ROE(自己資本利益率)とは?計算式や目安を業界別に詳しく解説

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「ROEとは何を表す指標でどのように投資判断に役立つのか?」と疑問に思う方も多いのではないでしょうか。 

財務指標は専門用語が多く、意味を理解しづらいため、数字をどう読み解けば良いのか不安に感じる場面もあります。ROEは、企業の収益力や経営効率を判断する上で欠かせない重要な指標であり、仕組みや見方を理解すれば投資判断の精度が大きく向上します。 

本記事では、ROEの基本的な意味や計算方法、注意点まで分かりやすく解説します。

ROEとは

まず、ROEの基礎知識について解説します。

ROEの定義

ROEとは、株主が拠出した自己資本を使って企業がどれだけ効率的に利益を生み出しているかを示す指標です。「Return on Equity」の略称で、日本語では「自己資本利益率」といいます。 

ROEの水準は投資家からの評価にも直結するため、企業にとっても重要な管理指標の一つです。ただし、高い数値が必ずしも健全な経営を意味するとは限らず、財務構造や利益の質を踏まえて読み解くことが欠かせません。

ROEの目安・評価水準

ROEは企業の収益力を測る代表的な指標ですが、業界ごとに特性が異なるため、適切とされる水準も一律ではありません。一般的には8〜10%程度を確保していれば、自己資本を生かしながら安定的に利益を生み出している企業と評価されることが多いです。

ただし、ROEは業種ごとに前提条件が大きく異なります。製造業や小売業のように設備投資が欠かせない分野では、固定資産が膨らむことからROEが低く出やすい傾向があります。一方、IT関連企業やサービス業のように初期投資が比較的少ないビジネスモデルでは、高めのROEが期待されるケースが多く見られます。

そのため、個々の企業のROEを評価する際は、単なる数値の比較では不十分であり、同業種の平均値やビジネスモデルの違いを踏まえての判断が重要です。

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    ROEの計算方法

    ROEの計算方法について分かりやすく解説します。

    ROEの基本式

    ROE(自己資本利益率)は、次の式で求めます。

    ROE(%)=当期純利益÷自己資本×100

    ここで用いる当期純利益は、企業が1年間の活動を通じて最終的に残した純粋な利益を表します。一方、自己資本は株主からの出資金や過去の利益の蓄積など、返済の必要がない資本のことです。

    この二つを比較することで、株主が負担した資本がどれほど効果的に運用されているかを数値として把握できます。

    ROEの計算例

    ある企業の貸借対照表と損益計算書から、自己資本が1,000万円、当期純利益が120万円だった場合を考えてみましょう。

    このときのROEの計算式は次のとおりです。

    120万円÷1,000万円×100=12%

    つまり、この企業は株主から預かった自己資本に対して年12%の利益を生み出しており、資本効率が比較的高い水準にあると評価できます。

    一方で、自己資本が同じ1,000万円でも、当期純利益が50万円しかなかったとします。この場合の計算は次のとおりです。

    50万円÷1,000万円×100=5%

    このケースでは、先ほどの12%と比べて株主資本の活用度合いが低く、収益力も抑えられていることがわかります。

    このように、ROEは当期純利益の大きさによって大きく変化し、数値が高いほど株主資本を効率よく使って利益を上げていることを示す指標です。反対に、低いROEは資本の使い方に改善の余地があることを意味します。

    ROEを活用・分析する際のポイント

    経営や投資においてROEを活用・分析する際の注意点は、次のとおりです。

    • 業界特性や市場環境の違いを踏まえて比較する
    • 他の指標と組み合わせて評価する

    それぞれをわかりやすく解説します。

    業界特性や市場環境の違いを踏まえて比較する

    ROEは、業種によって標準的な数値が大きく異なるため、単純に高い・低いだけで企業の優劣を判断するのは適切ではありません。

    例えば、製造業や製薬業のように研究開発や設備投資が多く必要な産業では、資金を将来の成長に振り向けるため、短期的にROEが低下することがあります。一方で、設備投資の負担が小さい情報通信業やサービス業では、相対的に高いROEが出やすい構造があります。

    また、景気の変動や市場環境の変化もROEに影響します。不況期にあえて投資を拡大する企業は、短期的にはROEが下がるものの、中長期的には競争力の強化につながることも少なくありません。

    このように、ROEは業種特性や市場環境の背景を踏まえた上で、同業他社との比較によって分析することが重要です。

    他の指標と組み合わせて評価する

    ROEは自己資本に対する利益率を示しますが、計算上「負債(借金)」は考慮されません。そのため、自己資本が小さく負債に大きく依存している企業ほど、同じ利益でもROEが高く算出されます。

    例えば、A社とB社が同じ当期純利益500億円を得ていても、自己資本が少ないB社はROEが20%まで上昇します。一方、A社は自己資本が大きいためROEは10%にとどまります。このケースでは、B社の方が効率よく稼いでいるように見えますが、実際には負債依存度が高く、財務リスクを抱えている可能性があります。 

    このため、ROEは単独で判断せず、他の財務指標と組み合わせて評価することが重要です。

    ROEの業界別の平均

    業界別のROEの平均値と特徴を解説します。

    建設業

    建設業のROEは、業界平均でおおよそ7.87%とされています。ただし、この数値は時期やデータにより変動する可能性があります。

    建設業は、工事の受注状況が景気に左右されやすく、資材費・人件費・重機の維持管理費などの固定費が多く発生する業界です。また、工事の完了までに時間がかかるため、利益の計上が年度をまたぐケースが多く、収益の安定性が課題です。さらに、公共工事や大規模工事では入札競争が激しいため利益率が低下し、結果としてROEも中位よりやや低めの水準に落ち着く傾向があります。

    製造業

    製造業のROE平均は、業種ごとに大きなばらつきがあります。たとえば、食料品は約8.94%、機械は約9.45%、精密機器は約13.58%と比較的高い一方で、繊維製品(約2.84%)や金属製品(約4.72%)などは低い水準にとどまっています。

    高い技術力が付加価値を生む業種では収益性が高く、ROEも上昇しやすい傾向があります。一方、価格競争が激しい業種では利益率が低下し、ROEも伸び悩みます。また、製造業全般では、工場や設備への巨額な投資が必要なため固定費が重く、不況時にはROEが大きく落ち込む傾向があります。

    情報通信業

    情報通信業のROEはおおよそ8.39%とされています。この業界はクラウドサービスやソフトウェア開発、通信インフラなどが中心で、製造業に比べて大規模な設備投資を必要とする企業は少ない傾向にあります。そのため、特にソフトウェアやITサービスの分野では利益率が高く、固定費も比較的軽いため、自己資本を効率的に活用しやすいことが特徴です。

    一方、技術革新のスピードが速く、競争が激しいため、研究開発や人材投資に多額のコストがかかる点が課題です。それでも、全体としては安定したROEを維持している企業が多い業界といえます。

    運輸業・郵便業

    運輸業のROEは業種によって異なり、陸運が約9.20%、海運が約9.66%、空運が約14.02%とされています。

    航空業のROEが高いのは、需要が旺盛な年には座席稼働率の上昇によって利益が大幅に増加するためです。ただし、燃料費や為替の影響を受けやすく、景気後退時には業績が急激に悪化するリスクもあります。

    一方、陸運や海運は安定した需要があるものの、トラックや船舶などの大型設備が必要で資本負担が重いため、ROEが極端に高くなるケースは少ないです。運輸業全体としては、景気変動によるROEの変動幅が大きいのが特徴です。

    卸売業

    卸売業のROE平均はおおよそ12.22%と、他業界と比較して高い水準です。

    薄利多売のビジネスモデルが中心ですが、在庫回転率が高く、資産を効率的に活用できている点が大きな特長です。取り扱う商品の幅が広いことから、景気の変動にも比較的強い業界といえます。利益率の低さを在庫の回転の速さでカバーすることで、高いROEを維持している典型的な業界です。

    小売業

    小売業のROE平均は、おおよそ8.88%です。

    店舗型ビジネスでは、店舗家賃・人件費・光熱費といった固定費が大きく、利益率が低くなりがちです。一方、EC(電子商取引)を中心に展開する企業では設備投資が少なく、在庫効率も高いため、ROEが高くなる傾向があります。

    また、取り扱い商品の単価や回転率、販売形態の違いによってもROEは大きく変動します。多店舗展開に成功した企業では、スケールメリットを活かしてROEを改善するケースもあります。

    不動産業・物品賃貸業

    不動産業のROE平均は、おおよそ8.77%です。

    不動産業は土地や建物などの大型資産を保有するため、総資産が膨らみやすく、ROEが上昇しにくい構造を持っています。しかし、長期的な賃料収入を基盤とするビジネスモデルにより、安定的な収益を得やすい点が強みです。

    一方で、市況に左右される開発型不動産会社は収益が不安定ですが、賃貸特化型の企業は比較的安定したROEを維持する傾向があります。

    学術研究・専門技術サービス業

    学術研究・専門技術サービス業のROE平均は、おおよそ6〜10%と幅が広いのが特徴です。

    この業界では専門知識や高度な技術が企業価値の源泉となるため、設備投資はあまり必要ありませんが、人材への投資が多いのが特徴です。売上が伸びた際には利益率が急激に改善することがあり、高いROEを実現する企業も存在します。

    ただし、人材採用や教育費が利益を圧迫し、ROEが低迷する企業も多く、業界内でばらつきが大きい分野と言えます。

    宿泊業・飲食サービス業

    宿泊業・飲食サービス業のROEは、年度や季節要因によって大きく変動します。

    原材料費や人件費、光熱費などの変動費が多いため、利益率が安定しづらい業界です。繁忙期には高い稼働率がROEを押し上げますが、閑散期には固定費が重くのしかかり、ROEがマイナスに転落することもあります。

    特に宿泊業は施設維持費が高く、需要と供給のバランスによってROEの振れ幅が大きくなる傾向があります。

    サービス業(他に分類されないもの)

    サービス業(他分類)のROE平均は、おおよそ6.71%です。

    この区分は幅広いサービス業態を含むため、ROEの数値も多様です。労働集約型の企業ではROEが低くなりがちですが、軽資産型のサービス業(例:オンラインプラットフォーム)は比較的高いROEを維持している場合が多いです。

    業態の多様性ゆえ、業界全体の平均値は控えめな水準にとどまります。

    以上が、業界別のROEの平均値と特徴です。

    ROEは企業の収益性を測る重要な指標ですが、業界ごとの特性や、ビジネスモデルの違いによる影響が大きく、単純な数値の比較だけでは不十分です。企業の収益性や効率性を正しく評価するためには、同業他社との比較や、景気動向、資産効率(ROAなど)も併せて考慮することが重要です。

    ROEと関連した財務指標

    ROEだけでは企業の実力や財務状態を正確に判断できないことも多く、より多角的な分析が欠かせません。特に収益性や資産効率を測る他の指標と組み合わせることで、利益がどのように生み出されているのか、経営のどの部分に強みや弱みがあるのかを把握しやすくなります。

    REOと関連した財務指標は、次のとおりです。

    • 売上高総利益率
    • 売上高営業利益率
    • ROA(Return On Assets)
    • 総資産回転率
    • 売上債権回転期間
    • 損益分岐点

    それぞれをわかりやすく解説します。

    売上高総利益率

    売上高総利益率は、企業が商品やサービスを販売することでどれほどの付加価値を生み出しているかを測る重要な指標です。

    一般には「粗利率」とも呼ばれます。売上高から売上原価を差し引いた売上総利益がどれほどの割合を占めるかを見ることで、価格設定の適切さや原価管理の巧拙が分かり、事業の採算性を判断する基礎です。

    売上高は本業の販売活動で得た収益の総額を指し、企業の規模や成長を把握する基礎データです。一方、売上総利益は商品やサービスの提供に直接かかった原価を差し引いた利益で、業種によって原価の範囲が異なります。

    製造業や建設業では原材料費に加えて製造に関わる人件費や光熱費も原価に含まれますが、小売業や卸売業では仕入価格のみが原価となるため、同じ粗利率でも業種によって意味合いが異なります。こうした背景を理解することで、売上高総利益率をより正確に読み取れます。

    売上高営業利益率

    売上高営業利益率は、企業が売上高に対してどれだけの営業利益を生み出せているかを測る指標で、本業の収益力を読み取る際に欠かせません。

    売上高総利益率が「原価を差し引いた段階の利益」を示すのに対し、売上高営業利益率はさらに販売費や一般管理費といった日常的な経費まで踏まえて算出されます。そのため、商品の収益性に加えて、広告費や人件費、管理コストなどの運営効率も反映する点が特徴です。

    計算式は営業利益を売上高で割って百分率で表すもので、営業利益は売上総利益から販管費を差し引いた金額です。この割合が高い企業ほど、価格競争に巻き込まれにくい商品力を持ち、限られた経費で効率的に利益を生み出していると評価できます。

    一方で率が低い場合には、原価が高い、販管費が膨らんでいる、ビジネスモデルが利益構造に合っていないなどの課題が潜んでいる可能性もあります。

    ROA(Return On Assets)

    ROA(総資産利益率)は、企業が保有する全ての資産をどれだけ効率よく利益につなげているかを測る重要な指標です。

    会社が持つ資産には、事業に直接関わる設備や在庫だけでなく、現金や投資などの非事業資産も含まれます。これらを総合した「総資産」を基準に利益を評価することで、経営全体の収益性を立体的に把握できます。

    計算式は、当期純利益を総資産で割り、百分率で表すシンプルなものです。数字が高いほど、保有資産を有効活用し、大きな成果を生み出している企業といえます。一般的には5%を超えると優良水準とされますが、業界ごとに求められる資産規模やビジネスモデルが異なるため、同業他社との比較が欠かせません。

    設備投資が重い製造業やインフラ系はROAが低くなる傾向があり、反対に軽資産型のIT企業やサービス業は高い値を示しやすいという特徴があります。ROAは企業の実力を見極める上で、他の収益指標と組み合わせて判断するとより精度が高まる指標です。

    総資産回転率

    総資産回転率は、企業が保有する総資産をどれだけ効率よく売上高に結びつけているかを測る指標で、「総資本回転率」とも呼ばれます。計算式はシンプルで、売上高を総資産で割って求めます。

    総資産回転率=売上高÷総資産

    ​この数値が大きいほど、限られた資産を活用して多くの売上を生み出しているといえ、企業の資産運用効率が高いと判断されます。

    一般的な目安として「1.0」が挙げられますが、これはあくまで参考値であり、業界ごとに適切な水準は大きく異なります。例えば、製造業や小売業では総資産回転率が1.0を超えることが多い一方、不動産業や金融業では1.0未満が一般的です。そのため、総資産回転率を評価する際は、同業他社や業界全体の平均値を踏まえることが重要です。

    改善策としては、売上高を増加させるだけでなく、在庫や遊休資産の削減など、資産そのものを適正化する取り組みが求められます。特に在庫の持ちすぎは回転率を押し下げる原因となるため、需要予測の精度向上や仕入れ・生産の最適化が欠かせません。また、老朽化した設備の更新や遊休資産の売却など、資産運用の効率化も有効な手段です。

    なお、総資産回転率は単独で評価するのではなく、利益率やROE(自己資本利益率)など他の指標と組み合わせて、企業の全体像を把握することが重要です。

    売上債権回転期間

    売上債権回転期間は、売掛金や受取手形などの売上債権が「何カ月分の売り上げに相当しているか」を示す指標で、企業がどれだけ効率よく代金を回収できているかを判断するために用いられます。

    算出式は、売上債権を「月商(=売上高÷12)」で割って求めることが一般的です。期間が短いほど資金回収がスムーズに進んでいることを表し、運転資金の負担も軽減できます。一方、期間が長い場合は、回収サイクルが滞り資金繰りにリスクが生じる可能性があります。

    なお、企業によっては日数換算で「売上債権回転日数」として管理するケースもあります。改善には、請求書発行の早期化や与信管理の強化、不良債権の削減が重要で、取引条件の見直しや支払いサイトの短縮などの取り組みも効果的です。

    損益分岐点

    損益分岐点は、企業の売上高と総費用がちょうど同じ額となり、利益がゼロになるポイントを示す指標です。このラインを超えて売り上げが増えれば利益が生まれ、下回れば損失が発生します。算出式は「固定費 ÷ 限界利益率」で求められ、固定費をどれだけ回収すれば黒字になるのかを明確に把握できます。

    費用は売り上げに比例して増減する「変動費」と、売り上げとは無関係に一定額発生する「固定費」に分類され、固定費を回収し終えた後の売り上げは利益として積み上がります。また、限界利益率は売上高から変動費を差し引いた「限界利益」を売上高で割ることで求められるため、商品価格や変動費率の見直しが損益分岐点の改善につながります。

    財務レバレッジ

    財務レバレッジとは、企業がどの程度「負債を利用して事業を拡大しているか」を示す指標です。

    借入金などの負債をどれだけ活用して資本を増幅させているかを見るもので、一般的には負債を総資産や自己資本と比較することでその大きさを測ります。この割合が高いほど、企業は少ない自己資本に対して多くの負債を使い、効率的に利益を伸ばそうとしている状態といえます。

    負債依存が大きすぎると、返済や金利負担の増加によって財務リスクが高まるため、レバレッジの高さには慎重な見極めが必要です。

    ROEが低いリスク

    ROEが低いリスクは、次のとおりです。

    • 投資家からの評価低下
    • 収益性の低下
    • 資本効率の悪化
    • 成長投資の遅れ
    • 株主還元力の低下

    それぞれを詳しく解説します。

    投資家からの評価低下

    ROEが低い企業は、株主から預かった資本を十分に利益に変えられていないと評価されることがあります。そのため、投資家は「収益性が低い」「経営効率が悪い」と判断し、企業の株価が伸びにくくなる傾向がある点がデメリットです。

    また、同業他社と比較した際にROEの差が大きい場合、競争力の低下や成長性の乏しさを疑われる可能性があります。特に、資本効率の改善が見られない企業は、投資家からの信頼を失い、市場での存在感が薄れるリスクがあります。

    さらに、ROEが長期間にわたり低迷している場合、経営改善の意思や能力が不足しているとみなされ、機関投資家の投資対象から外れる可能性も高まります。特に、成長投資や株主還元に消極的な姿勢が見られると、投資家離れが進むリスクが考えられます。

    なお、ROEを評価する際は業界特性や企業の成長段階、また他の財務指標(例:ROAや自己資本比率)との組み合わせで総合的に判断することが重要です。

    収益性の低下

    ROEが低い背景には、売り上げ不振や利益率の低下、コスト構造の非効率など、事業運営に関わる根本的な課題が潜んでいることが多いです。

    特に固定費が重く利益が圧迫されている場合や市場での競争力が落ちている場合、収益力の弱さがROEの低下に直結します。

    こうした状況が続くと、企業は新たなビジネスチャンスに投資する余力を失い、さらに売り上げ成長が鈍化するという悪循環に陥ってしまいます。長期的な事業継続にも影響を及ぼすため、早期の改善が欠かせません。

    資本効率の悪化

    ROEが低い場合、企業が保有する資産や資本を十分に活用できていない可能性があります。

    例えば、不採算部門が残ったままになっていたり、過剰な現金保有で資本が眠っていたりすると、効率的な投資が行われず、資本効率の悪化につながります。このような状態が長く続くと、企業は資産配分の最適化ができず、本来得られるはずのリターンを逃してしまいます。

    また、経営陣の資本政策への意識が低いと判断され、企業価値向上への取り組みが不十分だと受け取られることもあります。結果として財務体質の硬直化が生じ、競争力が落ちるリスクが高まります。

    成長投資の遅れ

    ROEが低下すると、企業は利益創出力が低いとみなされ、内部留保を十分に積み上げられなくなります。利益が少なければ、新規事業や設備投資などの成長投資に回せる資金も限られます。また、ROEの低さは株価にも影響するため、外部資金調達でも不利です。株価が上がりにくい企業は、新株発行による資金調達を行っても調達額が増えず、既存株主の希薄化リスクだけが高まることもあります。

    結果として投資スピードが遅れ、競争が激しい市場で成長機会を逃す恐れがあります。この遅れは中長期の企業価値に大きく影響します。

    株主還元力の低下

    ROEが低い企業は利益が限られるため、配当金や自社株買いなどの株主還元に回せる資金も不足しがちです。株主還元は投資家にとって重要な判断材料であり、還元力が弱い企業は長期保有の魅力が薄いと受け止められます。

    その結果、優良な株主が離れ、短期売買を行う投資家が増えることで株価が安定しにくくなることもあります。また、還元余力の低さは企業の財務健全性や経営姿勢に対する不安を招き、市場での信頼低下につながります。

    株主価値を高めるためには、収益力を改善し、還元力を強化する取り組みが欠かせません。

    ROEが高すぎるデメリット

    ROEが高すぎるデメリットは、次のとおりです。

    • 財務の健全性が損なわれる
    • 過度な財務レバレッジ依存
    • 将来の成長力が低下する
    • 一過性要因による見せかけの高収益

    それぞれをわかりやすく解説します。

    財務の健全性が損なわれる

    ROE=当期純利益÷自己資本のため、自己資本が極端に少ない場合でもROEは大幅に上昇します。

    しかし自己資本が薄い企業は、損失が出た際の吸収力が弱く、急激に財務状況が悪化しやすいという弱点があります。特に景気変動の影響を受けやすい業界では、自己資本の薄さは大きなリスク要因です。

    自己資本が不足したまま高ROEを維持し続ける企業は、一見効率的に見えるものの、実際には安全性を犠牲にしている状態であり、長期的な安定経営からは遠ざかります。企業の健全性を見る際には、ROEだけでなく自己資本比率の確認が不可欠です。

    過度な財務レバレッジ依存

    ROEが異常に高い企業は、借入金に依存して利益を押し上げている可能性もあります。

    財務レバレッジによってROEは見かけでは大きく改善しますが、裏を返せば返済負担が重く、金利変動や景気後退の影響を受けやすいもろい財務構造ともいえます。特に自己資本比率が低い状態が続くと、わずかな利益減少でも資金繰りが一気に悪化し、倒産リスクが高まります。

    ROEの高さが「借金に支えられた数字」である場合、企業の長期的な健全性にはむしろマイナスとなる点に注意が必要です。

    将来の成長力が低下する

    高いROEは優良企業の証のように見えますが、その裏側で本来必要な投資を削って利益を確保しているケースも少なくありません。

    例えば、研究開発費を最小限に抑えたり、新規採用を止めたり、老朽化した設備の更新を先延ばしにすることで、一時的に収益を高める経営は、企業の競争力を大きく損なうリスクがあります。このように投資を先送りして達成された高ROEは持続可能性が低く、一時的な数字にすぎません。

    投資不足が続けば、新しい商品やサービスが生まれにくくなり、企業の市場での存在感が弱まり、最終的には成長余地を失う可能性があります。特に、技術革新が求められる業界では、研究開発や設備投資を怠ることで競争力を大きく損ねるリスクが高くなります。

    そのため、ROEが際立って高い企業ほど、その背景にある要因を慎重に分析し、どれだけの戦略投資が行われているかを確かめることが重要です。また、ROEを評価する際には、他の指標(例:ROAや自己資本比率、利益率など)と併せて総合的に判断する必要があります。

    一過性要因による見せかけの高収益

    ROEが急激に上昇した場合、構造的な改善ではなく、一時的な利益による可能性があります。

    例えば、資産売却益の計上や、特別利益の発生、為替差益など、継続性のない要因がROEを押し上げているケースです。このような一過性の高ROEは、翌期以降の収益を保証するものではなく、投資判断を誤らせる要因です、

    また、経営陣が短期的に業績を良く見せるために特別利益に依存する姿勢がある場合は、企業ガバナンス上の課題が潜んでいることもあります。高ROEが本当に実力なのか、継続性があるのかを見極めることが重要です。

    ROEを高める方法

    ROEを高める方法は、次のとおりです。

    • 収益を向上させて当期純利益を増やす
    • 資産を削減・活用して総資産を抑える
    • 財務レバレッジを活用して自己資本の割合を抑える

    それぞれを詳しく解説します。

    収益を向上させて当期純利益を増やす

    ROEは「当期純利益÷自己資本」で求められるため、純利益の増加はROEを最も直接的に押し上げます。

    収益向上の手法は大きく「売り上げ拡大」と「コスト最適化」の二つに分けられます。売り上げを伸ばすためには、新規顧客獲得や既存顧客のリピート促進、新商品開発、価格戦略の見直し、効果的な広告施策などが有効です。

    一方、利益を確保するためには、固定費の削減や無駄な経費の見直し、生産性向上による人員配置の適正化、高収益分野への経営資源集中が効果的です。売り上げ成長とコスト管理をバランスよく行うことで、企業は純利益を高め、ROEの底上げにつなげられます。

    資産を削減・活用して総資産を抑える

    効率的に資産を使うこともROE向上の重要なアプローチです。

    総資産が大きいほど企業は多くの資本を抱えるため、資産効率の低下はROEを押し下げます。まず取り組むべきは、過剰在庫や遊休資産の削減です。使用していない土地・建物、稼働率の低い機械設備などを整理することで、総資産を圧縮できます。

    また、設備稼働率の改善や適正在庫管理により資産の回転率を高めれば、同じ資産規模でも売り上げや利益を伸ばせます。さらに、自社株買いや配当増加による純資産の最適化もROE向上に寄与します。

    ただし、必要以上に資産を減らすと財務の安定性が損なわれるため、戦略的な見極めが不可欠です。ROE向上施策を評価する際には、他の財務指標(例:ROA、自己資本比率)を併せて分析し、短期的な効果だけでなく長期的な健全性も考慮することが重要です。

    財務レバレッジを活用して自己資本の割合を抑える

    財務レバレッジとは、負債を活用して自己資本を増幅させる仕組みで、企業が少ない自己資本でより大きな事業活動を行うことを可能にします。自己資本が一定の場合でも、負債を活用して投資を行い、そのリターンが借入利率を上回れば、純利益が増えROEは向上します。

    また、借り入れを活用した自社株買いは発行株式数を減らし、1株当たり利益を押し上げる効果もあります。

    ただし、前述したとおり、負債を増やしすぎると返済負担や金利上昇のリスクが高まり、資金繰りの悪化につながる恐れがあります。財務レバレッジの利用は、収益性や金利環境を見極めた上で慎重に行うことが重要です。

    ROEランキング

    ROEが高い企業ランキングを紹介します。

    【1〜10位】ROE100%超の超高収益企業

    順位銘柄名ROE(%)業界
    1U&C(3557)453.85飲食店
    2千代建(6366)188.95建設・土木
    3タレントX(330A)140.5システム・ソフトウエア
    4VLCセキュ(2467)137.16企業向け専門サービス
    5和心(9271)128.8衣料品小売
    6イーロジット(9327)124.87物流
    7ウリドキ(418A)107.56インターネットサイト運営
    8リファバスG(7375)105.04企業向け専門サービス
    9ヒューマンA(249A)104.93企業向け専門サービス
    10サイバーバズ(7069)97.84広告

    上位10社には、ROEが100%を超える“超高効率”の企業が多く並びます。

    飲食や建設、IT、物流、広告など業種は幅広いものの、共通点は「自己資本の割合が低く、収益性が非常に高い」点です。特にROEが100%を上回る場合、利益成長の勢いが背景にある企業もあれば、財務レバレッジによって自己資本が圧縮された結果、数値が跳ね上がっているケースも含まれます。

    このゾーンの銘柄は高収益である反面、資本構造の偏りや業績変動の影響を受けやすい場合もあるため、投資判断では「高ROEの理由」を丁寧に見極めることが重要です。

    【11〜20位】サービス・流通企業が多く、安定した高ROE

    順位銘柄名ROE(%)業界
    11ビザスク(4490)92.53人材サービス
    12Jエスコム(3779)86.05通信販売
    13リログループ(8876)81.1企業向けサービス
    14リネットJ(3556)80.29専門店
    15鉄人化HD(2404)78.55レジャー施設
    16Aiロボ(247A)76.75通信販売
    17ROXX(241A)73.57人材サービス
    18エレコミ(353A)64.76建設資材
    19ハナツアーJ(6561)61.12旅行・ホテル
    20ポプラ(7601)59.82小売

    11〜20位には、人材紹介や通信販売、企業向けサービス、レジャー、旅行など、「軽資産・サービス型ビジネス」を展開する企業が多く見られます。

    これらの業種は設備投資が比較的少なく、利益率を保ちやすい点が高ROEにつながっています。また、顧客基盤が安定している企業や、サブスクリプション型の収益モデルを持つ企業も含まれ、継続的に高い収益力を発揮している点が特徴です。

    一方で、消費動向の影響を受けやすいビジネスも多いため、高ROEが持続的かどうかを見極める際には、利益の安定性や顧客維持力が重要なポイントです。

    【21〜30位】観光・IT・飲食など多ジャンルが並ぶ高ROE企業

    順位銘柄名ROE(%)業界
    21グリーンズ(6547)58.44ホテル
    22エニーカラー(5032)55.23娯楽
    23i-plug(4177)54.85人材サービス
    24山岡家(3399)53.77飲食店
    25FEASY(212A)53.45レジャー
    26西武HD(9024)52.25ホテル・交通
    27SFJ(9206)51.38空運
    28フジタコーポ(3370)50.93飲食店
    29豆蔵(202A)50.55ソフトウエア
    30アイビス(9343)49.64ソフトウエア

    21〜30位は、ホテルやITソフトウエア、飲食、レジャー、空運など、幅広い業界がバランスよくランクインしているゾーンです。ここに入る企業は、突出した数値ではないものの「50%前後の高ROEを安定して維持している」という強みがあります。

    また、飲食やホテル業といった固定費の大きいビジネスモデルでは、効率的な店舗運営や稼働率の改善が収益性向上の鍵となっています。空運業やレジャー業界も、稼働率の最適化やコスト管理が高ROEの維持に寄与しています。一方で、これらの業界は景気変動や消費動向の影響を受けやすく、外部環境に対する耐性が長期的な成長を左右します。

    ただし、業界ごとに市況変動や競争環境の違いがあるため、業績の継続性を評価する際には、利益の安定性や顧客基盤の強さ、リスク管理の体制に目を向けることが重要です。

    ROEに関するQ&A

    最後に、ROEに関するよくある質問とその回答を紹介します。

    ROEの分解式とは何か

    ROE(自己資本利益率)の分解式とは、ROEがどの要素によって成り立っているかを分析するための考え方で、デュポン式とも呼ばれます。

    ROEを「収益性」「効率性」「財務レバレッジ」の三つに分けて分析することで、単なる数値では見えない、企業の強みや課題を明確にできる点が特徴です。

    「ROE=当期純利益率×総資産回転率×財務レバレッジ」で計算します。利益率が高いのか、資産を効率よく使えているのか、負債の活用度が高いのかといった要因を分解して確認できるため、ROEが高い理由・低い理由をより正確に読み解けます。企業分析や投資判断を行う際に欠かせない指標の一つです。

    赤字の場合、ROEはどうなるのか

    ROEがマイナスになるのは、企業の当期純利益がマイナス、つまり「赤字決算」であることを意味します。ROEは次の計算式で求められるため、利益がマイナスであればROEも必ずマイナスになります。​

    この状態は、株主からの資本を使って利益を生むどころか、逆に資本を目減りさせていることを示します。

    ただし、ROEがマイナスであることがすぐに深刻な状態を意味するわけではありません。一時的な特別損失や成長のための投資フェーズの場合、単年のROE赤字は必ずしも悪材料ではなく、翌期以降に業績が改善するケースもあります。たとえば、研究開発費や設備投資に資金を投入している段階では、一時的な赤字が発生することがあります。

    一方で、複数年にわたり赤字が続く場合は、ビジネスモデルの問題や収益構造の弱さ、財務リスクなど、企業が根本的な課題を抱えている可能性が高いです。業績改善が見られない場合、最終的には債務超過に陥るリスクもあります。

    ROEがマイナスのときは、「赤字の理由」が一時的なものか、それとも構造的な問題によるものかを慎重に見極めることが非常に重要です。また、翌期以降の成長性や財務体質の健全性を総合的に判断する必要があります。

    ROEはどれくらいの期間で評価するべきか

    ROEは単年の数値だけでは判断が難しく、少なくとも3〜5年程度の推移を基に評価することが一般的です。1年ごとのROEは、特別利益や一時的な費用といったスポット的な要因で変動しやすく、その時点の企業力を正確に表しているとは限りません。複数年のROEを継続して確認することで、利益水準が安定しているのか、あるいは一過性の要因で上下しているのかを把握できます。

    また、長期的な視点で見ることで、企業が持続的に収益を生み出せる体質か、資本効率を維持できているかといった構造的な強さも見えてきます。特に、3〜5年の中期的な動向を追うことで、ROEが安定している企業や収益性が向上している企業を見極めることができます。

    さらに、ROEを評価する際には、業界特性や他の指標(例:ROA、利益率、自己資本比率など)とも併せて分析することが重要です。これにより、ROEの高さが持続可能な収益力によるものか、それとも一時的な要因や財務レバレッジによるものかを判断し、精度の高い企業分析を行うことができます。

    ROEが高いと株価は上がりやすいのか

    ROEが高い企業は、資本を効率よく利益につなげていると評価されるため、株価が上昇しやすい傾向があります。投資家にとって「安定して高い収益を生む企業」は魅力的であり、ROEが高いほど将来の成長が期待され、株価にプラスの影響を与えるケースが多く見られます。

    ただし、ROEが高いからといって必ず株価が上がるわけではありません。負債を大きく増やした結果ROEだけが押し上げられている場合や、投資を抑えすぎたことで短期的に利益が増えているだけのケースなど、「数字だけが良く見える状態」も存在します。ROEが高い理由が健全なものなのか、財務内容や利益構造と合わせて確認することが重要です。

    ROEが高い企業は配当が多いか

    ROEが高い企業は、利益を生み出す力が強いため、結果として配当が多くなる場合もあります。ただし、高ROEと高配当は必ずしもイコールではありません。

    ROEが高い企業は資本効率が良く、安定して利益を上げられるため、株主還元に積極的なケースが多く見られます。実際、増配や自社株買いを継続する企業の中には、高ROEを維持している会社が多いのも事実です。

    一方で、全ての高ROE企業が高配当というわけではありません。成長投資を優先する企業では、得た利益を新規事業や研究開発に回し、配当は抑えめになることがあります。特に、ベンチャー企業やIT企業の中には、ROEが高くても無配のケースも少なくありません。

    つまり、ROEの高さだけで配当方針を判断することはできません。企業の成長ステージや経営戦略、配当政策を総合的に分析することが重要です。また、配当性向や株主還元方針を確認し、成長性とのバランスを見極めることが、投資判断の精度を高める鍵となります。

    まとめ

    ROEは企業の収益力や資本効率を示す重要な指標で、投資家にとって企業の健全性を評価する際の手がかりとなります。本記事で紹介したように、ROEの基本的な計算方法や業界ごとの目安を理解することで、より的確な投資判断が可能になるでしょう。また、ROEは他の指標と組み合わせて総合的に評価することが大切です。ROEの高低だけで判断せず、業界特性や市場環境を考慮しながら、総合的な分析を心がけましょう。

    次のステップとしては、気になる企業のROEを実際に計算してみたり、他の財務指標と合わせて比較してみることをおすすめします。これにより、投資先としての企業の強みや弱みをより深く理解できるでしょう。そして、学んだ知識を活用し、より良い投資決定を下せるように努力を続けましょう。ROEを使いこなすことで、あなた自身の投資スキルを一段と高めることができるはずです。

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