Interview

2024.05.27

光洋商事ホールディングス株式会社|建物ヒエラルキーの打破をM&Aで成し遂げた

株式会社プリンス
(本社:茨城県水戸市)

光洋商事ホールディングス株式会社
(本社:大阪府大阪市)

代表取締役 川上聡一朗 氏

株式会社プリンス
(本社:茨城県水戸市)

光洋商事ホールディングス株式会社
(本社:大阪府大阪市)

代表取締役

川上聡一朗 氏

15社とのM&Aを通して会社をスケールさせてきた、光洋商事ホールディングス株式会社の川上聡一朗社長。M&Aで豊富な経験を持つ川上社長に、今回の株式会社プリンスとのM&Aだけでなく、M&Aで重視されているポイントや、PMIについても深く質問させていただきました。会社や従業員のことを特に大切に考えていらっしゃる川上社長ですが、40代という若さでありながら、既に次の時代に目を向けて、準備されているとお話されている姿がとても印象的でした。譲渡・譲受企業問わず、M&Aを検討されている全ての経営者様に読んでいただきたいインタビュー記事です。

[譲渡企業]
株式会社プリンス
(本社:茨城県水戸市)

https://princebldg.com/
1990年9月に創業した株式会社プリンスは茨城県水戸市にビルを5棟保有しており、不動産賃貸業をメインとしている。2023年9月に光洋商事ホールディングス株式会社の子会社となる。

[譲受企業]
光洋商事ホールディングス株式会社
(本社:大阪府大阪市)

https://koyo-s-hd.co.jp/
光洋商事ホールディングス株式会社は3代目社長・川上聡一朗氏の祖父・川上孟男氏が1969年に創業。3代目が就任してからは積極的なM&A戦略で事業を拡大し、2024年6月期にはグループ売上62億円を見込んでいる。2023年9月に茨城県水戸市の株式会社プリンスとM&Aをしたことで、不動産賃貸業に参入した。

M&Aでスケールして成し遂げた、建物ヒエラルキーの打破

光洋商事ホールディングス株式会社の事業内容、従業員数について教えてください。

川上 様:光洋商事ホールディングス株式会社は1969年に私の祖父、川上孟男が関西電力を退職後に自宅の一階で起業した会社です。現在は、主要6事業を12法人で運営しており、不動産賃貸業、デザイン・設計、建築・設計、建設事業、総合管理(PM、FM事業)、ビルメンテナンス事業が主要事業となります。また、Bリーグ神戸ストークスの株を一部保有しているので、プロスポーツ運営事業も行っています。

大阪難波が本社となり、東京支店が新橋に、そして、今回のM&Aでプリンス社をグループに迎え入れたことにより、茨城県水戸市に水戸支店を持つことができました。当社はこれまで15回のM&Aをしており、正社員はグループ全体として100名程度、現場で働いてくれる契約社員、パートタイマーは約900名となります。グループ売上としては2024年6月期で62億円を見込んでいます。

これまで15社とのM&Aで凄まじい成長を実現されましたね。

川上 様:ビルメンテナンス業でスタートした当社が、M&Aをしてきた理由は主に2つあります。ビルメンテナンス事業は請負の一次下請けとなりますが、建物のヒエラルキーはもっと複雑です。オーナー様をお客様とするのであれば、まずは設計事務所に声がかかり、総合ゼネコンに発注、その後、専業の工事会社に発注されるという流れで建物は建ちます。

日本の大きな建物は金融や財閥が保有し、関連する総合管理会社が管理、その下請けとして我々がいるのですが、お客様との距離が遠く、情報が遮断されていて声が届きにくいのです。経営においても総合管理会社がお客様になるので、実際のオーナー様の声を聞けないまま、今後20年、30年とビルメンテナンス事業だけでビジネスをしていくイメージが持てませんでした。そこで、”建物ヒエラルキーの打破”を画策して取り組んだのがM&A戦略です。

もう一点は、あらゆるリスクを分散するためにM&Aに取り組んできました。当社に私が入社した1年目にメインのお客様との取引がなくなり、経営危機に陥って、そのリカバリーに奔走したという過去があります。メンテナンスの仕事は長期で続いていくイメージをお持ちの方も多いですが、売上依存していると、無くなったときの打撃が大きい。売上構成比の分散をしなくてはという意図から、まずは同エリア同業種のM&Aを行い、その次に地域リスクを考えて東京に進出をしました。地域の次は業種のリスクに気付き、建物ヒエラルキーの上から、違う業種を当社で出来るようにとM&Aを検討しました。リスク分散した結果が今ということですね。

M&Aにより建物ヒエラルキーを網羅することができたというわけですね。

川上 様:そうですね。建物ヒエラルキーもそうですが、光洋商事HDとしての組織強化も実現できたと考えております。これは建物関連以外にも言えることですが、1%の大手と99%の中小企業で構成されている中で、中小企業は専門性が高い、たくさんのノウハウを持っているのです。

中小企業の経営者はマネジメントもできるし、技術もある。そんな経営者が集まることによって当社は意思決定も早いんです。さらに、経営者は孤独と言われていますが、皆さんそれを経験してきて、「こうだったらいいのに」という部分が互いを補い合っているのです。良い組織が出来上がったと感じております。

苦労した資金調達、プリンス社・杉山前社長に助けられた

プリンス社に興味を持ったきっかけ、過去のM&Aと比較して特徴を教えてください。

川上 様:先程から建物ヒエラルキーという言葉を私は使っていますが、不動産賃貸業というのはそのヒエラルキーの中でも上流に位置します。私たちもそこへの参入を目標にしておりましたので、求めていた条件にマッチした会社が水戸にあるプリンス社でした。

今回、最も印象的だったのは資金調達ですね。不動産は固定資産になるので、金額も大きくなります。プリンス社は茨城県水戸市、当社のメインバンクは大阪府になりますので、銀行の積極性という意味でも難しい部分がありました。しかし、M&Aが成立する前から杉山前社長が協力してくださり、地元の金融機関さんとお会いすることができました。その2社から非常に魅力的なご提案をいただけたことにより、今回のM&Aは進めることができました。

資金調達は本当に苦労されたんですね。

川上 様:M&Aというのは確かに会社をスケールしていく手段としては非常に有効です。それは確かであり、自分たちがゼロから立ち上げようとすると費用、人、それから時間を膨大に要する中で、M&Aはそれらを譲っていただくことができます。ただ、のれん、営業権など、将来的には回収できるものの、大きな費用を併せて支払う必要があるのも事実です。そこが重たくなってしまうと、やればやるほど資金調達が厳しくなってきます。

プリンス社は利回り・キャッシュフローが良く非常に魅力的でしたが、当社がM&Aを15回行ってきて、残っている営業権や今回の資金調達、それらをデットファイナンスで引っ張ってきているというのもあり、大変だったのです。もし、M&Aでのスケールを考えている経営者さんがいるのであれば、本当に欲しいものが、欲しいときに手に入らないということにならないように、ご注意いただきたいですね。

15社のM&Aを経験しても、選ばれる側という意識は変わらない

これまで多くのM&Aを経験されていますが、重視されていることはありますか。

川上 様:重要なのは選ばれる側であることを忘れないことです。今回のプリンス社でも意向表明は複数社ある中で選んでいただけたわけですが、杉山前社長や従業員の皆様が築き上げてこられた全てを引き継ぐという意識は常に持っていました。トップ面談、意向表明、デューデリジェンス、どんなときでもです。どういう会社さんにご譲渡されたいのか、それをトップ面談時に吸収し、意向表明にどれだけ落とし込めるかが重要だと思います。

PMIをスムーズにするために気を付けている点、ポイントなどはありますか?

川上 様:重要なのは譲渡された社員さんたちに、川上聡一朗という人間を知ってもらうことが大切だと考えています。私は例外なくM&Aした後にPMIで従業員のみなさんと1時間以上の面談をします。私のこと、会社のこと、これまでの沿革、そして、これからのビジョンを話すのです。質問もたくさんしていただいて、丁寧に対話をすることで信頼関係を築きます。

よく、M&Aでは「相乗効果」、「シナジー」という言葉が使われます。確かに中には即効性のあるシナジーもあるかもしれませんが、私は一歩一歩進めていくものだと考えます。1+1=2ではなく、1+1=1.5でも全く問題はありません。新しく来られる従業員の皆さんの環境が急激に良くなることはやはり難しいですが、オフィスやツール、生産性が良いものになると、意欲的な従業員にとってはプラスでしかないはず。ただ、環境の変化をストレスに感じる人もいて当然だと思いますので、そんなときに唯一の支えになるのが、代表である私を信頼できるかという部分だと考えています。

PMIに対してそういう考えに至ったのは、やはり回数を重ねた経験ですか。

川上 様:いいえ。最初は光洋商事なんですよね。父が病気になり母からSOSが届いた時は、まだ事業所も1つしかなく正社員4名、パートタイマーが200名という規模でした。当時、従業員の方々にとっては”社長の息子”という認識なわけで、取り扱いが難しく感じられているという自覚は私にもあります。そこで、社長の息子としての私ではなく、私個人に向いてもらうためにはどうしたらいいか、信用してもらうためにはどうすればいいかを考え、努力しました。その経験が大きく今に役立っていると思います。

また、ビルメンテナンスのような労働集約型ビジネスはPMIに似ているんです。例えば新規の現場では、そこに募集を出して人を雇います。当然、10人現場であれば十人十色で特徴や性格は異なり、マネジメントが重要になるわけです。どうしても作業としては平等にはならないので、様々な不満が出る中でそこの調整をしていくわけですが、そこで学んだことは、「リスペクトを持って接すると返ってくるものがある」ということです。やはり、正直者が馬鹿をみない現場でなければいけない。頑張っている人に作業が集中してしまうのであれば、そういった人が評価される枠組みを作ることを意識しています。

原田さんはM&A仲介としてあるべき姿を見せてくれた

M&Aロイヤルアドバイザリーのコンサルタントはいかがでしたか。

川上 様:原田さんには本当に感謝しています。色々と想定外のことも起きるなかで、常に落ち着いて進めて頂きました。今回、最終的に意向表明に記載しているクロージング日を超過したわけですが、原田さんには杉山前社長と調整していただき、期間の猶予をいただくことができました。正直、途中で見限られても仕方がなかったと思うんです。プリンス社を欲しいという会社さんは他にもある中で、M&Aロイヤルアドバイザリーさんのような仲介会社にとってみれば、光洋商事HD以外の会社に譲渡しても変わらないはず。そこを最後までご対応いただけたのは、原田さんのおかげです。

M&A業界は仲介会社が乱立し、人の流動が激しく、転職先としても人気になっています。そうすると若い方が増えていくし、新しい会社にはそこまで強い理念がないケースも多く、抱えている案件を売り捌くことだけを考えるコンサルタント、仲介会社が増えているのが現状です。

私のように多くのM&Aを経験している人間はリスクを最小限に抑えることができますが、M&Aで初めての買収を経験する経営者がそういった仲介会社、コンサルタントに当たってしまうと、買手企業の経営者は失敗したと感じてもう次に進めなくなる。豊富なキャリア、経験を持つ原田さんとM&Aロイヤルアドバイザリーさんには、M&Aコンサルタントとして、仲介会社として、あるべき姿を見せていただきました。

原田(担当コンサルタント):大変ありがたいお言葉をいただきました。弊社としましてはチームで取り組ませていただきましたが、川上社長に助けていただいた部分も多々ありました。誠に勝手ながら、川上社長とも一緒のチームでやらせていただいたと感じており、だからこそ、譲渡企業様、譲受企業様、双方が納得する素晴らしいM&Aが実現できたと考えております。

社会における自分の役割を問いながら、次の時代を見据える事業と教育

今後に向けて川上社長はどのような考えをお持ちですか。

川上 様:「Get ready and do a good job(いい準備をして、いい仕事をしよう)」をスローガンに掲げている当社ですが、時代の変化、マーケットの変化を捉えて、変わるべきものと守るべきものを見極めてリスク分散をしてきた結果が今です。建物関連事業が整ったなかで、この業界がどうなるか、引き続きマーケットを見定めながら進めていきたいです。プリンス社をグループにできたのは非常に大きく、自分たちが不動産を持つことにより、様々なことに挑戦することができます。

例えば、所有しているビルの近隣で私有地を購入して、建て替え設計、デベロッピング、テナントまでを若手中心にすべてを任せるプロジェクトを発足しています。建物関連事業の請負だと全てが相手のスケジュールで進むので、研究する、技術を磨くといったチャンスが若手に多くありませんでした。今回のM&Aにより、若手にとって有益なチャンスを供給できるのは大きなプラスです。

また、光洋商事HDでは「若手の執行役員制度」というのを導入していて、次の経営層を育てる教育にも力をいれています。各事業会社から1社1名、性別問わず指名して、執行役員の研修会を通して私の考えを伝えるようにしています。次の事業に進もうと考えたときに、今の枠組みを作ったのが私ひとりであることはリスクだと思うんです。経営者として活躍できる次の世代を育てることは、当社にとって重要だと感じています。

川上社長は次の時代を見据えた教育・取り組みを行っているのですね。

川上 様:はい。他にも昨年、BIM(ビルディングインフォメーションモデリング)のプロジェクトも立ち上げました。今まではCADを使って2次元で線を引いて設計してきましたが、BIMソフトウェアは3次元で設計できるもので、デベロッパー、設計、工事がリアルタイムで同じものを見ながら進めていけます。これを用いれば生産性が格段に上がるのです。

国交省もBIMを推進しているのですが、まだソフトウェアの普及には至らない非常に高価な製品です。ただ、我々は設計士全員に例外なくそのソフトウェアを付与し、さらにはBIM Labという研究室を作り、専門家を入れながら教育もしています。これができるのも、ある程度収益が読みやすいストックビジネスを当社が軸にしていて、その利益を技術に資本投下していく仕組みを作っているからです。一社ではできないものを、光洋商事HDというグループの枠組みで進めています。今後に向けての準備は整っていると自負しています。

50年後、100年後に向けて、どのようなお考えをお持ちですか。

川上 様:実は、執行役員研修会でお題を出したんです。「社会における自分の役割とは」、「グループにおける自分の役割とは」、そして「所属会社における自分の役割とは」、それらが何かを言語化してみましょうと。その時に自分にも問いかけてみました。たくさんの事業承継をして会社をスケールしてきたけど、「川上だから良かったと思ってくれるのは、何人いるのか」と。

今回、当社で執行役員に選ばれた従業員のなかには、3年前までパートタイマーだった人もいます。主婦だった方もいます。彼女たちはM&Aされたことにより、全く違う評価になったわけですよね。評価が上がれば収入も上がります。そうすると、人生で様々なことを選択することができます。そうして皆が社会でお金を使えるようになれば、それは社会貢献のひとつだと思うんです。

また、当社の事業が社会や未来に対する一助になれば幸いです。例えば、プロスポーツ事業も、収益の一部が神戸ストークスを通して、地域コミュニティに還元されていきます。30代を駆け抜けて、40代になり、50歳を目指すというところで、私も自分の終わりを決める時期かなと考えているところです。社会での役割を常に自分に問いながら、事業や教育に力を入れていきたいと思います。

経営者様がどういった背景でM&Aを検討し、決断をされたか。
弊社にてお手伝いさせて頂いた事例の一部を成約事例インタビューとしてご紹介させて頂きます。

事例インタビュー一覧へ インタビュー一覧へ