期待収益率とは何?M&Aで使用するための計算方法や求め方をわかりやすく解説

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期待収益率は、M&Aにおける投資判断の重要な指標です。M&Aにおける期待収益率は、単純な株式投資とは異なり、対象企業の既存事業価値や統合コスト、統合リスクなど複数の要素を総合的に評価して算出されます。 

買収価格の妥当性判断、DCF法による企業価値評価、最終的な投資実行可否の決定において重要な役割です。 

本記事では、M&Aにおける期待収益率の基本概念から具体的な計算方法、実務での活用事例まで解説します。 

期待収益率を正しく理解して活用することで、論理的なM&A判断が可能になります。投資成功の確率を高められるでしょう。 

期待収益率とは?概念をわかりやすく解説

M&Aにおける期待収益率とは、買収企業が対象企業を買収することで将来的に得られると予想される収益率のことです。M&A取引の経済的合理性を判断する重要な指標として活用されます。 

重要なのは「期待」の言葉が示すように、確実に得られる収益ではなく、あくまで予想値です。将来の経済状況や市場環境は不確実であるため、実際の収益は期待収益率と異なる可能性があります。 

計算方法は、複数の将来シナリオ(好景気・現状維持・不景気など)それぞれの収益率と発生確率を掛け合わせた合計です。 

たとえば、

・好景気時の収益率が15%、確率40%

・現状維持の収益率が5%、確率60%

上記のケースの場合の期待収益率は9%となります。 

期待収益率の計算式:
15%×40%+5%×60%=9%

期待収益率はM&A案件の評価、事業価値算定、投資商品の選択など多様な局面で使用されます。リスクとリターンのバランスを客観的に評価するのに重要です。 

期待値の考え方 

期待値とは、不確実な状況において複数の結果が考えられる場合に、各結果の値と発生確率を掛け合わせて算出される理論上の平均値です。確率理論を基盤とした考え方で、投資や経営の意思決定プロセスにおいて客観的な判断基準を提示します。 

期待値の基本的な計算式は、以下のとおりです。 

期待値 = Σ(各個別結果の値 × その実現確率) 

たとえば、くじ引きで特等賞500万円(当選率0.02%)、1等賞50万円(当選率0.2%)、外れ0円(確率99.78%)のケースでは、期待値は(500万×0.0002)+(50万×0.002)+(0×0.9978)= 2,000円となります。 

投資分析においては、楽観的・標準的・悲観的な各シナリオを構築し、対応する収益性と実現確率から期待収益率を導出します。こうした手法により主観的な判断を抑制し、データ重視の合理的な決定が可能です。 

期待値は「統計的な予想数値」であり、個別の結果を約束するものではない点に注意が必要です。短期間では期待値から大幅に乖離した結果が生じる可能性もありますが、長期間の観測では期待値付近に集約される性質があります。 

期待値の概念を理解することで、リスクの適正な評価と、より良い投資判断の実行が可能となります。 

期待収益率の4つの計算方法

期待収益率の計算方法は、以下のとおりです。 

  • ヒストリカルデータ方式 
  • シナリオ予測方式 
  • ポートフォリオ方式 
  • ビルディングブロック方式 

それぞれの計算方法について解説します。 

ヒストリカルデータ方式 

ヒストリカルデータ方式は、過去の実績データの平均値をそのまま将来の期待収益率として用いるシンプルな計算方法です。 

たとえば、過去15年間の平均リターンが7%であった場合、将来においても同程度の成果が期待できると想定し、期待収益率を7%に設定します。過去の傾向が将来も継続する前提で設定するのが特徴です。 

ヒストリカルデータ方式のメリットは、計算が簡単で、エクセルや計算サイトを用いて手軽に算出可能な点です。実績データという客観的な根拠に基づくため、個人的な偏見が入りにくく、実施者に関わらず一貫した結果が得られます。 

デメリットは、過去の成果が将来を確約するものではないことです。事業環境の根本的変化、経済サイクルの変動、新技術の台頭などが起こった場合、過去データに基づく予測が現実から乖離することがあります。また、データの対象期間によって結果が変動するため、期間設定の判断が重要です。 

シナリオ予測方式 

シナリオ予測方式は、今後起こりうる複数のシナリオを想定し、各シナリオの収益率と発生確率を組み合わせて期待収益率を計算する方法です。不確実な将来を「好景気」「現状維持」「不景気」などに分類し、それぞれに収益率と発生確率を設定して加重平均を求めます。 

計算式は以下のとおりです。 

  • 期待収益率 = Σ(各シナリオの収益率 × 発生確率) 

好景気シナリオ(収益率20%、確率30%)、現状維持(収益率10%、確率50%)、不景気(収益率-5%、確率20%)の場合、

  • 好景気シナリオ: 20%×0.3=6%
  • 現状維持シナリオ: 10%×0.5=5%
  • 不景気シナリオ: −5%×0.2=−1%

これらを合計すると、6%+5%−1%=10%となり、期待収益率は10%となります。

メリットは、将来の不確定要素を数値化して評価でき、多様なリスク要因をシナリオに反映できる点です。M&Aや新規事業投資など、不確実性の高いプロジェクト評価に適しています。 

デメリットは、各シナリオの収益性と発生確率の設定が経験的判断に依存しやすく、設定者の専門性に結果が左右されることです。また、想定外の状況が発生した場合に予測精度が低下するリスクがあります。 

ポートフォリオ方式 

ポートフォリオ方式は、複数の資産に分散投資している場合に、各資産の期待収益率と投資比率を用いてポートフォリオ全体の期待収益率を算出する方法です。個別資産の期待収益率が既知であることを前提として、投資比率に応じた加重平均を計算します。 

計算式は、以下のとおりです。 

  • ポートフォリオの期待収益率 = Σ(各資産の期待収益率 × 投資比率) 

たとえば、株式60%(期待収益率12%)、債券40%(期待収益率4%)のポートフォリオの場合、全体の期待収益率は(12%×0.6)+(4%×0.4)= 8.8%となります。 

メリットは、分散投資による全体的な収益見通しを把握でき、資産配分の調整や投資戦略の修正に活用できる点です。投資ファンドや年金運用機関などのプロフェッショナルが日常的に使用する実践的な手法です。 

デメリットは、個別投資対象の期待収益率をあらかじめ正確に算定しておく必要があることです。また、全体のリスク(変動幅)は単純な加重平均では計算できず、投資対象間の相関性を考慮した高度な計算が求められるため、リスク分析が必要となります。 

ビルディングブロック方式 

ビルディングブロック方式は、期待収益率を基本的な構成要素(ブロック)に分解し、積み上げて全体の期待収益率を算出する理論的なアプローチです。主にリスクフリーレート、リスクプレミアム、ベータ値などの要素を組み合わせて、論理的で客観的な期待収益率を導き出します。 

基本的な計算式は、以下のとおりです。 

  • 期待収益率 = リスクフリーレート + リスクプレミアム 

CAPM(資本資産価格モデル)の例を紹介します。 

  • 期待収益率 = リスクフリーレート + β × 市場リスクプレミアム

リスクフリーレート:国債や預金など金融商品の利回り

β:株式市場が1%変化したときの任意株式のリターンの変動割合

市場リスクプレミアム:期待リターンからリスクフリーレートを差し引いた数値

例えば、国債利回りが2%、βが1.2、市場リスクプレミアムを6%とすると、

  • 2% + 1.2 × 6% = 9.2% (期待収益率)

メリットは、金融理論に基づく客観的で論理的な算出が実現でき、構成要素を明確に把握できることです。市場の基本的な金利環境や投資家のリスク姿勢を適切に反映でき、企業評価やM&A分析において幅広く採用されています。 

デメリットは、各構成要素(リスク対価や市場感応度)の設定に専門的知識が要求されることです。また、市場の効率性という理論的仮定に依存するため、市場の非効率性や異常事態では予測精度が悪化する可能性があります。実務適用には相当の金融専門知識が必要となります。 

期待収益率をM&Aに活用する方法

期待収益率をM&Aに活用する方法は、以下のとおりです。 

  • 期待収益率をもとにM&Aの実行可否を見極める 
  • DCF法を用いた企業価値算定への応用 

それぞれの活用方法について解説します。 

期待収益率をもとにM&Aの実行可否を見極める 

期待収益率は、M&Aの実行可否を判断する際の重要な投資指標として活用されます。買収企業は、M&Aにかかる買収価格や統合費用などの総コストと期待収益率を比較し、投資の経済的合理性を客観的に評価します。 

評価の基本原則として、期待収益率が企業が設定する最低収益要求水準(ハードルレート)を上回る場合、M&Aは実行価値があると判断できるでしょう。 

たとえば、買収対価150億円で年間見込利益18億円のケースでは、期待収益率は12%となります。この数値が最低要求水準9%を上回るため、投資価値の高い案件と判定されます。 

しかし、統合リスクやシナジー効果の不確実性などのM&A特有のリスクも期待収益率の計算に反映することが必要です。

買収監査(デューデリジェンス)過程で新たな事実が判明した場合は、期待収益率を随時更新し、最終的な投資決定に反映させます。この期待収益率をベースとした評価により、M&Aの成功確率を大幅に向上させることが可能になります。 

DCF法(割引現在価値法)を用いた企業価値算定への応用 

DCF法(割引現在価値法)において期待収益率は、将来キャッシュフローを現在価値に換算する割引率として機能します。この期待収益率は一般的に、WACC(加重平均資本コスト)における株主資本コスト要素として算入されます。 

同じ将来キャッシュフローであっても、期待収益率8%と9%では企業価値に差異が生じます。 そのため、期待収益率はM&Aの買収価格交渉において重要な要素です。

売却側企業は控えめな期待収益率を採用して高い企業価値を提示し、買収側企業は厳格な期待収益率により適正価格を算定します。この期待収益率の設定における根拠資料として活用されるのは、以下の要素です。 

  • 市場データ 
  • 業界比較指標 
  • リスク分析 

最終段階では買収監査の結果を反映した妥当な期待収益率での合意が形成されます。DCF法と期待収益率の組み合わせにより、客観的で説得力のある企業価値評価が実現可能です。 

期待収益率とリスクの関係

期待収益率とリスクの関係は、以下のとおりです。 

  • 分散投資とリスク軽減 
  • リスク調整後リターン 

それぞれ解説します。 

分散投資とリスク軽減 

分散投資は、リスクを抑えつつ安定したリターン・期待収益率を目指す方法の一つです。M&Aや投資運用においては、特定の資産や事業領域への集中により高い収益を期待できる反面、損失リスクも増大します。 

複数の産業分野や地理的地域にわたって企業買収を実行することで、ある事業の収益が悪化しても他の事業で損失を補えます。相関性の低い収益源を組み合わせれば、全体のリスクを管理しながら安定したリターンを確保することが可能です。 

リスク調整後リターン 

リスク調整後リターンとは、投資リスクを考慮して収益性を評価する指標です。M&Aでは、期待収益率が高水準であっても統合リスクや業績変動の不確実性が大きい場合、投資の合理性が低下する場合があります。 

リスク調整後リターンを用いれば、「取ったリスクによってどれだけの収益が得られているか」の視点で評価できます。安定性と収益性のバランスを取れるため、M&A戦略における重要な指標と言えるでしょう。 

期待収益率の注意点3つを紹介

期待収益率の注意点は、以下の3つです。 

  • 計算方法を誤解しない 
  • 期待収益率と標準偏差の関係を理解する 
  • ポートフォリオ全体で考える 

期待収益率は投資判断において極めて有用な指標ですが、その活用には注意が必要です。誤った理解や使い方をすると、投資判断を誤る可能性があります。 

ポイントを理解することで、期待収益率の持つ本来の価値を活用し、より良い投資判断が可能になります。 

計算方法を誤解しない 

期待収益率を活用する上で重要な注意点は、計算方法を誤解しないことです。期待収益率は予測値であり、確約された実績値ではないという点を理解しましょう。 

多くの投資家が陥りがちな誤解として、期待収益率を確実に得られるリターンと勘違いしてしまうケースがあります。よくある誤解の例は、以下のような考え方です。 

  • 「過去15年の平均リターンが9%だから、今後も確実に9%のリターンが得られる」 
  • 「期待収益率12%と計算されたから、投資すれば確実に12%の利益が得られる」 

実際の収益(実現収益率)は、経済状況の変化、企業業績の変動など多様な要因により、期待収益率から大幅に乖離する可能性があります。 

ヒストリカルデータ方式を用いる場合でも、過去の成果が将来を確約するものではないことを認識しておきましょう。過去のデータは参考情報に過ぎず、将来の環境変化により期待値が変動する可能性を常に考慮する必要があります。 

期待収益率と標準偏差の関係を理解する 

期待収益率と標準偏差の関係を正しく理解しましょう。期待収益率は平均的な収益を示しますが、収益を得るためにどれくらいのリスクを取っているのかは、期待収益率だけでは判断できません。リスクの大きさを表す主な指標が標準偏差です。 

具体的には、同じ期待収益率5%の投資対象AとBがあったとしても、Aの標準偏差が2%(低リスク)であるのに対し、Bの標準偏差が15%(高リスク)であれば、投資の性質は全く異なります。Bは高いリターンを狙える可能性がある一方で、損失を被る可能性も高いです。 

期待収益率は必ずリスク指標(標準偏差やベータ値など)組み合わせて評価する必要があります。「リスク調整後リターン」の概念を理解し活用することで、「負担するリスクに見合うリターンか」を判断できるようになります。 

許容度を明確にし、それに基づいた投資判断をおこなうことが重要です。 

ポートフォリオ全体で考える 

期待収益率とリスクだけを見るのではなく、複数の資産を組み合わせたポートフォリオ全体としての期待収益率とリスクを考慮することが重要です。 

たとえば、株式と債券のように相互に逆方向の値動きをする傾向がある資産を組み合わせることで、一方の損失を他方で補完し全体の変動を抑制できます。 

ポートフォリオ全体の期待収益率は、各資産の期待収益率と構成比率の加重平均で算出されます。しかし、ポートフォリオのリスクは単なる加重平均ではなく、各資産間の相関関係も考慮して計算されるため、より複雑です。 

個別資産の期待収益率が高くても、それがポートフォリオ全体の目標やリスク許容度と合致しない場合は、安易に組み込むべきではありません。「分散投資」の原則を理解し実践することで、特定要因による影響を和らげ、ポートフォリオ全体のリスクを管理できます。 

期待収益率についてよくある質問

期待収益率についてよくある質問は、以下のとおりです。 

  • 期待収益率と実現収益率の違いは? 
  • 確率がわからないときはどうする? 
  • 期待収益率が高い投資が良いとは限らない? 

それぞれについて解説します。 

期待収益率と実現収益率の違いは? 

M&Aにおける期待収益率と実現収益率の違いは、買収の計画段階と統合完了後の成果という時間軸で明確に区別される点です。 

M&Aの期待収益率は、買収により得られると予想される収益率です。 

対象企業の将来キャッシュフロー予測、シナジー効果の見積もり、統合コストを考慮してDCF法やIRR計算で求められます。買収価格の妥当性判断や投資意思決定の根拠として活用されます。 

M&Aの実現収益率は、買収後3-5年程度の統合期間を経て確定する、実際に得られた収益率です。統合後の実際の業績、実現されたシナジー効果、予期しなかった統合コストなどを反映した実績値となります。 

一般投資と比べて統合リスクが高く、文化的摩擦、システム統合の遅れ、キーパーソンの離職などにより、期待収益率と実現収益率の乖離が大きくなりがちです。成功するM&Aには、現実的な期待収益率設定と継続的なPMI(統合後プロセス)管理が必要です。 

確率がわからないときはどうする? 

確率がわからないときは、ヒストリカルデータ方式で過去の平均リターンを使うのが基本的です。将来シナリオを自分で仮定し等確率で計算する方法や、ポートフォリオの加重平均を利用する方法もあります。 

期待収益率は本来、「各状況の収益率 × その状況の発生確率」の加重平均で求めますが、将来の確率がわからない場合も少なくありません。 

期待収益率が高い投資が良いとは限らない? 

期待収益率が高い投資は、必ずしも良いとは限りません。一般に期待収益率の高さはリスクの高さを反映しており、収益のブレ幅や損失リスクも同時に評価する必要があります。 

期待収益率の数値だけにとらわれず、全体の投資効率や目的との整合性を考慮した評価が重要です。 

まとめ

期待収益率とは、将来的に期待できる収益率です。M&Aでは、買収価格の妥当性判断や企業価値評価に深く関わります。 

ただし、期待収益率はあくまでも予測値であり、実際の収益(実現収益率)とは異なる可能性があるでしょう。期待収益率には複数の計算方法があるため、目的に応じて使い分けられます。 注意点を理解し、期待収益率を正しく活用することで、合理的な投資判断が可能です。 

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