員30人以上」など基本的な条件で多くの企業をリストアップし、ショートリストでは「特定技術の保有」「利益率10%以上」「後継者不在」など具体的な条件でさらに絞り込みます。

売り手企業の場合には、ロングリストから候補企業にティーザーを送付し、関心を示した企業のみをショートリストに入れるというプロセスを踏むことも多いです。どちらの場合も、最終的な目的は効率的かつ効果的なM&Aの実現です。

記載する情報項目の比較

ロングリストとショートリストでは、記載される情報項目にも明確な違いがあります。ロングリストには一般的に公開されている基本的な企業情報が中心に記載されるのに対し、ショートリストにはM&Aで具体的に必要となる詳細情報が記載されます。

項目ロングリストショートリスト
目的M&A候補企業を漏れなく網羅する交渉を進める企業を絞り込む
企業数20〜100社程度5〜10社程度
作成タイミングM&Aプロセスの初期段階ロングリスト作成後の精査段階
記載情報基本的な企業情報(会社名、所在地、売上高など)詳細情報(強み・弱み、シナジー効果など)
情報の深さ公開情報中心の浅い情報詳細調査に基づく深い情報
選定基準基本的・客観的な条件より具体的・詳細な条件
主な活用法候補企業の把握と整理具体的な交渉先の決定

このように、ロングリストが客観的な情報を中心に羅列するのに対し、ショートリストでは情報を分析してM&Aの相手候補としての評価なども記載します。ショートリストでは、具体的な交渉を見据えた情報が詳細に記載されるため、情報収集にも多くの労力がかかります。

特に未上場企業の場合、これらの詳細情報の入手は容易ではありません。そのため、信用調査会社の個別レポートを購入したり、企業のウェブサイトを詳細に調査したり、場合によっては営業アプローチをしながら情報を収集したりする工夫が必要になります。

M&A各段階で効果的に活用する方法

ロングリストは、M&Aプロセスの初期段階で作成されますが、その後のプロセスでも様々なかたちで活用することができます。ロングリストの効果的な活用方法を段階別に見ていきましょう。

【企業選定段階での活用】
M&Aの初期段階では、ロングリストを使って幅広い候補企業を把握します。この段階では、リストの網羅性が重要です。業界データベースや信用調査会社の情報、M&A仲介会社のデータベースなどを活用して、できるだけ多くの候補企業をリストアップしましょう。

ここでの活用ポイントは、選定基準を明確にしながらも、あまり厳しすぎる条件を設定しないことです。厳しすぎる条件を設定すると、有望な候補企業が漏れてしまう可能性があります。

【ショートリスト作成段階での活用】
 ロングリストからショートリストを作成する段階では、ロングリストに記載された基本情報をベースに、より詳細な調査を行います。この段階でのロングリストの活用ポイントは、優先順位付けです。

企業数が多いロングリストから効率的にショートリストを作成するためには、まず重要度の高い条件を満たす企業から順に詳細調査を行うと良いでしょう。例えば、地理的な近さやシナジー効果の大きさ、財務状況などの観点から優先順位を付け、上位の企業から詳細調査を進めます。

【アプローチ段階での活用】 ショートリストを作成した後も、ロングリストは活用できます。例えば、ショートリスト企業へのアプローチが不調に終わった場合、ロングリストに戻って次の候補企業を選定することができます。また、M&A市場の動向や自社の戦略変更に応じて、ロングリストを更新しながら新たな候補企業を発掘することも可能です。

【交渉段階での活用】 交渉が始まった後も、ロングリストは代替案としての役割を果たします。特定の企業との交渉が難航した場合、ロングリストから他の候補企業を再検討することで、柔軟性を持たせながら交渉力を維持することが可能です。また、ロングリストを最新の情報で更新することで、現実的な選択肢を確保できます。さらに、複数の企業と並行して交渉を進める場合にも、ロングリストは候補企業の全体像を把握するための基盤となります。

このように、ロングリストはM&Aプロセスの様々な段階で活用することができます。単なる候補企業のリストとしてだけでなく、M&A戦略の基盤として継続的に更新・活用していくことで、M&Aの成功確率を高めることができるでしょう。

効果的なロングリスト作成のための実践ポイント

質の高いロングリストを作成することは、M&Aの成功に直結します。このセクションでは、効果的なロングリスト作成のための実践的なポイントを解説します。実務経験に基づいた具体的なノウハウを押さえて、自社に最適なM&A相手を見つけるための基盤を構築しましょう。

戦略的な条件を設定してロングリストの質を高める

ロングリスト作成の際には、候補企業の条件をできるだけ明確にすることが重要です。条件が曖昧だと、一定以上の精度でのスクリーニングが難しくなり、結果として不要な企業がリストに含まれたり、重要な企業が漏れたりする可能性が高まります。

戦略的な条件設定のためには、まずM&Aで達成したい目的を明確にしましょう。例えば、事業拡大が目的なら市場シェアや顧客基盤、技術獲得が目的なら特許や技術力に重点を置いた条件設定が効果的です。

具体的な条件設定の例として、以下のようなものが挙げられます。

・業種区分:特定の業種コードや事業分野

・地理的条件:特定の地域、営業エリア、国

・規模条件:売上高、従業員数、資本金、店舗数

・財務条件:利益率、成長率、負債比率

・業界内ポジション:マーケットシェア、競争優位性

・所有構造:上場/非上場、同族経営、オーナー企業

ただし、条件を設定する際には、あまりに厳密な条件を設けると候補企業が少なくなりすぎる点に注意が必要です。一方で、条件が緩すぎると候補企業が多すぎて絞り込みに時間がかかります。自社の状況や業界特性に合わせた、バランスの取れた条件設定を心がけましょう。

また、条件には「必須条件」と「希望条件」を設けると効率的です。必須条件は絶対に満たしていなければならない条件で、希望条件は満たしていると望ましいが必須ではない条件です。この区別により、柔軟性を持ちながらも効率的なスクリーニングが可能になります。

シナジー効果を見据えた候補企業を選定する

M&Aの成功における重要な要素の一つが「シナジー効果」です。シナジー効果とは、2つの企業が統合することで生まれる相乗効果のことで、単純な足し算以上の価値を生み出す効果を指します。ロングリスト作成時には、このシナジー効果を意識した企業選定が重要です。

シナジー効果には、主に以下のようなタイプがあります。

・コスト面のシナジー:重複機能の統合、スケールメリットによるコスト削減
・収益面のシナジー:クロスセル、新市場への進出、商品ラインナップの拡充
・技術面のシナジー:技術の共有、研究開発力の強化
・人材面のシナジー:優秀な人材の獲得、専門知識・ノウハウの共有

ロングリスト作成時には、これらのシナジー効果を具体的にイメージしながら候補企業を選定することが大切です。例えば製造業の場合、自社が弱い製造工程を強化できる企業や、自社製品と補完的な製品を持つ企業を選定することで、統合後の価値向上が期待できます。

また、シナジー効果を評価する際には、一方向だけでなく双方向で考えることも重要です。自社にとってのメリットだけでなく、相手企業にとってのメリットも想定することで、M&A実現の可能性が高まります。例えば、自社の強い販売チャネルを相手企業の優れた製品に活用できるケースなどが考えられます。

このように、単に表面的な企業情報だけでなく、統合後の相乗効果を具体的にイメージしながらロングリストを作成することで、より質の高いM&A候補企業リストを構築することができます。

業界特性を踏まえたリスト項目を選択する

ロングリストに記載する項目は、業界によって重視すべきポイントが異なります。一般的な企業情報に加えて、その業界特有の重要な指標や情報を項目に含めることで、より実効性の高いロングリストを作成できます。

例えば、小売業では店舗数や立地、客単価、顧客層などが重要な指標となります。IT業界ではエンジニア数や保有技術、特許、主要クライアントなどが重要です。製造業では生産能力や設備の状況、サプライチェーンの構造などがカギとなる指標でしょう。

業界特性を踏まえたリスト項目の例

【小売業】
・店舗数と立地
・売場面積
・客単価
・来店頻度
・EC比率

【IT業界】
・技術スタック
・エンジニア人数
・特許
・知的財産
・契約形態(ストック型/フロー型)
・主要クライアント

【製造業】
・生産能力
・設備投資の状況
・原材料調達ルート
・品質管理体制
・研究開発投資

業界特性を踏まえた項目設定をするためには、自社が属する業界の成功要因(KSF:Key Success Factor)を理解することが重要です。何がその業界で企業価値を左右するのかを分析し、その要素をリスト項目に反映させることで、より実効性の高いロングリストを作成できます。

また、業界ごとに情報源も異なります。例えば、製造業では業界団体の資料や展示会情報が参考になりますし、小売業ではチェーンストア協会のデータなどが活用できます。業界に適した情報源を活用することも、質の高いロングリスト作成のカギとなります。

M&Aアドバイザーと協力してリストを拡充する

自社の力だけでロングリストを作成しようとすると、不要な企業がリストに入ってしまったり、重要な企業が漏れてしまったりする可能性があります。網羅的で効果的なロングリスト作成のためには、実績が豊富なM&Aアドバイザーに協力してもらうことが有効です。

M&Aアドバイザーを活用する主なメリットは以下の通りです。

・豊富なデータベースへのアクセス
M&Aアドバイザーは独自のデータベースを持っており、公開情報だけでは把握できない候補企業の情報を提供してくれることがあります。

・業界に関する専門的知見
特に業界特化型のM&Aアドバイザーは、その業界の動向や企業の状況に詳しく、質の高い候補企業選定が期待できます。

・過去の事例に基づく経験
数多くのM&Aを手掛けてきた経験から、成功しやすい組み合わせや注意すべきポイントをアドバイスしてくれます。

・ネットワークを活用した非公開情報
M&Aアドバイザーのネットワークを通じて、表立って売却や買収を検討していない企業の情報を得られることもあります。

M&Aアドバイザーと協力する際には、自社のM&A目的や重視する条件を明確に伝えることが重要です。また、複数のM&Aアドバイザーと協力することで、より幅広い候補企業情報を得られる可能性もあります。

ただし、M&Aアドバイザーの提案をそのまま受け入れるのではなく、自社の視点で候補企業を評価することも大切です。M&Aアドバイザーのサポートを活用しながらも、最終的な判断は自社で行うという姿勢が重要です。

優先順位付けで効率的なロングリストを作る

ロングリストには多数の企業が含まれるため、効率的にM&Aを進めるためには優先順位付けが重要です。全ての候補企業に対して同じレベルの調査や交渉準備を行うことは時間的にも労力的にも現実的ではありません。優先順位を付けることで、限られたリソースを効率的に配分し、M&Aの成功確率を高めることができます。

優先順位付けのための基準としては、以下のような要素が考えられます。

・M&A実現可能性
売却意向の有無、過去のM&A経験、所有構造などからM&Aの実現可能性を評価します。

・シナジー効果の大きさ
統合後のシナジー効果がより大きく期待できる企業を優先します。

・戦略的重要性
自社の中長期戦略において、特に重要な役割を果たす企業を優先します。

・アプローチのしやすさ
既存の取引関係や人的ネットワークなど、アプローチがしやすい企業を優先します。

・投資対効果
取得コストに対して得られる価値が大きい企業を優先します。

優先順位付けの方法としては、A・B・C・Dなどのランク付けや、数値スコアリング(例:各項目を5点満点で評価し合計点で順位付け)などがあります。どの方法を選ぶにしても、自社の状況や目的に合わせた基準設定が重要です。

優先順位付けは一度行って終わりではなく、新たな情報が得られた時や市場環境の変化に応じて定期的に見直すことも大切です。柔軟な姿勢でロングリストを管理・更新していくことで、常に最適なM&A候補企業に焦点を当てた活動が可能になります。

以上の実践ポイントを踏まえ、戦略的かつ効率的なロングリスト作成を行うことで、M&Aの成功確率を高めることができます。

ロングリスト作成時の注意点

ロングリストは M&A の成功に向けた重要な第一歩ですが、作成過程ではいくつかの落とし穴があります。このセクションでは、効果的なロングリスト作成のために注意すべきポイントを解説します。これらの注意点を押さえることで、より質の高いロングリストを作成し、M&A の成功確率を高めることができるでしょう。

情報漏洩を防いでロングリスト作成を進める

M&A が成立するまでのプロセスにおいて、最も大切なことの一つが情報の漏洩を防ぐことです。特に中小企業の場合、M&A 検討の情報が漏れると様々な悪影響が生じる可能性があります。

情報漏洩によって生じる主なリスクには以下のようなものがあります:

・取引先との関係悪化
「会社を売却するのでは」という情報が取引先に伝わると、取引停止や条件見直しの要求につながる可能性があります。

・従業員の離職
経営の安定性に不安を感じた従業員が転職を考え、特に優秀な人材から離職する恐れがあります。

・競合他社の介入
M&Aの動きを知った競合他社が、取引先へのアプローチを強めるなどの妨害行為を行う可能性があります。

・風評被害
 「経営不振ではないか」といった根拠のない噂が広まり、企業イメージが低下するリスクがあります。

これらのリスクを回避するためには、ロングリスト作成段階から情報管理を徹底することが重要です。具体的な対策としては以下のような方法が考えられます。

・関与者の限定
ロングリスト作成に関わる社内の人員を必要最小限に絞ります。特に初期段階では、経営者や特定の役員のみが情報にアクセスできるようにすることが望ましいでしょう。

・機密保持契約の締結
M&A アドバイザーや情報提供者との間で厳格な機密保持契約(NDA)を締結します。これにより、情報漏洩に対する法的な抑止力を確保できます。

・匿名化の徹底
自社情報を外部に提供する場合には、企業名や具体的な数値を伏せるなど、特定できないよう匿名化を徹底します。特に同業他社に対しては、売上高や主力商品から自社が特定される可能性もあるため、より慎重な情報管理が必要です。

・情報の分散管理
全ての情報を一括で管理するのではなく、必要に応じて分散させて管理することで、万が一の情報漏洩時のリスクを最小化します。

・デジタルセキュリティの確保
ロングリストのデータはパスワード保護や暗号化を施し、不要になった資料はすぐに破棄するなど、デジタルセキュリティも徹底します。

このように、ロングリスト作成の段階から情報漏洩対策を徹底することで、安全かつ効果的なM&Aプロセスを進めることができます。

主観的判断による候補企業の見落としを防ぐ

ロングリスト作成の重要な目的の一つは、M&Aの可能性がある企業を漏れなく洗い出すことです。しかし、作成者の主観的な判断や先入観によって、有望な候補企業を見落としてしまうリスクがあります。主観的判断によって生じる主な問題には、以下のようなものがあります:

・業界の固定観念による制限
「この業界ではM&Aは一般的ではない」といった固定観念によって、候補企業の可能性を狭めてしまうことがあります。

・個人的な好みやバイアス
 「あの企業は社風が合わないだろう」など、個人的な印象や過去の経験に基づくバイアスが判断に影響することがあります。

・情報の非対称性
よく知っている企業に対してはより詳細な情報を持っているため、知らない企業と比較して過大評価や過小評価をしてしまうことがあります。

・短期的視点での判断
現在の業績や市場状況だけで判断し、将来性や潜在的なシナジー効果を見落とすことがあります。

これらの主観的判断による問題を防ぐためには、以下のような対策が有効です。

・客観的な基準の設定
定量的・定性的な選定基準を事前に明確に設定し、それに基づいて機械的に企業を選定します。これにより、個人的な好みやバイアスによる影響を最小化できます。

・複数の視点からの評価
社内の複数のメンバーや外部の専門家など、異なる視点を持つ人々の意見を取り入れることで、一人の主観に偏った評価を避けます。

・データベースの活用
公的な企業データベースや業界団体のデータなど、客観的な情報源を積極的に活用し、幅広い候補企業を検討します。

・ワイルドカード枠の設定
通常の基準では選定されない企業でも、独自の技術や市場などを持つ企業を「ワイルドカード」として検討対象に含めることで、思わぬ発見につながることがあります。

このように、主観的判断による見落としを防ぐための工夫を取り入れることで、より網羅的で質の高いロングリストを作成することができます。M&Aの成否を分けるのは、最初の候補企業選定の段階にあると言っても過言ではありません。

中小企業がロングリスト作成で陥る失敗を回避する

特に中小企業がロングリスト作成時に陥りやすい失敗パターンがあります。大企業と比べてリソースやM&A経験が限られる中小企業特有の課題を理解し、回避策を講じることが重要です。中小企業がロングリスト作成で陥りやすい主な失敗は以下のとおりです。

・リソース不足による不十分な調査
限られた人員や時間のなかで、十分な調査ができずに表面的な情報だけでリストを作成してしまうことがあります。

・過度に身近な企業への偏り
既知の取引先や競合企業など、身近な企業に候補を限定してしまい、潜在的な好機を逃すリスクがあります。

・規模のミスマッチ
自社と同規模または小規模の企業だけを検討対象にして、より大きな企業との組み合わせを検討しないことがあります。

・財務面への過度な注目
財務指標だけに注目し、企業文化や経営理念、人材などの定性的な側面を考慮しないことがあります。

・自力での候補企業探索の限界
専門家の支援を受けずに自力で候補企業を探そうとするあまり、視野が狭くなったり、効率が悪くなったりするケースがあります。

これらの失敗を回避するための対策としては、以下の方法が有効です。

・外部リソースの活用
M&A仲介会社や業界団体など、外部のリソースを積極的に活用することで、限られた社内リソースを補完します。特に初めてのM&Aでは、経験豊富なアドバイザーのサポートを受けることが重要です。

・幅広い情報源からの候補企業探索
既存の取引先や競合だけでなく、業界ディレクトリ、展示会情報、業界誌、オンラインプラットフォームなど、複数の情報源から幅広く候補企業を探索します。

・柔軟な選定基準の設定
規模や財務指標だけでなく、技術力や市場ポジション、成長性などの様々な側面から候補企業を評価します。特に中小企業M&Aでは、定性的な要素が成功の鍵を握ることも少なくありません。

・フェーズ別のアプローチ
初期は広く候補企業をリストアップし、段階的に詳細調査を進めることで、効率的かつ効果的なロングリスト作成を実現します。リソースの制約がある中小企業には特に有効なアプローチです。

・M&A専門家のレビュー
作成したロングリストをM&A専門家にレビューしてもらい、見落としや偏りがないかチェックすることも有効です。

中小企業特有の課題を理解し、適切な対策を講じることで、限られたリソースの中でも質の高いロングリストを作成することが可能になります。

信頼性の高い情報源を活用してリストの精度を上げる

ロングリストの質は、その基となる情報の精度に大きく依存します。信頼性の高い情報源を活用することで、より精度の高いロングリストを作成し、M&Aプロセスの効率化と成功確率の向上につなげることができます。

信頼性の高い情報源としては、以下のようなものが挙げられます。

・公的なデータベース
企業情報データベースは、基本的な企業情報の収集に有用です。上場企業であれば、有価証券報告書や決算短信なども重要な情報源になります。

・業界団体や協会
業界団体や協会が提供する会員リストや業界統計は、特定の業界内の企業を網羅的に把握するのに役立ちます。また、業界特有の情報も得られる貴重な情報源です。

・M&A仲介会社のデータベース
多くのM&A仲介会社は、独自のデータベースを保有しています。これらを活用することで、非公開の売却意向情報などを得られる可能性があります。

・業界メディアや専門誌
業界専門のメディアや雑誌は、最新の業界動向や企業情報を把握するのに役立ちます。特に業界再編の動きなどを知る上で重要な情報源となります。

・展示会や業界イベント
業界の展示会やイベントは、新興企業や革新的な技術を持つ企業を発見する機会となります。出展企業リストなどを活用することで、新たな候補企業を見つけることができます。

・ソーシャルメディアや企業ウェブサイト
企業のウェブサイトやSNSアカウントは、最新の企業情報や企業文化を知る手がかりになります。特に非上場企業の場合、公開情報が限られるため、これらの情報源の価値は高まります。

情報源を活用する際には、以下のポイントに注意すると効果的です。

・複数の情報源の組み合わせ
単一の情報源に頼るのではなく、複数の情報源を組み合わせることで、情報の偏りを防ぎ、より網羅的な候補企業リストを作成できます。

・情報の更新頻度の確認
古い情報に基づくと、既に事業内容が変わっていたり、他社に買収されていたりする可能性があります。情報の鮮度を常に意識しましょう。

・一次情報と二次情報の区別
企業が直接発信している情報(一次情報)と、他者が解釈や分析を加えた情報(二次情報)を区別し、できるだけ一次情報に近いソースを重視します。

・情報の相互検証
重要な情報については、複数の情報源で相互に検証することで、情報の正確性を高めることができます。

このように、信頼性の高い情報源を適切に組み合わせて活用することで、より精度の高いロングリストを作成し、効率的なM&Aプロセスを実現することができます。ただし、情報収集には時間と労力がかかるため、自社の状況に応じた現実的なアプローチを選択することも重要です。必要に応じてM&Aアドバイザーなどの専門家のサポートを受けることも検討しましょう。

まとめ|ロングリストを活用してM&Aを成功させよう

本記事では、M&Aにおけるロングリストの役割から作成ステップ、実践ポイント、注意点まで詳しく解説してきました。ロングリストは、M&Aプロセスの初期段階で作成される候補企業リストであり、M&Aの成否を左右する重要な要素です。

ロングリストの作成は、単なる候補企業の羅列ではなく、戦略的な視点での企業選定が求められます。自社の経営課題を正確に分析し、M&A戦略に基づいた理想の相手企業像を明確にした上で、具体的な選定基準を設定することが重要です。また、複数の情報源を活用して網羅的に候補企業をリストアップし、選定基準に基づいた優先順位付けを行うことで、効率的なM&Aプロセスを実現できます。

ロングリストとショートリストの違いを理解し、それぞれを適切なタイミングで活用することも大切です。ロングリストは候補企業を漏れなく網羅することを目的とし、ショートリストは実際に交渉を進める企業を絞り込むことを目的としています。この2つのリストを効果的に活用することで、M&Aの成功確率を高めることができます。

ロングリスト作成時には、情報漏洩の防止や主観的判断による見落としの回避など、いくつかの注意点にも留意する必要があります。特に中小企業の場合は、限られたリソースのなかで効率的にロングリストを作成するための工夫が求められます。信頼性の高い情報源を活用し、必要に応じてM&Aアドバイザーなどの専門家のサポートを受けることも検討しましょう。

M&Aは企業の成長戦略や事業承継の手段として、今後ますます重要性が高まるでしょう。その第一歩となるロングリスト作成を丁寧に行い、戦略的なM&Aを実現することで、企業の持続的な成長と発展につなげましょう。

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